東京訛り
「あたしだけど」
再び、姉から電話がかかってきた。
姉からの電話は、あまりいいことがない。
屋久島にいたときは、姉が登場することは殆どなかったが、何だかこっちになってから出番が増えてしまった。ちなみに2つ上のおばちゃんである。
聞けば、昭和9年生まれと10年生まれの親の所に、(娘の勤めとして)買い物などに行ってあげているのだけど、お互いに悪口ばかり言い合っていて、あたしはもう嫌になった。母が息子である貴方と話したいみたいなので、電話でもしてあげてもらえませんか? という内容だった。第一声が、「おかあさんがおかしいんだよ」だったので、心配だ。第一声が父ならわかるのだが、母なのだ。
東京訛りの標準語の女性が何やら興奮して喋っているので、トーンが高く、こちらも構えてしまった。
もう、東北に20年以上いて、いつもはカミサンの重たい東北弁ばかりを聞いているので、この軽い喋りを聞いているだけでもちょっと辛い。はじめの言葉のトーンが高いのだ。
うちの両親に限らず、この世代の夫婦はどこも同じような感じだろう。
父が威張っていて、母は我慢している。
歳を取ってきて、母も我慢ができなくなってきて、逆襲しているのだ。
昔は酒癖の悪い父が9割方悪いと思っていたが、酒も飲めなくなり、落ち込んでしまったようで、ちょっと可愛そうにもなった。
母は大前提として、病気がちの父の介護がある。自分も弱ってきている。お互いに痴呆こそないものの、父は逆流性食道炎があり、せっかくご飯を作ってあげても、食べて嘔吐したりする。やるせなくなると、時々カミサンに漏らしている。
父は母に対して随所に敬意の念を見せるものの、なかなか母にそれは伝わらず、母はここ数年、大きなストレスを抱えている。
どっちが悪い、どっちが正しいの判断は難しいが、やはりお互いに何かストレス解消の術がなければ、参ってしまうだろう。今までは私達が時々顔を見せることでそれが叶っていたが、コロナ禍の今、私達に会えなくなり、とりあえず近くにいる姉に矛先が向いてしまったのだ。
母は、こんな精神状態だから、上手い詐欺師から電話がかかってきたら、お金を渡してしまうかもしれない。まあ、実家には警察の用意している会話内容録音装置があるので、とりあえずは安心しているけれど。
しかし、夫婦というものは面白く難しい。
もう60年近く一緒に暮らしているのに、仲良くすることができない。
でも、一緒に暮らしている。
母は携帯電話も持っておらず、父のわがまま放題で感じてしまうストレスのはけ口がなく、可愛そうだ。
昨日はカミサンとのクリスマス会もあったりで電話もできなかったが、今日あたり、電話してあげよう。やはり、こんな事もあるので、スマホのかけ放題プランは必須なのである。
どうか今日は、仲良く暮らすことができますように。
メリークリスマス。
60年夫婦の現実
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