第198話 振り絞って
ル~ ルルル~~
ル~ ルルル~~
世界の意志は2つに別たれた。
二匹の竜は代わりに応えを示す。
「な、何!?。」
『これは·····精霊歌なのですか·····。』
聖霊竜ホリスラミスの白い竜瞳が驚きで見開く。
アイシャお嬢様が精霊歌を謳いだす。
ざわわわわわ~~~
周囲の黄緑の光の粒子が一斉にざわめく。アイシャお嬢様の元に集まりだす。風車の丘に流れる風もまるでアイシャお嬢様の元へと流れているようだった。
「ななな、何よこれ?。一体何が起こっているの?。」
ミャルナは周囲に集まりだす見たこともない黄緑の光の粒子にただただ絶句し動揺する。
普通では人間は精霊を視覚できないが。あまりにも異常まで精霊の数が集まりだしたせいで。風の精霊の密度が濃くなり。識別、視覚できるようになっていた。
繁栄か~?(繁栄か~?)
滅びか~?(滅びか~?)
2つの~(2つの~)意志を紡ぐ·····
『あの娘·····。精霊歌を謳うことができるのですか?。しかも精霊歌にこれほどまでに精霊を集めるなど······。もしや彼女は救世の聖女?。』
聖霊竜ホリスラミスは地土竜モルスに乗る金髪の令嬢を強く凝視する。救世の聖女は神竜聖導教会に伝わる神足る竜の担い手であり。一般の騎竜乗りでは救世の騎竜乗りで名が通っているが。神竜聖導教会の方では救世の聖女と呼ばれ。教会の信仰対象である。
ひゅうううう こぁおおおーーー!
俺は竜口から風の精霊を呼び寄せる呼吸を行う
よし!これほど多量に風の精霊がいるならば途中で技が中断されることもないだろう。
歌っていた聖霊竜ホリスラミスも今は周囲に埋め尽くされる風の精霊のおかげで歌を止めて気が逸れている。
「う、う~ん·····。」
神法來竜ソルクベロに背に乗りながら熟睡していた令嬢が目を擦りながらむっくりと上半身が起き上がる。
眠たそうに左右をキョロキョロと見渡す。
「あっ!?、メレン。やっと起きたのね!!。」
もう一人の六騎特待生である令嬢が起きてしまった。
ギャ!?。
なっ、こんな時に!?。
俺は険しげに竜の眉間が寄る。
主人が眠っていたからもう一頭の騎竜はそれほど手出ししなかったけど。主人が目覚めてしまったというのなら話は別だ。
何か仕掛けてくる前に早々に決着をつけなくてはならない。
生憎二人とも俺がまだ技を放つことには気付いていない。今がチャンスだ!。俺は二人二匹を倒せずとも遠くに風で吹き飛ばすことを考えた。ベローゼ・アルバーニャと武羅鬼竜、我怒羅を対決するに辺り。彼等をベローゼ達からなるべく引き離さければならないと考えたからである。
俺は鉤爪の右掌に気を練り込み。ありったけの風の精霊を纏わせる。あらゆる風の流れをイメージして技に転換させる。
風の谷の山脈に流れる風が俺の鉤爪の右掌へと注がれる。
地上の丘に並び立つ風車も強風に煽られ。風車のプロペラが激しく回りだす。
目覚めたメレンという六騎特待生の一人の令嬢は周囲の状況を一通り眺め。最後に視線を静かに俺の姿をじっと捉えるかのように眺めていた。彼女はまるで何かを見透かしたようなそんな瞳をしていた。
何だこの娘は····?。
俺は少し気味悪さを感じる。
技を行使しようしていることがばれたのではないかと内心ひやひやした。
「メレン。貴方の先見の能力で何とかしなさい!。貴女なら先の未来が予想予測が出来るんでしょう?。」
先見?まさか予知能力か!?。
俺は竜口が渋りかなりまずいと思った。
六騎特待生の一人が予知能力者なら打開策などいくらでもある。未来が見えるというならその対処も容易な筈だ。
俺は竜口を苦虫を砕いたように険しげに噛み締める。
熟睡していた六騎特待生が最も厄介な能力を持っていたからである。先に六騎特待生で片付けなければならないのは先輩ではなく後輩の方であった。俺は迷いもなく技を六騎特待生後輩二人二匹にぶつけることを決意する。何故なら眠っていたならまだ予知されてないかもしれないし。今ならまだ間に合う筈だ。
もし寝ながら未来を見ていたのなら積むだろうが。
メレンはじっと俺を見た後、クラスメイトであるミャルナに顔を向ける。
「無理。敗北確定したから諦めて····。」
「········。」
メレンの言葉にミャルナが一瞬フリーズしたかのように固まる。
さらっと連れの仲間が敗北宣言をしたのだ。そのショックでミャルナの思考はまともに回らなくなる。
「なっなななっ。何言っているのよ!。まだ戦闘真っ最中でしょう!これからでしょうに!。貴女がいればいくらでも打開できるでしょうに!。」
ミャルナは激昂する。
騎竜乗りとしても優秀で仲間であり。神童とも唱われるクラスメイトが眠りから起きたと思ったら即諦め降参すると言いだしたのだ。素直に納得できる筈もない。
「いい加減にして!。メレン!。レース中に眠るし!。起きないし!。起きたと思ったら即諦め?降参?ふざけんじゃないわよ!。」
ミャルナは止めどなくメレンの不平不満愚痴の怒りのこもったクレームの嵐を次々と罵声ともに浴びせる。
しかしメレンはそんな罵声も何処吹く風。マイペースに全ての会話を聞き流すように坦々と聞いた後、唇が静かに開く。
「でもね·····。ミャルナ。」
メレンは素知らぬ顔でスッと白い人差し指をある方向に指す。指した方向はあの地味な緑色の鱗に覆われたノーマル種である。
「あれはもう回避不可能な段階よ·····。」
ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!
メレンの指差した方向にミャルナが視線をむけるとギョッと顔が硬直する。ノーマル種の背後に起こっている光景に全身凍りつく。
ノーマル種の背後に突風やらつむじ風やら強風やら竜巻やら暴風が乱雑に激しく吹き荒れていたのだ。それは最早巨大な風の嵐と言っても過言ではない。
「何よ····。これ······。」
ミャルナは目を見開きぽっかりと口が開いたままその光景に唖然とする。
『だから言ったでしょう。ミャルナ。ノーマル種だからと言って侮ってはいけませんと。』
聖霊竜ホリスラミスは主人を嗜めるように告げる。その竜顔は最早悟りを開いたかのような穏やかで諦めムードである。
『ん~、ここまで風の精霊を味方につけるとは。あのノーマル種、何者ですか?。そしてあの娘。矢張救世の聖女なのでしょうか?。』
メレンの相棒である神法來竜メルクベロは呑気に冷静に考察を巡らせる。
「ちょ、メレン!。何とかしなさいよ!。貴女教会一の実力者でしょうに!。」
ミャルナは焦りだす。
あんな風のオンパレードような災害を直撃したら加護をうけている聖竜族でもひとたまりもない。聖法皇竜ローマシア様から譲り受けた加護を持った聖鱗剣レオファルスでも目の前の巨大な大自然の風の脅威に勝てる筈もなかった。
「ミャルナ。我が教会の聖典にはこう綴られています。人は諦めが肝心。目の前に大きな壁や暴風が現れたなら甘んじて受けましょうと。」
メレンは指を絡ませ悟りを開いたように祈りの動作をする。
「そんな教え聞いたことないわよ!。」
ミャルナは激しい突っ込みで返す。
アイシャお嬢様の精霊歌のおかげで風の精霊が多量に溢れだすほどその領域に充満していた。ライナは風を纏った鉤爪の右掌を思いっきり大きく二人の六騎特待生とその騎竜に振りかざした。
ガッ!ギャああああーーー!!
(極大・竜風掌おおおおー!!。)
ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうううううううううううーーーーーーーーーーーーーー!!。
災害レベルの特大の風の流れが六騎特待生二人とその騎竜二匹に襲う。
聖霊竜ホリスラミスと聖法夾竜ソルクベロは瞬時に聖なる光の防御魔法で結界のバリアを張る。が、聖属性、光属性の防御魔法はあくまで邪悪な闇に精通したものに効果がある。よって災害レベルの風に対しての効果は全く持ってなかった。
「きゃあああああああーーーーーーーーー!。」
暴れだす突風にミャルナの身体は大きく吹き飛ばされる。乗っていた騎竜からも離され。強風に煽られ胸の膨らみも同時にぷるんと揺れる。
「ああ·····大いなる救世の蒼竜よ····。我が目の前に大いなる試練を与えたことに感謝致します····。」
メレンも聖法來竜ソルクベロの背中から暴風に引き離され。瞑想しながら祈る姿勢のまま暴風に身を委ねる。メレンの清楚でしなやかな胸の膨らみもまたぷるるんと強風に煽られ。揺られ暴風に流されていく。
『ミャルナ!。』
『メレン様!!。』
聖竜族の二匹は暴風の中に流されていく主人の後を追うように風の波に呑まれる。
「メレンっーー!覚えてなさいよよよよよよおおおおーーっ!!。」
最後にミャルナの文句の罵声の捨て台詞が強風とともに微かに流れていく。
わーーーー! わーーーー!
風の谷ウィンドヒルのレース会場では設置されたスクリーンに写るライナ達の様子を観客席にいる観客は見向きもしていなかった。皆風姫の戦いに釘付けである。
出場した全ての騎竜と騎竜乗りを生身と剣で全てなぎ倒した余所者の騎竜乗りと騎竜、それに対するは風車杯を五連覇をなしとげた強豪、風姫と風の悪戯。皆彼等の戦いに釘付けなのである。ライナ達のレースの様子を一応スクリーンに写ってはいたが。画面小さくスクリーンが隅っこに設置された場所で。ノーマル種のレースに興味持つものしか注目されることはなかった。ほとんどのスクリーンの見出しは風姫達と無法者の騎竜と騎竜乗り一色に染まっていた。
『風姫!、何やってるの!。そんな無法者の騎竜と騎竜乗りを早くぶっ倒してえーー!。』
解説のエエチチは風姫達の戦いを写し出す映像を放送席から急き立てる。
『どうやら風姫は逃げまくる作戦のようですね。相手のスタミナ切れを狙っているのでしょうか?。』
ハマナスは風車の丘に写る風姫達の様子を冷静に実況する。
『風姫!、逃げるよりも戦って!。早くあの野蛮な騎竜乗りと騎竜をぶっ飛ばして!。』
会場内では風姫の声援と応援にざわめく。
「お嬢様。どうやらアイシャ様は精霊歌を謳い。ライナ様は二人の六騎特待生を無事退いたようですな。」
ほとんどのものは風姫の戦いに夢中だったが。観客席に座るシャルローゼ達はスクリーンに写るライナ達のレースの様子を注視していた。
「そうね·····。ライナが神足る竜であったら本当に良かったのに······。」
シャルローゼは六騎特待生を風の精霊の力で吹き飛ばした様子を垣間見て少し残念そうにする。
親友でもあり。7大貴族世界最強の騎竜乗りであるシーア・メルギネットがライナを神足る竜でないと断定してしまったのだ。アイシャが救世の騎竜乗りでライナが神足る竜だったらどんなに嬉しかったか。しかし精霊を使役できてもライナは神足る竜ではないのだ。現実はおとぎ話より奇なりとよく言うが。実際現実がおとぎ話のようにはいかないものであら。救世の騎竜乗りのおとぎ話を誰よりも好きだったシャルローゼにとってアイシャとライナはまるで本当におとぎ話に出てくる騎竜乗りと騎竜のように酷似していたからだ。
隣席ではカリスは気まずそうにしていた。
さっき無情と言うバザルニス神竜帝国大学最強の騎竜に対してのシャルローゼ先輩の因縁の話を聞かされたからだ。
今はライナ達のレースのおかげでシャルローゼ先輩の鬼気迫る様子が大分温和されている。
「ふう、聞かなきゃ良かった····。」
ずかずか相手の心に踏み入ってしまったことをカリスは後悔する。
「ふうふう、相変わらず出鱈目な能力を発揮していますね。ライナは。ふう~、一体どういう原理なんでしょう。是非是非観察視察したい!。」
隣で相棒である青い髪の小柄な少女の姿をした弩王竜ハウドが小さなスクリーン画面に写るライナの姿を興奮しながら凝視している。
カリスはそんな相棒の姿をじっと横目に眺める。
「ん?どうかしましたか?。カリス。」
カリスの視線に弩王竜ハウドは気付く。
「いいえ、貴女って、本当に平和よねえ~。」
「?。」
弩王竜ハウドは困惑げに意味が解らず首を傾げる。
風車の丘コース
セランとウィンミー
「はあはあ、ウィンミー。まだいけるわね···。」
セランは鞭を片手で息をあらげ。呼吸を整える。
『うん、風の精霊のおかげでまだまだ頑張れるよ。それになんだか風の精霊の量が増えたみたい。密度も濃くなっているし。』
「風の精霊が?。」
『多分あの娘があの歌を謳ったからだと思うんだけど。』
「まさか、アイシャが精霊歌を謳ったってこと?。」
風の精霊が増えたということは彼女が風の谷で精霊歌を謳ったことに間違いないだろう。救世の騎竜乗りの血筋であるマーヴェラス家。神足る竜を騎竜にし。唯一人の身で精霊歌で精霊を呼び寄せる存在。
セランはごくりと飲み込む。
アイシャが精霊歌を謳ったということはそれだけあの六騎特待生後輩が手強いということだ。セランは胸騒ぎがした。
目の前のベローゼ達を倒すにはどうしてアイシャ達の協力が必要なのだ。合流できなければ勝ち目がない。
目の前に追いかけ回していた武羅鬼竜、我怒羅とベローゼは涼しい顔をしていた。
逆に逃げ回っていた自分達はスタミナがすり減ってへとへとである。
「本当、何処まで化け物な連中よ····。」
セランは口元が引きつく。笑うつもりはなかったが。笑っていなきゃ正直やってられないのである。
「いつまで追いかけっこを続けるんだ。そろそろ私も飽きてきたんだが。」
『全くだな。逃げていては勝負にもならん。そろそろ戦ったらどうだ?。』
艶を帯びた黒光りに輝く鱗に覆われた武羅鬼竜はふんと鼻息を鳴らす。
ベローゼは素肌を晒した鎧から突き出る胸の膨らみがboneと前に張る。
「お生憎様。貴女達が諦めるまでよ。」
「後輩が来るのを待っているのか?。言っとくがあの二人はレースでも実戦経験がなくとも教会内では実力者だぞ。」
「教会?。」
セランは眉を寄せる。
「言ってなかったか?。家の後輩二人は神竜聖導教会の信徒だぞ。」
「なっ!?。」
セランは青ざめる。
神竜聖導教はこの世界で神足る竜を信仰とする宗教である。その組織力は広大で王族や貴族達からもそれなりの権限を持つ。信徒は騎竜乗りとしてレースにはあまり出場しないが。それでも教会内にいる信徒は教会内で訓練を受ける実力者である。教会で騎竜にされる全ての聖竜族は千年の寿命を持つとされる加護竜、聖法皇竜ローマシア様の加護を持っているという。確かにあの六騎特待生後輩の二人が所有していた騎竜は両方とも聖竜族だった。
セランはちっと険しい顔で舌打ちする。
よりにもよって六騎特待生後輩二人とも神竜聖導教会の関係者だったとは·····。
セランは計画が狂ってしまったことに大いに絶望する。
願わくばアイシャ達がなんとしてでも神竜聖導教の信徒である騎竜乗りの生徒二人を退いてくれることを期待するしかない。
その前に·····
「私達の方が先にバテそうなんだけど···。」
セランははあはあと息を絶え絶えながらも手に持つ鞭をぎゅっと握りしめる。
最早逃げることにスタミナを使ってしまい。今は戦うこと以外選択肢がないのだ。
「ほう、やっと、やる気がでたか?。」
「真向からやる気なんて無いわよ!。」
疾風竜ウィンミーは風の精霊のおかげでまだ体力は大丈夫そうだけど。私の方がバテバテである。
でもやるしかない·····。
セランはぐっと唇を噛みしめ。鞭を大きくふりかざす。
「セラン先輩!。只今戻りました!!!!。」
その時、遠くから聞きなれた少女の声がセランの耳へと届く。
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