第231話 弾みます揺れます

「姉上が久し振りに激怒したところをみたな…。気持ちは解らんでもないが…。」


メディアはそっと視線を熱心に観戦する他校の一年と熱心にガン見しているノーマル種に注がれる。


「姉上が言っていたことはあながち間違いではないと言うことか…。」


ノーマル種ライナが一部の上位種しか扱えぬスキル『威圧』を使った時点でただの竜(ドラゴン)ではないことを理解した。しかしこの王都で騎竜が他の騎竜にスキル『威圧』を放つことは人間で言う決闘と同じ意味を指す。威圧を学園全体に放ったということは、ライナは全てのシャンゼルグ竜騎士校の生徒の騎竜達に決闘を挑んでしまったこととなる。ライナその事を理解しているのだろうか?。

メディアは少し心配になり。ライナの様子をそっと窺う。


くわっ‼️ ギンギン! ランラン!


ライナの竜瞳の瞳は充血するほど目を腫らし。魔法具スクリーンに写るシャルローゼとエネメリスの戦い(特に胸)を釘いるように見つめていた。ライナの竜の長太い尻尾は興奮したかのように激しくふりふりしている。



うむ、あれは全然理解していない顔だな…。


メディア王女は生真面目?に観戦するライナの竜顔を見て直ぐに心配する気が失せた。



シャルローゼのコンバウンドボウのような弓が天高く頭上へと掲げられる。矢の尖端に自分とカイギスの魔力が注ぎ込まれる。


ギギギィ 

膨大な竜の魔力を集めた矢をシャルローゼは弦をおもいっきり引きちぎる。


「ミーヤアローシャワー(流星矢雨)」


ぱっ

シャルローゼのつまんだ矢を放すと魔力のこもった光の矢は頭上へ伸びる

ひゅ~~~ん パアーーン!


頂上まで上がると弾け飛び。無数の光の矢の雨が流れ落ちる。


ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん


「くっ!シャルローゼ様。いきなりですか!。」


頭上からくる線の引いたような無数の矢の雨にエネメリスの顔を歪ませる。


『エネメリス。彼女の光の雨のスキルは光属性です。闇の精霊の利用したスキルで対抗しなさい!。』

「解りました。」


精霊帝竜のピーコックグリーンの鱗に覆われた身体から黒い光の粒子が漏れだす。


「ダークホィール(闇車輪)!。」


ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん

ぶんぶんぶんぶんぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる


エネメリスは手持ちのハルバードを頭の上に掲げ。車輪のように回転させる。ハルバードの回転が闇の精霊である黒い粒子の光に触れ。黒く染まり。流星雨のように流れる落ちる矢を黒く染まったハルバードの回転でかき消える。


「矢張精霊を使いますか…。」

『ライナも精霊を使役した技を放ちますが。彼女の場合は精霊帝竜ネフィンの呼ぶ精霊を利用してスキルを放ちますからね。精霊帝竜ネフィンが精霊で彼女をサポートし。彼女のハルバードの技で精霊をしょうかしているというべきでしょうか。』


シャルローゼはいつの間にか怒りがおさまり。冷静さを取り戻していた。竜騎士科をぎったんぎったんのコテンパンにするつもりだったが。対峙し立ち塞がる学園最強の騎竜乗り科タクトの称号を持つエネメリス・フェレンツェと精霊竜、妖精竜の上位互換である精霊帝竜ネフィンが相手である。怒りの感情にまかせて勝てる相手ではない。


シャルローゼは呼吸を整え。サイトを精霊竜ネフィンに乗るエネメリスに向ける。

魔力でできた光の矢を魔力の弦にあてる。

ギギ ギギギィッ


「ホーミングシュート(追尾連射)」


ひゅん ひゅん ひゅん ひゅーーー!

連続的に光の矢がシャルローゼのコンバウンドボウから放たれる。


『回避しますよ。エネメリス!。』


ピーコックグリーンの翼を広げ。精霊竜ネフィンは大きく旋回し回避する。しかし魔力でできた光の矢は意志を持つかのようにそれを追尾する。


「くっ!追尾型ですか!?。」


エネメリスはレースコースの最初の右折地点であるシャンゼリグ公園を曲がる。

しかししつこく追尾する光の矢はエネメリス達の追尾を止めない。絶帝竜カイギスとの間の距離は離れてはいるが。カイギスの能力ではそれを意味を為さない。直ぐにあのメビウスアルマという物理的法則をねじ曲げる魔法で距離を詰められるのである。故に一人一頭の行動は限られている。追尾する魔力の矢を片付け。ゴール前にシャルローゼと絶帝竜カイギスを倒すか、或いはメビウスアルマを放たれる直前にゴールINするかである。シャルローゼと絶帝竜カイギスをレース中に倒すなどほぼ不可能である。あの強固な防御を誇るスキルと物理的法則を変える魔法。更にあらゆるスキルと魔法を跳ね返すスキルまで持ち合わせているのだ。乗り手のシャルローゼも素早い動きで矢を放つ弓舞を使いこなす達人である。一人一匹相手に精霊帝竜ネフィンも精霊の舞姫とうたわれたエネメリスも決定打になる攻撃を持ち合わせてはいない。パワータイプの竜ならもしかしたら絶帝竜カイギスに太刀打ちできたかもしれない。強固な防御スキルとスキルと魔法を跳ね返すスキルで身を固めても。圧倒的なパワーなら打ち砕く可能性もあった。しかし精霊帝竜ネフィンはパワータイプではない。精霊を使役する特殊タイプである。レア種ではあるが矢張竜相手には向き不向きがある。精霊帝竜ネフィンの相手として絶帝竜カイギスは相性が最悪である。精霊帝竜ネフィンの精霊魔法もカイギスの強固な防御スキルと魔法では歯がたたないのだ。拮抗すれども決定打にならないそんな状態である。

元薔薇竜騎士団、先代副団長の騎竜でもあり。世界の最強の一角とされる騎竜の名は伊達ではないのだ。対抗できるとしたら同じく最強の一角か。竜騎士最強の竜、無双竜ザイン。或いは認めたくないがあの忌まわしき竜、無情だけであろう。


「ネフィン。どうしますか?。」


追尾する光の矢を背にエネメリスは相棒のネフィンに語りかける。


『距離を離したところでカイギスには意味はありませんよ。このまま牽制したままゴール地点まで進みます。ゴールライン直前が勝負です。ですがその前に…。』


精霊帝竜ネフィンが言いにくそうに竜口が渋る。


「それはつまり私達がゴール直前まで持たせるとうことですね。」


精霊帝竜ネフィンの思惑をいち早くエネメリスが察する。


『そうです。確実に乱戦になります。覚悟はいいですね?。エネメリス。』

「シャルローゼ王女様が相手なのです。もとより覚悟はしております。」


エネメリスはくるくるとハルバードを回し身構える。


『では参りましょう。くっつかず離れず尚且つ攻撃、回避を繰り返し。距離を保ちながらゴール直前まで進みます。あちらも容赦なく攻撃してくるでしょうが。私達は相手をまかすことを考えず。持たせることだけ優先します。』


バサッ

精霊帝竜ネフィンのピーコックグリーン色の華麗な翼が広げられる。

パアアア

そこから6色の粒子の光が漏れる。


『出し惜しみするつもりもありません。全ての精霊を解き放ち呼び寄せます。』


精霊帝竜ネフィンは精霊を呼ぶだけでなく。己の体内に貯めることもできた。貯蔵庫のように取り出し可能である。精霊を貯めるのも限界はあるが。銀氷の精霊以外6大元素の精霊の貯めることは可能である。


精霊帝竜ネフィンはくるりと向きを変え飛行を止める。連続的に追尾する光の矢の正面にエネメリスを立たせる。


ひゅんひゅんひゅん

キンキンキン

エネメリスは手持ちのハルバードで三段突きを食らわし。連続的に追尾する光の矢を弾く。


「ネフィン、私はカイギス様の背に乗り。直にシャルローゼ様と戦います。ネフィンはカイギス様を引き付けて下さい。シャルローゼ様でも接近戦なら大技を放つような馬鹿な真似はしないでしょう。」

『ですがエネメリス。確かにシャルローゼ王女は弓を使い接近戦なら此方が分がありますが。その対処策をこうじてないわけではないでしょうに。』


精霊帝竜ネフィンはエネメリスの提案に消極的である。


「それでもゴール直前まで持たせるにはこれしかありません。」


エネメリスは頑ななに自分の策を曲げない。


『はあ~。』


精霊帝竜ネフィンのピーコックグリーンの竜口から深いため息がもれる。


『貴方の頑固なところ。ゼクスの影響ですかね?。』

「なっ、ど、どうしてそこに彼の名がでるんですか!?。」


エネメリスは少し狼狽えたように動揺する。ほのかに頬を染めている。


『解りました。エネメリス。思う存分おやりなさい。私はもう一頭の頑固爺を相手しますので。』

「カイギス様を頑固爺って……。」


元薔薇竜騎士団の騎竜であり。最強の一角とされる竜に遠慮なく悪態つけるのは昔なじみの彼女だけである。

会話している間にシャルローゼが乗るカイギスが追いついてきた。

もう一つの右折地点であるレシオニス広場もまた目の鼻の先である。


「ネフィン!。では参ります‼️。」

『いってあやりなさい!。』


バッ

精霊帝竜ネフィンの鼓舞の言葉に大きくエネメリスはジャンプする。

呼び寄せた風の精霊に呼応し。エネメリスの身体は大きく風に乗って波にのまれるように運ばれる。


タッ‼️

そのままエネメリスは跳躍し。カイギスの傷だらけの巨大な背へと着地する。

真ん前にはコンバウンドボウのような弓を手にしたシャルローゼが身構えていた。


「シャルローゼ様勝負です!!。」


ぐるぐる ジャキッ!

エネメリスはハルバードを振り回し刃先をシャルローゼに向ける。


「私とさしで戦うと言うのですね。いいでしょう。受けて立ちます!。」


ギキ

シャルローゼはコンバウンドの魔力の弦を伸ばし。光の矢を浮かび上がらせる。


『カイギス。貴方の相手は私がしましょう。その凝り固まった石頭を和らげて差し上げますよ。』


精霊帝竜ネフィンはピーコックグリーンの翼を広げ精霊を呼び寄せる。威嚇の態勢をとる。


『ネフィン。老いたとはいえこの絶帝竜カイギス。遅れをとるつもりは毛頭ない。』


傷だらけの巨体を動かしネフィンを目掛け突き進む。ネフィンは距離を保ちながらカイギスの進行をゴール地点まで誘いだす。

一人一頭同士の戦いが始まる。



「エネメリスはシャルローゼとさしでやり合うつもりのようだな…。」


三年の模擬レースを辞退した学園最強の竜騎士科の生徒、ゼクス・ジェロニクスは校庭グランドの魔法具スクリーンに写るレースの様子を冷静に眺める。


『お前としてはどちらが勝つと思う?。』


隣で一緒に観戦する武装したかのような鎧の鱗に覆われた竜(ドラゴン)、無双竜ザインが問い掛ける。


「対人戦闘であるならば五分五分かな。レースだと解らんな。そもそも俺はレースの専門家じゃない。最強の一角である絶帝竜カイギスには例え6大元素の精霊を扱う精霊帝竜ネフィンでも敵わないだろう。でもザインならいけるんだろ?。」


ゼクスは挑発じみた感じで相棒のザインに問い掛ける。


『どうだかな。老いたとはいえ。いまでも現役バリバリにやっているからな。あの爺さん。それに俺の特性としてもあの絶帝竜カイギスの爺さんの能力と特性とでは相性が悪い。まあゼクスと俺が対決したら勝つ可能性はあるだろうが。だがその差は騎竜ではなく乗り手に左右されるだろう。本来のカイギスの爺さん乗り手であった元薔薇竜騎士団、副団長、流血のメザンナが相手ならゼクスと俺とでは敗け確定だろうな。』


無双竜ザインは過去の戦いの記憶を思い起こし苦笑する。


「引退してでもあの強さだったからな。あの人。あの人の宿命のライバルは誰だっけ?。」

『狂姫ラチェット・メルクライだな。相棒は強靭のレッドモンドだ。』

「戦ってみたかったなあ。あの人より容赦ないんだろう?。」

『ああ、正に狂気というか。お前よりも戦闘ジャンキーらしいぞ。ところ構わず決闘をふっかけては決闘魔というあだ名が付いたくらいだしな。それに過去最高、闘技大会ストロンゲスドラゴンヒューマで初めての騎竜乗りのチャンピオンでもあるしなあ。』

「本当に滅茶苦茶な人物らしいみたいだな。惜しいことだよ。騎竜乗りでなかったら戦ってみたかった。」


ゼクスは本当に残念そうな顔を浮かべる。竜騎士は正式なレースには出場できない。レースに男が出場することは教会が禁止している。一応例外もあるが。基本竜騎士と騎竜乗りが戦う機会などほぼ皆無などである。決闘という手段もあるが。竜騎士の決闘と騎竜乗りの決闘はルールも作法も大分違う。平たく言えば決闘方法がレースか純粋な戦闘かである。


ひゅんひゅんひゅん キンキンキン



二人の騎竜乗りの熾烈な猛攻がカイギスの傷だらけの巨体の背で行われる。

彼女達は互いに弓とハルバード(槍斧)を駆使し打ち合う。

その度に彼女達の豊かな胸が激しく弾み激しく揺れる。


キン ザッ ひゅん



弾む揺れる弾む揺れる弾む揺れる弾む揺れる

揺れる弾む揺れる弾む揺れる弾む揺れる弾む

揺れる揺れる弾む弾む揺れる弾む弾む揺れる

弾む弾む揺れる揺れる弾む弾む揺れる揺れる

弾む弾む弾む弾む弾む弾む弾む弾む弾む弾む


くわわっのわっ!

ライナの竜瞳の眼光が鋭さを増し。彼女達の素早い動きのある一点を外すことなく視線を止める。




シャルローゼのアクロバティックな動きと弓さばき。エネメリスの軽やかなハルバード(槍斧)の突き。互い互いが牽制しながら打ち合い続ける。


「ウンディース(水精の突き)!。」


空気中の青い粒子の光がエネメリスのハルバードに付着し。突きとともに水が放出される。

シャルローゼは槍斧から放出された水をシャルローゼはコンバウンドボウのような弓で軽く弾きいなす。そしてすかさず弓を射る。

二人は既にレシオニス広場を抜け。既にゴール地点である校庭グラウンド手前まできていた。

彼女達は時間が流れるのを忘れ。ただひたすら打ち合い続ける。


『精霊魔法、シックスエレメントストーム(6元素の嵐)。』

『オールドガード(完全拒壁)』


精霊帝竜ネフィンは絶帝竜カイギスに精霊魔法を放ち。カイギスはそれを強固な防御スキルで防ぐ。


『くっ、矢張魔法攻撃は通りませんか。ここまでパワータイプの竜(ドラゴン)が羨ましいと思ったことはありませんね。』


精霊帝竜ネフィンのピーコックグリーンの竜顔が悔しそうに歪む。


二人は息もつかせぬ戦闘を繰り広げられる。


バサッ

ひゅうううう


「キングダムシュート(王界の矢)」

「フレイムジャベリン(火炎の投槍)」


オーラのまとった矢と炎まとった魔力でできた投槍がぶつかり相殺される。



「はああああああーーーー!。」

「たああああああーーーー!。」



「そこまで!。」

ぴた


突然の言葉に二人の動きが止まる。

いつの間には二人は校庭グランドのゴールラインに到着していた。二人もろともカイギスの背でゴールINしてしまったようである。


「ふむ、同着といいたいとこですか…。エネメリスは相手の騎竜に乗ったままゴールINしたことによる失格。よって勝者はシャルローゼ様とします。」


マキシ・マム教頭はレースの結果を伝える。

竜騎士科と騎竜乗り科は模擬レースの結果に双方とも大きく落胆していた。



「ライナ!。二人のレース凄かったね!。シャルローゼ先輩のあんな凄い弓裁きみたことないよ!。後、相手のシャンゼルグ竜騎士校の三年生のエネメリスさんとかいう人の槍さばきも凄かったね!。シャルローゼ先輩の矢の雨や矢の技を全部まるで舞い踊るように槍一本でことごとくいなしちゃうんだもん。」


アイシャお嬢様は興奮したように二人の戦いを熱弁する。


ギャアラギャ!ラギャガアギャアラギャギャアギャ!ギャアラギャギャ!!

(全くですよ!。もう!弾んだり揺れたり。本当!。もう、最高でしたよ!!。)


ライナもハイテンションな乗りで尻尾をふりふりしながら主人の言葉に同調する。


《本当にアイシャとライナの感動する要点がズレていた……。》


「では次の二年生代表の方お願いします。」


マキシ・マム教頭は坦々と模擬レースの進行を続ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る