第252話 王都案内①

   シャンゼベルグ竜騎士校女子寮


トントン

スカーレット赤髪短髪の令嬢は相棒が寝泊まりする騎竜専用部屋の扉をノックする。


「ガーネット。気分転換に王都を見てまわりましょう。これからアイシャ達と一緒に王都の地区を見て回るの。親しくなった騎竜乗り科の生徒と騎竜も一緒よ。」

「ほっといてくれ!。我は炎竜族で最低最弱な竜なんじゃ!。まともな炎も出せない。スピードとしか取り柄のない駄目駄目なエレメント種なんじゃ!。びええええええーーーーーー!」


扉ごしに泣きじゃくり半ベソをかきまくる炎竜ガーネットに主人であるレインははあと深いため息を吐く。

レインの相棒である炎竜ガーネットは未だ氷結竜のレースに立ち直れずにいた。


      ▼▼▼▼▼▼▼


建国記念杯に向けてアイシャお嬢様がシャンゼルグ竜騎士校で親しくなった騎竜乗り科のオリンお嬢様とラムお嬢様の誘いで王都を案内してくれることになった。東西南北の地区に区分けされた大都市で何処に何があるの正直広すぎて訳がわかなくなる。

騎竜乗り科の令息生徒達の決闘を受けざるなくなってしまった状況で。近々王国の建国記念日に開催されるレース。建国記念杯に出場しなくてはならない。建国記念杯は王都の生徒のみ出場するレースであり。男子である竜騎士でも出場できる特別なレースである。ツーマンセル(二人一組)で行うレースであるらしく。なんでも王都中の地区を廻るレースらしい。どうやらスタートからゴールに到着する単純なレースではなく。東西南北の地区に囲まれた塀に聳え立つ塔を守護する番人の役割の者からフラッグ(旗)のようなものをかっさらって中央のお城の頂上にある尖り屋根にそのフラッグを四方の位置にぶち指してゴールという何ともよく解らないレースである。いわゆる障害物レースの分類に入るのだろうか?。アイシャお嬢様の話ではこういった特別ルールを設けた特殊レースは世界中至る所にあるらしい。何でも世界に乗り手が真っ裸のままレースをするという特殊なレースがあるらしい。う~ん、是非とも出場してみた~い♥️。

いや、下心ではなく真面目に騎竜とし見聞、経験を積むためである。これほんと。


俺は王族のペットの証である金のメダリオンを長首にぶら下げ。待ち合わせ場所である東地区のシャンゼルグ竜騎士校の敷地にあるザオラル時計塔にきている。背中にはシャルローゼ王女の妹であらせられるマリス王女が同乗している。マリス王女専属メイドであるメニーさんも一緒である。本来なら王都案内に同行する話ではなかったが。俺がアイシャお嬢様達と王都を廻ると伝えた途端。駄々こねてついていく言い出したのだ。仕方なく専属メイドであるメニーさん同行でアイシャお嬢様の王都案内に連れていくことになった。王女一人を警護無しに王都を廻るのはセキュリティ的にも物騒ではないかと思われたが。第二王女メディア様がライナがいるから問題ないと許可が出てしまったのだ。故に実質俺がマリス王女様警護、守らなくてはならなくなってしまったのだ。責任重大である。いや、これ本当に王族のペットの仕事か?。段々とペットの本分から離れていっているような気がする。


「すみません。ライナ様。マリス王女の我が儘に付き合って貰って。」


マリス王女専属メイドであるメニーさんが申し訳なさそうに謝罪する。


ギャラギャアガアギャアラギャギャアギャアラギャガアギャアラギャ

(いえ、自分は王族のペットですし。しっかり業務を果たします。)


ペットが要人を警護する話など正直聞いたことはない。


「ライナ、まあ~だ?。早く早く。」


ボワボワ金髪の幼いマリス王女は待ち合わせで待つことが飽きたらしく。俺の背中でぴょんぴょん飛びはねてせがんでくる。


ギャアラギャガアギャアギャアラギャギャアギャアラギャギャアギャアラギャギャ

(すみません。主人であるアイシャお嬢様も、もうすぐ到着致ししますので。少々お待ちを。)


「ぶう~、ライナの主人は私だああ!。」


マリス王女は変なところで突っ掛かってくる。不機嫌に大きな頬っぺを膨らませる。

何処となく子供頃のアイシャお嬢様にも似ている気がする。アイシャお嬢様も変なところで不機嫌になったことがある。例えば昔、俺とアイシャお嬢様の会話で犬派か猫派とかで軽い論争になったのは懐かしい話である。



「ライナ、遅くなってごめん。」


アイシャお嬢様がやっと到着してくれた。親しくなった騎竜乗り科のオリンお嬢様とマリヤお嬢様にその相棒である魔剣竜ホロホスさんと鳳凰竜フェニス。親友のパールお嬢様と相棒のレイノリアもいるが。何故かレインお嬢様がいない。どうしたのだろう?。ガーネットもいないということはまだ女子寮にいるのだろうか?。


「レインお嬢様がいないんですね。」

「うん、ガーネットがまだ部屋で引きこもっているの。レインも気分転換に王都巡りを一緒に行こうと何度も誘ったんだけど。一向に部屋から出てこないの。」


アイシャお嬢様は心配そうにレインお嬢様とガーネットと実情を話す。

ガーネット、かなりの重傷のようだな。てっきりケロッとした竜顔で帰ってくると思っていたが。氷結竜の敗けたことが相当堪えているらしい。


「ライナ、私、明日、ガーネットお見舞いに行こうと思うの。ライナも一緒にきてね。」

ギャアラギャ

(解りました。)


このままレインお嬢様とガーネットが合宿に参加しないまま終わるのはアイシャお嬢様にとっても心苦しいはずだ。ここは人肌ではなく竜肌を脱ぐことにしよう。


「ふええ、王都を廻るなんて。き、緊張します。」

ふわふわ

「別に王都観光に緊張も何もないでしょうに。」


あれ?

よく見るとアイシャお嬢様とパールお嬢様以外に二組のお嬢様の姿が目に入る。

ピンクの髪でふわふわと雲のような軽さ秘めた爆乳を揺らすアーニャお嬢様と。ふらふりと栗色のポニーテールを揺らすカリスお嬢様である。


ギャアラギャガアギャアラギャギャアギャアラギャ

(アーニャお嬢様とカリスお嬢様も一緒なんですね。)

「うん、レインとガーネットが行かないってことになった後。偶然寮内で出逢った二人に誘ってみたの。そしたら一緒にいくということになって。何でもカリスが丁度王都で立ち寄ってみたいと所があるらしいの。」

ギャアラギャ

(なるほど。)


俺は長首を頷き二人が同行に納得する。


じいいいい

びく

俺は途轍もない熱視線を肌に感じる。悪寒と言っても差し障りない。

俺は熱視線のある方向に竜瞳を向けるとそこにはグーグーと寝息を立てて。立ったまま器用に寝る角を生やした大人のグラマラス姿の地土竜モルスの姿と。角を生やした小柄な青髪の少女がいた。特に角を生やした小柄の青髪の少女は俺をガン見してくる。


「おはようございます。ライナ。」


角を生やした青髪の少女は俺に挨拶しながらも舐め回すようにみてくる。


ギャ アギャラ、ギャギャア·····

(お、おはよう。ハウド·····。)


俺はぎこちなく尚且つ苦手意識で返事を返す。


「ライナ見てましたよ!。あのドラゴンバイブレーションという技。あれは狂姫の相棒である強靭のレッドモンドの技を発動させるための技ですよね?。筋肉の脈打ちを身体全身に震えに変換するとは。さすがはライナです。」

ギャギャア····

(ど、どうも····。)


観察眼が鋭い弩王竜ハウドに俺はトンビきするほど引いてしまう。


「貴方ともっと研究観察したいのですが。これから私と。」

ギャラギャギャアガアギャアラギャ

(いえ、遠慮しときます!。失礼しました‼️。)


俺は早々に弩王竜ハウドの前から離れる。


「あれ?ライナ。その子は?。」


アイシャお嬢様は俺の背中に乗る幼い少女に気付く。騎竜乗り科のオリンお嬢様とラムお嬢様もこの御仁が誰なのか解っているようで。目をぱちくりして口を半開きしたまま驚いて固まっていた。


ギャアラギャガアギャアラギャギャアギャ

(はい、アイシャお嬢様。彼女はマリスお。)


と、教えるつもりが俺は思い止まる。

マリス王女のことをアイシャお嬢様に伝えるかどうか迷った。未だアイシャお嬢様がシャルローゼ先輩が王女であることを知らされていない。ここは言うべきなのだろうか?。それとも本人から正体を教えるべきか?。正直迷う。

········

「どうしたの?ライナ。」


アイシャお嬢様は不思議そうに首を傾げる。


ギャアラギャガアギャアラギャギャアギャアギャアラギャギャアガア

(あ、いえ、この子はシャルローゼお嬢様の末の妹でマリス・シャンゼベルグと申します。)


「あっ!?そうなんだ。じゃ、シャルローゼ先輩とメディアさんの妹なんだね。私はライナの主人でアイシャ・マーヴェラスというの。宜しくね。」


アイシャお嬢様は笑顔でマリス王女に挨拶する。


「ぶうっ!ライナは絶対渡さない!。」

ぷい

マリス王女は俺の背中で不機嫌に頬を膨らませる。アイシャお嬢様の笑顔からそっぽを向いてしまう。


「すみません。アイシャ様。」


マリス王女の専属メイドであるメニーさんがささっと前に出て。アイシャお嬢様に対する主人の無礼を詫びる。


「あ、いえ、貴方は?。」

「私はマリス様の専属メイドであるメニーと申します。以後お見知りおきを。」

「あ、どうも宜しく。」


一通りの自己紹介を終え。王都の地区廻りを再開する。


「では取り敢えず。ここのシャンゼルグ竜騎士校の敷地にあるまだ案内されていない所に行きましょう。」


王都に詳しい王都出身の騎竜乗り科一年のオリン・ナターシスが先導する。

シャンゼリグ公園、レニオニス広場、ルベンの森とまわり。最後に遺跡跡地のような脚を踏み入れる。


「ここは古代遺跡跡地で。救世時代にからある遺跡なんです。」


オリンが説明する。遺跡といってもレンガが積まれて遺跡としての原型は殆んど残されていなかった。


「へえ、凄いね。ライナ。私、遺跡って初めて見たよ。」

ギャアラギャ

(そうですね。)


アイシャお嬢様は素直に感心する。

東方大陸には遺跡と呼べる場所があまりない。特に平凡な農場や農地があるど田舎の大陸である。


「ここではある周期になると亡霊の竜(ドラゴン)が出るという噂があるんです。」

「亡霊の竜ですって!?。こ、怖い!。」

バサッ

「大丈夫です!。お嬢様。」


真珠色の髪が揺れ。真珠色の瞳をさパールお嬢様は恐怖のあまり相棒の青宮玉竜レイノリアに抱き着いてしまう。レイノリアは抱き着いた主人を優しく宥める。

以外だ。パールお嬢様は幽霊ものは苦手なんだな。人魚の血を引くからそういう類いは苦手ではないと思ったけど。


「幽霊なんてそんな非科学的ものはいません!。」


研究者でもある弩王竜ハウドは激しく否定する。

いや、この異世界そのものが非科学的なんですけどね。魔法や精霊がいる時点で科学も何もないと思うが。

俺は微妙な竜顔を浮かべる。



「ここがルベンの森です。森深い場所なので魔物生息しております。気をつけて。」


オリンお嬢様がルベンの森の説明をする。

え?王都内で魔物生息しているの?。それは初耳である。


ギャああーーー!グアーギャアあーー!!

ルベンの森の森深い森林奥に不気味な魔物の唸り声と鳴き声が響く。


ギャアーーー!ギャアーーー!


············

何か····どうしても魔物というと危険殺伐としたとかじゃなくて。魔物と戯れる会のあの令嬢と戯れる魔物を連想してしまうんだよなあ~。

王都内に危険な魔物が生息していると言っても。どうしても王都に魔物と戯れる会があることで。ルベンの森の魔物がそれらに使われているんじゃないかと疑心暗鬼になってしまう。

考えすぎだと思うのだけど····。


東方地区にある王都を囲む塀の塔に到着する。


「ここが建国記念杯の一つのフラッグの奪取地点である東地区の塀の塔よ。ここで番人なるものからすり抜けて塔の頂上にあるフラッグ(旗)を取るの。」


オリンお嬢様は建国記念杯のルールを説明する。


「へえ、ここが建国記念杯のフラッグ奪取地点なんですね。」


アイシャお嬢様が東地区の兵に高くそびえたつ見張り台と思われる塔を確認する。

東地区の学園の敷地を一通り廻る。既に知っている施設や土地は省いた。



「それじゃ、次は南地区の露店やお店が並ぶ商業エリアに行きましょう。あそこはショッピングや美味しいお店があるのですよ。」

「わあ~楽しみ!。」


アイシャは目を輝かせる。


バッチン‼️

「なぬ、美味しいものですと!?。」


鼻提灯を吹かして器用に立ったまま眠っていた地土竜モルスが美味しいものと聞いてちゃっかり目を覚ます。


アイシャお嬢様達は次の建国記念杯のフラッグ奪取地点のある南の塀塔がある住宅街や商業エリアの地区へと向かう。


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