230話 会議

「いやぁすごい魔術だった!」


「リュウザキ様の弟子はどの子も素晴らしいが、君はその中でも群を抜いているな!」


来賓客である各国要人にやんややんやと囲まれたさくらはただ笑うしかなかった。その集まり方は昨日の語り部をした際より格段に増えている。更には学園長達から今までの業績が語られ、彼女に集まる称賛の声は今までにないほど高まった。


「アリシャさぁん…」


次第に気恥ずかしくなったさくらは思わず横に控える勇者に助けを求める。すると彼女はさくらの頭をよしよしと撫でた。


「今のさくら、昔のキヨトみたい。かわいい」






所変わり、同時刻。魔王城中枢の会議室。ピンと張り詰めた空気が場を支配する。


「報告を」


魔王の言葉を合図に、集まっていた魔王軍の面々、そしてさくらの見守りをしている勇者以外の『勇者一行』面子は顔を引き締める。そんな中、賢者は臆することなく手を挙げた。


「ではワシから行こうかの。先程の竜巻、発生源の調査結果じゃ。リュウザキと共に現場を調査したんじゃが、妙な巨大魔法陣跡を見つけての。その術式は『禁忌魔術』に該当するものじゃった」


その言葉を聞き、ざわつく会議室。だが賢者はまだ序の口と言わんばかりに言葉を続けた。


「その魔法陣の上に覆いかぶさっていたのは大量の死体。先日の魔獣達じゃろう、異形の獣達がほとんどじゃったが、中には人間の死体も見受けられた。人、獣問わず全身を深く傷つけられ、その血を魔法陣が吸っていた」


想像したのか、幾人かが顔を顰める。賢者はそこで一旦言葉を切った。


「さて、ここからワシの報告は二つに分かれるが…先に『魔法陣にあった人の死体』の方から行こうかの。自ら刃を刺した者あり、顔を潰されている者あり、抵抗した痕跡を持つ者もありとその傷は多種多様じゃった。そしてその者達の正体なんじゃが…」


と、賢者は別の席に座る魔王軍兵に目配せをする。その兵は頷くと、手元の資料を捲り言葉を続けた。


「賢者様から指示を受け、遺体の調査を行いました。彼らの正体は『脱獄した元魔王軍の反乱者達』でした。その全員分の遺体を確認…つまり、昨日捕らえた反乱者達は全て死んでしまったということになります」


「何故!?」

「口封じということ…!?」

「脱獄させたというのにか!?」


会議室をどよめきが包む。脱獄犯が全て見つかったという安堵が少し、それを掻き消すほどの不可解な結果に驚愕がほとんどといった反応。賢者はそれを一旦抑え、言葉を続けた。


「もう一つ報告がある。リュウザキ」


「はい」


名指しを受けた竜崎は報告を引き継ぐ。


「竜巻の発生源と思しき魔法陣ですが、以前私が発見したとある術式と類似していました。魔界、『万水の地』で起きたとある生贄未遂事件。そこで用いられた魔術札にです」


「む、それはあの子ベルン達のか」


ラヴィの言葉に竜崎は頷いた。


「血によって発動し、天候を悪化させる魔術が刻まれた魔術札。恐らく今回発見された禁忌魔術を改造したものでしょう。その札を渡し、洗脳魔術を使った『謎の魔術士』は、少なくとも今回の騒動に関係していると思われます。『反魔王の人々』の敵か味方かは、現状不明ですが…。禁忌魔術を操れるとなれば転移魔術も簡単に扱える可能性が高く、脱獄を手引きしたのもその魔術士かもしれません」


彼の推測を聞きいる会議室。そんな中、今までふんふんと話を聞いていたソフィアが口を開いた。


「洗脳魔術と聞くと、アリシャバージルを襲ってミルスの爺様に追い払われた魔術士を思い出すわね。あれも確か盗賊達を脱獄、洗脳させて学園を襲わせたんでしょ? しかも反乱者達が持っていた『妙な鉱物』と同じものを持っていたと聞いてるし…そいつじゃないの?」


「かもしれんのう。じゃが魔術で顔を隠しておったせいでわからず仕舞いじゃ。せめてその鉱物の産地がわかれば良いのじゃが…」


と、賢者の言葉に補足するように兵の1人が手を挙げた。


「その件について報告を、捕えた反乱者達から回収した『謎の呪薬入り鉱物』、中の液体を確かめようとしたのですが、穴を開けた瞬間中身が全て蒸発し消え失せてしまいました。調べることは不可能かと」


情報源であるはずの反乱者達は死に、呪薬の正体は不明のまま。魔王は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「そうか…暫くは鉱物を頼りに調査を進めるしかないか。『レドルブ』近郊から連れてこられた獣達、『竜の生くる地』から攫われた竜、そして『万水の地』付近でも用いられた天候を操る魔術…敵は予想以上に各地に広がっている。…来賓として来た各国の代表を集めてくれ。この事態を全て伝え、警戒するように呼びかけよう。また、兵を再編し、各地の警邏体制を強化する!」


魔王の命を受け、兵は一斉に動き出す。と、魔王は賢者達に呼びかけた。


「ミルスパール、リュウザキ。2人は我が軍の学者を連れ、土の高位精霊『アスグラド』の元へ向かってくれ。彼ならば鉱物の正体に見当がつくかもしれない」


「わかった」


返事をして立ち上がる竜崎だが、それを賢者が止めた。


「まあ待てリュウザキよ。お前さんには『風易の地』、エーリエルの元へ向かってもらいたい」


「あぁ、さっき生まれたシルブの件ですね」


「さよう。さくらちゃんの力によって偶然生まれたようじゃが、あれなら上手く行けば魔法陣を作った魔術士の魔力が感じ取れるはずじゃ。魔法陣の方は血で汚れすぎていて判別は出来なかったしの」


「わかりました。では早速向かいます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る