第264話 尻尻尻

わーーーーーー!わーーーーーー!


建国記念杯にレース開始され観客は盛り上がる。


『さあ、一斉にお城の東西南北のスタート地点から騎竜が飛び立ちました。楽しみですねえ。一体どんなレースになるのでしょう。解説のネレミアさん。どう思われますか?。』


実況の竜騎士科の学生ライクが隣に座る騎竜乗り科の女子生徒に話しかける。

解説のピンクの制服を着たネレミアという女子生徒は手慣れたように対応する。

二人はマイク付きのヘッドフォンのようなものを装着していた。


『そうですね。なんてたって王都誇るはシャンゼルグ竜騎士校のクラウン、タクトの最強の称号を持つゼクス・ジェロニクスとエネメリス・フェレンチェ出場していますからねえ。建国記念杯は彼等の勝利で間違いないでしょう。』

『他にも優勝候補はいないのでしょうか?。』

『竜騎士科からは三竜騎士であるラザット・バラッカスとジェローム・アドレナリン二人が出場していますが難しいでしょうね。シャンゼルグ竜騎士校のクラウン、タクトの最強の称号持ちと竜騎士科、騎竜乗り科の一般の生徒の能力には大きな開きがあります。例え三竜騎士とその騎竜が束になってクラウンの称号を持つゼクス・ジェロニクスとその相棒である無双竜ザインに闘いを挑んでも歯が立たないのですよ。』

『残念ですねえ。この二人が優勝候補確定であるなら面白いレースは期待できないかもしれませんねえ。』


実況の竜騎士科の学生サイクは残念そうに眉を寄せる。


『いえいえ、そんなことはありませんよ。』


実況サイクの言い分を騎竜乗り科で解説を務めるネレミアは軽く否定する。


『どういうことですか?。』

『学園内ではとある噂で持ちきりなんです。今騎竜乗り科は今他校と合宿中なのですが。何でもその他校の一年の生徒の中に物凄く強い騎竜乗りがいるそうなんです。その生徒はあのかの有名な騎竜乗り、狂姫ラチェット・メルクライの二投流を操るらしいんですよ。」

「狂姫の二投流ですか?。それは凄い!。」

「それだけではなく。その二投流の扱う他校の騎竜乗りの騎竜もまたただ者ではなさそうなんです。ノーマル種なのですが。何でも騎竜の訓練授業中に竜騎士科の氷結竜を遠くの訓練場までぶっ飛ばしたとか。」

「ノーマル種がですか?。それは信じられませんねえ。」

「その他校生も建国記念杯に出場していますから面白いレースがみられるとおもいますよ。」

「それは楽しみですねえ。」


二人のマイクの放送が王都中に流れる。

ちょ、スポットをこっちに当てないでくれる。悪目立ちするんですけど····。


俺は嫌そうに竜顔をしかめる。

シャンゼルグ竜騎士校の竜騎士科と騎竜乗り科の双方の学生から目を付けられているのに。そこに実況解説が織り交ぜられたら双方から反感を買いかねない。絶対腹いせに喧嘩売ってく。



「ノーマル種の一年!私達が相手よ!!。」

「騎竜乗り科の誇りにかけて全力で倒すわ!」

「くたばれ!ノーマル種!」

「我等竜騎士科の恨み辛みをおもい知れ!。」


ほら言わんこっちゃない。

騎竜に乗ったフルメタルボディに固められた竜騎士科の令息生徒とピンクの制服に軽装の革鎧で固めた令嬢生徒双方二人二匹のペアにライナは攻撃を仕掛けられる。


『フィラメントソーラー(太陽の糸)!』


しゅるるるるるるパァーーーーーン


「「ぐわああああーーー!!。」」

「「キャアあああーーー!!。」」


鳳凰竜フェニスのメラメラとオレンジの炎を纏った翼から糸状のものが伸び。四人の乗っている騎竜に直撃する。そのまま四人を乗せたまま騎竜は落下する。


「アイシャ!サポートは私達に任せて!。」『貴方達は三竜騎士との闘いに力を温存しなきゃいけないでしょ!。』

「おりがとう。オリン!フェニス!。」

ギャアラギャ

(恩にきます。)


向かってくる竜騎士科と騎竜乗り科の学生をツーマンセルのペア相手であるオリンお嬢様と鳳凰竜フェニスが蹴散らしくれて。南地区の塀塔まで順調に進んでいく。




     シャンゼルグ竜騎士校

       屋上特別観客席



シャンゼルグ竜騎士校でも学生の晴れ舞台でもある建国記念杯を観戦するために臨時に校舎屋上に席を設置されている。校庭グランドには建国記念杯のレースの様子が映された巨大魔法具スクリーンが設置され。

教師とレースに出場していない竜騎士科、騎竜乗り科のそしてアルビナス騎竜女学園の面々は校庭グランドに設置されたまだ消灯している巨大魔法具スクリーンをみて盛り上げを見せる。


「シーシス、あの変わったノーマル種と騎竜乗りも出場するみたいだよ。」


のほほんとした顔で騎竜乗り科二年のソリシラは同じく二年親友のシーシスに告げる。


「はあ····。またあの破廉恥きわまりない飛行するのですか···。あのノーマル種と他校生は。王都の恥になるので出場しないで欲しいですね。救世の蒼竜様もああ嘆かわしいと嘆いております。」


シーシスは天を仰ぐように祈りを捧げる。

神竜聖導教会の信徒であるシーシス・マザラーはあんなふざけた飛行のノーマル種と他校の騎竜乗りには建国記念杯に出場しないで貰いたいと正直にそう思っていた。教会の方では男子も出場できる建国記念杯をよく思っていないが。それ以上にあの破廉恥極まりない騎竜乗りとそのノーマル種に対してはシーシスはより嫌悪感が増す。

二人の主人の傍らに角をはやした人化のイケメン磁電竜オロスと聖光竜クリストが談話している。


「あのノーマル種が出場するみたいだな。同じく出場している竜騎士科の三竜騎士の二人もそのノーマル種と乗り手の騎竜乗りと対決することが目的らしいし。」


磁電竜オロスはあのノーマル種が騎竜専用訓練授業で氷結竜をぶっ飛ばしたことを知っていた。上位種を倒せるのだからただ者ではないと理解する。それ以上に嫌な予感がした。


「ああ····またあの麗しいご令嬢の胸を背中に押し付けられ。擦りつけられる飛行を見れるのですね。ああ····なんとも羨ましいことです。はい、全くもって。」

「·······。」


聖光竜クリストファーはうっとりとしたイケメン顔で酔いしれていた。

神竜聖導教会の聖竜族とは思えぬ発言である。煩悩丸出しは如何なものか····。


「クリスト。お前、聖竜族もう一辺やり直した方がいいんじゃないか?。」


大きなお世話かもしれないが。磁電竜オロスは主人のクラスメイトであり。友でもある聖光竜クリストファーにアドバイスする。


「はて?それはどう意味ですか?。」


首を傾げ全く理解していない聖光竜クリストファーに磁電竜オロスははあと深いため息がでる。


「········。」


後ろ姿を結った濡れ羽色の髪を靡かせ。無言のままじっと校庭グランドのまだレースの様子を映していない巨大魔法具スクリーンをイーリスはみいいる。隣には角と無精髭をはやす侍の格好した剣帝竜ロゾンは無精髭の顎をさすりながら校庭グランドの巨大魔法具スクリーンに映る建国記念杯のレースの様子を観察する。


「隣宜しいですか?。」


ピンクの制服を着た黒髪の和風美人の令嬢が声をかける。紅色に染まった唇がニッコリと微笑む。

コクと無言でイーリスは相づちをうつ。


「お久しぶりで御座います。兄上。」


和服美人の令嬢の隣にいた和服を着たおかっぱ頭に角をはやした少女はペコリと丁寧に剣帝竜ロゾンにお辞儀をする。


「元気そうだな。蛍。」


剣帝竜ロゾンは蛍に昔を懐かしむように口ぶりで会話する。


「はい、兄上もイーリスお嬢様と一緒に建国記念杯の観戦ですか?。」

「ああ····どうしてもお嬢が倒したい相手がおってな。それの観察もかねている。全く、負けず嫌いなところは誰に似たのか···。」



剣帝竜ロゾンは呆れ顔でため息を吐く。


「ふふ····。」

「咲夜様、お元気そうだな····。」


イーリスお嬢様と一緒にレースの観戦する彼女をみて剣帝竜ロゾンは何処か遠目見るように懐かしむ。


「はい、咲夜様はイーリスお嬢様を来るのを今か今かと待ち望んでおられましたから···。」

「そうか·····。」


剣帝竜ロゾンは何処か複雑そうに眉を寄せる。


「咲夜様もそろそろイーリスお嬢様に真実を伝えようかと思っているのですが。」


蛍の言葉にに剣帝竜ロゾンの目がギョッの大きく見開かれる。


「まだ、早すぎるのではないか?。もう少し間を置いたほうがよいきもするが····。」

「それでも咲夜様の卒業には後一年満たしません。今宵の今の時期がチャンスかと。」

「しかしお嬢の心の準備もある。受け入れるかどうかも解らぬのだぞ。」


もし蛍の真実というものを伝えれば確実に主人はショックを受けるだろう。傷付くかもしれぬ。このまま真実を知らぬままカティナール家のご令嬢として一生終えることもできよう。己の出生の秘密などしらぬほうがよい時もある。


「兄上、咲夜様は妹君の事を一寸足りとも忘れたことはありませんよ。」


蛍は冷淡に黒く縦線の瞳孔が開いた真剣な眼差しが兄である剣帝竜ロゾンを貫く。

妹ががんななに揺らがないという強い意志が感じられる。


「ふぅ、これもまた業か····。願わくばお嬢の心が正常であらんことを···。」


剣帝竜ロゾンは真実を知りお嬢の心が耐えるられることを切に願った。


「るぅ~ライナレースに出る。楽しみ♥️。るぅ~~。」

「そうですねえ。」


ルゥら白い獣耳をぴんと逆立ち。白い長い尻尾が嬉しそうにゆらゆら揺れる。

母性的な雰囲気を醸し出し。シルクのキトンに身を包み。深緑色の長い髪と青柳色の角を生やす深緑竜ロロはそんな主人の姿をみて微笑ましげに温かく見守る。



「るぅ~ライナ!頑張れ‼️。るぅ~。」


ぴょんぴょん

「くっ、ルゥさまがあのいけすかねえノーマル種を応援している!。」

「我々も応援すべきか?。」

「だが、相手はあの竜騎士科に多大な迷惑を懸けている糞ノーマル種だぞ!。」

「くっ、悩ましい。ルゥ様の愛を貫くか?。それともブライド捨ててでもあの糞ノーマル種の応戦に専念するか。」


ルゥ様親衛隊ことルゥ様を遠くで愛でる会はなまやしげに迷っていた。



ガタガタ ガタガタ


屋上に中心に挙動不審且つ情緒不安定なシャンゼルグ竜騎士校の学園長ジオニ・ハスバークが用意された席に座っていた。隣にはマキシ・マム教頭が静かに立ったまま佇んでいる。


「はあああー!。何も問題がおこりませんように!何も問題起こりませんように~~!。」


心配症なジオニ学園長は手を合わせて何度も呪文めいたような言葉(ほぼ呪いに近い)を繰り返していた。建国記念杯を無事に終わることに祈り続けている。

マキシ・マム教頭はくいと眼鏡を上げ。校庭グランドの消灯している巨大魔法具スクリーン。静かに静観している。


さて、これからどうなることやら····。三竜騎士が狂姫ラチェット・メルクライの弟子にぶつかることは想定内でしたけど。まさか一年の軍師竜ゼノビアの騎竜を持つルベル・フォーゲンも出場するとはねえ。騎竜乗り科にとっても竜騎士科にとっても。とても良い刺激になるでしょう。

マキシ・マム教頭はアイシャ達の出現が竜騎士科とも騎竜乗り科ともに良い刺激剤になるこをと踏んでいた。



「はああーー!何事も起こりませんように‼️何事も起こりませんように!!。何事も起こりませんように~~!きええええええーーーーーっっ!」

「·········。」


ジオニ学園長は一心不乱に祈祷まじりの奇声をあげる。

マキシ・マム教頭はそんな学園長の様子をなんとも言えない複雑な表情で流し目を向ける。



バサッバサバサッ。


「ああーーーーーーーッ!!。」


アイシャお嬢様が突然何かを思い出したかのように叫びだす。


ギャアラギャギャア?ラギャギャアガアギャアラギャギャアガアギャ?ラギャギャアラギャガアギャアラギャギャアラギャギャアガアギャアギャ·····

(どうかしたんですか?アイシャお嬢様。いきなり叫びだして。トイレですか?。レース前にちゃんとしておくようにあれほど言っておいたのに······。)

「違うよ!ライナ。ヴォーミリオン商会のワッペン。貼るの忘れていたよ。建国記念杯も一応レースだし。貼らないと。」

ギャア···ラギャガアギャアラギャギャアガアギャアラギャガアギャアガ

(ああ···確かにそうですね。今から貼っても遅くないんじゃないですかね。)


ヴォーミリオン商会でワッペンを貼ってレースに出場すると広告料であるお金が発生する。レース出場する時はなるべくヴォーミリオン商会の象徴、看板であるワッペンを貼らなくてはいけない。


「何処に貼ろうか?ライナ。」


アイシャお嬢様はドラグネスグローブからヴォーミリオン商会のワッペンを手にとり。眉を寄せ困った顔を浮かべる。

そう言えば何処の部位に貼るか聞いていなかったな。

ヴォーミリオン商会の会長の娘であるセネカ・さんからはレースに出場したら貼るようにと言われているけれど。何処に貼るか聞いていなかった。


ギャアラギャガアギャアラギャギャアガアギャア

(広告ですから目立つ箇所がいいと思いますけど。)


ヴォーミリオン商会の広告を兼ねているのだからやっぱ目立つ部位に貼るのが得策であろう。肩、胸、尻尾、うーん迷うな~。

竜の目立つ部位が何処か解らないが。兎に角目立つなら何処でもいいはずである。

バサバサ


「うーん、どうしようか?。」

ギャ!?ギャア!ラギャギャアガアギャアラギャギャアガアギャ

(あっ!そうだっ!?アイシャお嬢様!。尻(けつ)なんかどうでしょう?。)

「ライナのお尻?。」


アイシャは不思議そうに首を傾げる。


ギャアラギャガアギャアラギャギャアガアギャアラギャガアギャラギャ!

(はい、尻(けつ)なら貼る幅もありますし。お尻ですからとても目立つはずです!。)


我ながらナイスアイディーアである。竜の尻なら目立つし観客の誰しもが目につくであろう。


「うん、そうだね···。じゃ、ライナのお尻に貼るね···。」


ギャラギャギャアガ·····

(はい、お願いします·····。)


ペタッ

アイシャは何の躊躇いもなくライナのお尻にヴォーミリオン商会のワッペンを貼る。


その様子を驚愕な眼差しでオリンがみつめている。


え?え?ええ?お尻に貼るの?えっ?


オリンはアイシャ達のあり得ない行動に言葉を喪い固まる。ヴォーミリオン商会のワッペンをアイシャは普通に何の躊躇いもなくライナのお尻に貼ったのである。出資者をしてくれる商会の象徴、看板でもあるワッペンを普通竜(ドラゴン)のお尻に貼ったりはしない。

お尻に貼ることは失礼であり。商会の看板でもあり象徴であるワッペンをお尻に貼るなど出資してくれる商会に対しておそれ多いことでもある。

確かに広告として目立つかもしれないけど。それは良い方の目立つではなく。悪目立ちといった方が過言である。


ライナ、商会のワッペンをお尻に貼ったのね。私の場合は全て燃えるから意味ないのだけどね。

鳳凰竜フェニスは何処か達観した様子でそんなライナ達の様子を観察する。


「え?ヴォーミリオン商会のワッペン。お尻に貼るの!?。」


同行していた最強のタクトの称号を持つ騎竜乗り科のエネメリス・フェレンチェも驚愕していた。


流石はあの狂姫ラチェット・メルクライと強靭のレッドモンドの弟子ですね。やることなす事全て奇想天外過ぎます。

精霊帝竜ネフィンはライナ達の行動に深く納得する。


「ザイン···あのノーマル種と乗り手。」

『ああ、まさか商会のワッペンを尻に貼るとはなあ。つくづく面白い奴等だ。』


クラウンの称号を持つ竜騎士科のゼクスもザインもライナ達の行動に深く感嘆する。


『それでは先ずは最強であるクラウンとタクトの称号の持つペアのレースの様子を最初に映しましょう。』 


パッ

「えっ?」

「はっ!?。」


二人の実況と解説が一瞬言葉につまる。


王都に設置された魔法具スクリーンに最初に写されたのは中央大陸を牛耳るヴォーミリオン商会のワッペンが貼られたライナの大きな尻(けつ)であった。

      




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