第213話 ゆっさゆっさ

「何だ?」


レッドモンドは静かに聞き返す。


ギャアラギャガアギャアラギャガアギャア?

(レッドモンドさん『発気』を知っていますか?。)


俺は覚えたい技名をレッドモンドさんに告げる。俺がもう一つ覚えたい技と言うのはそれは武羅鬼竜、我怒羅が使っていた言霊をしいた気迫の技、発気である。西方大陸に住むと言われる龍族が扱っていた技というが。もしレッドモンドさんのがこの技を知っていたなら教わろうと思っていた。武羅鬼竜、我怒羅が使った発気はどうみてもレースでとても役に立つものだからだ。相手を殺すと言う言霊を放ち。死なないが恐怖を与えて相手を震えさせるなど。デバフ効果の技を一切持っていない俺にはとってはとても好都合で役に立つ。騎竜乗りや騎竜に牽制を与えられるかもしれない。言葉によってはマヒや威圧などの効果が望めそうでもある。


「発気?ああ····知っている。西方大陸の龍が扱っていた技だな。それがどうかしたか?。」


レッドモンドさんの刑事のような丸い黒のサングラスの眉間が寄る。

ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ?

(レッドモンドさんは発気を扱えますか?。)

「ん?、扱えるといったら扱える。旅した頃に少しかじった程度だ。本格的に龍族の技を覚えるには龍誕の試練を受けなくてはらならないがな。」


どうやら龍族の技を本格的に覚えるには龍誕の試練といものを受けなくてはならないようである。しかし龍族の技には少し興味はあるが。今は置いとこう。今は発気である。


ギャアラギャガアギャアラギャギャアガア!

(レッドモンドさん。俺、発気を覚えたいんです!。)


俺は正直に発気を覚えたいことをレッドモンドさんに告げる。

その言葉にレッドモンドさんの竜顔が何故か渋り。なんか煮え切らない態度をとる。


「う~む、どうするかなあ~。」


レッドモンドさんは何故だか迷っていた。

ギャアガアギャアラギャ?

(何か問題があるんですか?。)


俺は発気を覚えるのに何か問題あるのか不安になる。龍誕の試練を受けなければ発気を覚えることはできないというのならもう諦めるしかない。いつか西方大陸に渡って発気や西方大陸に住む龍族から技を教わるしかないだろう。


「いや、教えることに関して問題ないが。発気は一種の暗示のようなものだからな。悪用されると非常に困る。」


どうやら発気という言霊を使った技は暗示と同じものらしい。確かに言霊の力で相手を操れているというか影響は与えてはいたが···。


ギャアラギャギャア!ギャアラギャガアギャアラギャギャア!ギャアガアギャアラギャギャアラギャ!

(悪用なんてしません!。レース以外は使うつもりもありませんよ!。どうか、俺に発気を教えてください!。お願いします‼️。)


俺は誠意を込めて竜の頭を下げ。懸命にレッドモンドさんにお願いする。

レースを有利するためにも一つでも多く技を習得したいのだ。アイシャお嬢様が二投流を覚えるために必死に頑張っている。俺もアイシャお嬢様のためにもここで頑張らずに何処で頑張るというのだ。


「解った···。そこまで言うのなら発気を教えよう。ライナのことだから発気を悪用することはないだろうし···。」


ぴくぴく

ギャアガアギャアラギャ!

(ありがとうございます!。)


俺は再び頭を下げお礼を言う。


「では発気だが。龍族に伝わる技の一つで。言霊の力を利用する。明確には言霊の力を気で放つ技だ。」

ギャア!

(はい!)

「発気は自分にとって思い入れのある慣れ親しんだ言葉の方がより効能効果が増す。」 


ギャアラギャギャアラギャガアギャアラギャ?

(思い入れのある慣れ親しんだ言葉ですか?。)


思い入れのある慣れ親しんだ言葉なんて俺にあったかなあ?。

特にそんな言葉が思いあたらない。


「簡単に言えば自分にとって好きな言葉だな。例えるば俺ならば······。」


レッドモンドさんはそう言うと少し裏手の校舎から離れ竜の瞼を閉じる。

すうーーーとおもいっきり息を吸い込む。

大きく吐き出すように言葉を叫ぶ。


「むうわあああああああ~~~!すっるううううう~~~~~~~~~!!。」


ぶわあああああああああーーーーーーー!!


レッドモンドが人語で叫ぶと強烈な圧が全身の筋肉から放たれ駆け巡る。

ガタガタガタガタ

一階の校舎の窓がレッドモンドのことはで少し振動する。

それと同時に俺の全身の筋肉が痙攣し始める。

レッドモンドさんのマッスルという言葉を終えると数分に俺の筋肉の痙攣がおさまる。


「これが発気だ。俺の思い入れのある慣れ親しんだ言葉は筋肉、マッスルという言葉だ。筋肉関係したこと全般だな。だが俺はあまりこの技をレースでは使ってはいない。」

ギャアラギャ?

(何故ですか?。)


発気をレースで使えば有利だと思うが。


「発気の効果範囲は周囲一帯であり。特定の相手にかけることは不可能だからだ。はっきり言えば無差別ということだ。特定の相手をターゲットにするには向いていない。それに俺は筋肉が使う戦いが好きだから。用は好みの問題でもある。」

ギャアラギャ·····

(そうですか·····。)


レッドモンドさんにはレッドモンドさんの闘い方あるということだな。

俺はそう納得する。


「発気の発動の仕方は先ず頭を空っぽにする。何も考えず深い深い真っ暗闇の無をイメージする。そこに一つの言葉を置く。文字そのものを浮かべるんだ。それ以外は一切何も考えない。」

ギャア

(はい)

「そして頭に浮かんだ文字を全て外に吐き出すように全身全霊で気を放つ。言葉に出さずとも頭に浮かぶだけで発動することも可能だが。前も言ったように言霊をしいた発気は自分が思い入れのある慣れ親しんだ言葉が強ければ強いほど効果を増す。どういう効果は己各々だ。力、魅力、スピードと言った言葉ならば力を増したり。魅力が上がったり。スピードが上がったりだな。その言葉の思い入れが強ければ強いほどその効果も様々である。」

ギャアギャ····

(なるほど·····。)


何となく発気の特性が解った気がする。しかし思い入れのある慣れ親しんだ言葉により効果が増すとなれば麻痺や威圧のような言葉に強力な効果は望めないかもしれない。何故なる麻痺や威圧の言葉に俺は特に思い入れあるわけでもなく。慣れ親しんだ言葉でも無いからだ。武羅鬼竜、我怒羅が使った言葉、殺という発気は思い入れあるか慣れ親しんだ言葉かのどちらかなんだろう。殺が思い入れのある慣れ親しんだ言葉なんて少し怖い気がするけど。


なるほど·····。レッドモンドさんの教えで発気の使い方がだいたい解った。後は発気を発動するためのキーワードである。俺の思い入れのある慣れ親しんだ言葉と言えばあれしか思い浮かばない。寧ろアレ以外は無いだろう。俺がこの異世界にいる存在意義でもあり。転生目的でもある。どういう相乗作用効果をもたらすかは正直解らないが。それでも龍族に伝わるという発気という技を使うなら試す価値はある。


すうーーーーーーーーーー


俺は大きく息を吸い込む。

竜の瞼を閉じて体内の気を練り込む。

そして頭の中を何も考えず空っぽにする。真っ暗な無をイメージする。そこに一点の一文字の俺が好きな言葉を思い浮かべる。

全身全霊を持って思い浮かべた言葉を外へとぶちまける。


ギャアああああーーーーーーーーーー!!。

(おっ ぱあーーーーーーーーーーーい!!)


おっ ぱあっーーーーーーい‼️

    おっ ぱあっーーーーーーーい‼️

       おっ ぱあっーーーーーーい‼️ 


ぶあああああああああああーーーー


俺の竜の身体が音波のようになり。発気の効果なのか言葉にエコーがはいる。



「·········。」

···········


      し~~~~~~~ん


数分数秒経過したが何も起こらない。


あれれ?何も起きないぞ?。


俺は不安にかられる。

やっぱ俺の好きな言葉に発気は発動しないのだろうか?。明確な意味のある言葉でもないのだが。自分の思い入れのある言葉になんも効果も効力も発揮しないことに俺は段々虚しくなってしまう。


「キャあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーっっ‼️。」


突然学園校舎の裏手にある二年校舎の教室から悲鳴が上がる。


「どうしたの!?。」

「私の胸が勝手に揺れているの!。」

「ええっ!?本当?。」

「キャあああーーっ‼️。私の胸も勝手に揺れだしたあーーーっ‼️。」

「キャああーーーー‼️。何コレ?何コレ?何コレ!?。」


ゆっさゆっさ ゆっさゆっさ


二年校舎の教室内にいた令嬢生徒達の胸が勝手に揺れだしたことに令嬢生徒達は皆パニックを起こし大騒ぎとなる。


キャーーー! キャーーー!

ゆっさ ゆっさ


教室の壁から阿鼻叫喚のような悲鳴が流れだす。


「ライナ。お前なあ~。」


レッドモンドさんは呆れた様子で俺に白い視線を向けてきた。


ギャアラギャギャアラギャ!ギャアラギャ!ギャアラギャギャアガアギャアラギャギャアガアギャアラギャギャアラギャ

(いや、ちょ、わざとじゃないんです!。その思い入れのある慣れ親しんだ言葉っておっばい以外は考えられなかったし。)


本当にわざとじゃないのだ。発気”おっぱーーーい!の効果がまさか女性の胸を勝手に揺らすとは思わなかった。確かにおっぱいを言霊のキーワードにしたけど。おっぱいの言霊の効果がまさか女性のおっぱいを勝手に揺らすなど誰も思わないだろう。


「とりあえずそのワード禁止なあ。近所迷惑というか学園に迷惑がかかるから。」


レッドモンドさんは俺を嗜めるように叱る。


ギャアラギャギャア

(はい、自重します·····。)


俺は竜の深く頭を下げ反省のポーズをとる。

確かに日常で使ったら混乱を招くだろう。しかしせっかく俺の思い入れのある言葉を発気にしたのだ。このまま隅に埋もれさせるのはしのびない。日常で使えなくともレースて使えるのではないかと俺はふと思う。騎竜にきかなくとも騎竜乗りの行動を阻害させたり妨害させたりできるかもしれない。レース中に胸が勝手に揺れるのは鬱陶しいだろうし。


後にライナはこの発気”おっぱあーーーいっ‼️„をレース中に使ったために。主人であるアイシャお嬢様と一部の騎竜乗りから猛烈な反感を買うことになるとは今のライナには知るよしもなかった。


   ラチェット・メルクライ豪邸

        深夜


アイシャは学園長、ラチェット・メルクライの豪邸で泊まり込みで特訓を受けている。毎日の密度ある特訓にアイシャの身体はボロボロで。両手の指も擦り傷切り傷で手の甲の腫れが当たり前のようになっていた。それでもアイシャはライナと共に戦うために学園長の二投流を覚えようとする。

アイシャは真夜中の豪邸のガゼボに座っていた。眠れなかった理由もあるが。アイシャにはもう一つの悩みがあった。ライナと一緒に強くなることを決めたが。ライナは一つ自分に隠していることがある。それがアイシャにとって気がかりであった。強くなるためにもその一つの問題を解消しなくてはならないのに。当のライナはいつもごまかして逃げてしまう。それがアイシャにとって少し哀しくなる。


「お嬢さん。何かお悩みかい?。」


ぴくぴく

ガゼボの椅子に座っていたアイシャに声をかけるものがいた。

竜なのに刑事のような黒い丸いサングラスをかけ。筋肉の胸板を脈打つのように動かしている。


「ああ、レッドモンドさん。おはよじゃなくてこんばんわ。」


アイシャは挨拶を朝と夜の挨拶を間違え言い直す。


「ああ、こんばんは。」


ぴくぴく

 

「ライナの様子はどうですか?。」

「ああ、順調に強くなっているよ。今は2つ技を会得したから楽しみにしているといい。」

「そうですか。私も頑張らないと。」


アイシャはライナも強くなるために頑張っていることを知り。自分も頑張らないと


「お嬢さん。何か悩みがあるようだな。」


アイシャお嬢様の浮かない顔にレッドモンドはいち早く察する。


「レッドモンドさん。相談したいことがあるのですが。」


悩みであるライナとのある問題にレッドモンドさんなら何か解るのではないかと淡い期待をする。


「何かね。」

「レッドモンドさんに命名して貰ったBoin走行なんですが。」


アイシャの悩みとはBoin走行。ライナの加速飛行のことである。胸を押し付け左右に擦りつけることで加速するライナ特有の加速飛行だが。その加速飛行がアイシャの悩みの種であった。


「Boin走行がどうかしたのか?。」

「私のBoin走行より他の娘のBoin走行が速い時があるんです。理由を聞いても何故だがライナが惚けて教えてくれなくって。私も他の娘との違い教えて欲しいのに。それなのにライナは私の話をすっぽかしたり逃げたりするんですよ。酷いと思いませんか?。」


いつのまにかアイシャの悩みがライナの不満になっていた。


「う~む。」

ぴくぴく

レッドモンドの竜口が渋り。丸い黒サングラスのかけた眉間が難しげに寄る。

レッドモンドは何故ライナのBoin走行の加速飛行に違いが出るのか。その理由は解っていた。ライナが素直に主人であるアイシャに伝えないのは優しさからである。


「つまりお嬢さんはライナのBoin走行が自分よりも他の娘が速いことに不満なんだな。」


レッドモンドは直接的な解答よりも根本的な解決を試みることにした。彼女の不満はBoin走行の速さの違いというよりは他の乗り手の娘が自分よりも速いことに不満なんだと察する。


「実は言うと···そうです······。」


アイシャは偽ることなく素直にレッドモンドに言葉に頷く。


「なら他の娘のよりも速くなるBoin走行を教えよう。」


レッドモンドは胸を張り。筋肉の胸板を脈打つ。


「他の娘よりも速いBoin走行ですか?。」


レッドモンドは鉤爪の人指し指をアイシャにむける。


「ああ、簡単な話だ。横が駄目なら縦にすれば良いんだよ。」

「縦?。」

「そう、左右に胸を擦るのではなく。上下に擦れば更に加速飛行が倍速になるはずだ。お嬢さんの不満も晴れるであろう。」


レッドモンドはライナのBoin走行の特性を理解していた。Boin走行は胸の感触と弾力をライナの背中で感じることで加速が増す。ならば横よりも縦の方が感じる幅率が多くなり。加速が更に増すと踏んだのである。


「横よりも縦ですか·······。」


アイシャは深く考え込む。

暫く考え込んでいたアイシャだったが。うんのと頷き相づちをうつ。


「ありがとうございます!。レッドモンドさん。何か気分が晴れました!。やってみます!。」

「その意気だ。お嬢さん。そうだ!。ついでに縦のBoin走行名は私が命名しよう。それはずばり!。Boin走行ストロークだ!!。」

「Boin走行ストローク·····。何かカッコいいです!!。」

「そうだろそうだろ·····。」


レッドモンドはうんうんと満足そうに頷く。


「それじゃ私も明日の特訓のためにも寝ますね。」

「ああ、体に気をつけてな···。」


笑顔でラチェの豪邸に向かうアイシャをレッドモンドは微笑ましく見送る。

見送り姿が見えなくなるとふっとレッドモンドの竜口から笑みがこぼれ。空に浮かぶ月を眺める。


「俺も昔は行き着けの店でよくしてもらったものだよ······。」


レッドモンドは昔を懐かしむように吐露する。

レッドモンドは前世の若い人間だった頃。行き着けの店で背中に胸を擦りつけて貰ったのを思い出していた。あの頃は本当に自分も若かったなと懐かしむ。


「ほう····その行き着け店と言うものを詳しく聞かせて貰えるかしら?。」

「ら、ラチェっ!?。」


ギョッとレッドモンドは竜顔が強張る。


ラチェはいつの間にか月明かりの陰からぬっと現れた。あまりの突然の衝撃的な光景にレッドモンドは絶句し凍りついたように固まる。


「あっ、ラチェ。あれだな····昔の若いときの話で。」

「私の愛弟子にちょっかいかけているかと心配していたのだけれど„····。」

「それは違うぞ!。そう、ライナのBoin走行の相談をだな!。」


レッドモンドは何も間違ったことはしてないので強く弁明する。


「ええ、アドバイスはしているのは解っていたのだけど。その行き着けの店という話をもっと詳しく聞きたいわ。是非聞かせて。」


ラチェからとてつもない圧がふりかかる。目が完全に笑っていない。

レッドモンドの竜顔が絶望に満ちたように青ざめる。


「私の部屋で詳しく話をしましょう。ねえ、レッド。」

「はい········。」


レッドモンドは夜空の中で大人しくラチェット・メルクライに連行されていった。

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