第116話 Nooooーー!!

「アイシャ、今日はアイシャの為に弁当つくったのよ。後、レインの分は無いからレインはそこの道草でも喰うといいわ!。」

「だから私はヤギかって、はあ~。」


いつも通りの中庭でアイシャお嬢様と親友の微笑ましい?お昼のお弁当の日常が繰り広げられていた。

因みに俺はと言うと····。


「さあ、ライナ、私の弁当を食べるがよい。」

「私も弁当を作りましたのでどうぞ。」

「ライナ様、私もお弁当作りましたのでどうぞお召し上がり下さいませ。」


いつも通りガーネットとレイノリアのお弁当合戦が繰り広げると思いきや一人ではなくもう一頭増えていた。パトリシアお嬢様とのレースでの一件以来黒眼竜ナーティアも毎日お昼に俺の騎竜のお弁当合戦の枠に入っている。

何でもパトリシアお嬢様の許しは貰っているそうだ。


それだけではない。


「ライナ、サウザンド家の一流の料理人に作らせたんだ。僕のも食べて欲しい。」


ブランド色に染めた髪と瞳が美少年ような笑顔で嬉しそうにおかずをつけた箸を差し出す。

何故だか人間であるキリネも一緒に俺の騎竜の弁当の枠に入っている。

キリネに関してはあっちの人間のアイシャお嬢様の枠ではなく。こっちの騎竜の枠に入っているのだ。アイシャお嬢様はキリネに関してはぎらついた視線を放ちながら警戒心満ち満ちな眼差しで注視しながら弁当をパクパクと頬張っている。


何だ····この修羅場?。

俺は微妙な竜顔を浮かべる。


ざわざわ

突然周りにいた令嬢生徒達が一斉に騒ぎだす。

何事かと竜眼を凝らすと令嬢生徒達は皆一点の視線をとある御仁達に集まっていた。

鮮やかな薄目の金髪を靡かせる容姿端麗という言葉が相応しいこの学園最強のホープとも言われる3年令嬢シャルローゼ・シャンゼリゼ。その傍には竜舎に押し込められる直前一瞬見かけた豪華な装飾を施された甲冑を着こなす氷色、瑠璃色な独特な綺麗な髪を生やすアイシャお嬢様と同い歳くらいの女の子がいた。女の子の傍には白く銀色に輝く騎竜もいる。

珍しいなあ。人化しないまま騎竜として主人の傍にいるなんて。

俺はメス竜と思われる白銀に輝く騎竜を凝視する。

白銀の竜は俺の視線に気付くとじっと俺を見返してきた。

何だ?。やっぱじっと視つめるが失礼だったかあ?。俺はそっと気まずそうに竜瞳を反らす。

二人の令嬢の後ろには控えるように角を生やす初老の紳士、最強の一角の一頭、絶帝竜カイギスとちょっと前に酷い目にあわされた風紀の鬼ではなく。水色の髪に髪止めするキリッと眼鏡をかけた風紀の令嬢セラン・マカダインもいる。セランの後ろに愛嬌よく片翼の両耳をパタパタさせはしゃぐ疾風竜ウィンミーもいた。


「シャローゼ・シャンゼリゼ様と銀姫のシーア・メルギット様!?。何故このお二方がこんな場所に?。」


レースで有名な最強の騎竜乗りが二人揃って中庭を歩いていることに。レインは弁当からつまんだおかずを落っことしそうになる。

シーア・メルギット?。確か7大貴族で世界最強の騎竜乗りだったか·····?。

俺はマンゴスチン杯の記憶を思い起こそうとする。


シャルローゼとシーアは中庭を進み。アイシャお嬢様の前に立つ。アイシャお嬢様はキョトンした顔で二人の最強の騎竜乗りを前にして呆けていた。


「貴女がアイシャ・マーヴェラスですね。一度御伺いしたのですが。残念ながらあえませんでしたが。やっとあうことができました。私は3年のシャルローゼ・シャンゼリゼと申します。」

「どうも·····。」


突然のことにアイシャお嬢様は敬語すらも忘れていた。親友であるパールお嬢様は警戒するようにシーア・メルギットを睨んでいる。


「貴女の噂はかねがね聞いております。ノーマル種の騎竜に幾多のレースを勝ち進んでいるとか。ロリ杯?でしたっけ。そのレースにも優勝したとか。」


シャルローゼは笑顔でレースで優勝したことを褒め称える。


「いいえ、私は出場していません。ライナをパトリシア・ハーディルにレェンドラ(貸借竜)をしてロリ杯に出場しただけです。私は何もやっておりません。」


アイシャお嬢様は丁寧に否定する。


「そうですか··。それでも騎竜の戦績はそのまま騎竜乗りの功績に繋がります。貴女が出場しなくとも騎竜の戦績はそのまま貴女の戦績に反映されるのです。」


シャルローゼは騎竜乗りの戦績のありかたを丁寧に説く。


「はあ·····そうですか·····。」


三年先輩であるシャルローゼお嬢様の言い分に何故だかアイシャお嬢様は納得できない様子である。不満の原因はレェンドラ(貸借竜)した令嬢によるBoin走行の加速スピードの違いからであろう。Boin走行が他の令嬢の方が自分よりも速く加速できることが納得できないのだ。それは仕方のないことである。Boin走行の本質を知る俺としては未だ真実を主人であるアイシャお嬢様に伝えずじまいである。


「貴女がアイシャ・マーヴェラスですか?。」


豪華な装飾が施されたアイシャお嬢様と同い歳の甲冑の少女が前に出る。


「はい、そうです。」


あの有名な連戦連勝の無敗を誇る銀姫と呼ばれた世界最強の騎竜乗りを前にしてアイシャお嬢様は少し萎縮してしまう。

シーア・メルギットはアイシャお嬢様を一瞥すると今度は俺に視線を向ける。俺のノーマル種の姿を垣間見ると青ざめたように軽蔑と嫌悪に満ちた表情で冷たい眼差しを送ってきた。


「まさか本当にあのマーヴェラス家がこんなノーマル種にまで手を出すなんて····。」


シーアは氷色まじりの瑠璃色の眉を寄せ悲壮感を漂わす。

どうやら俺の存在が彼女に多大なショック与えているようである。


「む?、さっきから色々と言ってくれるけど。いきなり失礼じゃないか!。ライナはそんなに弱くないよ!。」


最強の騎竜乗りであるシーア・メルギットに対して臆もせずに前に出て喰ってかかったのはキリネだった。

大丈夫か?。相手は7大貴族のシーア・メルギネットだぞ?。

キリネも7大貴族のサウザンド家だから臆する必要性もないのか?。

キリネもシーアも7大貴族だから同格の枠組みなのだろうか?。


「貴方···ではありませんね。貴女は?。」


しゃしゃり出たように現れた男装した令嬢をシーアは怪訝な顔して睨み返す。


「キリネ・サウザンドだよ。」


キリネは不機嫌に言葉を返す。


「サウザンド···7大貴族の····。ならっ!、貴女なら解るでしょ!。同じ7大貴族である貴女なら。マーヴェラス家がノーマル種に手を出してしまったのですよ!。貴女ならこの言葉の重みが解るでしょうに!。」

「だから何っ?。寿命で亡くなってしまった騎竜よりも。今のノーマル種の騎竜で活躍するマーヴェラス家の方が重要でしょ!。過ぎ去った過去の栄光を夢みたって意味ないことじゃん!。」

「貴っ様ああー!!。」


チャキ

鬼気迫る様子でシーアは甲冑の腰にさす剣を抜こうとする。

キリネは微動だにせず。堂々と前に出る。

何か雲行くが怪しくなって来ているんだが。

7大貴族のご息女二人が争うのだから大事である。戦争にまで発展しかねない。


「お止めなさい。シーア。」

「し、しかしシャルローゼ様!。」


二人の口論にシャルローゼお嬢様が割ってはいる。


「シーア。貴女はマーヴェラス家がノーマル種を騎竜にしたことを許せないのですね。」

「そうでございます。」


シーアはゆっくりと頷く。


「そしてキリネ、貴女もマーヴェラス家の騎竜であるノーマル種ライナが馬鹿にされたことが許せなかったと。」

「そうだよ。」


キリネはやけに素直にシャルローゼお嬢様の言葉に返事を返す。面識でもあるのだろうか?。


「ではこうしましょう。私とシーアでアイシャ・マーヴェラスと競争をしましょう。」

「競争?何故。」


いきなり競争するというシャルローゼの提案にシーアは亜麻色の眉を寄せ困惑する。


「貴女がマーヴェラス家がノーマル種を騎竜にしたことを不満があるのなら。私とシーアとここにいるアイシャ・マーヴェラスと競争すればよいのです。」


ざわざわ

周囲の令嬢生徒達は一斉に騒ぎだす。

何を言ってんだ?このお嬢様!?。

俺は竜口が開き唖然とする。

3年の学園の最強ホープであるシャルローゼお嬢様とここにいる世界最強を誇る騎竜乗りシーア・メルギットとそのレア種白銀竜と一緒に競争、レースをすると言ったのだ。はっきり言えば最強の一角の二人と二頭を俺とアイシャお嬢様が相手どるということだ。とんだ無茶振りである。


「アイシャ・マーヴェラス、私は貴女と競争してみたい。競争の申し出を受けてくれませんか?。」


シャルローゼお嬢様は笑顔で競争の申し出を誘う。


「私は·······。」


アイシャお嬢様は困ったように顔を俯く。

お嬢様はっきり断って下さい!。俺はある程度強くなったと思うけど。最強の一角二人×二頭相手どる自信はありませんれ。はっきりいて無理です!。

俺はアイシャお嬢様が断りの返事することを期待する。


アイシャはゆっくり俯いた顔を上げ決意の眼差しを二人に向ける。


「解りました。その申し出を受けます!。私はシャルローゼ様とシーア様と競争してみたいです!。」


NooOOOOOOOOOOOOOOOーーーー‼️‼️


俺は阿鼻叫喚交じりの非難の竜の雄叫びをあげる。


「馬鹿な·····。」


シーアも競争の申し出を受けるとは思わなかったようである。


「ライナ、競争一緒に頑張ろうね。」


アイシャお嬢様は悪気のない屈託な純粋の笑みを俺に向けてくる。


無理無理無理無理無理無理無理ムリですよ!。最強の一角二頭も相手できませんよ。

俺の非難めいた竜顔などお構い無くアイシャお嬢様はやる気満々である。

そして俺とアイシャお嬢様は最強の騎竜乗りと最強の騎竜、二人二頭を相手取り競争することになった。


嗚呼~お家に帰りたい~。

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