第263話 OUTおおおおー!

      多目的レース場

      商会専用VIP席


「はあ·····面倒ね····。」


黒揚羽蝶を型どったゴスロリドレスを着たパープル色の髪を流す小柄な少女はめんどくさそうにため息を吐く。後ろには付き添うようにカチューシャを着けた頭に羊のように曲がりくねった見事な黒い角をはやし。盲目のように閉じた両目をしたメイドが静かに佇み。主人の後をついていく。


「東方大陸の商会代表として何で王都の商会達と一緒にレースを観戦しなきゃいけないのかしら?。別に商いの交渉事とも関係ないのに。」

「仕方ありませんよ。ハーディル商会として王都の商会達とのレース観戦も重要な交流ですから。」

「解っているわよ。だけど、それでも商いに関係のないレースを観戦してもねえ。」

「でしたら賭けてみたらいかがですか?。建国記念杯では王都の商会の会長達も学生である竜騎士と騎竜乗りに賭けていますし。」

「ああ、あれは駄目駄目、あれに関しては勝敗と優勝とか解りきっているから。あれは必ずシャンゼルグ竜騎士校の最強の称号を持つクラウンとタクトの竜騎士と騎竜乗りが勝つことになっているから。賭けにもならないわ。オッズも低いし。アルビナス騎竜女学園の生徒でもあの最強の二人二匹相手するのは不可能ね。学園最強のシャルローゼ王女は王族の務めとして王城屋上テラスでレース観戦してるからレースには出れないでしょうし。」

「ライナ様も出場しておりますが?。」

「アイシャとライナがこの建国記念杯に勝てる勝率は高くないわよ。理由があるとしたら建国記念杯の特殊ルールと。三竜騎士、後、軍師竜ゼノビアだったかしら?、あれもライナを狙っているみたいね。」

「何かライナ様達がとても不憫に思えて来ました。」


ここまで災難がふりかかるとナーティアはライナ達のことが本当に不憫に思えてくる。


「きっとあの一人一匹ペアの宿命なんじゃないの?。アイシャとライナが関わったことで面倒事が起こらなかったことなんて一つもあった?。」

「そんな目も歯もない····。」


ナーティアは主人の言い分にも言葉も出ない。

わいわい

多目的レース場の商会のVIP席では有数の商会の会長が集まり雑談をしている。


「はあ、また魅華竜の調達が厳しくなりましたわ。嫌になりますわね。私はほんのちょっとでもいいから魅華竜の鱗と角を欲しいだけですのに。貴族の奥様方も媚薬と惚れ薬と精力剤を待ち望んているというのに。」

「御愁傷様です。ミス、カオニー嬢」


羽毛の扇をあおぎ。派手な真っ赤なドレスとアクセサリーを着飾る女性があしを絡ませ悪態をつく。隣で小太り小男が便乗するかのようにごますりしながら話を合わせる。


「あの方達は、たしか····。」

「Vッチ商会のカオニー・ラーメと隣はアナルン商会のアナケツ・ヒロゲールだったかしら?。Vッチ商会は魅華竜の乱獲で財を成した商会よ。媚薬や惚れ薬、精力剤の材料となる魅華竜の角や鱗を乱獲して大問題になったわね。国から厳しく規制され。今のVッチ商会はかなり縮小されたと聞いているわ。もう一人のアナルン商会は穴掘りで財を成した商会ね。あそこも山々の穴掘りして鉱石をとりまくって環境問題になったと聞いているわ。害魔が出たという噂あるし。」

「害魔ですか·····。それは恐ろしい····。」


害魔とは人類が世界を穢した行為をすると現れる魔物である。姿形は竜(ドラゴン)を模しているが。中身は別物である。世界を穢したものを否応なしに襲いかかる存在である。一つの定説では神足る竜プロスペリテの対極である滅びと終焉を司る至極色の竜(ドラゴン)。もう一匹の神足る竜フォールの片割れと言われているが。事実は定かではない。

害魔を倒すことは相当難しく。レア種が十匹束になってやっとと言われている。商会でも害魔を生み出してしまう行為を全面的に禁止されている。それでも一部の商会が金に目がくらみ。世界を穢す行為を行い害魔を生み出しているのは実情である。


「私達の席はと····。」

「お嬢様。あちらにございます。」


VIP席のプレートにハーディル商会様と書かれていた。その隣にはヴォーミリオン商会のプレート刻まれた席がある。


「よりによってヴォーミリオン商会の隣なのね····。」


パトリシアの小さなパープルの薄紅の唇が嫌そうにしかめる。


中央大陸を牛耳るヴォーミリオン商会とは東方大陸を牛耳るハーディル商会とはライバル関係である。商会同士仲が悪いわけではないが。ヴォーミリオン商会の会長シャガル・ヴォーミリオンの娘であるセネカ・ヴォーミリオンのことをパトリシア・ハーディルは正直苦手としていた。


「よいしょっと。」


ハーディル商会のプレートのついた席にパトリシアの小さなお尻が座る。

それと同時に後頭部をふりふりと短めの栗色の三つ編みのポニーテールを揺らしスキップするかのように足どり軽く向かってくる娘がいた。何か良いことがあったのか。嬉しそうな満面な笑みを浮かべてこちらに向かってくる。コルセットから浮かぶむっちむちの二つの膨らみが固定さているのに何故か揺れている。気分がご満悦満な彼女は鼻歌をうたいながらそのまま嬉しそうにドスンとパトリシアの隣の席に無造作に座る。そんな彼女にパトリシアは怪訝そうな顔で流し目を送る。


「何か良いことがあったかしら?。セネカ。」


パトリシアは皮肉まじりに隣に座ったセネカ・ヴォーミリオンに問いかける。


「ええ?ああ····パトリシア。実はねえ。目をつけていた騎竜乗りと騎竜の出資者になれたことが嬉しいのよ。建国記念杯にも出場しているし。楽しみだわ♥️。」


パトリシアは意外そうに小さなパープル色の眉が寄る。


「意外だわ。ヴォーミリオン商会が誰かの騎竜乗り、騎竜の出資者になるなんて。」


ヴォーミリオン商会が出資者になることは珍しいことである。ヴォーミリオン商会がかの有名な狂姫ラチェット・メルクライの出資者になっていたことは世界的に有名ではあるが。その後、ヴォーミリオン商会は積極的に誰かの騎竜乗り、騎竜の出資者になった話など聞いたことはない。名のある騎竜乗りから自分達の出資者になって欲しいと催促はあるが。それらをヴォーミリオン商会は何故か断り続けている。それなのにヴォーミリオン商会から出資者になることを切望する騎竜乗りと騎竜がいるなんて。パトリシアは少し気になった。


「貴方自ら出資者を望んだ騎竜乗りと騎竜はどんな方なのかしら?。」

「ふふ、楽しみにいていて。パトリシア。私の商会のワッペンをちゃんと渡してあるから。」

「そう······。」


パトリシアはセネカ・ヴォーミリオンが商会の象徴、看板でもあるワッペンを渡しているというならすぐに誰の出資者になったか解ると判断した。

パトリシアは多目的レース場のど真ん中に設置されている多方面巨大魔法具スクリーンに視線を集中することにした。


      シャンゼベルグ城前


『建国記念杯ではスタート地点は一つではなく。お城から東西南北に分けられます。くじでランダムにお城の東西南北のスタート地点を決め。先ず最初にその方角の地区にある塀の見張り塔を目指し進みます。見張り塔に待ち構える番人からフラッグ(旗)を奪取したらそこから自由にレースコースを決めることが出来るのです。』

「え?ど、どういうこと?。」


竜騎士科の実況の学生サイク・ラッパーヌの言葉にアイシャお嬢様は困惑顔で困り果てている。

俺の竜顔も意味不明で首を傾げる。


「ご免なさいね。建国記念杯のスタート開始のルールも教えてなかったわ。建国記念杯のスタート地点は4つあって。お城から四方向に分けられるの。そこからその方角にある塔を目指して進み。塔の番人からフラッグを奪取したら他の地区にある塔を自由に目指していいの。自分で好きな最短距離を決めて進むことができるのです。」


オリンの謝罪も兼ねて建国記念杯のスタート開始地点の説明をする。


「何か凄いレースなんだね。」


アイシャお嬢様は素直に感心している。

アイシャお嬢様は普通に話しているけど。これは結構複雑なレースだぞ。障害物レースと思いきや建国記念杯はレースコースを選べる自由度の高いレースでもあった。しかもこれ最短距離を自分で選びとらなければならない。これ土地勘があるだけじゃなく馴れも必要な気がしてきた。


ギャアラギャアガアギャギャ?ギャアラギャアガギャ?ギャアラギャアガアギャアラギャアガア

(アイシャお嬢様。もしかして?優勝目指していますか?。自分的には無理だと思うんですけど····。)


正直アイシャお嬢様が建国記念杯の優勝を目指していますと言われたら本当に困ってしまう。

確かにレースに出場したなら優勝したいけど。こればっかりは特殊なルールと土地勘、馴れ、且つ三竜騎士の戦闘が待ってるのでかなり無茶ぶりである。


「う~ん。大丈夫だよライナ。このレースには優勝目指していないから。私も特殊なルールとかあって戸惑っているし。」


ホッ、取り敢えずアイシャお嬢様は建国記念杯の優勝は目指していないようである。

アイシャお嬢様はスタート開始地点のくじ引きをする。お城の南の方角のスタート地点となった。残念ながらレインお嬢様とラムお嬢様は西の方角のスタート地点になってしまったようである。

仕方ないので東の塔で合流する形をとることにした。


「良かったですわ。あのノーマル種と同じスタート地点ですわ。これでマリアンにあのノーマル種の醜態を見せられますわ。」

『ああ~、ライナ様の勇姿が身近で見れるなんてとっても感激です♥️。』


薔薇竜騎士団候補生の面々は運良く目的であるノーマル種と同じスタート地点であることに安堵する。


『隣いいか?。』

ギャアラギャアガアギャッ!?

(はい、お構い無く。げえッ!?。)


隣で声かける竜の思念に俺は竜瞳の視線を向けると思わず嫌そうに反応をしてしまう。

嫌というわけではないが。何で一緒になるんだよ~とは内心思っている。

隣にいたのは学園最強でクラウン、タクトの称号を持つゼクス・ジェロニクスとエネメリス・フェレンチェ。その騎竜の精霊帝竜ネフィンと無双竜ザインである。最強の一角ではないにせよ。何でこうもチート級のクラスの騎竜に出くわすかなあ?。出来れば闘いたくない。建国記念杯で学年最強の三竜騎士とも闘わないといけないのに竜騎士科最強と騎竜乗り科最強の相手取る気なんてさらさらない。というか正直無理ゲーです。


『そう、嫌そうにするな。俺達は暫くお前らの闘いを見学するつもりだ。』

「見学?。」


アイシャお嬢様は不思議そうに首を傾げる。


『ザインがあんたらに興味持ってな。暫く一緒に走るつもりだ。なあに邪魔するつもりもないさ。三竜騎士の闘いにも出だしはしない。』


ギャ····ラギャギャ

(はあ····そうですか。)


手出ししないと言われて少し安心したけど。やっぱ、やりずらい。


「正直私達はあなたちの三竜騎士との闘いに加勢したいのですけど。ゼクスに止められてて。ご免なさいね····。」


エネメリスは深く謝罪する。


「いいえ、ライナなら三竜騎士なんてへっちゃらですよ!。」


アイシャお嬢様は自信満々にのこたえる。

いやへっちゃらじゃないけど。何を根拠にそんなこと言うの?アイシャお嬢様。

アイシャお嬢様は俺を過大評価し過ぎである。レースに勝てても戦闘専門の竜騎士の騎竜に戦闘で勝てるという保障はない。


『ノーマル種ライナ、貴方の噂はかねがね聞いておりますよ。』


ピーコックグリーンの鱗と華麗な翼を持つ精霊帝竜ネフィンが俺(ノーマル種)に優しげに語りかける。


ギャ······

(はあ······。)


俺は曖昧に返す。

どうせ良い噂ではないことは明白である。シャンゼルグ竜騎士校の双方の科に嫌われているんだし。


『貴方がどれ程の精霊を使いこなせるか見定めて貰いますよ。』

ギャラギャ·····

(ああ、はい·····。)


やっぱ精霊帝竜だから俺の中にいる精霊も把握ずみなのだろう。精霊帝竜は師である精霊竜ナティナーティの上位互換らしいし。俺の中に存在する精霊に気付いてもおかしくはない。

スターター役が台に立つ。スタート役の手には王家の紋章をついた大きめフラッグ(旗)を手にもっていた。どうやら王家記念杯は王家の旗を振り上げてスタート開始するようだ。建国記念杯なのだから当たり前なのだが。


『いよいよ、建国記念杯のスタートが開始されます。』


わいわい ざわざわざわざわ

お城の周りにいる観客がざわめく。



「よーい!」


ピタッ

観客の声が一瞬で止まり。皆息を飲みレースに集中する。


バサッバサッ

翼を鳴らし。騎竜達は身を低くして飛び立つ準備をする。

ライナも身を低くし。筋肉のついた緑色の翼を大きく広げる。

どーせまた変なスタート合図だと理解しているのでライナは心構えをしっかりしている。


スターター役は大きく王家の紋章の旗を振り上げ。スタート開始の大声を張り上げる。



『ドーラーゴー○ームうううううーーーー!!。』


ギャアあああ!ギャアああああああああああああああーーーーーー!!

(はーーーーい!OUTオオオオオおおおおおおおおおーーー!!。)


ライナは激しくそうツッコむ。


バサッバサバサバサバサバサバサバサバサッ

バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ


お城の東西南北のスタート開始地点から騎竜達は一斉に飛び立つ。

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