第11話 人間のしがらみ

森の沼からマーヴェラス邸に着いた時既に都からメイドのリリシャとカーラさんも帰ってきていた。

カーラさんだけは何だが機嫌が悪かった。


「全く!折角マンゴスチンを街で売りさばいていたのに衛兵に補導されるなんて失礼しちゃうわ。」


予想通りカーラさんは衛兵に補導されたようである。


「貰い物だって言ってるのに衛兵は嘘をつくな!この大量のマンゴスチンはハンフィール男爵様の果樹園の特産物だろ。盗んだんだろ!って信じて貰えず。そのまま牢屋の中よ。本当ふざけるなっての。」


実際貰い物ではありませんけどね。優勝賞品だけど特産品を売るのは法に引っ掛かるような気がします。


「仕方ないから牢屋の衛兵にちゃんとしたしつけを与えてあげたのよ。そしたら悦んで牢屋から出してくれたわ♥️。」


キリッと眼鏡をかけ後ろ髪をを束ねるカーラさんは堂々と胸を張る。

この人本当に色々とブレないなあ····。

牢屋の衛兵がどんな末路になったか想像したくない。


「ライナ、お土産よ。」


リリシャは紙袋から出店で買ってきた串付き肉を差し出す。

俺はそれを竜のくちばしでパクンと咥え肉を抜き取る。


ムシャムシャ モグモグ ゴックン

この串肉上手いなあ~。昔コンビニでよく買って食べた山賊焼きの味に似てる。

胡椒と胡麻の振りかけたシンプルな串の焼き肉であったが油と肉がジューシィでとても旨かった。

アイシャお嬢様は親友のパールお嬢様とまた中庭でおしゃべりをしている。

俺は中庭に向かった。

またいつも通りにガゼボの席でアイシャお嬢様とパールお嬢様が楽しくおしゃべりをしている。近くに角を生やしたメイド服姿のレイノリアが立っている。


ガアギャアガアギャ!

「レイノリアおはよう!。」

「おはようラ···イ··っ!?····。」


突然レイノリアはクンクンと俺の匂いを嗅ぎだす。


ギャ··ギャガ!?

「なっ··何!?···。」

「メスの匂いがする····。」


いつも恥ずかしりやなレイノリアも今は上目遣いで鬼気迫る表情に変わりちょっと恐い。


ギャアガギャ?

「メスって何?。」

「ライナ、他の竜のメスに触れたりしなかった?。」


レイノリアは妙にドスの効いた口調で返す。


ギャラガア

「しないよ。」


メスの竜に興味などない(特に竜化した姿)。あるとすれば人化した姿である。それに沼で出逢った銀髪の少女は頭に角を生やしていなかった。だから竜のメスに触れた覚えはない筈なのだが。


「そう····なの····。でもライナ、気をつけてメスの竜はしたたかだから、隙があらば騙される···。」


俺ってそんなに騙されやすいタイプかなあ?。女性にモテたこともないので騙された経験もない。


「アイシャ、次は何処のレースに出場するの?。」

「クリムゾン杯だよ。」

「まあ、そこはエレメント種の炎竜を騎竜にしている貴族が出場しているから気をつけて。」


パールお嬢様は真珠色の瞳が心配げに潤む。


「大丈夫だよ。私とライナがいれば百人力ただよ。レースもブッチ切りに優勝するよ。」


アイシャお嬢様は胸を張って自信満々に告げる。

そういえば同じノーマル種のルイードがクリムゾン杯に強豪の炎竜がいると聞いていたけど。オスかメスか聞いていなかったなあ。メスなら人化してもらってその豊満な二つの膨らみを背中に押し付けて貰いたいのだけれど。炎竜ていうのだからきっと赤い竜などだろう。人化したらきっと長い波状の赤髪で赤いドレスを着たグラマー系で情熱的な感じの女性だろうなあと俺は勝手に想像してみる。


「アイシャ、油断しないで。炎竜の騎竜持ちの貴族は強敵よ。私のような家柄や竜種の貴族ではなく純粋な強さを求める武芸、主に騎士系の貴族だから。騎士系の貴族の一部は強さだけを重んじるところもあるのよ。」

「大丈夫だよ。パール、昔お母様から聞いたことがあるの。私の家系って元々騎士系の貴族だと聞いてるの。王家とも深い繋がりある貴族だと聞いたことがあるから。」


初耳だ。マーヴェラス家って騎士系の貴族だったのか。アイシャお嬢様の母親は別に幼い頃病で死に別れたみたいな悲しいエピソードなどではない。マーヴェラス家が没落し貧乏になってから実家に帰ってしまったのだ。本来ならアイシャお嬢様も一緒に連れて帰るつもりだったようだが。何故か娘であるアイシャお嬢様をマーヴェラス家置いていき。アイシャの母親に忠実だったメイドのカーラさんとリリシャさんに娘であるアイシャお嬢様を託し。家を去ったのである。俺がこの家の騎竜なった頃には既にアイシャお嬢様の母親はおらず別居中であった。


「そうね···。アイシャの家は確かに王家に繋がりを持つ程の由緒正しい家柄よ。それなのに他の七大貴族の奴らは····。」


パールは悔しげに唇を歪ませる。

どうやらパールお嬢様はマーヴェラス家の内部事実を知っているらしい。


「大丈夫よ。パール。私は必ずお家を復興させてみせる。他の七大貴族にも絶対認めさせて見せるから。」

「アイシャ·····。」


パールお嬢様の真珠の瞳が涙目に潤む。

ん?。七大貴族って単語が出たけど。マーヴェラス家と七大貴族と何か確執でもあるのかなあ?。確か七大貴族の一つが幻の白銀竜を所有しているメルギネット家だったようだけど。


「········。」


俺は竜の頭をふる。

あまり貴族の因縁とかに首を突っ込まないほうがいいな。俺はもうただ騎竜でノーマル種だ。昔の人間のしがらみのようものは当の昔に全て捨てさったのだ。

俺にできることは限られる。

俺は貴族社会に竜首を突っ込まないこたにした。人間社会の因縁やもつれなど騎竜には全く関係ない事柄である。


     ◇◇◇◇◇◇◇◇


クリムゾン杯前日夜、俺は眠れず竜舎を出た。

特に鎖に繋がれているわけじゃない。

ほぼ自由である。

俺が何処にも逃げないとアイシャお嬢様の信頼あらわれだろう。メイドのカーラさんに関しては俺を鎖に繋げることに大賛成で物凄くやる気だったが。あまり考えたくはない·····。


満天の星空マーヴェラス邸の敷地から眺める。

サアアアアアア


眺めていると光の粒子の光が俺の周りに集まりだす。赤、青、黄緑、茶、白、黒、何色の色を帯びた粒子がまるで俺と戯れたいように寄り添おうとする。


ガアギャアガアギャ···

「また、お前たちか···。」


何色の粒子が俺のもとに集まってきて。時に離れ。時には近づいたりを繰り返すので光の粒子には意志が存在するのだと解った。

俺がこの家の騎竜になってから夜中に何色の光の粒子の遊び相手になることが日課になっていた。


ギャアガアギャアラガアギャアガアギャア

「明日レースだからそんなに遊んでやれんぞ。」


そう言ってライナは周りに飛び回る何色の粒子の相手をする。

それはまるで緑色の竜が6色の光と星空の下で優雅なダンスを踊ってるかのようであった。

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