第120話 手強きは人

わーー わーーー


校庭グランドに設置された魔法具のモニターに映し出されるノーマル種とその背に乗る歌声をあげる令嬢をじっとエルフと青と白のコントラストの鱗に包む竜が見つめる。


「あれは····精霊歌···。」


エルフであるリスは精霊歌を唄いはじめたアイシャ・マーヴェラスを凝視する。


『あのよこしま竜。何、精霊歌を人間に教えているんですか!。』


妖精竜ナティは不機嫌にふんふんと竜の鼻息を鳴らす。

それをエルフのリスはジトリと横目に視線を向ける。


「貴女の仕業ね。ナティ。」


ぎくっ!

妖精竜ナティは疚しげにたじろぐ。


『ち、違うんです。リス。あのよこしま竜が精霊を一気に集める方法を教えろというから仕方なく。別に精霊歌を人間に教えていいと一言も言ってないです。全部あのよこしま竜が悪いです。本当です。全部全部あの不埒でよこしまな竜が悪いんです!。』


ナティはライナに全ての罪を擦り付けもとい責任転嫁させようとした。


「別に責めていませんよ。リス。ライナが精霊歌を習いたいと言ったなら私は咎めたりしません。ただ·····。」


リスはスッと顔を上げ。唄い続けるアイシャ・マーヴェラスの姿を見つめる。


「これも運命なのでしょうね·····。」


精霊歌はエルフにとっても森と共に生きるシャービト族にとっても大切な唄である。あの伝説の救世の騎竜乗りにとっても特別な唄である。その子孫であるアイシャ・マーヴェラスが唄ったことにリスは運命を感じられずにはいられなかった。


「ルゥ。ロロ、精霊歌だよ。」

『そうですね。懐かしいですね。』

「ルゥ~。」


ルゥは白い獣耳が垂れ。寂しそうな顔を浮かべる。


『ルゥ様。学園ではドラゴンウィークという連休に入るそうです。私も神精樹の精気を吸いたくなりました。久しぶりに神精樹の森に帰りましょうか?。』

「ルゥ~~!。」


ルゥはぴょんぴょんと嬉しそうに跳び跳ねる。


アイシャお嬢様が精霊歌を唄ったことにより。俺の周囲が赤、青、黄緑、茶、黒、白黄色の光の粒子が集まりだしていた。しかも俺が唄うよりも膨大な数の精霊が集まっていた。コース一帯が精霊で充満している。


「連刃双氷斬!!。」

「キングダムシュート(王界の矢)!。」


二人の最強の騎竜乗りが俺達にお構い無く戦いを始めていた。最初はシーア・メルギネットが俺達に攻撃を仕掛けようとしていたが。それを妨害するようにシャルローゼお嬢様が相手をしている。シャルローゼお嬢様は絶帝竜カイギスの巨体の背にいつものようにアクロバティックな身軽な動きでコンパウンドボウような弓から光の矢を放つ。宙に浮く側転(側宙)を行い宙に浮いた瞬間に矢を放つ。シャルローゼお嬢様の盛り上がったしなやかな美しい肢体の二つの膨らみが空を浮く瞬間にぶるんと揺れる。

おおっといかんいかん。一瞬目移りしてしまった。これはチャンスだ。二人が戦っている間。俺とアイシャお嬢様はそのままゴールを目指そう。

最強の二人二匹をわざわざ相手する必要性がない。このまま逃げ竜としてレースを終わらせる。

俺はそのまま二人二匹を残して前に出ようとする。


「逃がすか!ノーマル種!!。」


シーアが俺は姿を捉えるとけたたましい声を上げて俺を目指して突き進む。双剣の剣先が俺に向かっていた。

ちょ、騎竜乗りが騎竜に攻撃しちゃ駄目でしょ。レースのルール上騎竜は騎竜に騎竜乗りは騎竜乗りに攻撃する。騎竜乗りは騎竜を攻撃すると過剰攻撃とみなされ反則になるのだ。どうみてもシーア・メルギネットは俺を狙っていた。


ひゅん くるくるくるくる


アイシャお嬢様が背中のショルダーに収めていたブーメランをとり投げ入れる。ブーメランは弧を描き。白銀竜の背にのるシーアに向かう。


「くっ!。」


キン

シーアは双剣でブーメランを弾き飛ばす。


「よりにもよってブーメランなんて。」


シーアは複雑な顔をする。


くるくるくるくる バシっ

アイシャお嬢様は戻ってくるブーメランを見事にナイスキャッチする。


「何かシーアって人。ライナに恨みでもあるのかな?。」


アイシャお嬢様もシーア・メルギネットの俺に対する執着とも呼べる敵愾心嫌悪感を敏感に感じとっていた。

はあ~何でこうも俺は女難の相が悪いんだ。日頃の行いが悪いはずないのに。一応清く正しく騎竜として生きている。女性の胸の膨らみを背中に味わうこと以外は至って普通である。女性の胸の膨らみの感触を背中に味わうことが悪いことだと言うならそれはそれまでだが·····。


『お嬢様。どうやらライナ様が逃げに徹しているようです。シーア様はライナ様に執着しており。倒すことしか考えておりません。』

「困りましたね。これではちゃんとした競争にもなりません。」


シャルローゼは困ったように薄目に眉をひそめる。


『どう致しますか?。』

「仕方ありません。荒療治にいきます。私としては彼等に全力でぶつかって欲しいのです。神足る竜と見定める為にも全力でいきます。カイギス、魔力をもらいますね。」

『畏まりした。』


シャルローゼは高々にコンパウンドボウの形をした弓を頭上にあげた。

矢の尖端に膨大なカイギスの魔力が注ぎ込まれる。

ギギギィ 

膨大な竜の魔力を集めた矢をシャルローゼは弦を引き契れるほど引く。


「ミーヤアローシャワー(流星矢雨)。」


ひゅん

矢が放たれると膨大な魔力がこもった光の矢が打ち上げ花火のように高く昇っていく。


ギャア!?

「何だ!?。」


真っ昼間に打ち上げ花火のような光が空に昇っていったことに俺はおおいに困惑する。


「これは?いけない!!。プラリス回避して。私は防御魔法を張るわ。」

『分かった。』


白銀竜プラリスは一旦俺達との距離を離れた。

何だ?何が起こる。

俺は嫌な予感がした。

ひゅーーーーーーーーーん パアン!

空高く上空に光の矢が昇り。遠くに見上げるほどまで到達すると膨大な魔力がこもった光の矢は花火のように破裂する。

分裂した光の矢は無数の流星雨となって真下に流れ落ちる。


ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん


それは正に花火が弾けて下に流れ落ちる様である。


ちょ、冗談じゃねえぞ!。

俺は愕然とする。

回避しようにも無数の光の矢は目で捉えられないほどの数であり。例え竜気掌でも流星雨のような分裂した光の矢を全部凌ぐことができない。

騎竜もチートだと思っていたが。騎竜乗りもチートだった。


ギャア

「クソ!。」


俺は気を練り込んだ掌で防ごうとする。

精霊を扱った技で凌げばよいのだろうが。シャルローゼお嬢様が放った光の矢は光属性である。光に対抗できるのは闇である。生憎俺は光の精霊と闇の精霊だけは技として昇華できない。妖精竜ナティ曰く。俺が光と闇の本質を知らないからだそうだ。

闇の精霊を技として昇華できたらなんとかなったかもしれないが今更どうにもならない。


膨大な光の流星雨の矢が俺とアイシャお嬢様に降り注ぐ。


ギャアガアギャアラギャアギャアガアギャア

「仕方ない。アイシャお嬢様だけでも防ぐか。」


俺は肘を上げ。気を練り込んだ腕を空に上げガードする形を取る。アイシャお嬢様を守ることを優先し。他は無防備である。


ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん

針千本という名に相応しい矢の流星雨が俺に降り注ぐ。


「神聖の囲壁(ホウリィフェンス)。」


カアア

突然俺の前が光の膜のように覆われ流星雨の無数の光の矢が包む光の膜に防がれる。


「もう、ライナ私が光属性の魔法扱えることわすれていたでしょ。」


アイシャお嬢様は不機嫌に頬を膨らませる


ギャアガアギャアラギャアギャアガアギャギャア

「ああ、そうでしたそうでした。すみません。」


そういえばアイシャお嬢様は光属性の魔法が得意だった。


「まさか···。アイシャ・マーヴェラスは光属性の魔法を扱うの·····。」


シーア・メルギネットはノーマル種ライナにたいしての執着と敵意が失せ。意気消沈をしたかのように呆然とする。アイシャお嬢様が光属性の魔法を扱えたことがかなりのショックのようだ。

俺は考えを改めなくてはならない。騎竜も手強いが。騎竜乗りも更に手強い。アイシャお嬢様と協力してこの最強の二人二匹を相手にしなくてはならないと。

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