第116の扉  作戦会議だ

「たけるもやられたか……」


 魔界、王の間では董魔が椅子に座り、京也からの報告を聞いていた。紅刃、たけるが倒され、残る四天王はあと二人。

 考え込んでいた董魔だが、にやりと笑い口を開く。


「そう言えば、心のしずくの気配を感知した」

「……どこからですか?」

「丹後という国だ。まだ風花姫たちのレーダーには反応していない」

「……」


 日本にある心のしずくは、風花がある程度近づかなければレーダーに反応を示さない。しかし、異世界にある心のしずくは別だ。何かの拍子にいきなりレーダーが反応して、その居場所を示す。風花たちもレーダーを持っているが、魔界と日本では国の座標が異なる。風花たちのレーダーと同じ反応を感知できるとは限らない。そしてそれは逆も然り。


「行けるな、京也?」

「……命令とあらば」


 京也は苦しそうに顔を歪め、返事をする。今までわざと心のしずくを奪わないように行動してきたが、今回ばかりは無理かもしれない。自然と彼の足取りは重くなる。しかし、自分がこの任務を拒否すれば、董魔が風花の元へと向かう。その事態だけは避けなければならない。


「行くぞ」


 京也は扉の近くに控えていた少女に声をかけ、一緒に闇へ消える。




「失礼します」


 京也が王の間を去って、しばらくするとやってくる人物が一人。20代くらいの背の高い男性だ。董魔の前までやってくると跪く。


消助しょうすけ、そろそろお前も行け」

「……ですが、京也様の命令は」


 消助と呼ばれた男性。彼はたける、紅刃と同様に魔界四天王の一人。魔界四天王は京也が組織している部隊だ。基本的に彼からの命令がなければ、動くことはない。それは董魔も知っている。しかし……


「王の私が言うのだ。京也の命令などなくてもいいだろう」


 董魔は拒否権はない、と言わんばかりの威圧感を放っている。その威圧にたじろぐも消助は深々と頭を下げた。


「……分かりました。準備いたします」


 京也も知らないところで、新しい計画が動き出そうとしていた。



―――――――――――――――





「「文化祭だー!」」


 アホ毛コンビ、おっと失礼。彬人と結愛が叫んでいる。

 東中学校の文化祭は10月。今は7月で開催までに3カ月ある。夏休みに入る前に何をするのかを話し合い、夏休み中に準備。そして10月に本番という予定だ。


「ぶんかさいって何?」


 意味を理解できていない風花が疑問を口にする。風の国の学校には存在しなかったのだろうか。キョトンと首を傾げていた。

 彼女の疑問に答えるべく、彬人がくるくると回り出す。


「説明しよう! 文化祭とは、各ギルドによる血と涙と汗の祭典だ」

 訳)説明します。文化祭では、クラス単位での模擬店やイベントが開催されます


 彬人の言葉にポカンとしている風花。彼女の様子を見かねて、翻訳した一葉が伝えてくれる。クラスごとの催し物の他にも、部活動による成果発表、夜にはキャンプファイヤーもあるのだそうだ。きちんと意味を理解した彼女の顔が輝きを増していく。


「すごく楽しそう!」


 花の咲いたような笑顔を向けて、風花がはしゃぎだす。記憶の欠けている彼女にとって、文化祭のようなお祭りに参加することは初めてなのだろう。開催はまだ随分先なのだが、彼女は今からとても嬉しそうだ。そんな風花を見ていると自然と翼たちの頬も緩んでいく。





「何か案がある人?」


 クラスで何を出そうかと会議中。司会は学級委員の平野蓮と七瀬沙織。二人は教壇の前に立ち、何か意見がないか聞いていた。


「お化け屋敷!」

「展示!」

「演劇!」


 クラスメイト達が次々に案を出していき、学級委員の二人はそれを黒板に書いていった。話し合いは順調に進み、様々な意見が黒板に並んでいく。どれも楽しそうな催しものだが、一つしかできない。


「もう意見はないかな? なかったら出ている中から多数決をしようと思うんだけど」


 案が出尽くしてきた頃、平野がクラスメイトを見渡した。特に新しい意見を発言する人はいない、と思われた……


「男装女装カフェとか面白そうじゃない?」

「あ、それいいね。楽しそう」


 一人の発言で沈黙が途切れた。発案者は美羽。それに便乗するのは一葉。彼女たちは一体何を考えているのだろうか。黒い笑顔をしているように見える。

 彼女たちの発言を聞いて、男性陣が凍りつき、女性陣が浮足立った。


「じゃあ、候補に入れておくね」


 七瀬がちゃっかりと『男装女装カフェ』を候補として黒板に書き込む。女性陣たちのほとんどはこの案に賛成のようで、早速どんな衣装がいいかと話し合ってしまっている。


「女子は黒の燕尾服で、男子はフリフリのメイド服がいいよね」

「ミニスカートにしてあげよう!」


 これはまずい事態になってしまった。男性陣に嫌な汗が伝う。


「「……」」


 そんな中、優一と平野の視線が交わる。こくりと頷き合い、合図を送った。


「じゃあ、休憩を挟んで15分後くらいに話し合いを再開しようか」


 平野の提案で会議は一時中止。休憩を挟んだのちに、多数決が行われることとなった。

 まだ今の段階では案が出たのみ。今までの話し合いで、お化け屋敷など楽しそうな案が他にも出ている。


「作戦会議だ」


 そう、俺たちの戦いはまだ終わっていない。

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