第261話 レース前夜

     シャンゼベルグ城

        王室


「嫌~!。ライナとパレード出るの~!。」


バタバタバタバタ

マリス王女は王室の赤い絨毯に寝そべって駄々をこねる。


「マリス王女、我が儘言ってはなりません!。ライナさんは主人と一緒に建国記念杯に出場しなくてはならないのですから。」

「ライナの主人は私だああ~~!。」


マリス王女は大きな目に涙をため泣きわめく。

マリス王女専属メイドであるメニーは眉を寄せ困り果てる。


「マリス、我が儘を言うな。ライナは一応王族のペットではあるが。それと同時にアイシャ・マーヴェラスの騎竜乗りの騎竜でもあるのだ。今宵の建国記念杯のレースにも出場しなくてならないのだ。」

「うっうう···メディア姉さんまで。みんな嫌いだあああああーーーーーーーー!。」

ダッ

「マリス王女!!。」



幼いマリス王女は涙目になり王室から飛び出してしまう。


「困りましたね····。」


メニーはマリス王女大抵我が儘ではあるが。ここまで拗らせた我が儘は初めてである。


「マリスから私から言っておく。あの娘も年頃だ。もしかしたら主人であるアイシャ・マーヴェラスにライナを取られることを恐れているのかもしれない。」


マリスは何処と無くライナの本当の主人であるアイシャ・マーヴェラスを気にしているようであった。


「お願いします。」


メニーは姉であるメディア王女にマリス王女のことをお願いする。


     シャンゼルグ竜騎士校

         女子寮


「いよいよ明日だね。」


アイシャは明日開催される建国記念杯の待ち遠しく。気持ちが昂る。普通のレースとは違う特殊なルールを用いたレースであり。竜騎士科の竜騎士生徒の男子も出ることからどんなレースになるか楽しみである。


「何でアイシャのペアがオリンなのよ!。」


パールは真珠色の眉を不快に寄せ。建国記念杯のツーマンセル(二人一組)のペアがシャンゼルグ竜騎士校の騎竜乗り科一年のオリン・ナターシスになったこと不満を露にする。


「仕方ないじゃないの。土地勘もそうだし。アイシャは竜騎士科の学年最強の三竜騎士とやらともやり合わなくちゃならないんだから。少しでもアイシャの負担を減らすためよ。」


レインが嗜めるように反論する。


「わ、解ってます!。」


ぷい

真珠色の髪を靡かせるパールの素顔が不機嫌にそっぽをむく。

パールは大好きなアイシャと一緒にレースをしたかったが。竜騎士科と本格的にレースにやり合うとなると自分では力ともわない。魔術師の家系の貴族であるが。戦士系の竜騎士とは愛称が悪い。レイノリアも竜化は図体がデカイので格好の的である。故に明日の建国記念杯出場はパールは断念する。


「レイン。ガーネットの調子はどうなの?。」


寮に引きこもるほど落ちこんでいた炎竜ガーネットのことをアイシャは主人である親友のレインに聞く。


「ええ、問題ないわ。建国記念杯を出場することに関してやる気満々よ。建国記念杯には私達が敗北したあの例の氷結竜も出場するようだからリベンジできるわ。」

「勝てるの?。」


アイシャは一度敗けた相手に親友のレイン達が勝つことができるのかと不安になる。


「それも大丈夫よ。弩王竜ハウドから炎竜が生まれもった火力と関係なく勝つ方法を教えて貰ったから。実際試したらかなり強力よ。これならあの氷結竜の硬い氷晶の壁も溶かして突破することもできるわ。明日のレースは絶対にあの氷結竜に勝つんだから!。そうじゃなきゃ、私とガーネットは前に進めない····。」


スカーレット赤髪短髪のレインはメラメラと闘志の炎を燃やし覚悟を決める。

レインのツーマンセルのペアになったの魔剣竜ホロホスを騎竜にするラム・カナリエであった。ラム・カナリエと魔剣竜ホロホスもまた氷結竜の騎竜訓練時の傍若無人な態度に激しい怒りと憤りを感じていた。レインと炎竜ガーネットのリベンジに全面的に協力することにしたのである。


レインと炎竜ガーネットは氷結竜に勝つ方法を見つけたようでかなりの自信を持っている。一体どんな方法なのかとアイシャは少し気になる。


「明日に備えないと。」


アイシャは気を引き締め明日の建国記念杯に挑む。


     フォーゲン家邸宅


「ゼノビア、明日の建国記念杯大丈夫なの?。」


フォーゲン家の自室で栗色の三つ編みの髪型をしたルベル・フォーゲンが相棒の軍師竜ゼノビアに尋ねる。

軍師竜ゼノビアは椅子に腰掛け静かに本を読んでいた。

パタン

軍師竜ゼノビアは読んでいた本を静かに閉じる。


「ええ、問題ないですよ。ある程度の戦略も立てられましたし。それよりルベルの方こそ人材は揃えられたのですか?。」


涼しげな顔でヒヤシンス色の髪と角を生やす理知的な女性が主人に問い返す。


「バッチリよ!。弓系の得意な騎竜乗りや。魔法を使える騎竜、防御結界魔法が得意な騎竜乗りも揃えられたわ。騎竜乗り科全学年に募集かけたのよ。案の定やっぱりあのノーマル種やノーマル種の他校の一年によく思っていない令嬢が多かったわ。先輩達もすすんであの例の他校のノーマル種の乗り手とノーマル種を倒すことに協力してくれたわ。これ、その集まったの騎竜乗りと騎竜の能力の詳細の名簿ね。」


ルベルは騎竜乗り科で集まった騎竜乗りと騎竜の情報が書かれた名簿を相棒の軍師竜ゼノビアに手渡す。

軍師竜ゼノビアは手渡された騎竜乗り科の名簿をパラッと開いて一通り目を通す。


「上々ですね。」

パタ

ゼノビアは名簿を閉じる。


「これならば明日の建国記念記念杯も問題ないでしょう。」

「ふふ、みてなさい!。ノーマル種の乗り手とそのノーマル種!。私達を敵にまわしたこと後悔させてあげるわ!。」


ルベルは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

その隣でヒヤシンス色の角とセミロング髪の理知的な女性の姿をした軍師竜ゼノビアはニコニコと取り繕った笑みを浮かべる。


「さてと、確かにある程度の戦略は立てられましたけど。竜騎士科の三竜騎士がでばってくるとなると。私の戦略が無駄にならなければよいのですが···。」


弩王竜ハウドから聞いたノーマル種の戦績の情報を聞いて問題ないと思われるが。何せあの暴虐とも呼ばれたバザルニス神竜帝国大学の6騎特待生である夜叉ベローゼ・アルバーニャと武羅鬼竜、我怒羅を風車杯で倒しというのだから驚きである。どうやって勝ったのかは弩王竜ハウドの説明から少し言葉を濁し。あやふやな部分もありましたけど。まあ問題ないでしょう。

私達があのノーマル種とノーマル種の乗り手相手に普通にやり合ってたらまず勝ち目はないでしょう。ですが、それは普通であればの話です····。

パサ

軍師竜ゼノビアは騎竜乗りと騎竜の詳細に書かれた名簿を椅子の近くにある小さなテーブルにポイっと無造作に置く。

ペラッと名簿の中身があらわになる。

そこにはずらりと騎竜乗り科一年から三年の名前が書き綴られていた。


「悪く思わないでくださいね。これも戦略なので····。」


あのノーマル種ライナの相手に軍師竜ゼノビアは個の力では結して勝てないと判断した。故に数の力で押し通すことに決めたのである。しかしそれだけではあの狂姫のニ投流を扱うアイシャ・マーヴェラスと精霊を使役し。特殊な力を扱うというノーマル種ライナには勝てない。だからこそ適材適所の役割分担を用いた戦法をすることにしたのだ。例え狂姫の技や万物の元素の力を持つ精霊の力を持ってたとしても。数の力とそれに伴う特化した能力で押し上げれば付け入る隙はいくらでもある。個の力が無くとも各々の能力が集まればそれなりに対処できるのだ。それを軍師竜ゼノビアは充分に熟知していた。


「さて、ノーマル種ライナ。三竜騎士敗北する前に私達と遭遇してくだいね。でないと折角の準備した戦略、策略が無駄になりますので。」


軍師竜ゼノビアの唇が冷たく妖しげに冷笑を浮かべる。



        北地区

     フェネゼエラ家屋敷


「明日はいよいよライナ様の活躍が見れるのですね。楽しみですわ♥️。」


ふふんと鼻歌交じりに白いワンピースのドレスが優雅に周り。白い薔薇模様の髪飾りを着けた真っ白なウェーブの髪がくるりと華麗に舞う。

特待生の薔薇竜騎士候補生の象徴でもある白薔薇竜のマリアンである。今は他校のノーマルに対しぞっこんである。


何とかしなくては···何とかしなくては····


ふるふる

女子寮から一時帰宅した白薔薇竜マリアンの主人であるシャロム・フェネゼエラはわなわなと唇を震わせ身を強張らせる。

フェネゼエラ家の中で最も美しいされる薔薇竜族の白薔薇竜マリアンがよもやただのノーマル種に恋をしてしまったのだ。他の貴族に知られたらとんだ笑い者である。しかも相手のノーマル種は噂では竜騎士科一年の氷結竜を妖しい力でぶっ飛ばしたと聞いている。このままでは本当に白薔薇竜マリアンがあのみすぼらしくも貧乏臭いノーマル種にくっつきかねない。

何とかしなくては····。


「そ、そうですわ。ま、マリアン。私達も建国記念杯に出場致しませんこと?。」

くるり

「え?、いいのですの?。」


白薔薇竜マリアンは主人の申し出に驚いている。フェネゼエラ家は竜騎士の家系である。レースに出場する機会など殆んどない。戦闘訓練や行儀作法に身を費やす。


「え、ええ、貴方の意中のノーマル種のレースの勇姿を直に見ると宜しいですわ。」


シャロムは作り笑顔を浮かべ。相棒のマリアンに後押しをする。


「わああ、ありがとう!。シャロム、私とっても嬉しいわ!。」


白薔薇竜マリアンは有頂天に喜ぶ。

主人のシャロムの唇から微かな薄ら笑いが浮かぶ。

建国記念杯には竜騎士科の三竜騎士も出場すると聞いている。騎竜乗り科の方でもあの戦略策略に長けた竜、軍師竜ゼノビアがノーマル種とノーマル種を乗り手にする他校の一年を騎竜乗り科の生徒と一緒に倒す算段もしているらしい。このままマリアンと出場してあのノーマル種の無様な敗北した姿を見せつければきっとマリアンも目を覚ます筈。


「絶対にマリアンの目を覚まさせてみせますわ!。フェネゼエラ家の名に懸けて!。」


シャロムはふっくらした胸に握る手を添えて決意を露にする。白薔薇竜マリアンの恋路を邪魔することに全力を注ぐ。





     竜騎士科専用男子寮


「いよいよ明日だね····。」


ファサ

男子寮の部屋でカール髪の前髪をキザたらしくかきあげる。


「あのノーマル種と闘うんだね。楽しみだなあ~。」


男の娘のような身なりをした角を生やす美少年は嬉しそうにする。 


「ふふ、そうだね。チェリーの言っていた氷結竜を倒した力も興味あるしね。」


ジェロームはノーマル種が騎竜専用授業で例のノーマル種が氷結竜コルゴを遠くにぶっ飛ばしたと聞いて興味を抱く。あの氷結竜のバッシブスキル、アプソリュート"ZERO"DF(絶対零度防御)はそう簡単に突き破ることができぬ頑丈な自動発動型凍結防御スキルである。強固な防御誇る絶帝竜に並ぶほどの防御を例のノーマル種が突き破ったのならばそのノーマル種は三竜騎士の騎竜と匹敵する可能性がある。

シャンゼルグ竜騎士校一学年最強としては見過ごせない。竜騎士科にもそれなりの面子はある。悪いけど明日の建国記念杯では倒させて貰うよ。


ジェロームはふぁさと前髪のカール髪をかき分けキラッと白い歯が光る。ふふと不適な笑みを浮かべる。



角刈りの屈強な男は竜騎士科男子寮内にある専用ジムで筋トレを行っている。となりでは人化を解いているデコに立派なイチモツを持つ激突竜ヘンガンが鎮座する。


「明日だな。ヘンガン。」

『そうだな。いよいよあのノーマル種に我が極上のイチモツをぶつけることができる。あの者が俺の受けにふさわしいか見定めないとな。』


激突竜ヘンガンの竜口がふふと不気味というか気持ち悪い笑みを浮かべる。


「そ、そうか····。」


激突竜の主人であるラザット・バラッカスは一瞬背中に生暖かい空気が流れたような気がしたが。気にしないことにした。元々激突竜ヘンガンは変な癖というものがある。あまり相棒の癖には突っ込まないようにしているが。ぶっちゃげ気持ち悪くて関わりたくないのである。


「取り敢えず。明日の建国記念杯お互い頑張ろうな····。」

『ああ····。』


     竜騎士科騎竜専用ジム


ドシドシ ドンッ!


グラッ じゃらじゃら

竜の巨体が竜サイズくらいある大きさサンドバッグにぶつかる。

竜サイズ大きなサンドバッグは大きくゆれ,。サンドバッグを繋いでいる極太のチェーンが大きく軋みゆれる。

ぶちかました巨体の竜の牙の口からぐるる白い息が漏れる。


「ラバク、本当に明日の建国記念杯出場しなくてよかったのか?。」


愚王竜ラバクの主人であるギザギザの赤髪の髪型をした屈強な大男が尋ねる。

三学年最強の三竜騎士の一人であるガホード・ベーカーと相棒の愚王竜ラバクは建国記念杯の出場を何故か辞退したのである。辞退した理由は愚王竜ラバクの相違である。


『ああ、あのノーマル種相手に三竜騎士の二匹で充分だ。俺達は出るまくはない!。』


ドドドドドドドドッ!   パァーーーん!!


愚王竜ラバクは再び強烈なぶちかましをして竜サイズのサンドバッグに身体をぶつける。その態度のふしふしに何処かラバクの様子から怒りが滲みでていた。ピリピリとしたひりつくような空気が主人であるガホード・ベーカーの肌にも感じられる。


ドドドドドドドド パァッーーーん!!


ぢゃり ぎしぎしぎしぎし

大きな竜サイズのサンドバッグのチェーンが大きく揺れる。


『一年の氷結竜を倒したといっても所詮三竜騎士である俺達にとっては格下よ。ただ単にその氷結竜が弱かっただけのこと。三竜騎士の騎竜ならばそうはいかない·····。』

「ラバク······。」


愚王竜ラバクの言葉に主人であるガホードは何処かすこし哀しげな表情を浮かべる。


ドドドドドドドド! パァッーーーーん!

ギシギシギシギシ


『ノーマル種ごときが!上位種である俺達より上など絶対にあり得ない!!。あってはならないのだ!!。絶対にっ!絶対にだっ‼️。』


ぐるるる

怒り交じりの唸り声が竜口に漏れる。

愚王竜ラバクの言葉は上位種のプライドというよりは何処か決意、意地、執着というものが感じられた。


ドドドドドドドド! パァッーーーーん!!


「···········。」


何度もサンドバッグに身体を打ち付け。痛め付ける愚王竜ラバクの姿に主人であるガホードは何処か悲しげに太い眉が寄る。沈黙を保ったままじっと訓練する相棒を見守り続ける。




竜騎士科専用男子寮の屋上にで竜騎士科最強の男、ゼクス・ジェロニクスとシャンゼルグ竜騎士校実質最強である無双竜ザインが月夜に照らされ黄昏れる。

無双竜ザインは何故か人化せず。竜のまま屋上に重い鎧のような鱗の図体を横にする。


「·······。」


ゼクスは沈黙したまま青い満月を眺める。


「いよいよ明日か····」


ぐるるると竜の唸り声を上げ。無双竜の竜口が嬉しそうにつり上がる。


「明日の建国記念杯は荒れそうだな。特にあのノーマル種とノーマル種を騎竜にする他校の乗り手に関してだが。」


竜騎士科と騎竜乗り科の双方に目を付けられてしまった。ノーマル種を騎竜にする他校の生徒とそのノーマル種に少し同情する。災難だなと思う反面楽しみだという半々の感情がゼクスの心情に入り交じっていた。


『三竜騎士のうち二人と二匹はでるようだな。』


無双竜ザインは三竜騎士のうちに二人二匹が出場することにこれからどんなレースになるのかと久しぶり血湧き肉踊る。


バァサバァサバァサ

遠くから翼の羽音がなる。ゼクスと無双竜ザインの立つ寮の屋上に近づいてきている。

月の光に照らされ。ピーコックグリーン色の翼が月光により輝く。


バァサッ

ピーコックグリーン色の翼と鱗を持った竜(ドラゴン)が優雅に降り立つ。

ピーコックグリーン色の騎竜背に乗る令嬢は降りる。

濃い目の長い金髪を靡かせ。月明かりにふっくらと無駄のない胸の膨らみと肢体がてらされる。


「ここは男子寮だぞ····。」


招かざる来訪者にゼクスは冷めた眼差しをむける。


「解っています!。貴方がちゃんと明日の建国記念杯に出場するか確認しにきたのです!。竜騎士科のクラウンの称号を持つ者として明日の建国記念杯には絶対に出場してくださいね!。」


騎竜乗り科最強のタクトの称号持つゼクスとは幼なじみの間柄であるが念を押すように言い聞かせる。

明日の学生のみ出場できる歴史あるレース、建国記念杯は竜騎士科代表のクラウンと騎竜乗り科最強のタクトの称号を持つものが出場することが生業になっていた。


「解っている。明日の建国記念杯は俺もザインも出場する。楽しみにしているからな。」

「楽しみ?。」


ロファーシアは細い眉を寄せいぶかしがる。


「あの例のノーマル種とノーマル種を騎竜にする他校の一年だ。」

「あっ!?。」


竜騎士科と騎竜乗り科の双方の問題になっているノーマル種とその他校の乗り手である。建国記念杯で三竜騎士がレースと生じて決闘を挑むと聞いている。


「ゼクス!、止めてよ!。他校もしかも竜騎士が騎竜乗りに決闘するなんて馬鹿げています!。」

「断る!。こんな面白いこと止められるか!。」


エネメリスの言葉にクラウンの称号持つ最強の竜騎士は激しく拒絶する。



『ザイン、貴方も同じ意見ですか?。』


ピーコックグリーンの鱗と翼を持つ精霊帝竜ネフィンは静かに無双竜ザインに問い掛ける。


『ああ、俺としてはあのノーマル種の実力を知るいい機会だからな。邪魔するつもりはさらさらないさ。お前達も邪魔するなよ。もし邪魔したら俺達が相手になるからな。』


無双竜ザインはぐるると威嚇の唸り声をあげる。

精霊帝竜ネフィンははあとピーコックグリーンのくちばしから小さなため息が漏れる。


『これは無理ですよ。エネメリス、この一人と一匹の頑固さを止めることは誰にもできません。』

「そ、そんな····。」


エネメリスは濃い目の金髪の細い眉が激しく寄り。顔色が青ざめ絶望する。


「それに三竜騎士を止めてもうちらの竜騎士科が納得しない。あいつらの決闘止めたら今度は竜騎士科の奴らがあの他校のノーマル種の乗り手とノーマル種を狙うだろうな。」

「·······」


現実の言葉を突き付けられたエネメリスは大きく肩を落とし落胆する。


もう誰にも止められないのだと····。


「まあそんな絶望するな。もしかしたらお前が危惧していた竜騎士科と騎竜乗り科の問題が一気に解決するかもよ。」

「な、何を根拠に!。」


エネメリスは幼なじみのゼクスのいい加減で投げやりな台詞に段々むかっ腹が沸いてくる。


「まあ、明日になれば解るさ。」


ゼクスは腹立つ幼なじみを無視し。青い満月を見上げる。

静かな夜空に浮かぶ青い満月はまるで神足る竜プロスペリテのようなぼんやりとした澄んだ蒼白い光を秘めていた。



んごごご~~    んがごっ!


王城の竜舎でだらしない寝顔を晒すライナ。明日のレースのなんのそのである。


んがががー~~!ンゴおおおおーーー!


イビキをかいて気持ち良く爆睡するライナは藁の寝床で深い眠りに入っていた。


各々の想いと思惑が交差し。


建国記念のパレードと一緒に開催される建国記念杯は激しくも入り乱れ。過激に満ち満ち溢れたレースの火蓋が。今、切っておとされる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る