東京

 生まれも育ちも東京だ。


 かつてのHPのネタではないが、小さい頃は夏になると、周囲の友人が田舎に帰省するのがとてもうらやましかった。父方の実家と呼べる場所はなく、母方は、文京区の小石川、後楽園ゆうえんちや後楽園球場、現東京ドームの近く、文京公会堂の前のアパートが実家で、よく、ドリフターズの公開講演を見に行った。まだ、志村けんはいなかった頃だろう。


 30歳まで東京にいた。東京にいた頃は、こんな住みづらい街のどこがいいんだと思っていたが、やはり外に出るといろいろな声を聞き、思うところがあった。


 屋久島にいた頃、飲み会がしょっちゅうあった。奄美大島の出身という某彼が、こんな事を言った。


「東京って、どんなところですか?」


 一応東京にはいたけれど、新宿や渋谷とは縁ほど遠く、自宅と勤務先とを往復する生活だった。離れたということは、もちろん、思い入れなど、これっぽっちもない。


「あっちこっちに人がいっぱいいるよ。時々、人とぶつかったりするかな」


 彼のイメージを損ねないように答えたが、彼は不思議な顔をしていた。



「ちょっと、長いんじゃないの?」


 今や10両編成の電車など、当たり前に走っているが、カミサンは、NHKのニュースの後などに流れる東京の電車の映像を見ると、未だにこんな事を言う。彼女にとって電車は2両、長くて4両なのだそうだ。こんなに長いものが人をいっぱいに乗せて、毎日3分おきにぐるぐる回っている東京という所が、彼女は未だに怖いらしい。


 テレビに映る東京には、土も緑もない。ただただ、コンクリートのジャングルに、高い鉄塔が一本生えていて、その中を大きな川が流れている。ゼロメートル地帯と言って、川の水面よりも低い位置に家が建っている場所だってある。


 この先、地球温暖化によって、どこで起きてしまうか全くもってわからない水害や、この先の新しい生活を考えたとき、この密度で生活を続けるのは、どうなのだろう。避難所が開設されたとしても、一部の人しか入ることができないし、混乱は避けられないと思う。


 私は本能的にこの東京を避けたが、世間から言わせれば変わり者だ。流れ流れてようやく辿り着いた土地は、東京に比べれば余裕があり、比較的穏やかな生活を送る事ができている。


 今は私の時代とは違い、各地域の支援がいろいろとある。移住者を積極的に受け入れて、町を活性化したいと考えている市町村のホームページには、有益な情報が公開されている。資金もそれ程必要はないだろうし、住む場所だって保証されている場合が多い。農家にだって漁師にだって、あなたもきっとなれるはずだ。検討中の本人はなかなか気が付くことができないが、若ければ若いほど、子供が多ければ多いほど、あなたの価値は高いと考えていい。


 住む土地を変えるのは、いろいろな要素があって難しいけれど、もし迷っている人がいるなら、私は強くそれをお勧めしたい。


 この先、本当に、暮らしずらい世の中になってしまうと思うから。


 

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