第19の扉  ダンジョン攻略戦その1

 ピーンポーン 


「「こんにちは」」


 翼たち5人が風花の家を訪ねてきた。今日は、前回途中になってしまった魔法発動の練習をすることになっている。


「みんなすごいね」

「本当に……」


 風花と太陽は5人の成長の速さに驚きが隠せない。通常翼たちのように能力開花したすぐは、変身に何時間、何日もかかるもの。そう簡単に完成するものではないのだ。それにも関わらず、5人はもうクリアしている。努力と勘の鋭さ故かもしれない。


「えっと、魔法は想像力、イメージが大事」

「技を想像しながら、杖にグッと力を込める感じです」


 風花と太陽は彼らの成長の速度に戸惑いながらも、魔法発動のためのポイントを伝える。

 魔力は血液のように全身を駆け巡っている。翼たち精霊付きの場合は、精霊が力を貸してくれているため、精霊に呼びかけながら、魔力の流れを意識することで技が発動できる。細かくて繊細なイメージが必要な作業で、変身することよりも難易度が高い。


「なるほど……」


 翼は以前京也との戦いで、自分で魔法を発動することができている。しかし、あれは火事場の馬鹿力的な力だろう。極限状態の中での緊張、やらなくてはいけないというプレッシャー。それらが翼の集中力を高め、魔力発動ができた。今後は継続して安定した発動ができなければ、実戦では意味がない。

 風花と太陽のアドバイスのもと、5人は集中し始めた。






 数分後……


「できてる」

「できていますね」


 翼たちの様子を見て、風花と太陽が呟く。そう、できているのである。前回、魔法発動に成功した翼だけでなく、優一、彬人、美羽、一葉全員が技の発動に成功していた。短時間で驚くべき成長を遂げている。そんな彼らの様子には心の欠けている風花でさえも、開いた口が塞がらない状況だった。


「こ、これが俺に秘められし力…… ふふふふふ」

「魔法は想像力ってことは何でもありか?」

「ううん、できないこともある」


 彬人が魔王のような笑い声を響かせる中、優一が風花に疑問を投げかける。

 魔法の種類には大きく分けると火、水、自然、雷の4つの属性と、それに分類されない無属性がある。翼と美羽は火、優一と一葉は水、彬人と風花は自然に分類される。京也の闇魔法、太陽の扉魔法や回復魔法などは無属性に分類される。無属性の幅は広いようで、特殊な魔法は全てここに分類されるらしい。


「例えば、優一さんは水の精霊なので、反対の属性である火の魔法を使うことはできません。同じ水属性の一葉さんの氷魔法であれば習得することは可能です。しかし、習得にはそれなりの時間と魔力が必要です」

「形を変えることは自由にできるよ。例えば、swordソード


 風花が自分の杖を掲げ、呪文を唱える。すると、杖が形を変え剣になった。


「おぉ」

「ふ、純白のつるぎか」


 全員が風花の剣に釘付けになる中、優一は何やら考えている様子。先ほどの風花の説明で、何か考え着いたのだろうか。






Excaliburエクスカリバー!」


 彬人は早速杖を剣に変えて、上機嫌で振り回している。ちなみに杖を剣に変えることもすぐにできる技ではないのに、彼はいとも簡単にやってのけた。やはり創造力が凄まじいのだろう。


「バカがバカなことやってるよ」

「私たちもいろいろ試そう!」


 美羽と一葉はそんな彬人をやれやれと見ながら、二人で様々な技を研究し始めた。


「クククッ。これはいいぞ、面白い。物質変化はできるんだな」


 優一は何やら水の塊を作り、不敵な笑みを浮かべている。何をしているのだろうか。黒い微笑みを携えているので、聞かない方がいいかもしれない。


「みんなすぐにできた……」


 そんな中翼一人だけは、表情が晴れない。

 翼は千歳公園での京也との戦闘の際、一回で魔法を発動させることができなかった。それから自分で練習を重ね、今、何とか魔法を使える。それを優一たちはこの短時間で追いついてきた。もっと、強くならないと今の僕は何もできない。ぐっと拳を握って、練習を再開した。


「この先どんな敵と戦うかわからないけど、油断だけはしないでね。どんなに強い人が相手でも諦めなければ必ず勝機はあるから。焦らなくていいから、落ち着いて。ゆっくり観察して、呼吸をよむの。大丈夫、一人じゃないから」


 風花は練習している全員に優しく声を届ける。安全な日本に生活している翼たち。彼らを危険な戦場に連れていくことは心苦しいが、彼らは出会ったばかりの風花に優しく手を差し伸べてくれた。風花は彼らのことを守りたい、と思いながら自分も練習に励む。


「さてと……」


 風花は取り戻した魔力がどれくらいなのか、試しながら魔法を発動していた。

 風花の魔力は心のしずくとして散らばってしまっている。現在4分の1程のしずくを取り戻すことができ、最初に比べれば魔法の威力が増加してきた。杖の先に風の魔法を貯めて、くるくると回してみると、その動きに合わせて、風花の髪がふらりと揺れる。

 順調に力が戻っていることを確認し、頬を緩ませていたのだが……


「姫様、どうされましたか?」

「ん、魔力を使いすぎちゃったかな」


 ぐらりとめまいに襲われて、ふらついてしまった。異変に気がついた太陽が支えてくれる。

 魔法を使いすぎると魔力切れを起こす。前駆症状としてめまい、動悸、息切れなどがあるのだが、魔力を全て使い切ってしまうと命の危険もあるほどだ。


「ふぅ……ごめんね、ありがとう」

「少し休みましょう。他の皆さんも心配です」


 風花がしゃがみこみ、休憩をしているとめまいは消えていった。

 練習開始から結構な時間が経過している。他のメンバーが魔力切れで倒れてしまうと危険なので、一旦練習を中止し、休憩することとなった。






_________________






「リーダーを決めないか?」

「リーダー?」


 休憩中、優一が突然の発言をする。他のメンバーのポカンとした視線が突き刺さる中、優一は説明を続けていく。


「これだけ人数が多いと、いざという時に意見が分かれたりするだろう。そういう時にみんなの意見をまとめたり、最終的にリーダーの決めたことに従うって、最初から決めておいた方がいいと思うんだ」


 確かに7人も人がいれば意見は様々出てくる。今後の戦闘では、その判断をする時間さえも惜しい場面があるかもしれない。


「賛成!」

「誰にするの?」


 反対する者は一人もいないが、誰がリーダーになるかが問題となった。それぞれの顔を見合って考え込む中、その空気を切り裂くように優一が手をあげ、一人の人物の名前を口にした。


「俺は翼がいいと思う」

「え、僕!?」


 その意見に翼が一番驚いた。優一との付き合いは長いが、彼は冗談や嫌がらせでそのようなことを言う性格ではない。本気で翼がリーダーに向いていると思って発言したのだと分かった。なぜ弱虫、泣き虫な自分のことを推薦するのか翼には全く分からない。


「いいんじゃない? 相原くん、私も賛成!」

「そうだね、最初に能力発現してるのも相原くんだし、ウチもいいと思う」

「ふ、翼の炎に焼かれるのも悪くない」

 訳)僕も賛成です


 美羽、一葉、彬人も優一の意見に賛成し、ますます翼は慌てた。自分は何の取り柄もない、意見を言うことも苦手な弱虫なのだから。


「はぇ!? ちょ、ちょっと待ってよ、みんな。確かに能力が発現したのは僕が最初だけど、僕は使いこなせるようになるまで、みんなの倍以上かかっているんだよ? それに僕、弱虫だし……」

「それって人一倍努力できるってことでしょ?」


 戸惑う翼を励ますように、美羽がまっすぐ目を見て告げる。確かに翼はみんなの倍以上変身、魔法発動に時間を要した。それでも今みんなと同じラインに立てているのは、彼があきらめずに努力した結果である。その努力は全員が認めていた。


「素敵じゃんか」

「ふ、我らがボスの誕生を祝おう」

 訳)みんなで頑張りましょう


 自分のことをそんな風に思ってくれたことに感動を覚えながらも、翼の不安はぬぐえない。本当にリーダーが務まるのか、自信がない。


「でも、僕は優柔不断で、リーダーなんて……」


 翼が戸惑いの表情を浮かべるなか、バタン、と彼の後ろから音がした……

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