第169話 成金の誇り

「これはどういうことですのーーー!!。」


目の前で仁王立ちする怒り奮闘の令嬢が俺とマーガレットお嬢様を睨み付ける。

知り合いか?。

令嬢の隣には至高竜メリンに引けを取らないほど。鱗がルビー色に輝く騎竜が寄り添っていた。


「マーガレット・ベルジェイン!。貴女の隣にいる騎竜は何ですの!?。どう見てもノーマル種ではありませんか!。貴女のいつもダイヤモンドのように美しい輝きを放つ至高竜メリンはどうしたのですの!。」

「ああ♥️ライナ様♥️ライナ様♥️ライナ様~~♥️。」

「人の話を聞くのですわ!。」


目の令嬢は握り拳をつくり憤慨する。

令嬢の容姿は盛り上がったような銀髪を垂れ流し。その流れた髪にいくつものロール状に束ねた髪が飾り付けをするかのように流れていた。噴反りかえるように堂々とした胸の辺りにはドレスに小さな宝石の装飾が施された二つのビックバーンのような膨らみがそそりたつように揺れている。マーガレットお嬢様と負けず劣らず見応えのあるお胸である。主人であるアイシャお嬢様とは絶対に比べられないな。理由は言えないけど。


「ゴージャスエレガントカップはわたくし達の高貴なるもの達の戦場。それをノーマル種で出場するなんて一体何考えているのですの!。わたくしたちはお互いゴージャスさとエレガントさを高めあうほどの宿命のライバルでしたでしょうに!。マーガレット・ベルジェイン。恥を知りなさいですわ!。」


盛り上がった銀髪の令嬢はビシと指をさす。


「ああ~~ライナ様~~♥️。」


マーガレットお嬢様はそんな彼女の罵倒を気にせずべったりと俺の体に擦り寄せてくる。


ギャアラギャアガアラギャアガアラギャアギャア

(あの~、すみません。全然話を聞いておりませんよ~)


俺は横からフォローする。


「ムッキ~~~!。」


ドンドン

無視された目の前の銀髪の令嬢は怒りのあまり地面に何度も打ち付けるように地団駄をならす。

ムッキ~って猿のような怒りの表現久しぶりに聞いたな。俺はそんな二人の令嬢の掛け合いを達観しながら観察する。


『申し訳ありません。私は崇高竜アミルと申します。この方は我が主人であるマドワーゼル家のご令嬢シャルロッテ・マドワーゼルと申します。』


会話が進まないと察したのか。隣のルビー色のの光を放つ騎竜が俺に自己紹介をする。


『私は至高竜メリンとも面識があります。メリンはどうしたのでしょうか?。』


丁寧に俺から事情を聞こうとしていた。主人と違いこの竜は冷静で理知的なようである。俺に対して見下す素振りも見せない。


ギャラギャアガアラギャア····

(はい、実はかくかくしかじかで····)


俺は崇高竜アミルにゴージャスエレガントカップに出場することになった経緯を話す。ただ何故マーガレットお嬢様が俺に乗りたいのかという事情は伏せておく。理由はマーガレットお嬢様の尊厳の為である。高貴なお嬢様が実はノーマル種の背中に胸を擦りつけたいが為と言える訳がない。性癖を暴露され有らぬ波風を立たせない為である。俺が女性の胸を背中に押し付けられたいという性癖の変態として。己の性癖を暴露することも自殺行為である。相手に幻滅されることは明白である。よって性癖を隠し通すことが得策なのである。本来ならマーガレットお嬢様も上面て隠し通す必要性があるのだが。彼女の場合最早隠しとおすこと不可能な段階まできているのだ。よってこのレースは早々終わらせることが得策なのである。


『そんな事情が····。』

「何たること。何たることですわ。ノーマル種に乗りたいがためにこの高貴な貴族のレースであるゴージャスエレガントカップに出場したなんて。マーガレット・ベルジェイン。貴女は高貴な貴族としてのプライドが無いんですの!。こんな美しくもない。みすぼらしく貧相で地味でいかにも貧乏臭いノーマル種を騎竜にするだなんて。」


かなりデスられているなあ~。まあ確かに金持ち凡凡の成金レースにノーマル種が出場すること自体場違いだと理解できるけれど。だからと言ってそこまで言うことないじゃないか!。確かに家は貧乏だけど。貧乏は貧乏でも懸命に生きてるんだよ。貧乏臭い竜でも健気に頑張っているんだよ。そんな言い方ないでしょうに。俺は内心傷つき。そう反発する。


「いい··加減に···するのですわ······。」


俺は抱きついていたマーガレットお嬢様は俺から離れ肩をふるふると震わす。


「さっきから聞いていればライナ様を汚すような言葉を次から次へと。撤回して欲しいのですわ!。」


どうやらマーガレットお嬢様は俺の暴言にキレたようだ。甘えた姿は消え。今は堂々とぷるんとした胸の膨らみをつきだし目の前のシャルロッテを睨み付ける。


「ライナ様は強いのですわ!。メリンをまかす程の実力を持っているのですわ!。それを貧相など地味など貧乏などと。」


マーガレットお嬢様は眉をつりあげと怒りにうち震えている。

俺はそんなマーガレットお嬢様の様子を微妙な竜顔で眺める。

言っときますけど。マーガレットお嬢様。決闘するレース前は貴女は俺に対してそんな印象態度でしたよ。

俺は沈黙したまま突っ込んでみる。


「ノーマル種が貴女の至高竜メリンに勝利したですって。ふざけるのも大概にして欲しいですわ!。 マーガレット、貴女頭大丈夫ですの?。」


頭大丈夫か?と言われて反論することに俺は躊躇いを覚える。マーガレットお嬢様が正常なのかどうかなど今の俺でも判断しかねる。


「シャルロッテ、貴女はライナ様の偉大さを何も解っていないのですわ!。わたくしは確かに裕福な家庭で生まれましたわ。なに不自由ない暮らしでしたわ。毎日ベルジェイン家に恥じない礼儀正しい振る舞いしてきましたわ。。」

「なら!。」

「それでもわたくしは満たされなかったのですわ!。どんな宝石類や金銀装飾類に飾られても私の心は満たされなかったのですわ。しかしそんな満たされない日々に光明を与えてくれたのは何を隠そうここにおられますノーマル種のライナ様なのですわ!。ノーマル種のライナ様はわたくしにまだ見ぬ希望の扉をみせてくれたのですわ!。」


でんとマーガレットお嬢様は堂々と嬉しそうに胸を張る。


光明よりは暗雲だと思いますよ。後その扉は希望の扉ではなく禁断の扉です。

俺は内心そう突っ込む。


「なっ、マーガレット、貴女の言っていることは色々滅茶苦茶可笑しいですわ!。目を覚ますのですわ。!。」


シャルロッテは非難めいた声で叫ぶ。

ほんと目を覚まして欲しいです。俺も彼女に内心そう突っ込む。


「そんなの知るかっ!ですわ!。わたくしはゴージャスさやエレガントさよりも大切な掛け替えのない素晴らしいものを手に入れたのですわ!。豪華なドレスを着用するよりも高価な宝石をつけるよりもそれより勝るものを手に入れたのですわ!。貴女がどうこう言おうがわたくしはライナ様と一緒にレースを出るのですわ!。邪魔しないで欲しいですわ!。もう失礼するのですわ!。行きましょう。ライナ様。」

ギャ··ガア····

(ん、ああ···)

ぷい


あまりにものマーガレットの気迫にシャルロッテは気圧され言葉を喪う。

マーガレットお嬢様は俺をひっぱりずんずんと前へと言ってしまう。

一人取り残されたシャルロッテはポカーンと口を開いたまま立ち尽くす。

隣のルビー色に輝く崇高竜アミルは心配そうに主人の様子を伺う。


「マーガレット・ベルジェイン·····。貴女に一体何があったというですの?。」


変わり果ててしまった宿命のライバルにシャルロッテは眉寄せ悲壮感に包まれる。


陰の隅で会話を聞いていた令嬢達がいた。毎年優勝者であるマーガレット・ベルジェインに敵意に似た眼差しをむけている。


「皆さん聞きましたか?。」


一人の顔を白粉を塗りたくったような厚化粧をした令嬢が呟く。


「ええ、まさかあのマーガレット・ベルジェインがノーマル種を騎竜にするだなんて。」

「これは勝機ですわ。いつもお高く止まっているマーガレット・ベルジェインを出し抜くチャンスですわ!。」

「いよいよゴージャスエレガントカップの連覇を阻止する時が来たですわ!。」


口々にきらびやかに宝石類と貴金属、真っ白に塗りたくった厚化粧顔の令嬢達は真っ赤な三日月の唇が歪に歪む。


「ふふふ、今宵マーガレット・ベルジェインはゴージャスエレガントカップに完全なる敗北を味うのですわ!。」


白粉のような厚化粧顔の令嬢達は薄暗い陰の隅で密かに策略を企てる。






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