第127の扉 私が、守るのです
「これであと一人」
風花は意識を失い、ぐったりとしながらクワの腕の中に倒れ込んだ。その様子を見て、太陽が一気に黒い物を纏いだす。
「お前やっぱり
「売られるつもりはありません。みなさんを返してください」
太陽の剣が白と黒の二色の光を纏い、鋭くクワを睨みつけた。風花たちは全員気絶させられている。ハナカラ族たちは怯えてしまって全く動けない。太陽が倒れれば、確実に終わる。
「ぐっ……」
太陽から苦しそうな声が漏れる。彼からあふれ出している黒い物が、不気味に身体にまとわりついているのだ。汗が滲むも、ふぅっと息を吐いて心を落ち着ける。剣を強く握りしめて、クワの姿をその瞳に映した。
「来いよ」
「……行きます」
二人の呼吸が合わさった瞬間、キンと剣の交わる音が響く。剣を持った腕にビリビリとした痺れが走る。それでも剣を握る握力だけは切らさない。相手の呼吸を良くよんで、打ち込んでいった。
「ふーん、なかなかやるじゃん」
クワはかなり力が強い。彼の重い剣を受け止める度に、太陽の口から「ぐっ」と苦しそうな声が漏れていた。しかし、スピードで言えば、太陽の方が上。何回か彼の攻撃はクワに届いた。真っ赤な血液が床に散らばる。
一進一退の攻防。激しい剣の打ち合いが続いていく。力尽きるのはどちらが先か。
「お?」
「同じ手は食わない」
一方、キリと翼たちの激しい戦いが繰り広げられていた。キリは拳を握りしめて、素早く優一へと向かっていくも、彼はそれを盾で受け止める。最初はノックアウトした優一だが、同じ攻撃は彼に効かない。そして……
「!?」
「
キリの後ろには拳を炎に包んだ翼が。キリの顔面を狙って思いっきり叩き付ける。ブンッと風を切る音を響かせながら、キリは壁まで飛んでいった。鈍い音を響かせてぶつかり、崩れた瓦礫に埋もれる。
「
彬人がたくさんの蔓を出して、キリの身体を拘束した。至近距離での翼の一撃。彬人の拘束。これで勝負あった、と三人が思っていたのだが……
「あーあぁ、君たち派手にやってくれるなー」
プチプチと蔓を引き千切りながら、キリが立ち上がる。彬人の蔓はそれなりの強度があるはずなのに、いとも簡単に引き千切った。
「嘘だろ……」
「効いていないの」
彼はノーガードで翼の拳を食らった。かなりのダメージがあってもいいはずなのに、ケロッとしている。加えて、彬人の拘束をいとも簡単に解いた。こちらの攻撃が全く通用していない。圧倒的戦力差。
「どうしたらいいの……」
三人の間に焦りが広がる。
「はぁ、はぁ……」
「お前、長いこと使っていないんだな。その代償は大きいぞ」
「あなたには、関係、……ありません」
太陽の息が乱れ始め、クワの言葉に答えるだけでも辛そうだ。剣に纏わせている白と黒の二色の光が、不安定に揺れていた。彼の額に汗が滲み、苦痛に顔が歪む。
対するクワは全く息が乱れていない。涼しい表情をして、苦しそうな太陽を見ていた。
「もう諦めろ」
「ぐぁ……」
クワが太陽を斬りつけ、身体から真っ赤な血が噴き出した。ポタポタと口からも血がこぼれる。痛みに顔を歪め、息を乱しながらも彼はその手に握る剣を離さない。太陽の後ろにはいまだ気絶したままの風花たちと怯えて動けないハナカラ族が。
風花たちを背に、足は一歩も下がらない。
「私が、みなさん、を……守るの、です」
太陽は剣に纏わせていた白と黒の光をより一層強くする。不安定に揺れていた光は、もう揺れておらず、力強く太陽の剣を包み込んでいった。しかし、それと同時に身体が黒い物に覆われていく。息が更に乱れ、大量の汗が額に浮かんだ。
「ほぅ……」
太陽のその変化を見ても、クワの顔色は変わらない。余裕の表情は崩せない。彼の実力は本物。とてつもなく強い。それでも、太陽には守らなくてはいけないものがある。
グッと剣に自身の魔法を集中させる。乱れる呼吸を無理やり落ち着けて、身体が限界を迎え軋んでも、集中だけは途切れさせない。目の前の彼にジッと鋭い視線を投げたまま。この一撃に全てを込める。そして……
「ぐはっ!」
太陽の一撃がクワの身体を貫いた。苦しいうめき声と共に、身体が壁まで吹き飛び、瓦礫に埋もれる。しかし……
「ゲホッ、ゴホッ。……やはり、負担が、大きいようですね」
太陽はその場に膝をつき、大量の血を口から吐き出した。押さえつけていた息が不規則に乱れる。彼が剣に纏わせていた二色の光はもう消えていた。
「はぁ、はぁ……」
太陽は苦しそうに胸を押さえ、息を整える。風花たちはまだ気絶しており、目覚めない。ハナカラ族たちはクワの威圧で怯えたまま座り込んでいる。今の騒動を聞きつけて増援が来ると、勝ち目がない。
「翼さんたち、と……早く、合流しなくては……」
太陽が限界を迎える体に鞭打って、行動を開始しようとしていた時……
ゴトッ
先ほどクワが吹き飛んでいった方から物音が。クワは壁に衝突し、崩れた瓦礫の下敷きになっているのだが……
「よっと」
「どう、して……」
太陽が物音に驚き、そちらへ目をやると、立ち上がる彼と目が合った。
太陽の攻撃は確かに彼に直撃した。その証拠に彼の片腕は力なく垂れている。おそらく太陽の剣を受けて、骨が砕けたのだろう。
「っ……」
太陽は唇をギュっと噛む。自分の攻撃は届いた。しかし、届いただけ。彼を仕留めるまではできなかった。
太陽の身体はもう限界を迎えている。剣を握る握力さえもう尽きそうだった。それでもクワに剣を向ける。身体の悲鳴は聞こえないふりをして、乱れる呼吸もそのままに。
「それ以上やると、死ぬぞ?」
クワが服についた塵を払いながら告げる。その忠告を聞いても、太陽の剣が下がることはない。まっすぐにクワを見つめている。しかし……
「ぐっ……」
クワの拳が太陽の身体に入った。ミシッと嫌な音を響かせて、物凄い勢いで彼の身体が飛んでいく。鈍い音と共に壁に激突し、崩れた瓦礫に身体が埋もれた。
「これで最後の一人もゲットかな」
「んぅ、っ、ぁ……」
太陽は力の入らない腕で抵抗を試みるのだが、クワは彼の腕を掴んで拘束してしまう。首元をめがけて、注射器を近づけていった。
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