魔物の大軍

 時は深夜。

 クバルスに向け約一五〇の騎士と約五〇〇の兵が侵攻していた。

 しかし彼等の表情は暗い。原因は任務の内容である。

 反逆者の粛清と言う命令で動いているが、本当に街の人々は反逆などしているのだろうか?

 そして、あきらかに動員されてる戦力は過剰。

 自分達のはるか後方には醜い魔物どもまで控えている。こんなものを利用するなど狂気の沙汰だ。

 巨体と怪力を誇るトロールが二十五体。

 鋭いクチバシを持つ怪鳥バルーダが約百羽。

 熟練の冒険者が数人がかりでも苦戦を強いられる体長二〇メートルにもなる巨大なナメクジ型の魔物ゲスラグが十体。

 そして、それらを操る女魔導士が二人。

 いくらなんでもやりすぎだ。

 町を完全に消すつもりだろうか?

 粛清とは名ばかりで、何かの不祥事の隠蔽をさせるつもりではないだろうか?自分達は汚れ仕事をさせらてるのではないだろうか?

 全員が、そう感じていた。


「国王は、どうされてしまったのだ? あれほど民や私達を愛してくれていた国王がなぜ……」


 陸竜に乗り先頭を行く女隊長は頭を抱えながら呟いた。

 今の王は、どうかしている。

 増税で人を苦しめ、生活に困った人を城に向かえ入れる。そして雇った人々はどこかえ消えてしまう。

 さらに魔物の利用。

 何をしようとしているのか、まるで分からない。

 しかし国に仕える身である以上、国王の命令は絶対。

 女隊長が色々と困惑していると、クバルスが目視で確認できる距離までやってきた。しかし、その時だった。

 突如揺れが襲ってきたのだ。


「な、なんだ!」

「じ、地面が揺れてる?」

「地震?」


 騎士達が個々に声をあげる。

 一瞬振動がおさまった瞬間、轟音と共に大地が爆ぜ騎士や兵士達が宙を舞った。

 ……彼等が抱いていた動揺が警戒感を妨げ、奇襲を許してしまったのだろう。


× × × 


 よし! 地中からの奇襲は成功だ!

 城の兵どもがやって来るのを地面の中で待っていたのだ。

 地中にいても触角で奴等の動きを完全に把握できるため、俺の頭上を通りすぎる瞬間を狙って地面ごと吹き飛ばしたのだ。

 もちろん手加減はしてある、本気でやろうものなら全員がズタボロの死体になっている。

 俺は、その威力を身をもって知っているからな。


「うわぁぁ!」

「な、なんだぁ!」


 転倒した国王の軍隊どもは、いきなりの出来事に混乱している様子だ。

 これなら、いける!


「今だ! 引っ捕らえろ!」


 俺は大声で周囲に身を潜めていたベテラン冒険者達に号令をかけた。

 彼等は一斉に姿を現して混乱状態の兵達に襲いかかる。

 ……さっきの大声が効いたのだろう、多くの兵士が意識朦朧としている。

 彼等を取り押さえにかかったのは凄腕のベテラン達だ。いくら王の兵士だからといって、こんな混乱しきった状況ではまともに反撃もできないだろう。

 冒険者達の仕事は見事だった。

 体格や腕力に優れる者はロープで捕縛し、魔術を体得している者は眠らせたり、麻痺させたり、光のヒモで数人まとめて縛るなど。

 たちまちに兵士達は、自由を奪われてしまった。

 オボロ隊長からの命令は町の守りであり、けして無益な殺生ではない。そこで奇襲を仕掛けて生け捕りにする作戦にでたのだ。

 それに、兵士達から情報を聞き出せるかもしれないからな。

 ……だが、本番はこれからだ。


「全員下がってくれ。あとは、俺がやる」


 俺は、そう冒険者達に告げて遠くを眺める。

 目線の先にいるのは、魔物の軍勢である。

 トロールと初めて見る奴等だ。奇っ怪な鳥とバカでかいナメクジ。


「ちっ! 正気の沙汰じゃねぇな」

「魔物を操って、差し向けるとは」

「国王は完全に乱心したみてぇだな」


 兵士達を縛り終えた冒険者達が足下で、そう呟くのであった。

 熟練者達でも、さすがにあの魔物の数は辛いはずだ。

 俺が一歩前進したとたん、地面を振動させながら魔物共が突撃してきた。


「グゴオォォォォ!!」


 俺も咆哮し、駆け出した。

 巨大な魔物共が地を揺らし、進撃してくる。

 全部で一四〇体近くにもなる大部隊だ。

 だが俺から見れば、まだまだ小さい生き物。

 地を行くトロールやナメクジは脚が遅い。まず先に鳥共を潰す!

 空中から来る鳥は、かなりの数がいる。


「それなら!」


 触角を鳥共の方に向けるが、正確に照準はつけない。

 パルス状のレーザーをばらまき広範囲に攻撃を仕掛けた。

 鳥共は巨体で密集しているため、いい的だ。

 断末魔もあげずに穴だらけの肉片に変貌し、血肉臓腑ちにくぞうふを大地にぶちまける。

 一回の掃射で半分以上が消し飛んだ。

 パルス状でも一発一発がかなりの熱量をほこり、飛竜ひりゅうの強靭な鱗でさえ容易く貫くのだ。

 それを毎分一万発も発射できる。鳥共がそうなってしまうのは当然だった。


「もう一度」


 二回目の掃射を仕掛ける。

 やつらは突っ込んでくるしかないのか。結果は同じだった。

 地を走る醜い仲間達に鮮血をぶっかけて、鳥共は跡形もなく消え去った。

 間入れずトロールやナメクジ共に向かって猛進。勢いよく先頭のトロールを蹴飛ばした。

 まとめて数体のトロールが血霧になり、その巨体を完全に消失させてしまう。

 数万トンから繰り出される蹴りだ、こうもなろう。

 そして後続のトロールを手当たりしだいに踏み潰す。潰すたびに、ブチュリッと鮮血と内臓が飛散した。

 そして最後に一番動きが遅い、ナメクジ共に掴みかかる。

 俺に鷲掴みにされたナメクジはウネウネもがきながら、その肛門のような口から奇妙な粘液を吐きかけてきた。 

 それが強力な酸だと分かったのは、俺の肉体を焼けずに粘液が大地に流れ落ち煙をあげてからだ。


「数百万度の熱に耐えたんだ。そんなものはきかねぇよ」


 掴んでいたナメクジを握りつぶして投げ捨てる。その巨体な死体が地面に激突して振動が走った。


「「きゃっ!」」


 するとナメクジ達の後方から、悲鳴のようなものを確認できた。

 目をやると、そこには女が二人。さきほどの振動のせいだろう尻餅をついている。


「い、行けぇぇ! あの竜を倒しなさい!」


 女達はすぐに立ち上がり叫ぶ。

 まるで何かに命令をしているような言いぶりだな。この状況だと、あきらかにこのナメクジども。

 俺は、もう一頭ナメクジを掴みあげ真っ二つに引きちぎり、女共に目を向ける。

 すると彼女達は、ビクッと体を震わせた。 


「魔物共をペットにするとは呆れるぜ。だがな戯れもこれまでだ」  


 半分になったナメクジの片方を、女達の近くの地面に向け投げつける。


「きゃあぁぁぁ!」

「……ひ、ひぃやあぁぁぁ!」


 投げた肉が大地を叩いた衝撃で彼女達は再び転倒、さらに血飛沫のオマケつきである。

 女達はナメクジの体液でずぶ濡れになりながら情けない悲鳴を上げ、股の間から温かいものを溢していた。

 俺が、それだけ恐ろしく見えるのだろうな。


「お嬢さん達。絶対にそこを動くなよ、死にたくなければな」


 彼女達に、そう告げて俺は巨大な顎を開く。

 威力を抑えた火炎を、ナメクジに向けて吐きかけた。火炎と言うよりも、五〇〇〇度にもなる爆炎に近いものである。

 水分の多いナメクジ共も瞬時に焼き尽くされていく、さらに周囲に散らばる魔物の肉片にも浴びせて焼き尽くした。


「魔物の肉片は、かなり臭いがキツいからな。焼いちまった方がいい」


 そう言ったあと、俺はギョロリと女達に目を向ける。


「ひっ! あ、あ……」

「ひゃっ! こ、こないで」 


 彼女達は、震え上がり俺を見上げる。

 コイツらなら何か知っているだろう。

 問いただそうと、ゆっくりと魔物を操っていたであろう女達に近寄る。

 すると、いきなり二人の目の前に魔法陣が現れた。

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