酒
「あ、俺だけど…」
先週のはじめ、東京のオヤジから電話がかかってきた。酔っ払っているでもなく、眠いでもなく、調子が悪そうでもなく、何だか最近は聞いたことのない、機嫌が良さそうな声だ。
「あのさぁ、酒、送ってくれよ、な、来年の正月はお前らに会えなくて寂しいから、酒飲んで思い出しながら過ごそうかなと思ってよ…」
ということだった。
オヤジは根っからの酒好きで、姉も母も私も、この人の酒癖には辟易してきた。今で言うDVではないけれど、酔っ払ってくだを巻き、自分の主張を大きな声で繰り返したり、テレビを見ておかしな事があればテレビ局に電話したりと、やりたい放題だった。
しかし、このオヤジも70を過ぎたあたりから酒が弱くなり、70半ばで、あれだけ好きだった酒を飲まなくなり、間もなく90になろうかという今は、殆ど口にしていないという。
でも、やはり正月は特別なのだろう。今年はこんな風だから、なおさらだ。
私は承諾し、次の日の夜、スーパーで超辛口の酒を一本と、贈答用に作られた立派な酒を一本を買って来た。
「アマゾンだったら、クレームの来るレベルね」
カミサンにそんなことを言われながら、酒が破損しないように、梱包資材を沢山使って、荷物を作った。私にとっての荷物は、海外への発送が基本なこともあって、いつも梱包は頑丈だ。これで大丈夫だ。
自分のパソコンで送り状を作り、土曜日、カミサンと買い物のついでにクロネコヤマトの営業所に持って行った。受付には休憩中のドライバーらしき人がいて対応してくれたが、その対応の早さに驚いた。そりゃそうだ、毎日沢山の荷物を集荷しているのだろうから、早くできなきゃ、仕事にならない。
雪による延着の可能性があるかもしれないことを確認され、送り状の控えに「遅延了承」の赤いスタンプが押され、発送完了だ。
本来なら、翌日朝には東京のターミナルに到着するはずだが、やはり雪の影響があるのか、半日ほど遅れて荷物は動いて行った。
「今着いた。ありがとう。正月になったら開けるからな。楽しみだ」
オヤジは心から喜んでいるようだった。
そうそう、壊れずに着いてよかった。
今年はこんな状況だけど、何とか乗り切って、またみんな一緒に過ごすことができればいいな。
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