第216話 バカンス?
『豊(ユタカ)様おられますか?。』
その声はアルピス様ですか?。お久しぶりです。
俺は心の声で言葉を返す。
女神アルピスは俺をこの異世界に転生させてくれた女神である。女性の胸を背中に押し付て貰える転生先という無茶振りな願いを熱心に快く聞いてくれ叶えてくれた女神である。
『はい、お久しぶりです。全然連絡を寄越さないので心配しましたよ。』
すみません······。
ほぼ激戦と波乱な竜生だったので女神アルピス様の事後報告を疎かにしてしまった。
アルピス様と連絡するつもりだったが。忙しさと疲れですっかり忘れてしまっていたのである。悪いことをしてしまったな····。
転生してもらった手前女神アルピス様には頭が上がらない。
色々ありましてアルピス様に連絡するのをすっかり忘れてしまったんです。
俺は女神アルピス様に事情を説明する。銀晶竜のソーラさんのことや。炎竜族の結婚騒動。人魚族の女王後継のお家騒動など。スフィアマナンのことなど洗いざらい全て話した。
女神アルピスは俺の話すレースの体験談に開いた口がふさがらない様子であった。
『銀氷の精霊に····スフィアマナンって····。豊(ユタカ)様。貴方は一体何になるつもりですか!?。』
何故か女神アルピス様に責めれた。呆れているというよりは俺が人知を越えた力を利用していることに憤慨しているようである。
何か問題ですか?。レース勝利するために貪欲に色んな力や技を得ているだけなんですけど。
俺は女神アルピス様に思念で返す。
ノーマル種である俺は強豪の騎竜に渡り合うには色んな技や力を身につけなければならない。銀晶竜ソーラさんに受け継がれた銀氷の精霊も神足る竜が扱ったとされる万物の世界の力の一部であるスフィアマナン(世界の通り路)でさえも利用できるのなら利用する。なりふり構ずいってられないのだ。元々底辺で無能とされるノーマル種だ。上位種の騎竜にこれくらいはしなければ勝ち抜けない本気でそうおもう
『はあ~。こうなってしまったならもう何も言いませんが。もしマーヴェラス家の神足る竜に関わるようなことがあれば結して関わらないでくださいね。これはユタカ様のためでもあるのです。』
女神アルピスに念を押すように忠告する。
はあ~~。
俺はまの抜けたような心の声で返事を返す。
女神アルピス様に神足る竜に関わるなと言われてもアイシャお嬢様が救世の騎竜乗りの子孫だし。俺に力をかしている精霊も元を辿ると神足る竜であるプロスペリテの精霊であるし。関わるなと言われても実質無理なんじゃねえ?と思ってしまう。既に片足突っ込んでいるような気がしてならない。手遅れのような気がする。
『解りましたか!!。』
は、はい!
俺はあまりにも女神アルピスの気迫に押され思わず返事をしてしまう。
『それではユタカ様は竜生活を満喫しているようなのでこれ以上は何も言いませんが。なるべく無茶はしないで下さいね。転生は一度だけです。二度目はないのです。死んでも後はないんですからね。』
レースで死ぬことなどあるのだろうか?。
ルール上レースで殺しあいは御法度である。
別にレースで殺しあいする訳じゃないのだから。バトル・ロワイアルなんて雰囲気でもあるまいにと俺は安易に思ってしまう。今の所死に直結するような窮地には陥ってはいない。大怪我程度なら良くあったが。レースとはそういうものである。
解りましたアルピス様。きもに命じておきます。
俺は一応納得する。
『ではユタカ様。今後の竜生生活に祝福を。』
そう告げると女神アルピス様と俺との思念の通信が切れる。
ギャアラギャガアギャアラギャギャアガアギャア
(さてアイシャお嬢様の待つ甲板に向かいますか。)
俺は気を取り直し竜の尻尾をふりながら船倉竜舎のど真ん中に設置されている大型エレベーターに向かう。
大型エレベーターは俺が目の前に立つと勝手に反応し上から降りてくる。
ごおおおおおおおーーー ガッ ゴンッ!
じゃららららら
大型エレベーターの金属製のスライド式の扉が左から右へと開かれる。
俺はそのまま大型エレベーターに乗り込む。
ボタンが3つあり。一番上を押す。
じゃらじゃらじゃらじゃら
大型エレベーターの金属製の扉がスライド式に閉まる。
自動的に大型エレベーターは上へと上がっていく。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーん ガッ ゴン!
竜サイズでも搭乗できる大型エレベーターが最上階である甲板に到着する。
じゃらじゃら
金属製のスライド式の扉が左から右へとて開かれる。
キャキャ わいわい
ギャア?
(はっ?。)
目についた光景に俺は間抜けな竜の鳴き声を放って固まってしまう。
確かにアイシャお嬢様は令嬢生徒が甲板でくつろいでいると聞いていたが。そのくつろぐ度合いが俺の考えたことと全く違っていたからである。
甲板の床にパラソルをさし。甲板にプールも設置され。プールサイドチェアで水着姿の令嬢生徒が呑気に横になって日焼けしているものもいる。まるでバカンスを楽しんでいるような光景である。
これから他校の合同合宿に行くんじゃないのかと突っ込みを入れたくなる。
「あっ!ライナ。やっときた。」
制服のままのアイシャお嬢様が笑顔で駆け寄ってくる。
ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ?ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ
(アイシャお嬢様。これどういう状況ですか?。どうみても合宿行く雰囲気じゃないんですが。)
はっきりいって緊張感無さすぎ羽目外し過ぎである。
「私も驚いたよ。ヴァーミリオン商会会長のサービスだって。」
サービスって······。
他校の合同合宿という学業行事に不釣り合いな気がするが···。
「折角だし。甲板探検しようよ。私、騎竜船乗るの初めてなんだ。」
ギャアガアギャアラギャギャアガアギャアラギャギャア
(そうですね。取り敢えず気晴らしに散歩しましょうか。)
俺は甲板の上でバカンス?を楽しむ令嬢生徒を一先ずスルーしてアイシャお嬢様と一緒に散歩することにした。手すりから見える景色から騎竜船は雲の上を飛行しているようだった。よく空の上で甲板のプールの水がこぼれないなあ。きっと物理法則を無視するような魔法をかけられいるに違いない。
コツコツコツ
ドシドシドシ
甲板右舷の渡り廊下を進む。廊下ではプールでバカンス気分を味わう令嬢だけでなく。普通におしゃべりしながらたむろってる令嬢生徒達や人化している騎竜もいる。
令嬢生徒と人化した騎竜を避けながら廊下を歩いていると手すり側に見覚えのある真珠色の独特な瞳と髪にボリューム感溢れる胸の膨らみ持つ令嬢とカチューシャ被った頭から二本の角を生やし。長身的なルックスをしたメイドが目に入る。
真珠色の髪と瞳の令嬢制度が此方に気付くと笑顔で手をふる。
アイシャお嬢様と俺は二人に近づく。
「アイシャ!。やっと出てきたのね。」
「うん。引きこもり気味だったライナを外に出していたの。」
アイシャお嬢様は親友であるパールお嬢様に俺のことを説明する。
引きこもっていた訳じゃなんいですけどね。特にやることなかったから船倉竜舎内にある寝床にいただけなんですけどね。
トレーニングも出来そうもない船の上である。走り込みやレッドモンドさんから教わった技の鍛練を船でやったら壊しかねないから大人しくしていただけである。別に引きこもりになった訳でもニートになった訳でもない。
「何をしているの?。」
「景色を楽しんでいるの。いい眺めよ。アイシャ。」
青く澄みきった空と平原のように真っ白な雲が地上のように水平に続き幻想的である。
「本当にいいながめ。ライナに乗って眺めた空よりも全然違うね。」
アイシャも騎竜船からの空の眺めに歓喜する。
「ライナ。今度宜しかったら王都の空を遊泳飛行しませんか?。」
レイノリアから飛行のお誘いを受ける。前はあんなに内気だったのにいつの間にか積極的になっていた。ライバル関係の炎竜のガーネットのおかげだろうか?。
ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ?
(いいけど。王都上空飛行したら捕まらない?。)
東方大陸よりも都会だから法律とか厳しそうである。特にヴァーミリオン商会会長シャガルさんが言っていたノーマル種にとって王都は生きずらいという言葉が気になる。それすなわち風当たりが悪いと言うことじゃねえ?。
「じゃあ、パール。私ライナと一緒に騎竜船の甲板を一通り回るから。その後合流しようね。」
「ええ、あっ!そうそう。ヴァーミリオン商会の会長さんが午後の夕食は甲板の上でバイキングするみたいよ。」
「ええ!本当!?。ならライナと一緒にバイキング出来るね。」
アイシャお嬢様は笑顔になる
おお!バイキングできるのか!。この身なりで完全に諦めていたけど。ヴァーミリオン商会の会長シャガルさんもいきなことをするなあ。感謝しないと。久しぶりにご馳走が食べれそうなので俺は嬉しくなる。俺の飯(餌)は大抵、肉、野菜だけである。凝った料理とかは滅多に出ない。ああ、バイキングにもゴマと胡椒をまぶした重厚な油がついた山賊焼きないかなあ~。
ジュルり。ああ想像してたら涎が出てきた。
「もう、ライナったら涎がでてるよ。」
アイシャお嬢様は俺のくちばしからでた涎を丁寧にハンカチで拭き取る。
「ふふ、相変わらず仲が良いわね。羨ましい。変わって欲しいくらい······。」
パールお嬢様の黒い恨めしそうな熱視線が俺の鱗肌に冷たく突き刺ささる。
それ、本心からくる言葉ですよねえ?。パールお嬢様。パールお嬢様のアイシャお嬢様に対する見え隠れする想いに俺は一瞬寒気を覚える。
「じゃ、またね。パール。」
「ええ、また。」
アイシャお嬢様とパールお嬢様は一旦別れる。再び船の右舷甲板廊下を進む。少し進むと手すりにもたれている角を生やした情熱的な赤いタンゴドレスを着た女性とその女性の背中をさするスカーレット赤髪短髪の令嬢生徒を見かける。
「うおぇ~~~。」
ゲロゲロゲロ ボトボトボト
「もお、しっかりしてよ!。ガーネット。」
炎竜ガーネットが甲板の手すりにもたれかかりながら吐いていた。
ゲロ色が真っ赤なマグマ色に染まっている。
うっわあー。あんなの吐いたら環境汚染しないだろうか?。炎竜の生態系がどんなものかしらないが。あんな熱量帯びたゲロが空の下に落ちたら真下のものが溶けるのではないかと危惧する。落ちる前に雲の水蒸気で固まるのかな?。それでも空から火成岩が降ってくるから真下に大惨事を招くような気がしてならない。
「どうしたの?。レイン。」
アイシャお嬢様は心配そうにスカーレット赤髪短髪であるスリム体型の親友レインお嬢様に声をかける。
「ガーネットが船に酔ってしまったのよ。ガーネットはあまり乗り物には強いほうじゃないから。」
「うう、面目ない······。」
ガーネットの赤み帯びた健康肌も今は血の気が引いたように青ざめている。
「アイシャの方は今何しているの?。」
「ライナと一緒に甲板を探検しているの。ライナ引きこもり気味だから。」
いや、ですから引きこもっていたのではなく。船倉竜舎で大人しくしていただけなんですけど。アイシャお嬢様はどうしても俺を引きこもりにしたいようである。俺そんなに引きこもっているような竜(ドラゴン)のタイプだろうか?。
「そう。アイシャ、暫く私はガーネットの看護するから。私達のこと気にしないで。」
「うう、ライナ。我のことは気にないでくれ。」
ガーネットは俺に申し訳なさそうに告げる。
ギャア、ラギャ·······
(ああ、解った······。)
俺は正直に頷く。
「え?。そこんとこはちょっと気にして欲しいのだが·······。」
ガーネットはショックを受けたようにガクッと落胆する。
どっちよ!。
どうやらガーネットは俺に気にして欲しかったようである。
「それじゃ、レイン。ガーネットも身体に気をつけてね。」
ギャアギャ····
(お大事に·····)
俺とアイシャお嬢様はレインお嬢様とガーネットのそばを後にする。
「うおえっ! ゲロゲロゲロゲロ。」
「もう、本当にしっかりしてよ!。ガーネット。」
後方から再び吐瀉物の音がながれる。
本当に大丈夫か?。
俺とアイシャお嬢様は進み騎竜船船尾の甲板に差し掛かる。
そこでは二年令嬢生徒イーリス・カティナールとその相棒、剣帝竜ロゾンが剣を指導していた。
主人であるイーリスお嬢様に相棒である剣帝竜ロゾンが剣を指導しているようだった。て言うか剣帝竜ロゾンって剣を指導できるほどの達人だったのか?。千の数物の剣を出せるだけで剣は扱えないと思っていた。いや、竜になっているから剣を扱えないのであって。人化しているときは剣を扱えるのかもしれない。それはそれで色々損しているような気がしてならないんだが。
後ろ髪を結った長い濡れ鴉色の髪が剣(日本刀)を振る度に揺れる。慎ましくも大和撫子のようなふっくらとした胸の膨らみもそれと同時に揺れる。
「む?、お嬢ちゃんとライナじゃないか!。」
「···········。」
俺とアイシャお嬢様に気付くと剣帝竜ロゾンは気さくに声をかける。
イーリスお嬢様は相変わらず無口である。
侍のような格好した剣帝竜ロゾンは無精髭の顎を擦る。
「聞いたぞ。あの夜叉のベローゼと鬼竜の武羅鬼竜、我怒羅を打ち敗かしたって?。あやつらには三校祭では手を妬いたからなあ。打ち敗かしてくれたことに感謝するよ。」
「いえ、全部ライナのおかげです。」
アイシャお嬢様は全部俺の手柄だと訂正する。
謙遜することないのに·······
アイシャお嬢様も大技だすのに時間稼ぎしてくれたのだが。
「ライナ。お主、手から龍を出したって?。いつ龍族から技を教わったんだ?。」
剣帝竜ロゾンはどうやら俺の龍を出す技が龍族に伝わる技と勘違いしているようである。似たような技があるのだろうか?。一応龍族に伝わる技の一つである発気は師であるレッドモンドさんから教わってはいるのだけど。
ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ
(いえ、龍を出す技は龍族から教わってませんよ。ほぼ独学です。)
実際は銀晶竜ソーラさんからスフィアマナンのことを教えられ。それを龍を出す技に昇華しただけである。
「そうか······。相変わらずお主は破天荒な生き様しておるなあ·····。」
剣帝竜ロゾンは俺のことを半端呆れ顔で口にする。
破天荒な生き方しているのだろうか?。俺は普通に生きていると思う。ノーマル種だけに。
「そうだ。お嬢の剣の鍛練に付き合ってくれぬか?。ライナ。」
え?そこんとこはアイシャお嬢様じゃないの。何故俺に?。
イーリスお嬢様の剣の鍛練に付き合うなら普通人間であるアイシャお嬢様が適任なのに。何故か竜(ドラゴン)である俺に指名がくるのだろうか?。もしかして的要員なのだろうか?。それはそれで嫌なんだけど。サンドバッグの役割を割当られたら誰もいい気はしないだろう。
「ライナ、いいじゃない!。船内で引きこ持って体訛っているでしょ。」
アイシャお嬢様は笑顔で俺に言葉を返す。
いや、ですからアイシャお嬢様。俺は引きこもっていたんじゃなくて船倉竜舎で大人しくしていたんですってば。
どう足掻いてもアイシャお嬢様は俺を引きこもりしたいようである。アイシャお嬢様は引きこもりに何かトラウマでもあるのだろうか?。そういえば昔炎帝のレインお嬢様と炎竜ガーネットに完全敗北したときに引きこもりになったことがあったな。あれが原因か?。
「···········。」
イーリスお嬢様は手に持つ日本刀を俺に翳すと無言無顔でじっと俺を見つめる。
やる気満々である。
「技とか出さなくてもよい。お嬢の刀を回避したり防御したりしてくれればいい。」
ギャアラギャガアギャアラギャ?
(甲板の床大丈夫でしょうか?。)
俺は人化できないから甲板の床が抜けないか心配である。
「大丈夫だ。貴殿が見たところ竜の脚ぶみした程度でびくともしない。安心してお嬢の剣のお相手を頼む。」
ギャ········
(はあ········。)
俺は生返事をして仕方なくイーリスお嬢様の前に立つ。
そういえばイーリスお嬢様を相手するのは合同訓練以来だな。
俺は鉤爪を空にかざし構える。
気は練り込まない。剣の手合をするだけで実戦するわけではないからだ。
しかし木刀ではなく真剣の刃物持ちの相手だからシャレにならない。
俺が人間ではなく竜であることを心から安堵する。
イーリスお嬢様は日本刀をスッと構える。
俺もそれと同時に右手の鉤爪を前に出す。
ロゾンは俺とイーリスお嬢様の間合いの真ん中に立つ。
ぴりぴりとした緊張感のある空気が流れる。
そんな様子をアイシャお嬢様は少し離れた所から見学する。
剣帝竜ロゾンの無精髭のついた口が静かに開く。
「では、始め!。」
俺とイーリスお嬢様の場の空気が一瞬で冷たくなった。
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