第225話 諍い

「それじゃ、ライナ。シャンゼルグ竜騎士校までこの首輪を付けて下さいね。」


ガチャ

合宿登校日、城門前でシャルローゼお嬢様は俺に大層な紋章を刻まれたエンブレムようなメダリオンの首輪をつけられる。何か金メダルをつけているような気分である。


「どう?。」


シャルローゼお嬢様は首輪を付けた俺に感想を求める。


ギャ··ギャギャア·····

(な、何も言えねえ····。)


涙めにはなっていないが。俺は感動にうち震えるような感じでシャルローゼ王女様に告げる。


「はい?」


シャルローゼお嬢様は俺が意味不明な言葉を投げ掛けたせいで困惑顔で首を傾げていた。


ギャ、ガア、ギャアラギャギャアラギャアガアギャアラギャラギャア ガア

(あっ、いえ、すみません。とある偉人の名言、名台詞なので。はい。)


俺は言い訳まがいに弁明する。

前世の世界での金メダリストの名言、台詞だと説明しても理解出来ぬだろう。


「そうなのですか。」


シャローゼ王女は一応納得してくれた。


「アイシャさんとは西門前で待ち合わせしております。行きましょうか。」

はい。

(ギャア)


俺はシャローゼ王女様と相棒の絶帝竜カイギスと一緒にシャンゼルグ竜騎士校の西門へと向かう。

 


     シャンゼルグ竜騎士校

        学園長室


「はあ~、何てことなの。」


机の上でシャンゼルグ竜騎士校のジオニ学園長は悩ましげに机の上で頭を抱える。


「まさか狂姫ラチェット・メルクライの弟子が本当にノーマル種を騎竜にする生徒だなんて。」


ジオニ学園長は同期であった狂姫ラチェット・メルクライの軽いジョーク、冗談だとおもっていた。


「ノーマル種を騎竜にする生徒なんてどう見ても我が校の火種にしかならないのに。狂姫ラチェット・メルクライ!!。引退してでもトラブル寄越さないでよ!!。」


バン!!

ジオニ学園長はヒステリックまがいに机を強く叩く。

ここにいないアルビナス騎竜女学園の学園長、狂姫ラチェット・メルクライに対してジオニ学園長は非難と罵声と愚痴を吐きまくる。

ジオニ学園長の隣でマキシ・マム教頭はくいと冷静に眼鏡を上げ口を開く。


「今シャンゼルグ竜騎士校では竜騎士科と騎竜乗り科の間でとある問題を抱えていますからね。そこに他校のノーマル種を騎竜にする生徒が加われば····。」

「確実にトラブルが起こるわよ!。あ~もうどうすればいいのよお~~!!。」


ジオニ学園長は頭をくしゃくしゃして激しく悶える。

今シャンゼルグ竜騎士校ではとある問題を抱えていた。竜騎士を育成する竜騎士科の令息生徒と騎竜乗りを育成する令嬢生徒の間で問題をかかえている。その問題にジオニ学園長はいつも頭を悩ませていた。それなのに昔の学生時代で同期である狂姫ラチェット・メルクライは更に余計なトラブルを寄越してくれたのだ。それがジオニ学園長の頭を更に苦悶にするほど悩ませる。

いつも若い頃のラチェット・メルクライに手を妬いて気苦労させられたけれど。大人になっても苦労させられたらたまったもんじゃない!。

ジオニ学園長は穏便に合宿期間がすむこと切に願った。

しかしその切なる願いもこと如く打ち砕かれることとなる。


    シャンゼルグ竜騎士校

       1年教室


一年教室内ではクラスが皆そわそわしていた。これから他校との合宿訓練があるのだ。二年三年生は初めてではないが。一年は全員初めてで他校の生徒とのレースをすることに緊張している。教室には令嬢生徒だけでなく男子生徒でもある令息生徒もいた。彼等は将来有望な竜騎士を目指す竜騎士科である。しかし騎竜乗り科の令嬢生徒と竜騎士科の令息生徒の間にはとある溝が出来ていた。互いに距離を置いては時にはいがみ合い睨みあっては口喧嘩もする。


「フェニス、どんな娘がいるでしょうか?。」

「さあ、興味ないわ。」


おしとやかな雰囲気を醸し出す一年の騎竜乗り科の令嬢生徒オリン・ナターシスは他校との合宿訓練が楽しみにしていた。

彼女の相棒でもあるオレンジ色のウェーブ髪の騎竜の娘はぶっきらぼうに返す。オリン・ナターシスの相棒、鳳凰竜フェニスはとっても希少な鳥形の竜(ドラゴン)である。不死の能力を持つ稀有な竜であり。性格は素直ではないこと。その証拠にフェニスのオレンジ色の鶏冠の髪にあたる一本のアホ毛がぴんぴんと興奮したように伸び縮みする。


「楽しみ····。他校にノーマル種を騎竜にする生徒がいると聞いた·····。」


少し小柄の黒髪の令嬢生徒が話しかける。


「ノーマル種を騎竜にですか!?。もしそれが本当でしたら大変です!。」


今、騎竜乗り科と竜騎士科はとある問題を抱えている。もし他校の生徒にノーマル種を騎竜にする生徒がいたなら必ず一悶着が起こる。


「冗談ですよ。オリン様。真に受けないで下さい。ラム。根も歯も無い噂を信じちゃいけませんよ。」


ラムの相棒である騎竜、魔剣竜ホロホスは静かに叱る。


「嘘じゃないのに······」


ラムは不服そうに頬を膨らませる。


「他校と合宿かよ~。お前らも忙しいなあ。はっはっ。」


会話を聞いていた竜騎士科の令息生徒が冷やかすように二人をせせら笑う。


「······。」

「ラム、構わないでね。私達は静観を決め込むと決めたんだから····。」

「解ってる·····。」


二人は竜騎士科の令息生徒の冷やかしを無視する。


「ちょっといい加減にしてくれる!。竜騎士科。いちいち私達に絡まないでくれないかしら。これだから竜騎士科の連中は品性の欠片もないのよ!。それでもシャンゼルグ竜騎士校誇る竜騎士候補生なのかしら?。ああ、いやだ、いやだ。これだから竜騎士科の連中は。」

「何だとっ!?。」


竜騎士科の令息生徒は挑発めいた騎竜乗り科の令嬢生徒の煽りに凄い剣幕でいきり立つ。


「何よ!。」

「何だ!?。」


お互い憎々しげに睨みあう


「はあ~、何でこんなことになってしまったのでしょうか。前はそんなに仲が悪くなかったのですが····。」


今の竜騎士科の令息生徒と騎竜乗り科の令嬢生徒は仲が悪い。前はそんなんではなかった。とあることが原因で仲が悪くなってしまったのである。

オリン・ナターシスは深いため息を吐いた。


     シャンゼルグ竜騎士科

        二年教室


「シーシス。今日から他校と訓練がはじまるのですね。」

「そのようですね。」


二年騎竜乗り科のソリシラ・マスタートとシーシス・マザラーは互いにおしゃべりする。

二年の教室内でも竜騎士科と騎竜乗り科がいがみ合い言い争ってはいたが。二人は素知らぬ顔でスルーしている。教室内の流れるピリピリとした空気も二人には一切関係はなかったようだ。


「私は救世の蒼き竜に日々お祈りを欠かせません。それこそ我が神竜聖導教会の信仰なのですから。」

「熱心ね。」


ソリシラは素直に感心する。

二人は坦々と自分達の身の上話で花を咲かせていた。


「二人は何でこんなピリピリとした空気の中、普通に振る舞えるんだ?。つくづく謎だ。」

「それはきっと二人の心が澄んだ水面のように清らかなのですよ。きっと·····。」


ソリシラとシーシスの相棒であるレア種、磁電竜オロスと聖光竜クリストファーが二人の会話を観察している。二匹の人化した姿は角を生やした美形の男性である。人間の女子からも騎竜のメスから人気がある。


いや、清らかというか······。もしかして?うちの主人達は空気読めないのではないか?。そんな二人の主人の会話に美形の人化する磁電竜オロスは不安を覚える。


    シャンゼルグ竜騎士校

       三年教室


三年教室内では竜騎士科の令息生徒と騎竜乗り科の令嬢生徒は喧嘩どころか顔を合わせない状態である。顔合わせるのは授業を受ける時だけである。それ故三年教室内はガランと静まり返るほど空いていた。


しかし一人三年教室内で佇む艶のある濡れ鴉のような色の長い黒髪を流す和風美人の令嬢が何か気にする素振りをみせながら時折窓越しの外を誰を探すようにチラ見する。


「蛍、まだかしら?。」

「もうすぐでございます。咲夜様。兄上との連絡は既にとっております。」


和風美人の隣には和風の着物を着た角を生やす黒髪おかっぱ頭の少女が主人である準々に奉仕している。


「そうですか·····。楽しみですね····」


和風美人の令嬢の紅色の唇がほんのりと微笑みを浮かべる。



    シャンゼルグ竜騎士校

      公園ベンチ



「ラウラ、どうしたらよいのでしょうか?。」


シャンゼルグ竜騎士校の敷地にある公園ベンチで二人の令嬢が相談しあっていた。一人は長い高貴で上品そうな濃い目の金髪を流す令嬢ともう一人は勝ち気そうな茶髪と赤目のツインテールをした令嬢である。二人の一人は深刻そうにもう一人それを励ます。


「まだ竜騎士科と騎竜乗りの間の事を気に病んでいるの?。どうにもならないじゃない。エネメリス。貴女は確かにこの学園では最強の騎竜乗りでもあり騎竜乗り科を束ねるリーダーであるけれど。ふたつの諍いを止めることなんてできないわよ。」

「ゼクスが割って入ってくれればすむ話なのですが·······。」


エネメリスは困った顔で眉を寄せる。


「無理無理!。あいつは自分より強い奴にしか興味ないもの。戦闘ジャンキーよ?。諍い止める玉じゃないわ。諦めなさい!。」


エネメリスの幼なじみでもあり。実質竜騎士科のトップであるゼクスはそういった内輪揉めに一切興味はななかった。


「はあ~、誰かうちの生徒達を一致団結させてくれる人が現れないかしら?。」

「それを言うなら最早あの神足る竜の争いを止めた救世の騎竜乗りの領域よ。諦めなさい。」

「はあ~。」


二人の令嬢は双方の科の諍いが止まらないことに思い悩んでいた。


     シャンゼルグ竜騎士校

      特待生専用特別室


一際大きな教室に真っ白な純白の竜がいた。純白の竜は校庭の見える窓際で主人である令嬢に熱心に長い尻尾をブラッシングされている。尻尾は薔薇の紋様を刻んだような奇妙な鱗をしていた。それを気持ち良さげに純白の薔薇模様の鱗をした竜(ドラゴン)は身をあずけている。


「今日のマリアンも艶がある良い輝きですわ。」

「全くです。」


取り巻きは彼女の竜を称賛する。


「そう言えば今日は騎竜乗り科の合同合宿ですわ。」

「そうなのですか?。でも私達薔薇竜騎士団候補生には関係ない話ですね。」


薔薇竜騎士団は王族直属近衛騎士団である。その候補生でもある彼女達は王族からも王侯貴族からも有望視されている。竜騎士科と騎竜乗り科など関係なく。将来王族に仕える為の薔薇竜騎士団は科目は特別授業を受けている。

なので竜騎士科と騎竜乗り科とはそれほど接点はなく。竜騎士科と騎竜乗り科の諍いも彼女達候補生には関係がなかった。


「マリアン。誰からも恥じない姿で綺麗にブラッシングしますわ。」

『···········。』


純白の薔薇模様の竜は無言のままくつろぎながらも透き通る青い竜瞳を窓の外から校庭に向けて覗き込んでいた。



     シャンゼルグ竜騎士校

         屋上


ひゅう~~

風が流れる屋上の入り口の凹凸の上であぐらをかく青年がいた。隣には何故か人化していない竜が青年の後ろで横になり屋上から登校する生徒達を観察している。


『そう言えばゼクス、今日から騎竜乗り科の合同合宿訓練が始まるんだな。』

「········。」


ゼクスの思念の言葉に特に興味なさげにつまらなさそうな視線を生徒が登校する校庭へ向ける。


『強い奴はいるかなあ?。』 

「ザイン、興味ない····。」


ゼクスはぶっきらぼうに返す。


『おいおい、あの弓姫もくるんだから少しはやる気だせよ。』


弓姫とはシャルローゼ王女に対してのシャンゼルグ竜騎士校の愛称でもある。


「だからなんだ。レースでちまちま戦うより俺は純粋な戦いをしたいんだ。レースは騎竜乗りで充分だ。」


騎竜乗り科とは時折授業が一緒になったりする。そのつど競争やレースまがいのことをさせられるが。ゼクスにとってはそれはあまり面白くなかった

竜騎士科最強であるゼクス・ジェロニクスはレースの戦闘には興味がない。彼の望むものは純粋な戦闘、体と体のぶつかりあいである。闘技タイプとも言える。


『ゼクスの好き嫌いには困ったものだ。俺としてはレースでも闘技場の戦闘でも強い奴と戦えるなら問題ないんだがなあ。』


ゼクスの相棒無双竜ザインは強者を求めていた。強者とやり合うことこそが彼の特性であり習性である。

しかし主人である竜騎士科の最強の男は競争、レースに関して断然やる気がない。


『まあ、合宿の騎竜に強そうな騎竜がいるといいなあ。』


そう言うと無双竜ザインは竜瞳の鋭い瞳孔を細め。校庭を登校する生徒と騎竜を目配せして品定めを始める

その無双竜ザインの姿は甲冑を着たような鱗に覆われた武装した甲殻の姿をしていた。




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