第124話 マーヴェラス領へ

俺とアイシャお嬢様はアルナビス騎竜女学園の校門前に立っている。迎いにくるメイドのリリシャさんとカーラさんを待つ為である。馬車を用意するのに少し時間が懸かるそうだ。実家に帰る令嬢生徒達と人化している騎竜は次々に門を通りすぎる。親友であるパールお嬢様とレインお嬢様は既に邸に帰っている。一緒に帰ろうと誘いもあったけど。アイシャお嬢様はメイドのリリシャとカーラを待つと断りをいれている。学園の令嬢生徒達は迎えにきた貴族の親族や使用人に豪華な馬車で乗って邸に帰っていく。

俺は校門を通り過ぎる令嬢生徒達に別れの挨拶をする。いつの間にか全学年の令嬢生徒達の人気者になっていた。

迎えにきた親族達もノーマル種に抱きつく令嬢生徒を目撃して目を丸くして驚いていた。ノーマル種に抱きつくなどみっともないと娘を引き剥がそうとする親もいた。とにかくよくも悪くも俺は人気者になってあった。


「ルぅ~ライナ~。」


白い獣耳をぴんとはねて元気よくルゥがぴょんと跳躍して俺の背中に抱き付く。

むにゅう♥️

おおお

白い毛皮に覆われた柔らかな感触が背中にあたる。


「アイシャ様、ライナさんもお帰りですか?。」


緑森竜のロロさんはいつもの竜の姿ではなく。人化したシルクのキトンに身を包んだ青柳色の角を生やす深縁色の長い髪を垂れ流す母性的な女性の姿をしていた。


「はい、ライナとマーヴェラス領に帰ろうと思います。」


アイシャお嬢様は笑顔で返事を返す。


「そうですか。私達も故郷である神精樹の森にある村に帰ろうとおもいます。」

「そうなんですか?。神精樹の森というと世界と繋がっているといわれている創世時代からある世界樹ですね。」


神精樹とは世界が誕生した頃からあるとされる大樹で精霊が集まる特別な樹木らしい。貴族達からも神聖視されているという話だ。


ギャアギャアギャアガアギャアギャ

「ロコに宜しくと伝えてください。」


俺はロリ杯で知り合ったシャービト族のことを教える。


「ルぅ、ライナ、ロコのことを知っているの?。」


俺の背にしがみつくルゥは白い獣耳をぴくぴく動かしながら問いかける。


ギャアガアギャアラギャギャアガアギャアギャ

「ああ、出場したレースで知り合ったんだよ。」


俺はシャービト族のロコとの出逢いを説明する。


「ロコはシャービト族の地位を高める為にレースに出場してお金を貯めると言ってました。元々あの娘はシャービト族の中でもお金が大好きでしたから。」


ああ、だから宝輝竜の洗脳に引っかかたのか。シャービト族は自然とともに生きる無欲な純粋なイメージがあるが。例外もあるらしい。

ギャアラギャギャアガアギャアラギャギャアラギャギャアガアギャアラギャギャアガアギャギャア

「一緒にレースで戦いましたよ。ロコの騎竜であるエレメント種の清水竜のアクラとも戦いましたし。」

「そうですか。アクラもロコと一緒に村を出ていったから心配していましたが。問題ないようですね。」


ロロさんは安心したかのように微笑む。


「アーニャ、さっさと帰るわよ!。既に私達の親達が迎えにきているかもしれないわ!。遅れたらまたどやされるわよ!。」

「ふええ。それだけはご勘弁を。」


慌ただしく二人の令嬢が校門に向かって駆けてくる。


ふりふり ふわふわ

ポニーテールをフリフリ揺らすカリスお嬢様と風船や雲のような軽さと弾みと大きさを秘めた胸を揺らすアーニャお嬢様はいつものように慌ただしく駆けてくる。傍に人化している角を生やす青髪の少女と角生やす気だるそうに眠たそうにする大人の女性、弩王竜ハウドと地土竜モルスがついていく。


「あっ、もう着いている!。」

「ふええ、もうですか!?。」


二人は既に自分達の親が迎えに来ていることに慌てふためく。はあはあと息を切らしながら校門前にいる親の前にたつ。


「遅いぞ!アーニャ!。」

「遅いですね。カリス。」


二人の令嬢を迎えに来ていた親は二人とも父親だった。一人は顎髭を囃した肉付きのよい身体に厳格そうな男ともう一人はひょろっとした背丈とキリッとした眼鏡をかけたきつめの男性である。

二人は遅れてきた娘にたいして鋭い剣幕で睨み付ける。

あそこの二人の令嬢の父親はかなり厳しそうだな。家のアイシャお嬢様の父親であるマーヴェラス伯爵とは偉い違いである。


「アーニャ、連休に入るからってたるんどるな。」

「ふええ、ごめんなさい。」


ふわ

アーニャお嬢様が謝罪する度、頭をたれると2つの胸の膨らみが雲のように揺れる。


「モルス!。お前もだぞ!。ここまでだらしないと娘との契約を解消させるぞ!。」

「め、滅相もありません!。」


ビシッ

地土竜モルスの気だるそうなやる気のない姿勢が一瞬して背骨を伸ばし直立姿勢を保つ。


「カリス、勉学は大丈夫ですか?。騎竜乗りの戦績は別に問題にしません。しかし学園の勉学だけは真面目に勤しみなさい。」

「はい、お父様······。」


カリスは活発そうな令嬢だが。今だけしおらしく大人しくしている。 

やたらタイプが違う父親達だな。アーニャお嬢様の父親は肉体派でカリスお嬢様の父親は知性派かな。異なるタイプの父親を俺は竜瞳でまじまじとみる。

むっ

がっしりした厳格の方のアーニャお嬢様の父親が此方の視線に気付く。


「ノーマル種?。確かアーニャの手紙に決闘やレースに勝利し続けていると書いてあったな······。」


アーニャの父親がつり上がる太眉がジッとライナの竜姿を捉える。


「······。」


沈黙しながらじっと此方を凝視している。俺を暫く観察しているとアーニャお嬢様の父親がとふっといかつい口許から笑みがこぼれる。


「良い筋肉だ。」


ぞお〰️〰️〰️

何だ?このオッサン····


俺は軽い悪寒が走り緑の竜顔が青ざめる。

アーニャお嬢様の父親は俺の竜姿ではなく俺の筋肉に対してにやけるほど見とれていた。

俺の竜背が鳥肌が立つほど寒気がはしる。

何かレッドモンドさんと同じ臭いがする。

何故だがアーニャお嬢様の父親が師であるレッドモンドさんと同じ雰囲気を醸し出していた。


「ライナ!。」


続いて髪をブラウン色に染めているキリネが駆け寄り抱き付いてくる。

後方に控え目に角を生やす人化したミステリアスな雰囲気を品のよさそうな女性となった幻竜ラナシスさんもいる。


「ライナが実家に帰るなんて悲しいよ。僕も一緒に行こうかなあ?。」

「来んなっ!。」


アイシャお嬢様は我が儘な駄々っ子のような罵声をキリネの言葉に対して発する。


「何だよ。アイシャには関係ないだろ。僕がライナに逢いたいだけなのに。」

「ライナの家は私の家よ。」

「じゃ、ライナだけ貸して休み明けに返すから。」

「絶対駄目!!。」


相変わらず二人の仲は最悪である。

これを三角関係と言えるかどうかは問題あるだろうが。


ギャアラギャギャアガアギャアラギャ?

「ラナシスさんも実家に帰るんですか?。」

「いえ、キリネは家出中の身で暫くサウザンド家の別荘にやっかいになるつもりです。セシリアお嬢様と魅華竜ソリティアは現状報告の為にサウザンド家の邸に帰っております。」

「このまま姉様達はサウザンド家に行ったまま帰って来なければいいのに。」

「これ、キリネそんなことを言うものではありませんよ。」


キリネはべえーは可愛げに舌を出して俺に懐に抱きつく。ラナシスさんは深いため息を吐く。相変わらず苦労してそうであは。

エルフのリスさんと妖精竜のナティだけは見送りにしていない。まあ7日の連休だし。直ぐに逢えるだろう。

ルぅとロロさんと校門前で挨拶して別れる。ラナシスさんも俺に抱き付いてはなれないキリネを無理矢理引き離し。サウザンド家の別荘に連れていく。他のお嬢様達も次々に各々の実家の邸に帰っていった。

お嬢様達は皆校門を通り過ぎ。帰省するのが俺とアイシャお嬢様だけとなった。


「遅いねえ。ライナ。」

ギャアラギャ····ギャアラギャギャ

「そうですね···。やけに遅いです。」


馬車を用意すると言ってもここまで遅くならないはず。何かあったのかなあ?。

ガラ ガラ


「お嬢様~!。お待たせしました~!!。」


ボイン ボイン

聞き慣れたメイドのリリシャの声が聞こえ。いつも通りの豊満な爆乳が揺れる。

リリシャに続いて馬車の手綱を引くカーラの姿が見えてきた。しかしカーラさんの馬車の荷台はいつも通り荷台ではなく檻がついていた。しかも前より豪勢に頑丈にバージョンアップしたものだ。

リリシャとカーラの引く馬車が校門前に止まり。カーラは勢いよく飛び降りる。

カーラさんはニコニコと満面な笑顔で掌を荷台のある檻に差し述べる。


「さあ、ライナ。このより豪勢に!、より豪華になった荷台にお入りなさい!。」


カーラは飛びっきりの笑顔を俺に向けてくる。


···········

俺は微妙な竜顔を浮かべる。

うん、何となくこうなることは解っておりましたよ。もう完全に諦めておりますし。ただね。檻にね。猛獣注意とか触らずべからずのプレートとか何なんですか?。ふさげるのも大概にしてください!。バージョンアップされた檻の鉄格子の外壁には猛獣注意、触らずべからずといったプレートが檻全体に貼り巡らされていた。


アイシャお嬢様は馬車に乗り。俺はカーラさんが用意した悪趣味な荷台(檻)に入る。


「では参りましょう。」


ボインボイン

ガラガラ

馬車の車輪が回りだす。

視界に写る学園の建物が離れていく。

時計塔を過ぎ露店の路を進み住宅街の舗装された路をとおる。

相変わらず物珍しそうに檻に入れられているノーマル種を住民達が眺めている。

カーラさんは自慢するように胸を張って手綱を引いている。何処に自慢する要素があるのだろうと内心不満と不服を反発感を感じていたが。考えるのも疲れるので思考を停止する。

騎竜都市ドラスヴェニアの門番に通行証をみせて正門を出る。

門の外は広大な草原が広がっていた。

馬車は草原の路を進みマーヴェラス領へと向かう。

何処からかコンドルが翔んでいくのような音色が流れていた。

草原を抜け平原を進み。平原を進むと懐かしい牧場の景色か見えてくる。牧場と一緒にマーヴェラス領にいる僅かな領民がいる村に通りかかる。


「ああ、ライナだ!。」


子供達が檻に入る俺の姿を見つけるとはしゃいで駆け寄ってくる。


「ライナが帰ってきたの?。」


洗濯物を干していた娘達も子供の声に聞きつけ馬車の周りに集まり出す。。


「ライナ、帰ってきたならお嬢様も帰ってきたのか?。」


老若男女問わず領民達は馬車の集まりだした。


「みんな、ただいま!!。」

「「「お帰りなさいませ!!。アイシャお嬢様!!。」」」


領民達はみんな元気よく挨拶する。

マーヴェラス領の領民達は前より活気が良くなっているような気がした。領民も少し増えているみたいだし。マーヴェラス家も少しずつ復興しているのだと感じられる。

領民達から見送られ馬車は牧場を通り。懐かしきマーヴェラス家の邸に到着する。マーヴェラス家の邸の建物は特に豪勢とか豪華にはなっていなかった。いつものボロ邸である。て言うかカーラさんの檻を豪華にするくらいならマーヴェラス家の邸を改装すればいいだろうにと心の底で不満をを覚える。。



「アイシャ!!。」


マーヴェラス家の邸から勢いよく飛び出し。父親であるマーヴェラス伯爵が出迎える。


「お父様!!。」


互いに父と娘は嬉しそうに抱きあう。

帰って来たんだな·····。


俺の竜瞳は懐かしむように目の前にそそりたつマーヴェラス家の邸を眺める。

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