第95話 報いと代償

バサァッ バサァッ


俺はセシリアお嬢様を背に迂回地点である旗が置かれた平原をUターンする。


「本当に神足る竜ではないのね?。」


俺の背でセシリアお嬢様がしつこく質問してくる。


ギャアガアギャギャアラギャガアギャアギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアラギャガアラギャギャア!

「ですから違いますよ。俺はマーヴェラス伯爵から普通に市場で買われたんです。神足る竜とかじゃないです!。」


セシリアお嬢様は俺に何度も神足る竜ではないかと疑いをかけてくる。

王家7大貴族であるサウザンド家のセシリアお嬢様曰く神足る竜とはマーヴェラス家で飼われていた世界を統べる力を持つ程の凄いドラゴンだったらしい。大自然と万物の力をもつほど巨大な力、能力を持ったドラゴンだったらしい。冥死竜マウラのマーヴェラス家に相応しい騎竜の意味がやっと解った。



「でもそれなら精霊を扱える説明にはならないわ。あんな空中で水流が流れるような現象。精霊を使役できなければ説明つかないもの。」

ギャアラギャガアラギャギャアギャアガアギャアラギャガアギャアガアラギャガアラギャラギャガアギャアラギャガアギャアギャアラギャガアギャアギャアギャアラギャガアギャ

「それは妖精竜ナティから精霊の扱い方を教えて貰ったんですよ。どうやら俺は精霊に好かれているらしく。それに俺が神足る竜でないと妖精竜ナティナーティが断言していますし。」


そう、俺がたまたまマーヴェラス家に飼われた騎竜だ。人間の転生者でもあるけれど。最初から特別な力や能力、才能を持ってた訳じゃない。精霊を使役できるのもたまたまである。


「神足る竜とも面識あり。精霊を使役できる妖精竜が·····。」


セシリアは気難しそうに考え込む。

寿命で亡くなったとされるマーヴェラス家のドラゴン。どうやらその騎竜は神足る竜と呼ばれるほど凄いドラゴンらしい。ギルギディス家の騎竜、冥死竜マウラにも言われた。本当にアイシャお嬢様に相応しいのはその神足る竜と呼ばれた騎竜であり。俺はその代用品にしか過ぎないと。冥死竜マウラは俺に頭に乗るなと忠告した。本来アイシャお嬢様が乗るべきは神足る竜という優れた竜なのだと。だからって、はなっから俺は特別な竜じゃないと解りきっている。俺は普通の平凡な竜だ。ただ背中に胸の膨らみの感触を味わいたくてそんなしょうもない動機で騎竜に転生しただけにすぎない。だから俺は人々に持て囃されるような勇者でもなければ。世界に畏怖を与えるような恐ろしい魔王でもない。ましてや神の力を宿す特別なドラゴンでもないのだ。アイシャお嬢様が本来乗るべきドラゴンである神足る竜とめぐりあえたのなら。俺は身を退く時がくるかもしれない。だがそれまではアイシャお嬢様を立派な騎竜乗りにするために。俺はアイシャお嬢様の騎竜としてつくそう。例えそれが最後まで相棒(パートナー)で入られなくなってもだ。


バサッバサッ


森林地帯のゴール地点に差し掛かろうとしていた。森林の向こうにアルナビス騎竜女学園の校舎の建物も見えてくる。


「どうやらもうすぐゴール地点のようね。名残惜しいけれど····。これで貴方との飛行も最後ね。」


白銀のブロンドをなびかせるセシリアは色香漂う豊満の胸を俺の背中に押し付ける。


ギャアガギャ·····

「そうですね····。」


セシリアお嬢様の成熟した膨らみの感触ともおさらばである。名残惜しいがまた次の機会があるさ。本当にあるのかどうか解らないけれど。


バサァッ バサァッ


前方のゴールの着地点にが見える。観客席にはアイシャお嬢様と友人のレインお嬢様とパールお嬢様が座っている様子が確認できる。相変わらずアイシャお嬢様は不機嫌に頬を膨らませていた。幻竜ラナシスさんとキリネも待ちわびたように笑顔で出迎えようしている。サウザンド家のメイドも俺一番乗りであることを複雑そうに顔をしかめている。エルフのリスさんは嬉しそうに微笑を浮かべ。妖精竜のナティは俺が先に来たことにイヤなのか嬉しいのそんな入り交じったあり得ない表情を浮かべていた。剣帝竜ロゾンさんは俺と目が合うとニヤリと満足な笑みをうかべる。魅華竜ソリティアは俺と視線が合うとローズ色の角と髪の頭を抱え。怯えたように何処かに去って行ってしまった。

俺、何かしましたか!?。

観客席に座っていた一年と二年の令嬢生徒はゴール地点から見えるノーマル種が先に着いたことに歓声を上げ大いに盛り上がっていた。

最後にロロさんに寄り添うルゥの姿もみえる。


これでルゥとロロさんの仇はとれたな。

俺は満足に竜口が綻ぶ。


ドオッオオ!!

突然火の玉が飛び交い俺の目の前を掠める。

後方から放たれた炎を確認する為俺は振り返るとそこにびしょ濡れになったエリシャ・ハフバーレンと三匹のみつ子の竜が立ち塞がるように森林地帯上空に止まっていた。


エリシャ・ハフバーレン?。もう追い付いたのか!?。エリシャ・ハフバーレンを湖に落としてから迂回地帯で迂回して湖を横切るまで姿を見かけていなかった。


「セシリア・サウザンドおおおおおおーーー!!!。」


エリシャ・ハフバーレンは令嬢らしからぬ猛々しい罵声を上げる。


「謀ったわね!!。そのノーマル種がただのノーマル種でないことを知りながら。私を敗北させて!。全部全部貴女が仕組んだことなのね!。」


興奮したように息をあらげ。ヒステリーを起こしたように喚き散らす。

セシリアはそんな興奮したびしょ濡れのエリシャ・ハフバーレンの姿を横目に済ました顔で平然と対応する。


「謀った?。違うわねエリシャ・ハフバーレン。貴女はノーマル種のライナのことを侮ったのよ。その結果がその様でしょうに。」


ギリッ

エリシャの歯が悔しげに軋む。


「ふざけないで!。貴女は私がそのノーマル種に敗けることを知っていた。私を敗北することも計算していたんでしょ!。そうやって私の財産を奪うつもりね。そうはさせないわ!。この阿婆擦れ女!!。」


貴族と思えない暴言をエリシャ・ハフバーレンは吐く。俺は竜顔がしかめる。殆ど言い掛かりだ。俺がエリシャ・ハフバーレンとみつ子の騎竜に勝利したことをセシリアお嬢様が計算していたか解らないけれど。実際勝てる保障などなかった。精霊を扱えていなかったら確実に敗北していた。


「エリシャ・ハフバーレン。貴女ズルしましたね。本来迂回地点を回り。レースコースを飛行する騎竜を妨害、攻撃するのですが。貴女は迂回せずにそのまま私達追ってきた。」


え?迂回してないのか!?。だから追い付けたのか。どう見ても湖の落ちてからのロスタイムが有りすぎる。湖から這い上がり迂回地点からここまでの距離がかなりあるのだ。実際追い付けるはずがないのだ。


「だから何ですかっ!?。貴女を倒して飛行し直せばすむことです!。」


エリシャ・ハフバーレンという令嬢は凄い剣幕で開き直りの罵声を上げる。。

それを横目にはあとセシリアお嬢様は何とも言えない深いため息を吐く。


『そう言えば私の益について言っていませんでしたね。私の益はこの学園に関するハフバーレン家の利権ですよ。』

「利権?。」

「そう、このアルビナス騎竜女学園に資材や物質の贈るあなた方の家のコネをもつ全ての商会の利権ですよ。」

「せ、セシリア・サウザンド!。あ、貴女に何のメリットはあるのですか?。貴女にとってサウザンド家にとって私の家がコネをもつ商会など。とるに足らないことでしょうに!。」


サウザンド家にとってハフバーレン家とのコネをもつ商会などとるに足らないものである。ハフバーレン家の財産ではなくこの学園関するハフバーレン家と繋がりを持つ商会の利権など益としては少なすぎる。


「いいえ、家の別荘にも物入りですし。学園に物質、資材供給する商会に繋がりを持てばそんな面倒な段取りもしなくてもすみますしね···。それに·····。」


セシリアはとびっきりの冷たい像笑をエリシャに向ける。


「貴女がこの学園に好き勝手に振る舞うことも叶わぬでしょうから!。」


セシリアのピンクの薄紅の唇がクスリと小さく微笑む。

俺はその様子を呆気にとられるほど眺めていた。

セシリア・サウザンドというキリネのお姉さんはちゃんとルゥとロロさんのことを考えてくれていたようである。エリシャ・ハフバーレンのこの学園の物資供給する商会の繋がりを絶てば。もうエリシャ・ハフバーレンはこのアルビナス騎竜女学園に。ルゥやロロさんに危害を加えることも容易にできなくなる。実際それを行えば退学処分になるだろう。キリネの姉セシリアお嬢様は何だかんだで俺らのことを考えてくれていたようだ。

守銭奴や強突張り、あん畜生な令嬢という噂があるけれど。セシリア・サウザンドは筋はしっかり通す令嬢なのだと俺は実感する。



「セシリア・サウザンドおおおおおーー!!!!。」


エリシャは激しく唇をかみ激昂する。

みつ子の騎竜は臨戦態勢をとる。


『ノーマル種このままではすまさない!。お嬢様に屈辱を与えたこと!。目にもの見せてあげます!。』

『我等がこの程度で敗北するとお思いか?。なら思い違いも甚だしい。我等の力はこの程度のものではない!。』

「お嬢様と我等に侮辱与えたこと。その身で味わえ!。下等なノーマル種!!。」


みつ子の騎竜、ロード種跪伏竜カシル、ヒレフ、ザスが激しく吠える。

それを静かにセシリアを乗せたライナが見据える。

竜の鉤爪が研ぎ澄まし。竜瞳の縦線の瞳孔が開く。


ギャアガアガアギャアラギャガアギャアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャ!

「どうやら全然反省してないようだな。ならば反省するまであんたら主人含めて全力でぶちのめす!。」


再びみつ子の騎竜と普通の竜が対峙する。

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