第199話 非常識

「セラン先輩!。只今戻りました!!。」


バァサッ! バァサッ!


茶色の鱗に覆われた巨体の騎竜に乗る金髪の少女が大きく叫ぶ。

巨体の隣にはモーニングスターを持つピンクの髪を流す少女を乗せる緑色の鱗に覆われた竜(ドラゴン)も付き添うように現れる。


「戻ったのね!。」


セランはぱあっと笑顔で歓喜する。

ベローゼはそんな様子を不快げに眉を寄せる。


「たく。あいつら時間稼ぎもできないのかよ······。でもまあ······。」


ベローゼの唇が妖美に舌なめずりする。


「一年ルーキーとそのノーマル種に興味あったからなあ。丁度いいか。我怒羅もそう思うだろう?。」


同意を求めるように黒光りに輝く筋肉質の二本角の竜に語りかける。

鬼のように左右に二本角を生やす竜は口元がが引き裂かれるくらいつり上がる。


『ああ····、三vs一ならより滾るわ!。』


我怒羅の縦線の鋭い瞳孔が三匹の騎竜を鋭く捉える。

俺と地土竜モルスと疾風竜ウィンミーは蛇に睨まれたようにぶるぶると身を震す。

相変わらずとてつもないプレッシャー(威圧感)だな。前より更に黒光りしているような気がするし。

目の前の武羅鬼竜、我怒羅は鱗に覆われた筋肉質の身体はより艶を帯び黒光りにテカっていた。


「アイシャ、アーニャ、私達がなるべくベローゼ達を抑え込むから。貴女達は攻撃と防御に専念して!。」

「「了解しました。セラン先輩。」」


「ハハハハ。私達を楽しませてくれよ!。」

『がっかりだけはさせるな。』


ベローゼは大剣を大きく振りかざす。武羅鬼竜は大きく黒光りした筋肉質の翼を広げる。


『これは·····。どうやら風姫は三人がかりであの騎竜乗りと騎竜を相手にするようです。しかしあのノーマル種がここに来たということは残りの相手チームにいた二人二匹の騎竜乗りと騎竜を倒したということでしょうか?。風姫チームにいたノーマル種を注視していなかったことは誤算ですね。』


実況ハマナスはスクリーンに写る風姫達の戦況に眉を寄せる。

ざわざわ

観客席からどよめきが起こる。

風姫と一緒にいたノーマル種とエレメント種の地土竜を誰一人、気にかけるものはいなかった。観客席の観客は全て風姫の戦いに集中しており。ノーマル種の戦闘には誰も気に止めるものはいなかった。そのせいでどのように勝ったか解らずじまいである。一部除いては。


『そんなことどうでもいいのよ!。ノーマル種がいたところで戦況が変わる訳じゃないんだから!。それよりも地土竜が来てくれたことには感謝するわ!。地土竜は防御面に優れているから。盾として風姫の戦いを有利にできる筈よ。ノーマル種なんかただの囮か肉壁程度しかならないんだから!。』


解説の風の谷の村長エエチチはノーマル種が加わったところで戦況がひっくり返るなど。これぽっちも微塵も全く持って感じていなかった。ただエレメント種である防御を誇る地土竜に関しては戦況が大きく変わるとして期待していた。


「いよいよですな。お嬢様。」

「そうね。ここが正念場ね。セランがベローゼ達を抑え。アイシャとライナ達の攻撃が通用するか。」

「アーニャ····。」

「ふぅ。さあ、ライナ。私にノーマル種の可能性を見せて下さい!。ふぅ~。」


セランのその他の関係者達は息を飲む。



『さて、では小手調べと行こうか····。』


武羅鬼竜は黒光りの筋肉質の翼を広げ。両腕の鉤爪が鋭く光る。

俺は来ると判断し身構える。


びゅ~~~~~~~

風車の丘に風が流れ出す。


カラカラと風車のプロペラが廻りだす。


『It's 、a‼️パワー!。』


ひゅん

武羅鬼竜が一瞬にして視界から消える。


ギャア!?

(速いっ!!。)


俺はあまりの速さに判断が遅れる。

ひゅん!。


『では手始めに地土竜から行こうか。』


武羅鬼竜が姿を消したと思ったらいつの間にか地土竜モルスの巨体の前まで接近していた。武羅鬼竜は黒光りするテカりまくったしなやかな筋肉の竜腕をおもいっきりモルスの腹部に打ち込んだ。人間で例えるなら腹パンである。


『ふんっ!。』


ドゴオーーーッ!

拳を撃ち込むとモルスの巨体が僅かながらもにも震動する。


『ぬおうおはうわおうおあわーーー!。』


地土竜モルスは苦しんでいるのか?。気持ちいいのか?。はたまた吐きそうなのかなんとも言えないアへ顔?を晒す。


『矢張地土竜は硬いか····。』


武羅鬼、我怒羅は手応えのなさを感じふんと鼻息を鳴らす。


「モルス!。」


モルスの背に乗るアイシャお嬢様は咄嗟にブーメランを投げ入れる。

くるくるくるくる


ブーメランは弧を描き。武羅鬼の背にのるベローゼへと向かう。


「ブーメランなんて貧弱極まりないわね。」


ガン!

大剣から鈍い音が鳴り。ベローゼは茂もせず大剣をふるってアイシャお嬢様のブーメランを跳ね返す。


くるくるくるくる パシッ!。

跳ね返されたブーメランは持ち主であるアイシャお嬢様は見事にキャッチする。


「ブーメランはあくまで遠距離用武器。接近戦には向かないわよ!。」


ベローゼは我怒羅の背から大きくジャンプする。重量ある大剣を所持しているのにも関わらず身軽に高くジャンプする。ベローゼはそのまま巨体の地土竜モルスの背に乗るアイシャお嬢様に向かって斬りつける。


ズサッ!。


「アイシャ!?。」


セラン先輩は叫ぶ。


アイシャお嬢様は大きく振りかざされたベローゼの大剣をたったひとふりのブーメランで受け流し方向を逸らす。


ガッ!キンッ!!


方向を見失った大剣は硬い鱗の地土竜モルスの背に当たりバウンドして弾かれる。

ベローゼは目をぱちくりさせ。あり得ない状況に驚愕する。

貴族から離れ。傭兵時代に鍛えあげた剣技をまだ経験も満たない一年小娘令嬢に返されたのである。ベテランがアマチュアに返されたと同意義である。

ベローゼは大剣をおろし静かにじっと視線をアイシャに向ける。


「名は?。」


ベローゼは無表情に目の前の一年令嬢に名を聞く。


「マーヴェラス伯爵家の娘、アイシャ・マーヴェラス。私がノーマル種ライナの本当の主人です!。」


アイシャは力強く言葉を返す。


「ほう、お前が一年ルーキーということか?。何故地土竜に乗っている?。」


セランに聞いていた一年ルーキーはてっきりあのノーマル種に乗っているモーニングスターを所持するほほんとしたピンクの髪をした令嬢かとベローゼ思っていた。


「訳あって騎竜を交換しているんです。」


アイシャは正直に返す。


「そうか····。それは残念だな。一年ルーキーとその騎竜ペアとの実力を知りたかったんだがな。」


ベローゼは残念そうに眉を寄せる。


「アイシャさん!。」


じゃらじゃら ごおおーーん!

ライナに乗ったアーニャはモルスの背に対峙するアイシャとベローゼに向けてモーニングスターのトゲ付き鉄球を投げつける。

投げつけられたトゲ付き鉄球が鎖の音をたててベローゼに向かってくる。


「ふん!。」


ゴン!

ベローゼは大剣でアーニャのトゲ付き鉄球をフルスイングするかのように軽々打ち返す。再びハイジャンプして武羅鬼の背へと戻る。

じゃらじゃら

打ち返されたトゲ付き鉄球をアーニャお嬢様はおもいっきり引っ張って手元に戻す。

バァサッ

俺はベローゼが武羅鬼の背に乗るタイミングを見計らい。武羅鬼竜、我怒羅の懐に即座に入る。


『ん?。』


主人であるベローゼに注意が向いていたせいか我怒羅は対応が遅れる。


俺は右掌を我怒羅の腹部辺りに翳す。


ギャギャあ!

(お返しだ!。)


俺は気を練り込んだ掌を一気に解放させる。


ギャあああーーー!!

(竜破掌!!)


ドッ ゴォーーーーー!

強烈な衝撃波が我怒羅の腹部へと直撃する。


『ぐっ!。』


我怒羅の黒光りの竜体は一瞬後ろへたじろぎ怯んだが。直ぐに態勢をたてなおして持ち直す。

ギロリと鋭い竜瞳の視線を俺に向ける。


「大丈夫か!?。我怒羅!。何かされたのか!?。」


背に乗るベローゼは我怒羅の様子に目の前のノーマル種に何かされだといち早く気づく。


『いや、大丈夫だ····ベローゼ。気にすることでもない·····。』


我怒羅はスッと俺を睨む。


『貴様、気を扱うようだな····。』

「気?。」


聞き慣れない単語にセラン先輩は眉をよせ困惑する。

俺はじっと目の前の武羅鬼竜、我怒羅を静かに凝視する。

俺は正直内心動揺している。

武羅鬼竜、我怒羅に気という単語が出たからである。レッドモンドさんから教えてもらったものだが。この世界に気の概念を知るものがいたことに驚いていた。

この異世界で魔力が主流であり。気を認知する者はいなかった筈である。


『驚いているようだな。我が武羅鬼竜は気を扱うことによってのしあがった騎竜よ。我等竜種は昔、魔法もスキルもまともに扱えぬ弱小の竜種であった。大昔はノーマル種と同列されるくらいに下等にされていた。』


何故だか武羅鬼竜、我怒羅は坦々と己の竜種の身の上話を始めた。


『だが我が先祖に転機が訪れた。我が武羅鬼竜の先祖は西方大陸にすむという龍に気の扱い方を教えて貰ったのだ。』

ギャあ?。

(龍?。)


西方大陸に龍(りゅう)と呼ばれる竜(ドラゴン)がいることを知っていたが。まさか気を扱えるとは。


『そして我等は龍から気を伝授した。しかし気そのものを外側に体現することできなかった。できたのは体内に気を循環させ。肉体を強化することだけだった。そして我等は肉体を気で循環させ。黒光りすることで全ての戦いとレースに力のみでねじふせてきたのだ。力のみでこの世界にのしあがったのだ。』


黒光りするのにはちゃんと理由があったのだな。まさか肉体を気で循環させていたから黒光りしていたとは予想外である。


『ノーマル種が貴族の学園でやっていける理由が解った。何故低能とされるノーマル種が強いかも合点がいった。だが······。』


ベコっ!

黒光りする鱗に覆われた筋肉が盛り上がる。気が血流とともに循環されているのだろう。


『我等は鬼の力を宿すとも唄われた竜(どらごん)。竜種名も龍がいた世界で最強の力を持つとされる鬼と呼ばれる種族から名を頂戴した。ノーマル種が気を扱えようとも何百年培った我が一族の気の扱い方には到底及ばぬ!。武羅鬼竜の数百年分の恐ろしさを知れ!。』


武羅鬼竜は空気を大きく吸い込む。


『鬼気怪怪(ききかいかい)!!。』


我怒羅の竜口から白い息が吐き出される。

来る!。

ひゅん ドオーーッ!

我怒羅は俺が身構える前に懐に入り殴り付ける。

ドゴッ!!

ギャ!

(ぐっ!)

俺は咄嗟に腕でガードしたが。それでも殴る威力が抑えられず数メートル吹き飛ぶ。


「ははは、絶好調だな。我怒羅。」


ベローゼは高笑いして大剣を大きく翳す。

ひゅん しゅるしゅるしゅる ガチ びーーん!。


「ん?。」


突然しなやかな長い鞭がベローゼの大剣に絡まりがんじがらめに固定される。


「貴女の相手は私よ!。アイシャ!アーニャ!。ベローゼは私が引き受けるから武羅鬼竜お願い!。」


「解りました!。」

「ふええ、わ、解ったです!。」


セラン先輩が大剣を鞭でがっちりと絡めとり。おかげでベローゼは身動きがとれない。

大剣を思うように動かせないので我怒羅との連携もとれない。


「はは、どうやら我怒羅にとって私は足手まといのようだな。我怒羅。私がいなくても問題ないな。」

『ああ····。寧ろ好き勝手に動けるから俺としては最高だがな。』


お互いニヤリと不適な笑みを交わす。


「何を言っているの?。」


セランは不気味な二人のやり取りに眉を寄せ困惑する。


「そお~ら!。」


ぴょん!


「なっ!?。」


セランは鞭が手から離れないように咄嗟にもう片方の腕を鞭にあてて抑え込む。

ベローゼは武羅鬼竜の背から大きくジャンプした。大剣が鞭で絡めとられているのにそんなことも関係なしといった感じで大きく跳躍する。

トン!。

空を大きくジャンプして着地した先はなんと地土竜モルスの巨体の背中であった。


「えっ!?。」


アイシャは驚いたようにくるりと振り返る。そこには大剣を鞭で繋がったまま好戦的な冷笑を浮かべるベローゼがいた。

何だよ····こいつら····。

俺も絶句し竜口が半開きになる。

戦闘の常識が全く通じない。騎竜乗りが他所の騎竜の背中に乗るなど前代未聞である。

俺は得たいの知れない騎竜乗りと騎竜に悪寒が走る。


『何よ!あれ!?。あんなの反則じゃないの!!。審判何をしているの!。』


放送席で解説のエエチチは猛抗議する。


『いえ、あれは反則などではありません!。エエチチさん。騎竜乗りが他の騎竜に乗ることを禁止されていません。攻撃する時も許されてますし。地に足を踏んで戦う以外は反則とはとられません。というよりは騎竜を放棄し。他所の騎竜に乗るなど前列がないんですよ!。ルール上問題ないとういうよりは穴というべきでしょうか?。』


実況ハマナスは常識外れな戦いをするベローゼ達に冷静に分析しルール上問題ないことを伝える。


「くっ、騎竜レースのこんな傍若無人な行為が許されるなんて····。このことを騎竜レース査問委員会に訴えなくては!。」


エエチチは野蛮な騎竜乗りの反則するするな行為に査問委員会に訴えることを決意する。


『さあ~てこれで自由になったから始めるか。』


武羅鬼竜は右の鉤爪の掌を左肩に乗せてコキコキと肩をならす。

バァサッ!

俺はすかさず武羅鬼竜、我怒羅に飛び掛かる。

ベローゼと武羅鬼竜、我怒羅まとめてセラン先輩が抑え込む筈だったが。離れてしまった以上武羅鬼竜の相手は俺がするしかない。ベローゼは地土竜モルスの背中に乗ってしまったから実質相手はアイシャお嬢様とセラン先輩がすることになる。地土竜モルスが我怒羅と戦闘する余裕があればいいが。生憎モルスは一人一匹相手するほど器用じゃない。


俺は精霊を呼ぶ呼吸を行いながら黒光りする筋肉が発達した竜へと加速する。

我怒羅が俺が気を扱うことを知られたが。まだ精霊を使役できることは知られていない。精霊が武羅鬼竜(奴)に効くかは解らないがやるしかない。


ギャあああああーーーーー!。


俺は大きく雄叫びを上げ武羅鬼竜、我怒羅に突っ込む。


『ははは、来るがいい!。帰りうちにしてやるわ!。』


二匹の竜の間に焼き付くほどの熱気が放たれる。









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