第119話 三つ巴
「何っ!?。」
ひゅん!!
二人最強の騎竜乗りの間に割り込むようにノーマル種が通り過ぎる。
あっ!?しまった!!。思わず通り越してしまった。このまま二人の最強の騎竜乗りと騎竜を前に出して戦わせて。なるべく二人二匹と戦わないようにしようかと思ったのに。最強の騎竜乗り二人と二匹を互いに戦わせて疲弊した隙に此方もある程度攻撃を加える戦法にしようかと思っていたのだ。こすいやら卑怯やらと言われても相手がチート竜なんだから仕方ないだろうが!。
「馬鹿なっ!?。ノーマル種が私達を追い越しただと?。」
シーアは驚きのあまりあいた口が塞がらなかった
「どうですか?シーア。これがアイシャ・マーヴェラスの騎竜ノーマル種の加速飛行です。我々と互角に渡りあえるでしょう。」
シャルローゼはまるで自分事のように嬉しげに自慢する。
「·······。」
絶帝竜カイギスは巨体の背で自慢する主人に何とも言えない微妙な竜顔を浮かべる。何故ならカイギスはどのようにしてノーマル種ライナが加速飛行を行っているか解っていたからである。主人であるシャルローゼには伝えていない。伝えられない。何故ならノーマル種ライナの加速飛行の秘密が騎竜乗りの胸にあるからだ。セシリア嬢の決闘の時もノーマル種ライナが背中に胸を押し付け背中を擦ることにより加速を行っていた。そのようなことが可能としているのは矢張気というこの世界の理と違う力が作用しているのだろう。カイギスの生涯のライバルであったレットモンドもまた不思議な力、気を扱い尋常でないスピード飛行を可能としていた。レットモンドの場合は筋肉が引き締めることにより体内の気を圧縮させ発散させることで高速飛行を可能であった。どういう原理か理屈か未だ解らないが。どうやらレットモンド同様ノーマル種ライナも気を扱い。それを応用した加速飛行が可能のようである。ただしノーマル種ライナの場合は背中にのせる騎竜乗りの胸がトリガーのようであり。そして乗り手の違いにもスピードにも差がでるようである。ライナの背中に胸を擦りつけることでノーマル種ライナの飛行スピードが増す。この詳細は主人であるシャルローゼ様にはまだ伝えていない。知ったらあの方のことだから試そうとするに違いないからだ。他の令嬢ならともかくシャルローゼ様がそのような行いをしたならば色々問題になる。国家レベルで。
「あり得ないこんな·····。」
シーアはきゅっと唇を噛みしめる。
『あっ!?思い出した!!。そうだ!背中に抱きついて沼に沈んだ竜(ドラゴン)だ!。』
白銀竜プラリスはやっとノーマル種ライナが初対面でないことを思い出す。
ギャあああああーーーーーーーーーー!!
(オパパイーヨ‼️オパパイーヨ‼️オパパイーヨ‼️オパパイーヨ‼️オパパイーヨ‼️オパパイーヨ)
オパパイーヨ‼️という意味不明な竜言語を連呼しながらライナはシーアと白銀竜の前を突き進む。
「く、調子に乗るな!。ノーマル種。お前のような下等種が断じて神足る竜などではないのだ!!。」
シーアは激昂し前に出るノーマル種を追う。
「シーアが久しぶりにむきになっていますね。」
『大丈夫でしょうか?。』
「普段は冷静ですが。個人的なことになると頭に血がのぼる性格ですから。少し頭を冷やさせないと。」
シャルローゼは手に持つコンパウンドボウのようなアーチェリーの弓を構え。丸いサイトをシーアに狙いをつける。
びゅうううーーーーーー!!
不本意ながら先頭にでてしまった俺とアイシャお嬢様。後ろからは世界最強の騎竜乗りシーア・メルギネットと最強の竜種、白銀竜プラリスナーチが追ってくる。
「待ちなさい!ノーマル種!!。」
物凄く怒り狂ったようにシーアは俺に敵愾心を向けてくる。
何か俺、癇に触ることしたか?。
白銀竜プラリスナーチは銀色に光る氷の粒を撒き散らしながら加速してくる。俺の予想が確かならあのダイヤモンドダストのような光を放つ粒子は銀氷という精霊なのだろう。どんな特性を持つか解らないが。氷が付くくらいだから氷属性に違いない。氷とくれば炎をだろうが。
「プラリス、さっさと魔法を放ちなさい。」
『う~ん、折角思い出したのに。』
プラリスは不満げに白銀色の竜のくちばしをへの字に曲げる。
『アイシクルコキュートス(氷河結地獄)。』
ピキ パリパリパリパリパリパリパリパリ
白銀竜プラリスナーチの竜身から冷気が放たれ空気中が凍結していく。徐々に浸蝕するように先頭を飛行するライナにも襲いかかる。
ごおおおお~はあああああ~~~
俺は竜口から熱気を帯びた炎を宿したような呼吸を行う。
大気中から赤い光の粒子が右鉤爪の素手に集まる。
俺はくるりと向きを変え引っ掻くように竜の腕を振り下ろした。
ギャアあああ!!
「竜炎掌!!。」
ごおおおおおおおおーーーーー!!
振り下ろした腕に沿って炎のアーチができる。空気中に凍りつく魔法の現象も一瞬で溶かされていく。
「そんな····ノーマル種に火の精霊が加護を与えている····。」
シーアは言葉を失い絶句する。
『凄いねシーア。ノーマル種も精霊も扱えるんだね。』
白銀竜プラリスはマイペースにライナが起こした現象に感心する。
シーアの唇がみるみる歪む。
それはあまりにも理不尽な矛盾からくる悔しさであった。何故救世の騎竜乗りの子孫がノーマル種に乗らねばならないのか?。何故偉大なる神足る竜に成り変わりノーマル種でなくてはならないのか?。マーヴェラス家の子孫が乗るのはあの騎竜ではなくてはならない。偉大なる救世の騎竜乗りの騎竜は神足る竜以外絶対有り得ない。救世の騎竜乗りの伝説を汚すことが彼女が最も嫌うことであった。それほど7大貴族であり。操竜の称号を持つ銀姫シーア・メルギネットは救世の騎竜乗りに恋い焦がれ。憧れを抱く人物であった。
「プラリス!、全力であのノーマル種を潰します!。力をかしなさい。」
『何、そんなに怒っているの?恐いよ~。』
白銀竜プラリスは主人の怒気を帯びた態度に怯える。
ギギィ ひゅん!
シャルローゼは弦の伸ばし。魔力で作られた光の矢を放つ。
光の矢はそのままシーアの甲冑を纏う胸に掠める。
「くっ!。」
「シーア!、少し頭を冷やしなさい!。これは競争ですよ。私との戦闘もお忘れなく。」
巨体の絶帝竜カイギスにシャルローゼも割り込むように参戦してくる。
これで三つ巴の戦いになった。
俺はこの最強二人と二匹を相手にしなくてはらならない。最強同士戦うこともあるだろうが。正直言って最強二人二頭をまとめて戦えるほど俺は実力は持ち合わせていない。
「邪魔しないで貰いたい!。シャルローゼ様!。私はノーマル種を偽物の神足る竜だとを証明せねばならないのです!。」
シーアは激昂し大声でシャルローゼに反論する。
何を言っているんだ?彼女は。
竜の眉間を寄る。
俺が神足る竜なわけないだろうに。
どうやらあのシーア・メルギネットという7大貴族の御令嬢は俺が偽物の神足る竜と思われているようだった。偽物も何も俺は神足る竜なんかじゃなくただのノーマル種なのに。
何か競争以前に雲行きが怪しくなってきた。
「ライナ、私あれやるね。」
俺の背で意を決したようにアイシャお嬢様呟く。最強達相手に俺はアイシャお嬢様ととある作戦をたてていた。
「アイシャお嬢様お願いします。自分だとどうも上手くできませんから。」
俺はアイシャお嬢様に頼む。
アイシャお嬢様は大きく息を吸い込み口ずさむ。
ル~ ルルル~~
ル~ ルルル~~
「何っ!?。」
「これは······。」
シャルローゼもシーアもいきなりノーマル種ライナの背で歌い出すアイシャお嬢様に驚愕の顔を浮かべる。
世界の意志は2つに別たれた。
二匹の竜は代わりに応えを示す。
繁栄か?(繁栄か?)
滅びか?(滅びか?)
2つの(2つの)意志を紡ぐ
双極の竜は世界に路を捧げる
永遠の問いは無限の応えを示す
繁栄か?(繁栄か?)
滅びか?(滅びか?)
2つの(2つの)意味を紡ぐ
精霊が願うは人の安寧
自然が望むは人類の淘汰
世界に 2つの 応えを示す
「まさか精霊歌ですって?。正に伝承通りに。」
シャルローゼはアイシャ・マーヴェラスが精霊歌をうたいだしたこと目を見張り感動にうち震える。救世の騎竜乗りの伝承には二匹の神足る竜の競争に精霊歌を歌い勝利に導いたと記されていた。
「何処まで···何処まで···救世の騎竜乗りの名を汚せば気がすむの。ノーマル種!。」
シーアは俺に敵意に似た憎悪の視線を向けてくる。何で俺が目も歯もないことで恨まれなきゃいけないの。そっちが勝手に偽物の神足る竜だと勘違いしているだけでしょうが。
俺は嫌々げに竜口がしぶる。
うっとりとした恍惚な表情を浮かべる令嬢と俺を憎々しげに睨みつける二人の令嬢を前にして俺はげんなりする。
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