第266話 一触即発


『ライナなあああああああああああああーーーーーーーーーーーっ!!!!。』


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ


南の塀塔が凍りつき。地上の商業地区が寒々に冷えていく。南地区で観戦する王都の住民達は突如として訪れた寒波のような寒さに身を震わす。


『何だよ。これ?。』


童帝竜チェリーボーイはライナに攻撃仕掛ける竜脚が止まる。


真っ白な雪色の厚着のフルメタルボディを着こなす竜騎士科の令息生徒オセット・カスタムとグレシャーブルーの鱗に覆われた騎竜が姿を現す。


『ライナ!殺す!お前は絶対に殺す!!。』


怒りに荒ぶっていたのは北方大陸に生息するという炎竜の天敵でもある氷結竜のゴルゴであった。血走った竜瞳を放ち。今にもノーマル種のライナに襲いかかろうとする勢いである。


「落ち着け!ゴルゴ。先ずはゼクスさんとジェロームさんに話をつけるのが先だ!。」


いきり立つ氷結竜ゴルゴを主人であるオセット・カスタム何とか宥めようとする。

そんな光景を三竜騎士の一人ジェローム・アドレナリンと竜騎士科最強のクラウンの称号を持つ男ゼクス・ジェロニクスが冷たい眼差しを放ちながら睨んでいる。無双竜ザインさえも正統な闘いの場に横入りされたことに激しい憤りと怒りとともに怒気を秘めた威圧が内から漏れだしていた。


「何の真似かなあ?。オセット・カスタム。私とチェリーの正統な闘いに水を差すなんて。」


ファサ

前髪のカール髪をかき分け。ジェロームは冷たく招かざる客であるオセットと氷結竜ゴルゴを睨む。


『全くだよ!。僕は童貞竜と言われたあのノーマル種にお返ししなきゃいけないのに。』


童帝竜チェリーボーイはぷんぷんと起こりだす。

まだ童貞竜と言われたことを根に持っているようだ。


「オセット・カスタムだったか?。確かにレースには戦闘の順番は存在しないが。しかし規律を重んじる我等竜騎士が横入りするというのは竜騎士以前の問題だぞ。」


ゼクスは初めて後輩の竜騎士生徒を叱りつける。普段は事なかれ主義を貫きとおしているが。相棒のザインも楽しみにしていた例のノーマル種に闘いに水(氷)をさされたことにかなりのご立腹である。


「申し訳ありません!。ジェロームさん。ゼクスさん。どうしても相棒のゴルゴが例のノーマル種に報復したくて。」

「報復?ちょっかい出してきたのはそっちだと聞き及んでいるが。何でも他校のメスの竜(ドラゴン)が喧嘩を仲裁したところを怪我させたとか。」

「そ、それは····」。


主人であるオセットは言いにくそうに言葉を濁す。

ゼクスは冷たく問題起こした氷結竜ゴルゴと主人であるオセットを睨み付ける。


『俺は敗けてない!。あのノーマル種に少し油断しただけだ!。あの時は竜騎士も乗せていないない正式な闘いではなかった。だが、次は敗けない!こんなことにならん!。』


氷結竜ゴルゴは敗北したことを激しく否定する。


「そ、そうです。ジェロームさん。ゼクスさん。ここは俺らにチャンスを与えてくれませんか?。氷結竜コルゴも本調子でなかったんです。でなければノーマル種程度に遅れをとったりしませんよ。はは。」


オセットは相棒に同調するよかのように言葉を重ねる。

ひゅうううううう

一瞬周囲の空気が凍り付く。

その冷たさは氷結竜ゴルゴがたらしたものではなく。一匹の騎竜の内に秘めた激しい怒気からはっせられるものであった。


『もういい···茶番はウンザリだ····。』


ずあああああああああああーーーー


な、何だ!?。

ライナの竜体に強烈な圧がふりかかる。

その圧はあの甲冑を着たような鎧の鱗をした無双竜ザインからもたらされたものであった。


『騎竜で敗北するのも竜騎士乗せて敗北するのもさほどかわらん。それなのに己の敗北を認めぬとは。』


ゴゴゴゴゴゴゴ

無双竜の硬い甲冑のような姿をした鱗が徐々に変形変異する。

何だ?この無双竜ザインの威圧感は····。

しかも姿形がみるみる変わっているような····

変形変身する竜(ドラゴン)はレースの戦闘で何度か見たことはある。しかし無双竜ザインに関しては少し違うような気がした。それ以前に無双竜ザインの得体の知れない変異にライナの背中にピリピリとひりつくほどの冷たい悪寒が走る。


『ゼクス。もう問答は不要だ。この礼儀で知らずで無礼な竜騎士と騎竜を今すぐひねり潰すぞ!。』

「ひぃぃぃ!。」


オセットは無双竜ザインの気迫に恐れおののく。それほど無双竜ザインを怒らせたことが怖いようである。


「はああ、面倒だが致し方ないか。闘いの場に水を刺されたしな。」


チャキ

無双竜ザインの主人である脇差しの剣を引き抜く。その剣は真っ黒に染まっていた。


「終わった!。俺達は終わったぞ!コルゴ!。どうしてくれるんだ!?。コルゴ!。」


主人であるオセットは相棒の氷結竜ゴルゴに文句を放つが。当の氷結竜ゴルゴはノーマル種しか興味がなく。敵意を向ける無双ザインの鋭い視線も気付いていなかった。


『待て待て待て待て待て!待てええええええーーーい!。』


突然何処からともなく思念の声が飛び交う。


「あっ!?この声。」

ギャ!?

(あっ!?)


アイシャお嬢様と俺は何処からともなく聴こえてきた思念の声に反応する。


バサッ

氷結竜ゴルゴと無双竜ザインの間に深紅の鱗に覆われた竜が割って入る。


「ふぅ~間に合ったわ。」


深紅の鱗に覆われた竜の背でスカーレット赤髪短髪の令嬢がホッと胸を撫で下ろす。


『其奴の氷結竜コルゴは我等の獲物じゃ。手を出さんで貰おう。』


炎竜が突然わって入ったことに無双竜ザインは少し不機嫌になる。


『ふん、炎竜が何にしにきた?。』

『リベンジじゃ。』


さらっと胸を張りながら炎竜ガーネットは言いはる。


『リベンジ?』

『そうだ。我はそこ氷結竜に完全に敗北した。だからリベンジしにきたのだ。』

『リベンジ?···どう想うゼクス。』


無双竜ザインは氷結竜コルゴにひねり潰すつもりだったが。敗北した炎竜がリベンジすると言うのだから。それを水をさすのも悪いと思い。主人であるゼクスに全て委ねることにした。


「いいんじゃないか?。俺達が相手するよりもリベンジしたいというやつに譲る方が理に叶ってる。」


無双竜ザインの問いにゼクスは快く承諾する。元々乗り気ではない戦闘だ。強いやつと闘えるなら喜ばしいが。弱いやつと闘ってもゼクスは嬉しくもなんともない。ならばリベンジすると言う相手させた方が理に叶っている。


『邪魔をするなっ!。炎竜!。貴様は俺に敗けてるんだろうがあ!!。引っ込んでろ!。』

「お、おい。」


炎竜ガーネットの挑戦に氷結竜コルゴは激しく反発し怒りをぶつける。


ファサ

ジェロームは前髪のカール髪をかきあげ氷結竜コルゴを冷たく睨む。


「あのさ、私達の闘いを邪魔しておいてそれはないんじゃないか?。もしノーマル種の再戦がお臨みなら、敗北しても再戦する炎竜の戦闘を承諾するのが筋じゃないの?。それでも炎竜を挑戦を無下にするなら私も出るところでるけど。どうかなあ?。」


キザったらしい性格しているが。ジェローム・アドレナリンは芯は通す性格であった。竜騎士としての精神を充分に持ち合わせていた。


「同感だな。ノーマル種とその騎竜乗りを先に挑んでいたのは三竜騎士のジェロームだ。挑戦権はジェロームにある。だがもしお前達が炎竜の挑戦を受けて勝ったらなら特別にノーマル種の戦闘を譲ることを許可する。ジェローム達とノーマル種の戦闘は中断してお前達に戦闘を譲ることにする。それでも駄々を捏ねるなら···。」

『俺達が相手になるということだ····。』


ギロッ

無双竜ザインは鋭い眼光を放つ。今にも襲い掛かかりそうな雰囲気である。


「どうする?。オセット、氷結竜コルゴ。そのまま三竜騎士と俺達の相手をするか?。炎竜の再戦受けて。そのままノーマル種と戦闘するか?選べ。」


ゼクスは鋭いめつきでオセット・カスタムと氷結竜コルゴに睨みつける。


「コルゴ!ここは炎竜の再戦を受けよう!。このままだとジェロームさんとゼクスさんと相手しなくちゃならない。俺達に勝ち目がなんてない!。」

ぐるるる

氷結竜のグレッシャーブルーの竜口が唸り声が静かになる。


『解った···。だが炎竜に勝てたら速攻でノーマル種と戦う。』


氷結竜コルゴの激しいいきりたった怒りの矛先が矛を納める。


取り敢えず三竜騎士とクラウンの称号持ちの学園最強と渡り合うことにはならないそうだ。

オセットはホッと胸を撫で下ろす。


「間に合った·····。」

『ふぅ、やっと追いつきました。』


耳元が厚みのかかった髪を流すラム・カナリエを乗せた魔剣竜ホロホスが少し息を切らせながらも到着する。


「ラム、着いたのね。」


オリンは嬉しそうにクラスメイトの親友に声をかける。


「うん、いきなり猛スピードでガーネットが突っこむから疲れた···。」

『本当に追いつくのが大変でしたよ。』


ラムお嬢様も魔剣竜ホロホスさんもレインお嬢様と炎竜ガーネットの後を追ってへとへとのようである。お疲様っス。あの一人一匹のペアするは大変だったろうに。


「くっ、魔剣士と一緒なのかよ···。」


オセットは炎竜のツーマンセルのペアがあの魔剣の使い手である魔剣士ラム・カナリエと魔剣竜ホロホスであることに険しげに眉が寄る。


「悪いけど。私達は手を出さない。この戦闘はレインとガーネットだけのもの。私達は静観する····。」

『ええ、氷結竜の相手はガーネットで充分ですから。』


ラムと魔剣竜ホロホスは参戦を否定する。


「そ、そうか····。」


オセットは内心安堵する。

ツーマンセルのペアである魔剣の使い手である魔剣士ラムと魔剣竜が参戦しないことにオセットは安堵する。取り敢えず自分達の危機的状況には脱したようである。ここで炎竜とその乗り手を打ち倒し。例のノーマル種を倒すことができるならまた三竜騎士に選ばれる可能性もあり。返り咲くことも夢でない。

密かな野心を持つオセットはこの局面をチャンスと捉える。


『さっさと炎竜を片付けてやる!。その後、次はノーマル種ライナ。お前の番だ!。』


氷結竜コルゴは凍てついた怒りを放ち。炎竜ガーネットとノーマル種ライナを威嚇する。


バサッバサッ



「ふぅ~。寒いねえ。て、もうおっぱじめているのかよ。俺達かなり出遅れだぜ。」

『全く。氷結竜というのはせっかちなのかねえ?(氷だけに)。』


炎竜ガーネットと氷結竜が対峙する中、見慣れぬフルメタルボディに身を固めた竜騎士生とそれを乗せた騎竜が現れる。

騎竜は四枚翼の鱗が鼠色をした変わった出で立ちをしていた。



「竜騎士科二年のサテライト・ベーシックとその騎竜、ロード種、清王竜ナギスか。何故ここに?。」


騎竜乗り科の二年の実力者であり。三竜騎士の一人である二年ラザットの次に実力を持ち。実質ナンバー2の竜騎士科の令息生徒が建国記念杯に出場していることにゼクスは困惑する。彼もまた自分のようにレースに興味を抱かない男である。明確には純粋な戦闘である闘技場タイプともいえる。



「後輩オセットにに建国記念杯に一緒に出場することをせっつかれてなあ。乗り気じゃなかったが。あまりにもしつこいので仕方なく。」


竜騎士科の二年サテライト・ベーシックはふああと大きなあくびをすると周囲を見渡す。


「で、これはどういう状況よ。三竜騎士ジェロームと学園最強の称号を持つお二人さんがいて。騎竜乗り科の魔剣竜に、鳳凰竜に。他校の炎帝と炎速。後、例のノーマル種と。ふう」


サテライト・ベーシックはポリポリと面倒臭そうに頭をかく。


「全然解らん。」


フルメタルボディだったが何故かサテライト・ベーシックはヘルムはかぶっていなかった。


「今、ルールを決めたところだ。オセット炎帝と炎速にもし彼等に勝てたならノーマル種とその乗り手の戦闘を許可するってな。」

「ああ····なるほど。」


騎竜乗り科二年のサテライト・ベーシックは理解したと顎を擦りながら納得する。


何か騎竜乗り科の生徒って親父臭くないか?。

ライナは長首を傾げる。

態度が全然学生じゃないんだが。

元々体格のよい大人のような肉付きが多い竜騎士科の生徒だが。素行や態度が何故か親父臭い。竜騎士科の令息生徒達は老ける呪いでもかけられているのだろうか?。


「つまり俺の相手は魔剣竜ということだな。」


っ!?


ひゅっ


「えっ!?。」

キン!


アイシャお嬢様が一瞬の呆けた数秒の間に清王竜が動き。魔剣竜ホロホスの背中にいるラム・カナリエにサテライトが斬りつける。


ギチ ギチギチ

しかしラムは二本の剣の短剣をいつの間にか出しており。交差させサテライトの剣を抑え込む。


「ほう、流石は魔剣士だな。」


『相変わらず。せっかちですね。清王竜ナギス。』

『そういうな。こんな成り行きでなければお前と闘う機会もないしな。』


ラムとサテライトは剣と二本の短剣のつばぜり合いを行い。魔剣竜ホロホスと清王竜ナギスが互いに相撲のようにがっちり押し合う


「ラム!。」

「大丈夫。オリン。こいつは私が何とかするから。」

「ひゅ~言うねえ。じゃ、俺らは魔剣士と魔剣竜を相手にするから。オセット。お前は炎帝と炎速とやりあいな!。」

「わっ、解っています!。先輩。」


氷結竜の主人はどうやら二年先輩のサテライトに頭が上がらないようである。

つばぜり合いと押し合いをしてい二人と二匹の騎竜はその場をからすこし離れる。互い互いの戦闘の場を設けるためのようである。


『さっさとこのくだらない闘いを終わらせる!。その次はノーマル種、お前の番だ!!。』


氷結竜コルゴは鋭い縦線の瞳孔が開く。

グレイシャーブルーの翼が大きく広げる。


パキパキパキパキ

周囲に凍てついた冷気が漂い凍り付く。


「そう簡単におわると思わないでね。私達は前と違うのだから。」

『そういうことだ。我等は前とは一味も二味も違う。』


スカーレット赤髪短髪のレインお嬢様は気迫を放ちながらドラグネスグローブから剣をとり出す。

炎竜ガーネットは深紅の翼を大きく広げ炎が燃え上がり纏わりつく。


互い互いの想いがぶつかり。一触即発のレースの戦闘が今、おこなわれようとしている。


てっ、うちらの戦闘は後回しかい!。


自分達はなんやかんやで蚊帳の外だった。


三竜騎士や童帝竜の戦闘はどこ言ったんだろうとライナの長首は首を傾げる。






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