271話 事故の後…

救援に来た馬車に次々と運ばれていく村人達。さくら達も肩を貸しそれを手伝っていた。


「ありがたやありがたや…」

「なんとお礼をすれば良いか…」


お礼を口々に述べられ、さくらはくすぐったくなってしまう。そんな折、1人の子供がごね始めた。


「お人形がまだ馬車にあるの…!」


どうやら先の事故で玩具を無くしてしまったらしい。彼女の親は諦めさせようとしていたが、さくらはそれを見過ごせなかった。


「私がとってきてあげる!どんなの?」


「えっとね…!」


女の子のお守りをタマに頼み、ぺこぺこと頭を下げる子供の親に軽く手を振って、さくらは壊れた馬車の元へ。と―。


「僕も手伝うよ」


メストも買って出てくれた。有難く助力してもらい、2人で捜索を開始した。




「無いねー」

「無いですね…」


精霊の灯りを頼りに、散らばった馬車の残骸を覗いていく。が、肝心の人形が見つからない。


「もっと奥のかな?」


次第にさくら達はシベル達から離れた馬車の残骸へと足を延ばしていく。と、その時だった。


ガタッ


「―!? 今のって…?」


「あの残骸の裏からだね…魔物かもしれない、気をつけて」


何かが動く音を感知したさくら達は武器を手にじりじりと寄っていく。そしてゆっくりとその場所を覗き込むと…。


「あれ? これ探していた人形だ」


落ちていたのは探し物のお人形。少し気を抜いたさくら達はそれを拾おうと…次の瞬間―!


「「―! むぐっ…!?」」







「しかし、何故事故が起こったんだ?」


救護馬車の中で村人達に検診を施しているシベルとマーサ。丁度御者を務めていた男性に当たったシベルは質問をしていた。すると、男性は訥々と語り始めた。


「急に大きめの魔物が飛び出してきたんです。それで馬が驚いてしまいまして…」


理由としては至極普通なもの。適当な相槌を返すシベルだったが、御者の男性は首を捻った。


「でも、おかしいんです。ここは馬車がよく通る道。貴族の方々も頻繁に利用します。ですから獣除けの魔術はかけてありますし、定期的に魔物掃討もしています。今までここで事故が起きたことは一度たりともなかったのに、なぜ…?」


勿論そんなこともある時にはあるだろう。しかし、シベル、そして耳をそばだたせていたマーサは違和感を感じ取った。彼らは顔を見合わせ、馬車を出る。と、馬車随伴の兵士達と話していたハルム達が駆け寄ってきた。



「先生方。もう日も暮れてきましたし、ここの片付けは明日させます。屋敷に帰りましょう」


「先程伝書鳥を飛ばし、もてなしの用意をさせるよう命じましたわ。本来ならば学園へ戻るのが決まりでしょうが、本日は是非我が屋敷でお休みください」


恩人である教師達に深々と礼をする彼ら。しかしシベル達は生返事。


「あぁ、それは有難いんだが…」


「さくらさんとメストさんはまだ戻ってきていませんか?」


妙な様子の教師2人に首を捻りつつも頷くハルム達。それを見たシベル達は俄かに焦りだした。


「さくら!メスト! 一旦戻ってこい!」


シベルが吼える。乾いた空気によく響き、森の奥までしっかり届く声だった。しかし、待てど暮らせどさくら達は帰ってこず、返事すらもない。


「「…くっ!」」


同時に唇を噛んだシベルとマーサは、さくら達がいたはずの馬車の残骸の元へと駆け出す。嫌な予感を感じ取ったハルム達もまた、同じく駆け出した。



そして、そんな彼らが見つけたのは…地面に転がるさくらのラケットとメストのレイピアだった。





「メスト様!? さくらちゃん!?」


声を張り呼びかけるエーリカ。しかし返ってくる声は反響した自らの木霊だけ。愛する人と友人が行方不明になり、彼女は泣きかけていた。兄であるハルムはそれを慰めていたが、彼もまた不安そうな表情を浮かべていた。


そんな中、シベルは鼻をしきりに鳴らしていた。


「チッ…! 獣臭と血の匂いに混じって、救出した人達以外の匂いがするな…。 くそっ、気づいていれば…!」


ギリリと歯ぎしりするシベル。馬車の中にいた彼が気が付かなかったのも仕方の無いことだが、それで許される問題ではない。と、その場に道の端を見に行っていたマーサが戻ってきた。


「獣除けの魔術が軒並み壊されているわ。間違いなく人の手で。魔術をある程度扱える相手みたいね」


ということは…。ここまで情報が出揃えば何があったか推測できる。信じたくないと顔を伏せるエーリカに代わり、ハルムがその答えを口に出した。


「さくら達は…誰かに攫われたということですか!?」



無情にも頷くシベル達。と、そこに―。


「何かあったんですか!?」


先ほどまで女の子の腕の中で微睡んでいたタマが異変を聞きつけ飛んできたのだ。その場の状況で全てを察したのだろう。彼の瞳孔は一気に興奮状態に。


「せ、先生!なんとかしてください!メスト様が!さくらちゃんが!」


シベルの服を掴み、わめくエーリカ。そんな彼女の肩をシベルは押さえた。


「ハルム、エーリカ。俺達はこれからさくら達を探しにいく。お前達は馬車に乗り街へ戻れ。それからタマ、リュウザキ先生を呼んできてくれ!」

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