第224話 女子寮にて
シャンゼルグ竜騎士校
女子寮三人部屋
アイシャ、パール、レイン
アイシャはライナをシャローゼ先輩に預け。一先ず女子寮の部屋でくつろいでいた。女子寮は広く。騎竜(人化)専用の部屋まである。アイシャは親友であるパールとレインと一緒の相部屋となった。三人位余裕で生活できるスペースがある。
三人はネグリジェ姿に着替え。明日の合宿に備える。
「ライナ、大丈夫かなあ?。シャローゼ先輩に迷惑かけていなければいいけど。」
アイシャはライナが迷惑かけていないことがほぼ無いので心配だった。
「大丈夫よ。アイシャ。シャローゼ先輩なら責任持ってライナのことを面倒見てくれるわ。」
真珠色の髪と瞳した親友のパールはアイシャを強く励ます。
「ま、ライナのことだから何処でも生活できると思うわよ。見てのとおり神経図太そうだし。」
スカーレット赤髪短髪のレインは腰に手をあて問題ないとアイシャに促す。
「だから心配なの!。ライナ絶対余所様の家で迷惑かけているに違いないよ!。断言できるもん!。」
アイシャはふくめっつらで自信満々に親友二人に告げる。
「そんなことないとおもいますけど?。」
「そうよ。ライナのこと信じてあげなさいよ。」
親友の二人は懸命にアイシャを宥める。
「いや、絶対迷惑かけてる!。ライナなら絶対そうする!。」
「······。」
「······。」
パールとレインはあまりにもアイシャの強情さに言葉を失う。
ここまで信用していない相棒の騎竜はどうなのだろう?と二人はそんな想いが過る。
マーガレット、カリス、アーニャ
三人部屋
「ああ、ライナ様と一つ屋根の下で住めなくて残念ですわ。」
ネグリジェ姿で金髪ロールがしおしおに落胆する。
「一つ屋根の下って。住めてもライナは竜舎でしょうに。」
カリスは呆れ顔に落ち込むマーガレットに言葉を返す。
「そんなことは関係無いのですわ。竜舎であろうとライナ様と一緒なら問題ないのですわ!。」
ぷるん
マーガレットは胸をつきだし堂々と言い張る。
この娘もしかしてライナと女子寮で寝泊まり出来ていたら竜舎で一緒に寝るつもりだったんじゃ····。カリスはそんな嫌な予感がした。
「ふえ~!。シャンプーと石鹸何処ですか~!?。」
ふわふわ
アーニャは初めて合宿で寝泊まりする部屋の浴室で戸惑っていた。
「アーニャ。そこの戸棚に石鹸、シャンプー入っているから。」
手間がかかる親友にカリスは献身的にお世話を始める。
パトリシア、リストルアネーゼ、ルゥ
三人部屋
「るぅ~すーすー。」
長い尻尾をを揺らし。白い獣耳を閉じベッドの上で寝息をたてている。騎竜船の航行で疲れがたまり。ルゥはベッドの上で深い眠りについていた。相棒であり保護者でもあった緑森竜ロロと一緒になれず暫しふて腐れていたが。森で交流を持っていたエルフのリストルアネーゼの献身的な宥めで機嫌を戻し。三人部屋にあるベッドの上で安眠している。
「るぅ~むにゃむにゃ。」
心地よさそうにルゥは眠っている。
「何とかライナが寝泊まり出来る場所が確保できて良かったわね。」
「そうですね。一時はどうなるかと思いました。」
パープル色の髪と瞳と薄紅を染める小柄な令嬢パトリシアは部屋の椅子にもたれ掛かりくつろいでいる。
琥珀色の髪と透き通る色白の肌をしたエルフのリストルアネーゼはお風呂あがりに化粧台で櫛をつかって髪をとかす。
「それにしてもシャルローゼ王女がライナを預かるなんてね。」
「あのかたは責任感が強いですから。」
「でも大丈夫なのかしら?。お城でもノーマル種の待遇は冷たいと思うのだけれど。」
「そうなのですか?。でもマーヴェラス家の騎竜であるなら無下に出来ないかと。それでも無下にすると言うならふふ、私達も黙っていませんけどね。」
化粧台から突然発したリストルアネーゼの一言にパトリシアは一瞬ひやりと寒気を覚える。
「ちょ、怖いこと言わないでよ!。貴方達が出ばると状況がより悪くなるんだから。」
パトリシアは焦りだす。
「冗談ですよ。」
リストルアネーゼはニッコリと微笑む。
本当に悪い冗談である。エルフ族の王朝まで絡むとより状況が悪化する。何せエルフ族はマーヴェラス家の神足る竜プロスペリテを神聖視している。神竜聖導教会ほど激しくはないが。エルフ族にとって神足る竜は特別な存在なのである。その担い手でもあるマーヴェラス家一族を蔑ろにしようものならエルフ族の王朝も黙ってはいない。一歩間違えれば戦争にもなりかねないのだ。
「本当に心臓に悪いわよ····。」
パトリシアははあと深い溜め息を吐き胸を撫で下ろす。
セシリア、キリネ、イーリス
三人部屋
「何で一年の僕が姉さんと同じ相部屋になるんだよ。おかしいだろ!。さては姉さんの差し金だな!!。」
キリネは美少年ぽい顔が激しくいきり立つ。
「ふふ、さあ、どうかしらね。」
「·······。」
キリネは憤慨する。落第はしているが。一年である自分が何故か二年である姉のセシリアと同じ部屋にぬり。しかも二年であるイーリス先輩と同じ相部屋になるのは矢張おかしい。サウザンド家の権力で関わっているに違いない
「ああ~あ。それにしてもライナがシャルローゼに預かられるなんて。」
キリネはライナが寝泊まりできる場所見つかって良かったが。よりによって三年のシャルローゼ先輩の実家に住むことになるとは思いも寄らなかった。シャルローゼの正体は7大貴族であるセシリアとキリネは既に知っている。イーリスも事情を親友のセシリアから聞かされていたが。特に興味がないので本人はスルーしている。イーリスは室内でありながらもネグリジェ姿で無言で剣の素振りの練習をしていた。
「シャルローゼ王女でしょ。それか語尾に先輩を付けなさい。」
「どっちでもいいじゃないか!。それよりも姉さん。ライナと逢いずらくなったじゃないか!。ライナは今はお城の中だよ。遊びにも行けやしない。」
キリネはふて腐れたようにごもくそをたれる。
「あら?私達は腐っても7大貴族でしょうに。いつでも逢えるじゃない。」
セシリアはなまやさしげな視線を妹であるキリネに送る。
「姉さん···まさかっ!?。」
キリネはたらりと冷や汗が流れる、顔色がさあーと血の気が引いた。。
いち早く姉が何を企んでいるのかをキリネは気付いてしまったからだ。
「当然お城ではすっぴんで行くのよ!。男装はNG。髪と瞳も元の色にもどして正装であるドレスで行きなさい!。」
「そんな~~!?。」
キリネは絶望感丸出しの嫌そうな顔を浮かべる。
「ライナに逢いたいんでしょう?。それくらい我慢しない。」
「くっ、し、仕方ない···か·····。」
キリネは肩を落とす。不本意だがライナに逢うためである。キリネは観念して正装の姿になることを決める。キリネにとっては女装に戻るのは久方ぶりである。
「········。」
ぶんぶん
室内では二人の会話など関係なくイーリスはマイペースに無言でネグリジェ姿で剣をふり続ける。
騎竜専用部屋
三人部屋
ガーネット、レイノリア、ロロ
「う、う~ん。」
「大丈夫ですか?。ガーネット様。今癒しますね。」
ガーネットは未だ船酔いが覚めていなかった。ベッドの上で苦しそうにしている。
人化しているロロが何かを詠唱すると緑色の森の精気が集まりだす。
「光合成(フォトシンセシス)。」
ぽわああああ
ガーネットの身体に淡い緑色の光が包む。ガーネットの酔いに悩まされた苦しい顔がスッと清々しいほど穏やかな表情へと変わる。
ガーネットが気分よくベッドから起き上がる。
「すまぬ。ロロ。助かった。」
「いいえ。」
ロロはガーネットのお礼にニッコリと微笑みで返す。
「それにしてもライナは三年シャルローゼという人間の先輩に預けられてしまったな。」
「そうですね。それは致し方ないことかと。」
シャンゼルグ竜騎士校に竜舎ない以上。三年のシャルローゼ先輩が預かることになり。本当に良かったと思っている。
「だがこれではライナとはシャンゼルグ竜騎士校しか逢えなくなってしまったではないか。レイノリアをそう思うであろう。」
「そ、そうですね····。」
「む?なんだその反応は?。」
ガーネットはレイノリアの不満のない態度に違和感を覚える。レイノリアはライナと密かにデートの約束を取り次いでいたのだ。なので合宿の間で逢えなくても不満はなかった。ガーネットの疑わしき竜瞳の視線をレイノリアは素知らぬ顔でシラを切り通す。
騎竜専用部屋
ラナシス、モルス、ハウド
「お腹減った~。」
大人の人間の女性の姿をした地土竜モルスはお腹をグ~グ~ならしながら寝そべっている。
「寝たいのか食べたいのか。どちらかにしたらどうですか。」
小柄の青髪の少女の姿をした弩王竜ハウドは椅子に腰掛けペラペラと読書にいそしながら口を出す。
「ここ、食べ物用意されてないよ。ハウド。」
「そこまでサービスする義理はないでしょう。寮の食堂に行ったらどうですか·····。といっても場所は解らないか。」
ハウドは本を閉じて困ったように眉を寄せる。
「私が何か作りましょうか?。キリネのために料理はたしなんでおります。丁度魔冷庫に食材が入っておりますし。キッチンもありますから。」
魔冷庫は氷の魔石を使った冷蔵庫のようなものである。
「感謝します。ラナシス。」
ハウドは素直にお礼を言う。
「いいえ、いつもキリネの面倒みているので正直じっとしてられないのですよ。」
相棒であり保護者でもあり母親がわりでもある幻竜ラナシスはお世話することには苦にはならなかった。
「わあ~い。食べ物が食べれる。」
寝そべっていた地土竜モルスはベッドから飛び起きて喜ぶ。
「モルス。食事をしたいなら手伝いなさい。」
「えっ?ハウドそれはないよ~。」
大人の女性の姿をしたハウドは左右に身体を嫌々と言いながら揺らす。それと同時にハウドの豊かな胸も左右揺れる。それを鬱陶しそうにハウドは流し目を送る。
「食べ物にありつけたければそれ相応の対価を払いなさい。」
「ぶう~~。」
「ふふ···。」
地土竜モルスはふくめっつらで頬を膨らませながらも渋々キッチンにいる幻竜ラナシスの料理の支度を手伝う。
ハウドは再び読書しようとしたが。思いとどまったように本を閉じる。好奇心旺盛で探求心があるハウドはシャルローゼ先輩に預けられてしまったライナのことを考える。
「はあ~、ライナと離れてしまっては調べようがない。どうしたものか·····。」
三年のシャルローゼに預けられたライナを弩王竜ハウドはどうにしかして研究解剖できないかと画策していた。
二人部屋
ロゾン、ウィンミー
ロゾンは一人部屋をあてられていた。
テーブルの上に酒の入ったひょうたんから酌に入れて晩酌を楽しんでいる。
「シャンゼルグ竜騎士校か·····。あの方も、もう三年生か····。はやいものだ。蛍も元気にしておるかのう。」
シャンゼルグ竜騎士校に在籍する令嬢生徒と騎竜を剣帝竜ロゾンは考える。
剣帝竜ロゾンは何かを懐かしむように酒をたしなんでいた。
「お嬢にはこの事を伝えるべきかどうか未だ迷うな。いずれ顔を合わせる機会あろう。まあ成り行きに任せるとしようか。」
ロゾンの無精髭の口が何処か寂しげな様子で晩酌を続ける。
「きゃははははは!!。」
「······。」
部屋内で片翼の形をした耳をパタパタさせながら人化している疾風竜ウィンミーが部屋内をはしゃぎまわる。
「ウィンミー。お主は主人と一緒に実家に帰ったのではないのか?。」
ウィンミーの主人であるセラン・マカダインはシャルローゼ同様実家が王都にある。
「きゃはははは。ん?、」
はしゃいでいたウィンミーが足を止め振り向く。
「何かセランが僕だけ寮に預けて。自分は実家ですることがあるからって帰ったよ。」
む?、まさか厄介事を起こすウィンミーを押し付けられたのか?私は。ロゾンはたらりと悪い予感がして額から嫌な冷や汗が流れる。
「きゃはははははっ!!。」
再びウィンミーは寮の部屋ではしゃぎ回る声が響く。
三人部屋
ナーティア、メリン、マウラ
「どうやらあのノーマル種も悪運だけは強いようですね。」
冥死竜マウラは皮肉まじりにノーマル種ライナのことを罵る。
その言葉に黒眼竜ナーティアの盲目のように閉じた瞳の上の眉が不快げに眉を寄せる。
「少し気になったのですが。どうしてそこまでライナのことを毛嫌いするのですか?。貴方は。」
冥死竜マウラのノーマル種ライナに対する態度がいつも冷たく。嫌悪感をあらわすことににナーティアはいつも疑問に思っていた。
「毛嫌い?。貴方には解らないのですか?。東方大陸を牛耳る情報通である商家、ハーディル家なら解っているでしょうに。あのノーマル種はマーヴェラス家の騎竜に相応しくないのですよ。本来あるべきマーヴェラス家の騎竜は別にいるのですから····。」
冥死竜マウラは冷ややかな態度で口を開く。
マーヴェラス家の騎竜。それはつまり神足る竜のことを指しているのだと黒眼竜ナーティアは察した。そしてこのメス竜はマーヴェラス家は神足る竜以外認めないという心情も理解する。
「しかしマーヴェラス家の騎竜は寿命で亡くなってしまいました。その代わりとなったノーマル種ライナのことをもっと評価すべきではないでしょうか?。」
ナーティアは少しむきなり言い返す。
「確かにマーヴェラス家にとって戦績を積みアイシャ様に為にはなっております。しかしノーマル種は所詮ノーマル種でしかありません。どんなに優勝しようとも。どんなに戦績を積もうとも大いなる神の力を秘めた竜(ドラゴン)にはノーマル種など霞んでみえるものです。下等であるノーマル種なら尚更です。」
「そういうことを言っているではありませんよ。ライナの実績を少し評価したらどうですかと言っているのです!。あれほど主人やマーヴェラス家のために頑張っているではありませんか!。」
「だから何ですか?。私はマーヴェラス家のカリスマ性にノーマル種のライナが相応しくないと言っているだけなのですけどねえ?。」
バチバチバチバチ
黒眼竜ナーティアと冥死竜マウラの間に火花が飛び散る。
「あわわわわ、喧嘩は止めて下さいませ。」
至高竜メリンは険悪な二人前になすすべなく慌てふためく。
寮外
ソリティア
「さあ、今日も男もといオス漁りするわよ!。」
王都のイケメンのオス竜を目指してソリティア意気込むように寮の門戸の外へ足を踏み出す。
「無断外出発見!。捕獲します!。」
バッ
突然シャンゼルグ竜騎士校の女子寮から出ようとした魅華竜ソリティアをメイド姿した騎竜に取り抑えられる。
「何よ!。何するの!?。私は今夜王都の街にしけこみオス竜を漁りに行くのよ!。邪魔しないで!!。」
魅華竜ソリティアは激しく掴みかかる騎竜のメイド達に対しもがき非難する。
「魅華竜ですか·····。残念ですが合宿期間中滞在するシャンゼルグ竜騎士校の女子寮では門限がございます。お戻り下さいませ。」
騎竜のメイドにソリティアは強制的に寮に引き戻される。
「ああ~~!。王都のイケメンが~!!。」
魅華竜ソリティアの懇願じみた哀れな悲鳴が女子寮の中まで木霊する。
その様子をソリティアと一緒の相部屋となってしまった妖精竜ナティナーティが部屋の窓越しで冷めたジト瞳しながらながめていた。
「あの色欲竜。あれだけ夜遊び無理だと忠告しておいたのに·····。」
竜種の本能かもしれないがナティは呆れてしまう。
「まあ、あのうるさいよこしま竜も遠くにいってしまったことだし。羽目が外せそうですね。」
ナティは清々しい気分に感じていた。
ライナが他所の人間に預けられてしまったことなど妖精竜ナティは全く心配していなかった。
令嬢生徒と騎竜の始まり合宿1日目が穏やかに過ぎる。
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