第226話 矢面の的


    シャンゼルグ竜騎士校

        西門 


「あっ!?。ライナっ!。」


西門前で制服を着たアイシャお嬢様が待っていた。俺の姿を一目観ると笑顔で出迎える。


「お待たせしました。」


シャルローゼお嬢様は笑顔で後輩のアイシャお嬢様に俺を引き渡す。

シャルローゼお嬢様は身分を隠して学園祭を登校しているのでアイシャお嬢様に真実を伝えるかどうか迷った。実家がお城であるからして知られるのは時間の問題だろうけど···。


「あれ!?。ライナその首輪は?。」


アイシャお嬢様は直ぐに俺がエンブレムのような金のメダリオン付きの首輪を嵌めていることに気付く。


「ごめんなさいね。どうしてもその首輪をとり付けないと実家に入れさせないとお父様が言うので仕方なく·····。」


シャルローゼ王女様は申し訳無さそうに王族のペットの証である王家の首輪に対してアイシャお嬢様に謝罪する。


「いいえ。気にしてませんよ。それよりライナ。シャルローゼ先輩に迷惑かけていないよね?。」


アイシャお嬢様はへの口をまげ。俺に睨みを効かす。

アイシャお嬢様はどうやら俺がシャルローゼ王女の実家で迷惑かけていると思っていたようである。

心外だな。俺は日頃から迷惑かけてないと思うんだが·····。

俺は健全で誠実な竜で通していると自分でも自負している。


「大丈夫ですよ。寧ろ妹のマリスの相手してくれて助かっていますから。」


シャルローゼの唇はニッコリ微笑む。

俺は昨日から今日の学園登校まで付きっきりでシャルローゼ王女の妹であるマリス王女の相手をしていた。ほぼ子守り当然の仕打ちで。レースよりもかなり疲れた。合宿の登校日でも一緒に行くと言って駄々捏ねたくらいである。


「そうなんですか?。ライナ。シャルローゼ先輩の家に預かってるんだからその分の恩返しはちゃんとしてね。」

ギャア······

(はい····。)


一食一飯の恩は果たすけど。正直子守り大変なんですけどね。合宿期間中レース疲れよりも子守りをする疲れが方が増しているような気がする。

俺、一応騎竜なんですけど····。


「それでは首輪は外しますね。」


シャルローゼ先輩はカチャと音を鳴らし俺の長首からメダリオン付きの首輪を外す。

王家のペットの象徴たる首輪をシャンゼルグ竜騎士校内で付けたままにすると。矢張問題があるのだろう。


「それでは私達は少し用がありますのでここでお別れです。帰りは妹のメディアが迎えに来ると思いますので。」

「ありがとうございました。」


アイシャお嬢様はお礼を言ってシャルローゼお嬢様み(王女)とわかれる。

アイシャお嬢様と西門からシャンゼルグ竜騎士校の校舎にむかう。


「そういえばライナ、メディアってどんな人?。」


アイシャお嬢様(王女)の妹である第二王女、メディア王女のことを尋ねる。確かにメディア王女とアイシャお嬢様は面識なかったな。


ギャアラギャアガアギャアギャアラギャアガアガギャギャア

(えっと、銀髪レイヤーショートのプリンセスDynamite‼️です。)


俺は簡潔に解りやすく説明する。


「銀髪レイヤー?プリンセスDynamite?。」


全然通じておりません。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアギャ

(身なりが鎧纏っていて騎士のような人です。多分シャンゼルグ竜騎士校の竜騎士科に在籍しているのでないかと。)


俺はメディア王女の容姿と性格を詳しく説明する。


「竜騎士科か····。シャンゼルグ竜騎士校にはアルビナス騎竜女学園に違って竜騎士科があるんだよね?。竜騎士を育成するための学科だってパールから聞いたよ。殆ど男子生徒だけで少数に女子生徒もいるって。後、王族直属の近衛騎士団である薔薇竜騎士団を育成するための特待生専用の科もあってそこは全員女子生徒らしいよ。」

ギャア~ギャアラギャア

(へえ~。そうなですか。)


特に竜騎士科の男子生徒に興味ある訳ではないが。シャンゼルグ竜騎士校の令嬢生徒に我が竜の背中に乗せる機会があるならば楽しみではある。

ただ王都ではノーマル種か風当たりが悪いことに少し不安を覚える。

嫌われないだろうか······。


西門から流れる路を進み。ノーマル種のライナとアイシャはシャンゼルグ竜騎士校の校舎へと歩みを進める。


     シャンゼルグ竜騎士校

         正門


「ふう、着いたな。」


トレーニングついでにメディアは正門に到着する。竜騎士科に在籍していると言っても名目である。竜騎士科で竜騎士として学んではいるが。メディア・シャンゼベルグ王女には自分専用の騎竜を持ち合わせてはいない。竜騎士として精神と学は学んでいるが。王女としての立場もあり。他の竜騎士とは異なり竜騎士として励んでいるわけではなかった。

姉であるシャルローゼは次期王になる立場でありながら騎竜乗りを目指し。相棒である絶帝竜カイギスと一緒にレース巡りまでしていた。今はあの狂姫である学園長が在籍するアルビナス騎竜女学園の入学まで果たしたのだから少し羨ましいとは思う。


「あら?メディア様。おはようございます。」

「今日もせいが出ますねえ。」


制服を着た令嬢生徒が気さくに声をかける。しかしシャンゼルグ竜騎士校の騎竜乗り科との着ている制服とは少しちがった。どちらか言えば竜騎士科のブルーがかった制服と似ていた。


「ああ、朝のトレーニングを城から登校するのが日課になっているからな。」

「お供つけずに凄いですね。メディア王女。流石は王国一の剣の使い手です。」


ブルーの制服を着た令嬢生徒は素直に感心する。


「そんな肩書き私にとって意味はない。」


剣の腕ばかりを磨きかけ。いつの間にか王国一の剣の使い手となってしまった。しかしメディア王女は王国一の剣士となっても王族としての束縛から抜けることは出来ないと己の人生を諦めていあ。


「そんなことはありませんよ。私達なんて竜騎士科に在籍していると言っても肩書きだけですから。」


ブルーの制服を着た令嬢生徒は竜騎士科であった。少数在籍しているが。竜騎士としての活動はしているわけではない。貴族としての建て前だけでただ単に竜騎士科に在籍している者もいる。竜騎士科に卒業したら即嫁入りか。家業を継ぐこととなる。騎竜乗り目指す貴族や騎竜乗りの家系の貴族、或いは騎竜乗りの戦績を利用して稼業継ぐものもいたが。その殆どは騎竜乗り科に在籍している。竜騎士科に在籍する貴族の令嬢生徒達は騎竜乗りも竜騎士も目指してはいない。殆どが貴族としての立場や建前だけで在籍しているものが殆んどだ。故に竜騎士科と騎竜乗り科のいがみ合いにも縁がなかった。


「お前たちも苦労しているのだな。」

「メディア様ほどではありませんよ。」


お互い家庭の事情に同情する。


「メディア様。ご一緒に通いませんか?。私達竜騎士科と騎竜乗り科のあのピリピリした空気が嫌で嫌でたまらないんです。」


竜騎士科に在籍する令嬢生徒達は毎日の竜騎士科と騎竜乗り科のいがみ合い言い争いに疲弊していた。


「あいつらまだやっているのか?。いつまでお互いいがみ合うんだ!。どちらが王国に貢献しているかなんて馬鹿馬鹿しいだろうに!。」


メディアの細い銀の眉をつり上がり憤慨する。

竜騎士科と騎竜乗り科のいがみ合いの原因はどちらが王国に貢献しているかというのが発端であった。竜騎士は命をかけて戦い。王国を守護する。そして騎竜乗りはレースで戦績を積んで王国に貢献する。その違いにどちらが王国のためになっているかとシャンゼルグ竜騎士校の竜騎士科と騎竜乗り科の生徒がお互いいがみ合い争い始めたのだ。メディア王女は王女としてどちらも下らないと思っていた。竜騎士は命をかけ全力で王国を守ってくれるし。騎竜乗りは姉のようにレースに連勝し続け。世界中から国の評価を上げている。どちらも王国のために貢献しているのだ。どちらが王国に貢献してるかなど王族として王女として実に下らないとメディア王女は本気で思っていた。


「ここまで長続きするなら父上に進言することを念頭に入れなくてはならないな。」


このまま竜騎士科と騎竜乗り科が仲が悪くなりつづければ王国の治安にも関わる。

早急に解決しなくてはならない。


「お願いしますね。メディア様。私達は静観することしか出来ませんから。」


板挟み状態のシャンゼルグ竜騎士校の騎竜乗り科に在籍する少数の令嬢生徒は王族であるメディア王女に懇願する。


   シャンゼルグ竜騎士校校舎前


西門から徒歩でやっと校舎に到着した。塀に囲まれた東地区まるまるシャンゼルグ竜騎士校の敷地であって距離がかなりあった。運動場やレース場、訓練所を通ってやっと敷地のど真ん中にあるシャンゼルグ竜騎士校校舎に到着したのである。西門だからといって校舎まで距離ありすぎだろう。正門からもかなり距離あるし。北の方面にあるという裏門からも距離がある。どんだけ歩きゃいけないんだと思ったら自分は飛べたことに気付く。飛んでいけば早かったのではないかと思えたが他行の騎竜が他所の学校の敷地を勝手に飛行するなど矢張問題になるだろうかと完全に諦めた。


シャンゼルグ竜騎士校の校舎の少し前には人集りが出来ていた。よく見ると一年のクラスだけの集まりのようである。


「あっ!?。アイシャ。」


真珠色の髪と瞳をするパールお嬢様がアイシャお嬢様に気付き嬉しそうに駆け寄る。

続いてスカーレット赤髪レインお嬢様も現れる。


「あれ?、パールどうしたの?。」


アイシャお嬢様は不思議そうに首をかしげる。


「私達一年のクラスだけシャンゼルグ竜騎士校に早く来てしまったの。他の二年三年先輩はまだ来てなくて。先生から指示された集合場所がシャンゼルグ竜騎士校の校庭なんだけど。みんな初めての合宿で不安でシャンゼルグ竜騎士校の校庭に踏み入れられずにいるのよ。」

「まあ、騎士乗り科だけではなく。竜騎士科の男子生徒もいるからなあ。気兼ねするのは仕方ないのかもしれないわ。」


騎士系の貴族でもあるレインお嬢様は腕を組む。


「ライナ、おはようございます。」

「顔を見ぬことができぬて心配したぞ。」


メイド姿の青宮玉竜レイノリアと情熱的なタンゴドレスを着る炎竜ガーネットが挨拶をする。


ギャアラギャアガアガアギャアラギャアギャアラギャギャ

(おはよう。シャルローゼ先輩のとこで何とかやってるよ。)


お城の中でやっかいになっているなんて言いづらい。


「ああ~ん♥️。お逢いとうございました。ライナ様。」


だきっ すりすりすり


ギャギャアラギャアガアガアギャアラギャアギャ!ギャアラギャアガアギャアラギャ‼️

(ん、マーガレットお嬢様さんもお元気そうで、て!過剰に身体をすりよせないで‼️。)


大衆の面前など関係無しにマーガレットお嬢様は相変わらず俺に身体を擦りつけてくる。色々恐いです。


「ライナ様、おはようございます。」


メイド姿の至高竜メリンは丁寧に俺に挨拶する。


ギャ ラギャアガアガアギャアラギャアギャアガアガギャアラギャアギャアガアガアギャア

(おはよう。メリン。て言うか貴方の主人何とかして欲しい。人目もあるので。)

「はい、了解致しました。お嬢様行きますよ。」


ずるずるする

至高竜メリンは手慣れたように主人を俺から引き離す。引っ張りながら離れていく。


「ああ~ん♥️ライナ様~!。」


何かメリンがだんだんと主人の扱いに手慣れて来ているような気がするんだが。


「マウラ。何かライナ、元気そうだね。寮に泊まるところなくて心配したけど。」


アイシャの従姉妹にあたるセーシャ・ギルギディスはライナが無事に寝泊まりできるところができて安堵する。


「そうですね。お城で悲惨な目にあえば良かったのですけどね·····。」

「マウラ······。」


冥死竜マウラの冷ややかで辛辣な態度にセーシャは苦笑いを浮かべる。



周囲の一年のアルビナス騎竜女学園の令嬢生徒達は不安そうにそわそわしている。よく見るとキリネがいない。姉のセシリアお嬢様と一緒なのだろうか?。


「ああ、どうしましょう?。他校の校舎に男子生徒が一杯ですわ。」

「緊張しますわ。竜騎士科の男子生徒とは逢うの私、初めてですの。」

「私もですわ。」


初めての他校の合宿でしかも竜騎士科の男子と触れあうことにアルビナス騎竜女学園の令嬢生徒達は緊張した面持ちで前に出れないでいた。


「私は初めてではないのだけどね······。」


商家のハーディル家のご令嬢であるパトリシアお嬢様はパープルの髪を揺らす。パープルの薄紅染めた小さな唇が優雅に微笑む。隣には盲目のように瞳を閉じた黒眼竜ナーティアも控えている。キリネと同じ落第の問題児であったパトリシアお嬢様も他校の合同合宿には何度か参加した経験があるようだ。


「本当ですの?。私達、竜騎士科の男子生徒とどう対応していいか解らないのですの!。」

「男子生徒だなんて。うちの女子校だから怖いですわ!。」

「是非エスコートお願いしますわ!。」

「男男男、男漁りするわよ!。」


アルビナス騎竜女学園の令嬢生徒は口々にパトリシアお嬢様に不安を訴える。

て言うか最後の台詞、魅華竜のような性格の令嬢生徒交じってないか?。


「はあ~、解ったわよ。私が先に校庭に入るからついてきて。」


令嬢生徒に後押しされ。パトリシアお嬢様は大きなため息を吐く。


仕方なくパトリシアお嬢様は初めて合同合宿参加する一年令嬢生のために先陣を切ることにした。


「ふええ、き、緊張します。」

ふわふわ

「別に緊張するほどのことでもないでしょうに。」

グ~グ~


カリスお嬢様とアーニャお嬢様は二人ともいつもの様子である。地土竜モルスは器用に眠りながらついてきている。弩王竜ハウドに関しては····何でこっち眼見すんの?。怖いんですけど······。

弩王竜ハウドはまるでターゲットをロックオンするかの如くじっと俺のことを激しく凝視してくる。


アルビナス騎竜女学園の一年の令嬢生徒達はシャンゼルグ竜騎士校の広い校庭にはいる。自分達の姿がシャンゼルグ竜騎士校校舎の窓から筒抜けである。校舎の窓際にはブルーの制服を着た男子生徒やピンク色の制服を着た女子生徒が群がっていた。多分ブルーの制服着た男子生徒が竜騎士科であり。ピンク色の制服着た女子が騎竜乗り科なんだろうと俺は予想をつける。

俺とアイシャお嬢様も一年の列の後に並んで校庭に入る。


「おい!、観ろよ!。まじでノーマル種を騎竜にしている生徒がいるぜ!。」

「本気(まじ)か!?。あり得ねえ!。ノーマル種なんか竜(ドラゴン)の中でも最弱中の最弱じゃねえか!。」

「やだねえ。ノーマル種を騎竜にするなんて。貴族としてプライドないのかよ!騎竜乗りは。」

「騎竜乗りは最低だな!。」

「やっぱ、騎竜乗り科よりも竜騎士科だよなあ~!。」


突然青い制服の竜騎士の令息生徒が捲し立てるかのように俺とアイシャお嬢様を嘲笑しながらけなしてきた。次々に校舎の窓際から令息生徒がまるで俺とアイシャお嬢様を矢面に立たせるかのように嘲り罵倒し罵しってくる。

確かに王都ではノーマル種が風当たりが悪いことは理解していたが。だけど主人であるアイシャお嬢様まで一緒に馬鹿にし。笑い者にしてくるのはどういことだ?。



「なんですの!?。ライナ様を馬鹿にするなんて!。いい加減にするのですわ!。」


ぷんすかぷんすか

マーガレットお嬢様は竜騎士科の男子生徒に俺が馬鹿にされたことを憤慨する。


「何なんだ?。こやつら!。正気か!?。」

「一体何でこんなことをするのですか?。」


炎竜ガーネットも青宮玉竜レイノリアも竜騎士科の男子生徒の暴挙に困惑する。


「何であの娘。ノーマル種なんか騎竜にしているのよ····。」

「信じらんない····」 


ピンク色の制服を着た騎竜乗り科の令嬢生徒達は不快げに表情が歪む。陰口を叩きながらアイシャお嬢様を責めたてるような冷たい眼差しを送る。


「········。」


アイシャお嬢様は深く深く顔を下に俯いていた。表情が窺えないほど暗く暗く顔を隠している。

俺は目の前の合宿相手である王都のシャンゼルグ竜騎士校の生徒達にどう行動対応すべきか迷う。

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