第58話 殺意の矛先
「始め!。」
カーネギー教官の戦闘開始の合図同時にキリネは走り出す。リーチが短いナイフではあるが。懐に入れば銃よりも速いと言われているナイフである。
アイシャお嬢様はおもむろに持っていたブーメランを放り投げる。
ブン
ちょっ、何やってるんですか!?。アイシャお嬢様!!。
俺はアイシャお嬢様の咄嗟に起こした有り得ない行動に驚愕する。ブーメランという武器は接近戦向きではない。遠距離用として主に狩猟用として使われている。ブーメランは投げて戻って来るという性質を持つが。近接武器ではないので遠くに放り投げてしまえばそれまでである。ブーメランを遠くに投げれば懐はがら空きになり。隙だらけなのである。使用用途は間違っているかもしれないが。曲がった形状のブーメラン事態を防御や近接用の鈍器として使えたかもしれない。アイシャお嬢様はブーメランをそのままブーメランの用途で放り投げたのである。今のアイシャお嬢様は何も持たない裸同然の状態である。
「無知なのかな?。唯一の武器を捨てるなんて愚行の極みだよ。」
サッ
キリネは冷徹に視線を投げ掛け。即座にアイシャお嬢様の懐に入りナイフで斬りかかろうとする。模擬戦闘であるが俺はアイシャお嬢様は対人戦闘の経験がないと想い俺は竜の悲鳴が上がる。
ギャギャア!!
「危ない!!。」
ナイフの矛先がアイシャお嬢様の2つの胸の膨らみにスローモーションのように向けられる。
アイシャお嬢様は突きだされたナイフを避け。ナイフを持ったキリネの腕を掴む。
「たああっ!!。」
アイシャお嬢様はそのままキリネ飛び込んだ威力を利用し。キリネの脇に自分の肘を割り込ませ放り投げる。
ドォーーッ
えええええ~~~~!?
俺はアイシャお嬢様とは思えない程のきれのある動きに唖然とする。
ダッ
投げられたキリネは身軽に着地する。
キリネは少し動揺はしたが。直ぐに落ち着きを取り戻し。アイシャお嬢様に冷たい視線を向ける。
ぐるんぐるんぐるん
遠くに放り投げたと思われたブーメランが着地したキリネの後ろへと向かってくる。
キリネは後方から来るブーメランの動きに察知し即横っ飛びで回避する。
ぐるんぐるん
バシッ
アイシャお嬢様は戻ってきたブーメランを何も躊躇わずキャッチする。
「····少し驚いたよ。見た目からして戦闘経験がないと思っていたのに····。」
キリネは静かに口を開く。
「昔お母様から教えて貰ったの。ブーメランの扱い方と護身術を。騎竜乗りとして役に立つからって。」
アイシャお嬢様は母親のことを笑顔で答える。
アイシャお嬢様の母親って何者よ。確か七大貴族の元ギルギディス家の出身だっけ。ギルギディス家は武道派の貴族なのだろうか?。
キリネは母親という単語にピクッと反応し表情が険しくなる。
「何から何まで僕より幸せじゃないか。母親までいるなんて。」
キリネはギリッと憎々しげに歯をくいしばる。冷たい獰猛で冷たい殺意の秘めた眼光を放つ。
ヒュン
キリネはナイフを投げる。ナイフ一本だけではなかった。二本三本持ち歩いていたようだ。どうやらキリネはナイフを投げナイフ用ように扱っているようだ。
ブン
カン カン
アイシャお嬢様はブーメランを放り投げナイフ1、2本ぶつかり落ちる。最後の投げた空を飛ぶナイフの一本をすかさず避ける。
避けたナイフは空をきり。行き場を無くしさ迷うかと思えばナイフのグリップの先端というかソングホールと呼ばれる箇所から糸状の光が見えた。
何だあれは?
そのまま空を切るナイフは落ちるかと思えばアイシャお嬢様の後方で引き戻るようにナイフが飛ぶ。
まさか!?。ナイフに糸も仕込んでいるのか!。投げナイフは解るが。ナイフに糸を仕込むなんて聞いたことがない。詳しく知らないが暗殺者が使う暗器という代物かもしれない。
糸に繋がるナイフがそのままアイシャお嬢様の背中に向かっていく。
ギャああ!!
「危ない!!。」
アイシャお嬢様は後方から向かってくる投げナイフを機敏な動きで回避し避ける。
バシッ
投げたブーメランは再びアイシャお嬢様の手元に戻る。
「ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!。」
キリネはぶつぶつと呟き出す。
何で何で····僕より幸せだ。何で何で···僕より不幸じゃない···。何で何で···僕より生き生きしている。
ムカつく!ムカつく!ムカつく!ムカつく!
キリネの笑顔の中に隠し持っていたどす黒い感情がふつふつと溢れ出す。
『キリネ·····。』
そんな状態を心配そうに四本角のキリネの騎竜ラナシスが見守る。
キリネはゆらっと身体が動く。
隠し持っていた数本のナイフを投げる。
ヒュンヒュンヒュンヒュン
危ない···危ない···危ない····
ライナの竜耳から幻聴のようなものが聞こえた。
何だ····。
キリネの投げたナイフの一本に黄緑の粒子が集まる。
危ない···危ない····危ない···
あの黄緑の粒子が言っているのか?。
マーヴェラス家内で遊び相手になっていた赤、青、黄緑、茶、白、黒、の粒子の光。何か解らずレッドモンドさんからは精霊と教えられていた。懐いている理由がマーヴェラス家が関係しているという。それが危険を知らしている。あの投げた一本のナイフに何かあるのか?。竜瞳では解らないが黄緑の粒子の精霊が声を発してまで危険を知らせるのだから只事でない。
ヒュンヒュンヒュン
アイシャお嬢様はキリネの投げたナイフを難なく避け。最後に問題の黄緑の粒子が集まるナイフを避けようとする。
模擬戦闘に横やりを入れるのはマナー違反であろうが。精霊が危険を知らせている以上介入するしかない。
俺は竜の腕に軽く気を練り込む。
アイシャお嬢様が護身術の素手でナイフを退けようとする。
今だ!?
ギャア
「竜波掌。」
ドォッ!!
キンッ!
「·····っ!?。」
「っ!?。」
見えない気の衝撃波を放ち。キリネの投げた最後の投げナイフが上空へと舞い上がり弾け飛ぶ。
アイシャお嬢様は突然ナイフが上空へ舞い上がったことに驚く。
スッ ドォーン!!。
上空へ舞い上がり空中にとどまっていたキリネのナイフが突然爆発した。
空に黒煙が上がる。
煙から火薬の匂いがした。
まさか····ナイフに火薬を仕込んでいたのか?。
模擬戦闘でナイフに火薬を仕込むなんてやり過ぎである。この異世界の倫理観は解らないが。あんな強烈な爆発を起こすナイフは騎竜同士のレースでは解るが。対人戦闘で行うにはやはりいき過ぎである。確かに魔法の戦闘もあるようだが。他の令嬢生徒達は今は武器だけで戦っている。
キリネは魂が抜けたように呆然と尽くしていた。
ざわざわ
令嬢生徒達が爆発音で騒ぎだす。
「何事だ!?。」
カーネギー教官も爆発音と令嬢生徒達の騒ぎに駆けつける。
「上空に弾けとんだキリネ・サウザンドのナイフが突然爆発したんです。」
アイシャ達の戦闘を目撃していた令嬢生徒一人が訴える。
「爆発だと?。」
爆発という言葉にピクッとカーネギー教官の眉間に紫波が寄る。
「アイシャ、大丈夫!?。」
「アイシャ、無事?。」
騒ぎを聞きつけ模擬戦闘を中断してパールとレインは駆け寄ってくる。
アイシャお嬢様は爆発した勢いで尻餅をついていた。
「大丈夫よ。パール、レイン。私は何ともないから。」
アイシャは笑顔の立ち上がり。無事であることを二人に伝える。
「貴方、アイシャに何する気だったの!?。」
「·········。」
パールお嬢様はキリネに向けてキッと鋭い視線を向ける。
地面に落ちたナイフの残骸をレインが確かめる
「ナイフに仕掛けが施されている。火薬を仕込んでいたんでしょう。もしアイシャがナイフに爆発に巻き込まれていたら怪我だけじゃすまなかったわ。何の真似かしら?。事としだいによってはお家同士の問題に発展するわよ!。」
「·········。」
レインは険しい表情でキリネに睨み付ける。
キリネはじっと沈黙を保つ。
「キリネ・サウザンド、この事に関しては話がある。指導室に来るように。」
「·····はい·······。」
カーネギー教官は厳しい顔でキリネに伝えるとキリネは素直に返事をした。
キリネという少年の姿をした令嬢生徒は何処か表情は物憂げで消え入りそうな程弱々しく感じられた。
『キリネ······。』
その姿をキリネである騎竜ラナシスは哀しそうに見つめていた。
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