協力要請
仲間達に指示を出した後、オボロは堂々と王都に現れ、あっさり捕縛された。無論、城に入り込むため、あえて捕まったものだ。
そして彼が今いるのは国王の城の地下牢。
全裸にされ、その狭苦しい牢に入れられていた。
両腕は鎖で繋がっている。
もちろんのこと城の連中に、なぜ自分達の命を狙ったのかなど聞いても、誰も答えてくれるはずがなかった。
裁判もなしに、明朝に処刑すると告げられた。
誰が見ても不条理な内容である。
オボロは一人牢内であぐらをかき、何かを考えていた。
「ふふっ、城の奴等め。オレを、こんなに
オボロは服を脱がされたことを喜ぶ、しかし見に来る奴はいないだろう。こんな場でも、相変わらず裸を見てもらうことに快楽を感じていた。
だが、けしてふざけてるだけではない。実際、しっかりと事は行われている。
「とにかく今は、ナルミの報告を待つか」
城内にナルミを忍び込ませ情報を探らせているのだ。
オボロが王都に姿を現したため、国王は自分の計画が失敗したことを知り、この
理由はまだ分からないが自分達を抹殺するべく、ギルドマスターを脅し、あまつさえ他国の戦場に放り出すなど、正気の沙汰ではない。ことの話が国中に行き渡れば国民達は一気に王へ不審を抱くだろう。
そうなる前に、徹底的に、それこそ虫も残さぬようクバルスやギルド本部を潰すため多くの兵を送るはず。
しかし、それが
そうなれば城内は手薄になりナルミも仕事をしやすいし、いざとなれば脱獄もたやすくなる。
悪く言うとクバルスを陽動のための囮に使ったものである。
しかしクバルスは最大の戦力が護衛しているため、どれだけ兵士を投入しても心配無用だろう。
しかし、考えはそれだけではない。
もし最悪の事態となれば国家を相手に一戦を交える考えもあった。とは言え、これは最後の手段。
あくまでも戦闘を避けることを優先する。
「とにかく今は報告を待つのみか」
オボロは我慢強く待ち続けることを決意する。
しかしペトロワ領の高度な文明に慣れていた彼には、この空間が結構苦痛だった。とある理由により、彼等の領地は高い工業技術をゆうしている。
「……寂しい。……退屈だ。……暗い。うちの生活が、どんだけ便利だったか身にしみるぜ。この城、ほんと暗いんだよなぁ」
巨大熊が一人でブツブツ文句をたれる。
牢を照らすのはガーボの油脂を利用した松明のみ。
電気技術が発展しているペトロワ領が恋しい。電球の光が欲しいのだ。
「ああ……。せめて、うまいメシを食わしてくれよ。国王の城なんだからさ、いいコック雇ってないのぉ?」
最後の晩餐として城から出されたメシも最悪だった。
まるで残飯。明日処刑される身だと言うのに、ひどいものだ。
心がこもった、アサムの温かい手料理が食いたくてしょうがない。
文明の差に嘆くしかなかった。
「しっかし、王の城がこんなにも時代遅れとはなぁ」
「違うよ隊長。あたし達が、他を置いて進みすぎているだけだよ」
天井からヒラリと現れたのは一人の忍者少女ナルミだ。なにか情報をつかんできたようだ。
二人は鉄格子を挟んで会話を始めた。
「待ちくたびれたぜぇ、ナルミ。なにか良い情報はあったか?」
「王が石カブトを消そうとした真相だけど、まだ分からない。だけど、隊長が予測したとおり、しばらく前に親衛騎士隊と、城内半分近くの兵士が城をでたよ。たぶんクバルスに向かうと思う」
オボロの考えは当たった。
しかし過剰すぎる量である。
街一つ襲うのに精鋭たる騎士に加え、城の兵士半分を出陣させるなど。
国王は計画が失敗して焦っているのだろうか? しかし、それなら城内はかなり手薄になりはてる。
ナルミが報告を続ける。
「城を出たのは人間だけじゃなく……魔物も」
「なんだと!」
「ここよりもっと深い場所で何体もの魔物が氷漬けにされて眠らされていたの」
「くそ! 国王の野郎めぇ、魔物を飼い慣らしていたのか」
魔物を手なずけるなど軍用としての使用以外に考えられない。
「国王め、戦争をおっ始める気満々だな。地元の噂話は本当だったか。魔物を使うなんぞ、なんて野郎だ」
急な増税と、よく分からない人集め。
それにより国王が統治する地域では戦争の噂がはびこっている。それに現実味がでてきた。
そして魔物の利用に、オボロは激怒した。
戦いとは知と理を持った者達が覚悟を決めて命を張るもの。本能だけの魔物を持ち込むなど、あまりにも無粋なものなのだ。
「隊長。クバルスは大丈夫かな? 相当数の魔物が駆り出されたけど……」
「大丈夫だ。街にはムラトがいるしな」
ナルミは心配するが、ムラトの力を直に知るオボロにとっては、むしろ力不足に感じられていた。
「それとね魔物の階より、さらに地下深くにまだ何かがあるんだ。今度はそこを調べてくるよ」
「まだ地下があるのかよ。そんな深い所なら、なにか見られたら不味いものがありそうだな。……よし分かった。気をつけて行ってこい」
「うんっ」
ナルミが返事して、出発しようとしたときだ。コツコツと足音が響いた。
いつごろからいたのか、暗がりから黒い布で全身を覆った者が二人に近づいてきた。
「いけねぇ。城内が忙しくて見張りなんぞいねぇとふんで油断してた。それとも、オレの
オボロは両腕の鎖を無理矢理引きちぎり、牢の鉄格子をこともなげにグニャリとひん曲げた。
彼の剛力の前では、最初から牢屋など無いも同然である。
そしてナルミは懐でクナイを輝かせる。
「ま、まてっ!
二人に睨まれた黒布の者は慌てて両手をジタバタさせて敵意が無いことを伝える。さらには助力の申し出までしてきた。
声からして女性であることが分かる。
「オレ達に力を貸せと?」
オボロは曲げた鉄格子を、また力にまかせて元にもどし、話に興味をしめした。しかし信用はまだ出来ないため警戒は緩めた様子はない。
布をかぶった女性は安堵の息をはき、語り始めた。
「ちち……いや、国王がなぜ、お前達を始末しようとしているか教えよう。単刀直入に言うと、お前達を脅威と感じているのだ」
「オレ達が?」
オボロは首を傾げた。
なぜ自分達のような、ただの雇われ集団が脅威なのか?
「お前達は、ギルドの冒険者やそこらの傭兵集団とは訳が違う。国王は、お前達の人外すぎる実力を把握しているし、将来自身の脅威になると信じて疑わない。お前達に真っ向から挑めば、間違いなく国が半壊、最悪滅びるなどと言っていた。つまり、お前達の戦力を恐れているのだ」
「……人外とはな。失礼なんだか、誉めてるんだか」
「いや、あんまりいい気分はしないよ」
自分達が人扱いされてないことに、オボロとナルミは呆れ気味になる。
「だからこそ、戦場に放り出す計画を立てたのだろう。しかし、どうやって生き延びたのだ? いくら、お前達でも……」
「あたしも気になる」
オボロは、ナルミにまだサンダウロと言う激戦地からどうやって生きて帰ってきたか説明していなかった。
二人の疑問にオボロは鋭い牙を見せた。
「戦って生き延びた。しかたなく全滅させた」
「……ば、バカな!」
「……まさか。隊長とニオン副長とムラトだけで?」
黒布の女性と、ナルミが絶句する。
たった二人と一匹の竜で、選りすぐりの戦力を全滅させるなど、どうかしている。
特にバイナル王国の魔導騎士隊は、この大陸でも精鋭中の精鋭に数えられている。
「オレ達は最悪の場合、国を相手に戦争をかます考えもある」
オボロが言う。
女性は少し沈黙したあと、ナルミに視線を向け再び口を開いた。
「……そうか。だが城内を調査しているところを見ると、まだ対話の余地はあるのだな?」
「ああ。ひとまず、ある程度は分かった。国王がオレ達に手を出さず、詫びを入れれば武力行使はしない。……だがそれで終わるはずがない」
「なにっ!」
オボロの最後の言葉で、布を被った女性は彼に向き直った。
オボロは、すでに女性の正体を感じ取っていたのだ。口調が静かで丁寧なものになる。
「なにかまだ、あるのですね? だからオレ達に助力を」
「お前、分かっていたのか?」
「まさか、あなた様がこんなところに来るとは……」
「しっ……」
オボロの発言を制止するように彼女は自分の口元に人差し指を当てると、改めて協力の提案を切り出す。
ナルミは何も口に出さず、二人のやりとりに困惑する。
「国王は元々とても民達を大事にするお方だった。しかし、ここのところ魔物の研究に明け暮れ始め、まるで戦争の準備をしているように物資を調達している。このまま王の暴走を放置していては、取り返しのつかないことになるだろう。それに城に雇われた民達の姿もないのだ。たのむ国王を止めてくれ」
「了解です。オレ達の力、お貸しします。その依頼を引き受けましょう」
オボロは女性の依頼を承諾した。いずれにせよ国王の暴走を止めなければ何も解決しない。
そして女性は国民が犠牲になることだけは避けたい様子だった。
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