技術衰退の懸念

 佐川急便が中国製の電気自動車を導入するという。


 とうとう来たかという感じだが、この裏には恐ろしいシナリオが待っているかもしれない。


 どうして日本は世界に名だたる自動車大国なのに、先陣を切って電気自動車を積極的に作らないのか、トヨタの開発したハイブリッドにこだわっているのかを紐解いてみると、その理由がわかる。


 私は最近、自分の車の調子が悪くなり、整備を検討する機会があった。この事からも裏付けを得ることができたような気がするので、ご報告だか問題提起だか何になるかわからないけれど、お知らせしてみようと思う。


 調子が悪いと当たりをつけている部品はオルタネーターと言って、エンジンの回転から電気を作り出す部品だ。あまり壊れる部品ではないが、常に回転する性質の部品なので、寿命は10万キロという説もある。私の車は20年前にこの部品の修理をしたが、走行距離も22万キロになっているし、電圧計の針の動きも少しいつもと違うような気がしてきたので、故障を疑っている。


 この部品はデンソーという会社が製造しているものだ。今の時代は便利になっており、インターネットでその構造を知ることができるばかりか、部品の品番を調べて、インターネットで部品を発注することができるようになっている。


 私は今までこのような修理はプロに任せていたが、お金がなくなってきたのと、旧い車の整備全般に興味が沸いてきたことなどから、最近では自分でできるところまでやってみようというスタンスになっている。今回も、可能な限りの部品を揃えて、いつかは自分でオーバーホールをしてみようかなと思い、この部品の何たるかを調べることになった。


 調べてみると、その構造と部品に対するメーカーの体制に驚愕する。精密な設計の元、丈夫な数々の部品を使って、この「オルタネーター」は作られていることがわかる。更に日本人ならの気遣いだろう、後々の修理の事までしっかりと考えられている。内部の小さなスプリングにまで品番が振ってあり、製造から40年以上が経過している現在でも、その部品は供給されている。


 日本の車は海外での評価が高いが、技術もさることながら、部品一つに対しても、このような繊細な管理がされている事も評価されているのだと思う。


 当然ながら、日本には、自動車に関わる仕事をしている人が沢山いる。販売はもちろん、今回の事で、本当に日本は自動車の国だなという印象を更に強くした。例えば今回、回転する軸を固定するベアリングという部品を調達したのだが、届いたそれはもちろん日本製で、箱に入り、ビニールに入り、とても美しいものだった。これを自分で作れと言われても絶対にできないし、その作りの精密さ、美しさに、感動すら覚えた。


 日本の自動車部品の製造業は裾野が広い。裾野の一番端に位置する町工場はメーカーの要望に応じ続けることで必然的に技術に磨きがかかり、同時に、コストを下げるという相容れない要望を、命を懸けて克服し続けてきた。


 このベアリングには、日本の町工場の歴史と技術が詰まっているのだ。


 電気自動車はその構造上、今の自動車に比べると、かなり簡単に作ることができるようになる。極端な話、コロナで打撃を受けた飲食業界や旅行業界でも作れるかもしれない。


 具体的には、日本がこのようにして作り上げてきた様々な部品が、必要なくなるのだ。エンジンもいらないし、発電機もいらない。日本の繊細な技術を生かすことができるこの部分がなくなってしまうとしたら、日本の自動車製造業界はこの先どうなってしまうのか、想像できるだろう。


 同じような現象は既に起こっている。


 日本の家電業界を考えてみて欲しい。


 東芝、ソニー、シャープ、パナソニック、これらのブランドの全盛期と、今現在の状況を比べてみて欲しい。


 ハイブリッド車という選択がいつまでもできるのなら問題はない。しかし、今回佐川急便が導入を決定した電気自動車は、業界に激震を走らせるだろうことは間違いない。何故なら誰もわかっていないと思うが、この車はとんでもなく安く、便利だからだ。私は既に中国の製造業にお世話になっているので何とも思わないが、根強い中国製排除の感情が、果たしてどのような市場を作るのか、この辺りは未知数ではある。また、燃料となる電気のインフラ整備にも課題は残る。


 私は幸いにも、あと20年もすれば免許返納なので、死ぬまでエンジンと一緒に暮らすことができると思う。


 コロナの次は電気自動車が日本や世界各地を襲うような事にならなければいいのだが、と思っているけれど、世界に誇る日本の自動車業界と、それに関連する様々なお仕事をされている方々が、少なからず影響を被ることは、おそらく避けられないと思う。



 悲しいかな、これが時代の流れなのだ。



 ちになみに大型トラックに関しては、もし大型のトラックを全電化すると、電池がとんでもない重量になってしまうらしく、実用化の目処は立っていないらしい。運転手の端くれとしては、この点はよかったのだが、根本的な部分が解決されないことから、違和感は残ってしまう。



 

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