日常と裏家業

魔術とは

 戴冠式から二週間。

 怪獣と同化してしまった俺は、この異世界で竜として依頼をもくもくとこなしている。

 飯を食って、稼いで、寝るの繰返し。そして時たまの休暇を悠々と楽しむ。依頼の内容も荷物の運搬から土木や魔物の討伐など色々。

 活気に泥にまみれることもあれば、冷酷に血に濡れることもある。それが俺達の仕事なのだ。

 王都での惨劇から、しばらくたつがサンダウロの事実は表沙汰おおやけになっていない。

 メガエラ様もこれに対して謝罪と賠償を試みたが両国はそれらの一切を断ってしまった。

 それどころかサハク王国になんの責任の追求もせずに、両国やつらはサンダウロでの戦いの真実を揉み消した。そのためサハク王国が国際的に非難されるような事態はおきなかった。

 さらに、この件に関しては絶対公表しないようにと両国から念を押されたらしい。

 やはり両国ともに、この事実が表沙汰になるのは不都合と見ているのだろう。

 自分達の国家最強の集団が雇われもんの二人と一体の竜に壊滅させられたなどとなれば、国家くにのとんでもない醜態を広めてしまうことになる。

 対外的には、まだ紛争が続いていることになっているらしい。そうするしか、両国は面子を守れなかったのだろう。

 そして、すべての元凶たる偽者の国王は重要参考人として城に幽閉中だ。隊長に背中を剥がされた時の激痛ショックで廃人寸前だとか。

 異形獣いぎょうじゅうの発生源となる怪異寄生体かいいきせいたいの入手ルートを探るために尋問されているらしい。

 その尋問のため、時々ベーンが城に招かれるらしいが……。




 まあ、今は目の前の仕事に集中しよう。配達の仕事をしている。

 パーティーは俺、アサム、ベーンだ。

 配達物は巨大な木箱に入れナルミ特製のロープで俺の背びれに縛り付けてある。

 ナルミいわく、このロープは特殊な針金を編み込んで作ったらしい。強度はお墨付きだ。

 ……手先が器用なんだよなナルミは。

 大型の荷車五十台相当の荷物を担ぎ、徒歩で二日かかる街に向かっている。


「やっぱりムラトさんがいると、荷物の運搬は早いですね」


 頭の上のアサムが褒めてくれる。

 この巨体と馬力は輸送に最適すぎた。大量の物資を短時間で運ぶことができる。

 今、目指している街も人間の脚なら二日はかかるが俺にかかればものの数時間でたどり着ける。

 そのため石カブトに指名の輸送依頼が多くきているのだ。

 おかげで儲かっている。


「プガァーッ」


 そんな声をあげるのはベーンだ。相変わらずに俺の触角にぶら下がっている。

 まあ、そんなことはおいといて、せっかく魔術に詳しかろうアサムがいるので輸送中のがてら、魔術について説明してもらった。


「ナルミさんから少しは聞いたと思いますが。魔術を使用するには、魔粒子を圧縮する必要があります」

「魔粒子の圧縮には魔力が必要なんだろ。そんで魔力を消費しきると倒れちまう」


 ヨーグンにいた時にミアナ様の全魔力ぜんりょくを吸い付くして、昏倒こんとうさせてしまったからな。

 魔粒子は大気中や大地とわず無尽蔵にあらゆる場所に存在しているらしい。

 言うなれば、つねに周囲に魔粒子が溢れているのだ。


「魔力は精神的なエネルギーですから無限じゃありません。魔粒子は人の思考に反応して、あらゆる作用や現象を引き起こす物質とされています。そのため圧縮後に使用する魔術を明確にイメージしなくてはなりません。そしてイメージだけでなく、詠唱も必要になります。無詠唱で魔術を扱える人は大陸には、ほとんどいませんね。とは言え魔術に関しては、まだまだ未解明なところもあるので詳しい原理までは現在も分かってないんです」


 なるほどな圧縮しただけでなく、頭の中で火炎の玉や氷の槍などの作り出したいものや引き起こしたい現象を想いえがく必要があるわけか。


「魔導士としての実力は使用できる魔術の数と魔力で決まります。魔力も個人差がありますし、魔力を持ってない人もいます。階級もあり、賢者、大魔導士、魔導士、見習い士という具合にわけられますね。魔術の威力は魔粒子の圧縮量で左右されます。より膨大な量を圧縮できれば戦略魔術や高度な魔術も可能になりますが、そのぶん魔力は多く消費しますから高い魔力を持った人でないと使えませんね」


 ほう、魔導士には階級があるのか。

 察するに戦略魔術とやらは俺がいた地球で言うところの大量破壊兵器のような攻撃魔術なのだろう。

 

「アサム、お前以外に魔術を使える奴は石カブトにいないのか?」

「はい、僕以外に魔力を持っているかたはいません」

 

 つまり隊長達は単純な肉体的戦力で今まで多くの危険を乗り越えてきたのか、本当ほんととんでもねぇ集団だよ。

 魔術と言ったファンタジー要素が溢れる世界だと言うのに、魔術より肉体の方が強いってのもどうかと思うが。


「あのー、ムラトさん。僕も聞いて良いですか?」


 アサムが少し真剣な面持ちで尋ねてきた。


「……もちろんだ」

「サンダウロで賢者や大魔導士を倒したのは本当なんですね」


 王都を片付けたあとサンダウロで俺達が何をしたのか他の隊員達にも説明した。あの一方的な血生臭く酷い戦いを。

 もちろん隠す必要などない、事実を伝える。


「本当だ。……あれは到底、殺し合いなんて呼べるものではなかった。それだけ差がありすぎたんだ」

「じつは、それを知ったとき背筋が凍りました。一騎当千の彼等が傷ひとつ、つけられず一方的にやられたなんて……おそらく僕だけじゃなくオボロさん達も……」


 アサムが小動物のように少し震えていた。怯える顔も可愛らしいな。

 実際は現場にいた隊長達が一番戦慄し恐怖しただろう。ましてや魔導士達を全滅させたあと、今度は異世界このよで高等な生物である飛竜たちを解体バラバラにしたのだから。


「どうしたい? そんな化け物の頭の上にいるのは恐くなっちまったか?」

「いえいえ! すみません気を悪くしたら。でも、こうして一緒に依頼をしているうちに、ムラトさんはとても真面目で優しい竜だってわかりました。それに、ムラトさんの力があったからオボロさん達も無事に帰ってこれたんだと思います。でも……ちょっとだけ恐いのは、たしかです」

「ほめてくれるし、正直なことも言う。俺はそう言う奴は好きだぜ」


 ほんと、素直で優しくて可愛い奴だよ。アサムはな。老若男女とわず嫁にしたがるのが良くわかる。

 しかし立派な成人だ。しかも俺よりとうも上。

 お肉がついたぽっちゃりとした体型に褐色肌。その容姿がまたたまらない。

 それに彼の日頃の服装だが、かなり色気がある。

 民族的な服なのだが、上は胸を隠すだけのさらし一枚、下は短い腰巻き。

 そのため臍だしで太ももは丸見え。そこにむっちりした肉がついているため、彼が動くたびにぷるりと震える。

 当の本人は気にしていないのだろうが、それが男女を虜にしているのだろう。

 ちなみに腰巻きの中は、きわどいふんどしのような下着だ。……角度によっては、それが見える。……すんごい眼福。

 話によると、どうやらアサムは普通の人間ではないらしい。

 太古に滅びた妖精フェアリー族と人間の間に生まれた、半妖精ハーフフェアリーと言う種族の末裔なのだとか。

 その数はまったく分かっておらず、目撃することができたら奇跡とされていたらしい。

 一族は生まれつき高い魔力を持ち、かなりの長命種族なのだそうだ。普通に千年は生きると聞いた。

 だが攻撃的な魔術が習得できない種族でもある。

 そして、ここで重要なことがある。彼等は一度成人すると、老化などせず一生見た目が変わらないのだ。

 ……つまり、アサムは一生あの可愛らしい姿を保ち続けると言うことなのだ。……素晴らしい。

 俺が色々考えこんでると上から変な鳴き声が。


「プギャァァー!」

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