262話 ニアロンは楽しみたい&竜崎は止めたい
友達と歓談しながらどこかへと行くさくら。その後をつけるのはハルムとクラウス。その後ろにはエーリカ。更に後方には貴族令嬢達とメスト。
それぞれが気づかぬうちに、いつの間にかの長い列。傍から見たらなんと珍妙なことか。最も、この尾行劇を最初から見ていたものにしかわからないではあろうが。
そんな彼女達は先頭のさくらに続き、学園横の図書館に入っていく。そして、それを追う者が1人いた。竜崎である。
―もう止めるのか?つまんないな―
「流石にあそこまで広がってしまったら放っておくわけにはいかないだろ」
不服そうなニアロンを諫め、図書館に入る竜崎。
誰から止めるべきか、そもそも、彼らは何故尾行なんて真似しているのだろうか。そんなことを考えながら彼も図書館の階段を登り降り、とりあえず一番近いメストの背を追っていた。
と、竜崎を呼び止める声が。
「あ、丁度良かった竜崎さん!」
それは…なんとさくら達だった。
「ん?あれ?」
突然のことに一瞬思考停止をしてしまう竜崎。さくら達を追っているハルム達を追っているエーリカを追っている令嬢達を追っている自身の元に、さくらが顔を見せたのだ。迷子注意なほどに入り組んだ図書館ゆえの出来事であろう。
―どうしたさくら?―
混乱している竜崎の隙を突き、ニアロンがさくら達の相手をする。それにはアイナとネリーが答えた。
「メスト先輩を見かけていませんか?他の方から先輩が図書館に向かっているって聞いたのですけど…」
「モンストリアのお土産渡したいの!」
―あぁ。ならあっちで見かけた気がするなぁ―
ニアロンが指した道にさくら達は素直に向かっていく。その背を見やりながら、ニアロンは竜崎の肩を引っ張った。
―よし清人、隠れろ―
思わず従い、近場の壁裏に隠れてしまう竜崎。彼はわざわざ近場の本をとりカモフラージュしてからハッと気づいた。
「確かあっちは大きく円を描いてここに戻ってくる道に…。おいまさか…」
―そのまさかだ。見ろ―
「リュウザキ先生はいなくなったな…? 追いかけよう…!」
と出てきたのはハルムとクラウス。さくら達が向かった道へ入っていく。
「逃がしませんわ…!」
と後を追うエーリカ。同じくその道へ入っていく。
「図書館内だし、静かにね」
と令嬢達を静めながらメスト。更に追いかけその道へと続いていった。
―よし、出ろ―
全員が行ったことを確認し、目立つ位置に再度立たされる竜崎。暫くして、その場にさくらが戻ってきた。
「あれ、リュウザキ先生がいるところに戻ってきちゃった」
「メスト先輩いませんでしたけど…」
―あれ?そうか? おっかしいなぁ。さっき私達に挨拶して行ったはずなんだが。もう一度探してみたらどうだ?―
おとぼけ風味なニアロン。さくら達は仕方なしにもう一度同じ道へ入っていった。
―もう一度隠れるんだ清人。ぷくくっ…!―
「もう…」
竜崎が隠れるとすぐに、さくらの後を追うハルム達、エーリカ、貴族令嬢達が通過していく。耐え切れなくなったのか、ニアロンは怒られない範囲でゲラゲラ笑い始めた。
―ぐるぐるぐるぐる。目が回りそうだ!―
「これが本当の『堂々巡り』か…。ニアロン、酷いぞ」
再再度目立つ位置に立つ竜崎。と、そこに首を捻りながらさくら達がまたも戻ってきた。
「やっぱりいませんでしたけど…」
―会っていなかったのか?あいつ、もう一度あっちに入って…むぐっ―
にやにやが抑えられないニアロンの口を、呆れ顔の竜崎は封じる。そして続きを引き取った。
「入れ替わりだったんだね。私はここにいるからメストが出てきたら捕まえておくよ」
「じゃ、もう一度見てきますね」
疑うことなく、さくらはもう一度同じ道へと入っていく。唯一、モカだけがしきりに耳を動かして背後を気にしていたが…。
―モカの奴、尾行に気づき始めたようだな。頃合いか。あー面白かった―
「全く…」
満面の笑みを浮かべるニアロンを白い目で見つめ、ハルム達とエーリカを陰で見送る竜崎。そして貴族令嬢を連れたメストが現れた時に、彼は表に出た。
「メスト、ちょっといいかい?」
「あ、先生!なんでしょう!」
令嬢達から離れ、竜崎に駆け寄るメスト。そんな彼女の肩を、彼はガシッと捉えた。
「ちょっと一緒にいてね」
「へ?はい。 あ、でも皆が…」
メストが振り向くと、貴族令嬢達はうやうやしく一礼をしエーリカを追っていった。愛しの貴公子と共にいるよりも、友人の恋路の方が気になってしまったようである。
「あー…。大丈夫かな…?」
「大丈夫だよ。もう終わらせるから」
「? どういうことです?」
「実はね…」
―おっと清人。せめてネタ晴らしはもう少し待ってくれ―
先程ととは逆に、ニアロンが竜崎の口を塞いだ。メストは首を傾げるが、それ以上聞かずに竜崎の横に並んだ。
「そういえば私達がモンストリアに行っている間、他の子達とゴスタリアに行っていたんだよね」
「はい。なんでもバルスタイン殿の絵を元にしたぬいぐるみの新作が出るらしくて!」
「もうかい?人気が広がるのは早いなぁ」
「実は今回のは僕が出したアイデアを元に作られたものなんですよ!バルスタイン殿の鎧と武器を装備した手乗りサイズの…。先生もおひとつどうぞ!」
―なにか袋を持っていると思ったらそれが入っていたのか。おぉ、可愛いな―
雑談をして時間を潰す竜崎達。と、そこにさくら達がようやく戻ってきた。
「あ、いた!メストせんぱーい!お土産でーす! 転移魔法で持ってきたからまだ新鮮ですよー!」
図書館内ということを気にせず、お土産を手にメストへと走り寄るネリー。お土産交換会をする彼女達だったが、そんな中、モカが竜崎へ寄り耳打ちをしてきた。
「先生、私の勘違いかもしれませんが…誰かにつけられているような気がするんです…」
―モカ、正解だ―
笑いを堪えるように、ニアロンは詠唱。精霊を数体召喚する。それをさくらが今出てきた側の道に飛ばした。すると…。
「「うわっ!」」
すぐさま悲鳴が聞こえてくる。逃げるように駆け出してきたのはハルムクラウス。
「ひゃっ!?」
更に1人の悲鳴が。首筋に冷たい水をかけられたのか、慌ててエーリカが走り出てきた。
「「「きゃああっ!!」」」
更に更に響き渡るのは甲高い悲鳴。精霊に追われ、貴族令嬢達が姿を現した。
「さくらさん、ハルムくん、エーリカ…あぁ!」
ある程度状況を把握したのか手をポンと打つメスト。呼吸困難になるほど笑うニアロン、そんな彼女を呆れた目で見つめる竜崎。その3人以外は見事に困惑、その場には気まずい雰囲気が流れていた。
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