275話 迫る身の危機
「どうやって足を…!?」
棒を拾い上げ、叩きのめそうとする盗賊の1人。だが彼がそれを振り下ろすより先に、メストは蹴りを放った。
「ふっ!」
ドッ!
「あぐっ…!?」
股間を蹴り上げられた盗賊は棒を取り落とし、思わずうずくまる。自然と下がってきた彼の頭に合わせるように、後ろ回し蹴りを敢行するメスト。見事ヒットし、盗賊は壁端へと吹き飛ばされた。
「こんのクソアマ…!」
仲間がやられたのを呆然と眺めてしまった残る3人の盗賊。内1人がナイフを振りかざしメストへと迫る。が―。
「あ…?精霊…?」
メストの足元から突然飛んできたのは妖精の姿をした中位精霊が一体。黄色く輝くそれは、盗賊の顔にへばりつき…。
バチッ!
「びりっ…!」
精霊の属性は雷。盗賊は感電させられる。その隙をメストは逃さなかった。
「ふっ!」
ドガッ!
「おごっ…」
彼女の放ったかかと落としにより、盗賊は床を舐める。手を縛られ、口を塞がれているというのにあっという間に3人を仕留めたメスト。その鮮やかな体捌きに、さくらは囚われたままながら感嘆の息を漏らしてしまった。
だが、快進撃もそこまでだった。流石にそれだけ暴れれば隙も生まれる。
ドヒュッ!
「むごっ…!?」
突如飛んできた魔術弾に腹を思いきり打たれ、膝をつくメスト。ハッと顔を上げると、奥にいた盗賊の1人…中年の魔術士が杖を向けていた。
「縛れ」
彼が一言発すると、メストの足元に魔法陣が発生。蛇のような生物が何匹も顔を出し、彼女の足を捕らえてしまった。捕縛魔術である。
だが、まだ呼び出した精霊が残っている。メストは精霊に命を出し、不規則な動きで魔術士の元に突撃させるが…。
パァンッ
「…!」
盗賊魔術士の杖の一振りで精霊は爆散。跡形もなく消え去ってしまった。
「おい!手と口を塞げば魔術を使えねえんじゃなかったのかよ!」
唯一無事だった盗賊の1人が魔術士に詰め寄る。魔術士は少し脂汗をかきながら答えた。
「普通の魔術士ならば、な。お前らは知らないだろうが、魔術は足捌きも重要となる。それを応用すれば足だけで魔法陣を描くことは可能だ」
「そ、そうなのか…?」
「現に成功させてただろう。しかし、そうか…!」
突然魔術士は笑い出す。それは何かの合点がいったことに対する笑いのようだった。
「年の割にやけに熟達した精霊召喚術、そしてその体術と動き方…見たことがあると思ったら…お前の師、リュウザキだな?」
「お、おい…!リュウザキって、あのリュウザキか!?」
「それ以外に誰がいる。『勇者一行が1人』リュウザキだ」
震え声の仲間に、平然と返す魔術士。そして宥めるかのように言い放った。
「だがあの場にリュウザキはいなかった。これはチャンスだ。あいつは俺にとって因縁浅からぬ、『
魔術士は杖を構え詠唱。すると、一匹の蛇が召喚される。それはメストの首筋へと飛びつくと、勢いよく噛みついた。
ガブッ
「うっ…!」
痛みに顔を歪ませるメスト。直後、彼女の身体はぐらりと揺れ、べたりと尻もちをついた。
「その蛇は麻痺毒だ。身体が言うことを聞かなくなってきただろう?」
嘲笑うように教えた魔術士は、仲間に目で指示をする。それで理解したのだろう、怯えていた盗賊の1人はこれまで以上に下卑た笑いを浮かべ、メストへとズンズン近寄っていった。
「おらっ、こっちこい!」
彼はメストの髪を無造作に掴むと、彼女の身体を引きずりさくらの横へと戻した。メストは抵抗できないのか、ただ息を荒くするだけだった。
その間に魔術士は伸びていた他3人を起こす。都合4人、メストを見下ろす形で立ち塞がった。
「お前、やっちゃいけねえことをしたなぁ…!ぜってぇ許さねえ。売り飛ばすのはそっちの小さいガキだけでいい。お前は俺達がコキ使ってやる。泣いて謝っても、ボロ雑巾のようになるまで嬲ってやる!」
「むーっ!むーっ!」
さくらは必死に止めようとするが、当然誰も聞く耳持たない。大人4人がかりでメストの身体は押さえつけられ―。
と、その時だった。
「ギャンッ!」
「キャイン!」
「!? なんだ!?」
外から聞こえてくる魔物の悲鳴に、盗賊達は一斉に手を止める。危険を察した魔術士が扉から飛び離れた瞬間…。
ドゴォッ!
「見つけたぞ!」
「メスト様!さくらちゃん!」
ぶち破られた扉からどやどやと入ってきたのはシベル、マーサ、エーリカ達だった。
「外の魔獣達はどうした!?」
慌てる盗賊達。その内の1人は窓から外を見やる。
「な…!」
思わず息を呑む盗賊。間違いなく十匹以上はいたはずの魔物達が軒並み息絶えていたのだ。魔物の悲鳴が聞こえ始めてから十数秒しか経っていないというのに。
「貴様ら…!」
「許しません…!」
怒り心頭のシベル達。一気に片をつけようと進み出るが―。
ガンッ!
「「うぐっ…!?」」
頭をぶつけるシベル達。一体何が…。彼らが改めて正面を見やると、盗賊達との間に障壁が張られていた。いや、入口や天井にも。シベル達はまるで箱の中に閉じ込められたかのようになってしまった。
「中々の手練れみたいだが、敵地に警戒もせず踏み入ってくるなんて、戦場慣れしていねえな。かつての戦争を経験していない世代か」
どうやら事前に障壁魔術を用意していたらしい。盗賊魔術士がクツクツと笑う。しかし、それがシベル達はフンッと鼻息を荒くした。
「俺達を!」
「舐めないで!」
片や強化した拳を。片やロザリオから作り出した光のメイスを。勢いよく障壁に叩きつけるシベル達。すると―!
ビキキキキッ!
一瞬にして障壁にヒビが入る。だが、魔術士は一切慌てない。追加の障壁を張り―。
「蛇よ。襲え」
障壁の中、シベル達の足元からうじゃうじゃと湧き出すのは麻痺毒持ちの蛇達。対処に追われるシベル達を眺め、魔術士は不敵な笑みを浮かべた。
「あとはゆっくりお前達が麻痺するのを待つだけだ。まさか公爵のガキ共まで連れてきてくれるとは有り難いぜ」
しまった…! 焦りから小屋に飛び込んだが、完全に罠だった。歯ぎしりするシベル達を余所に、魔術士は仲間に声をかけた。
「折角だ。知り合いの前でひん剥いてやれ」
魔術士の言葉に楽しそうに頷いた盗賊達。ナイフを構え、メストの服を裂こうとする。と―。
「むーっ!」
ドンッ
「うおっと…!?」
盗賊の1人は背後から衝撃を受け、驚く。さくらが身体をぶつけたのだ。しかしそれは焼け石に水。その程度では盗賊の蛮行を止めることは出来ない。それどころか…。
「なんだぁ?お前も同じ目に合わせてやる!」
さくらも標的にされてしまった。2人がかりで無理くり押さえつけられ、ナイフを服の隙間に…!
「あん…?」
「どうした?」
「ナイフが動かねえ…?」
押しても引いても、ナイフはぴたりと。眉を潜めた盗賊は、さくらの服の隙間に目をやる。と、そこには…。
「精霊…!?」
どこから入ってきたのだろうか、精霊がナイフの先をがしりと掴んでいた。それはメストの方も同じく。しかし、メストは詠唱できないほどに動けなくなっているのだが…。
「―!」
魔術士はハッとシベル達のほうを見る。するとそこにも精霊が一体。何かをジェスチャーしていた。
「マーサ!」
吼えるシベル。それに合わせ光盾を展開するマーサ。次の瞬間だった。
ゾッ
異音と共に、吹き付ける風と消え入りそうな日光が突如小屋内へと注ぎ込む。何故…!? 思わず真上を見上げたさくら達、盗賊達は目を大きく見開いてしまった。
なんと、小屋の屋根が
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