228話 竜巻
先程まで晴れ渡っていた空はみるみる鉛色に染まり、雲は雷鳴を轟かせる。だが巨大な竜巻はそれすらをも呑み込み、さらに勢力を増して魔王城へと迫ってくる。
いつかテレビで見た、海外のトルネード。鉄筋建ての建物をいとも簡単に崩壊させ、人や車を巻き上げるその映像を脳裏に思い浮かべたさくらはゾっと体を震わす。もしここに来ようものなら、どうなるかは明白である。
「なんだなんだ!?」
「空が…!?」
来賓客達も異変に気付いたのだろう。こぞって近場のテラスに集まり騒ぎ始める。魔王城の一面はざわつく彼らで埋め尽くされた。
「何故だ…!? しかもこんな時に…あの位置に人里は無いとはいえ…!」
ハプニングにハプニングが重なり苛立つ魔王。そんな彼に代わり、賢者が竜崎に指示を出した。
「リュウザキ。ちょいと距離があるが、アレを試してくれんか?」
「わかりました」
軽く返事をした竜崎は窓の外へ、さらに欄干を飛び越え空中へ躍り出る。
「おぉ…あれは!」
「リュウザキ様…!」
来賓客や警護の兵の視線を浴びる彼だが、全く気にすることなく杖を展開する。そして何かを詠唱し始めた。
「――。」
彼が杖をバトンのようにくるくる回すと、その杖先に光が集まっていく。それはどんどんと大きくなり、大玉転がしの玉のように…。
「あれ?これって…」
ふと、さくらは気づく。これは以前『万水の地』に行った際、竜崎が雨雲を散らすのに使った技。そして…。
「ミルスパールさん、あの技昨日の話の…」
「おぉ、よく気が付いたの。あれはワシがリュウザキに教えた『収束魔導術砲』の簡易版。『収束魔導術弾』じゃ。あの子はもっぱら天気を晴らすのに使っておるが」
なるほど。城を貫通し、空に届くほどの威力を持つ大技。それより幾段かランクは落ちるものの、万水の地を包む厚い雲を晴らした実績があるあの技ならば竜巻何するものぞ。ホッと息をついたさくらは竜崎の方を見やる。
「わっまだ大きく!」
光の球は更に膨れ上がっており、もはや人が幾人も入れるほどに。念入りに作っているらしい。それを見た来賓客達歓声を漏らすが、1人少々心配そうな表情を浮かべる者がいた。ニアロンである。
―おい清人、ほどほどにしとけよ。 昨日あれだけ大量の上位精霊達を召喚した上に、イブリートまで呼び出しただろ。また魔力切れになるぞ―
「大丈夫だよ。お前が止めないと言うことはまだ俺の魔力は残っているってことだろう? それにこうも見られている中、適当な技を打てるわけもないしね」
―まあそうだがなぁ―
「それより打ち出すの頼んでいいかい?」
―任せろ―
完成した『収束魔導術弾』を迫る竜巻へと向ける竜崎。眩い輝きを放ちながら空中に固定された光球から少し距離を取り、最終確認を行う。
「方向はこれで大丈夫かな?」
―竜巻自体が巨大だ、問題ないだろ。うし…!―
ニアロンは童女形態から大人形態に姿を戻し、両腕をグルグル回す。
―トンネルを作る時のように手加減する必要がないのは楽だ。いくぞ!―
苦笑いする竜崎を余所に、彼女は腕を引き…。
―ぶっ飛べ!―
ドッッッ!
波動を打つかの如く、両掌底で光球を叩いた。
ギュンッ!
弾かれた収束魔導術弾はレールガンの如く空を裂き、竜巻へと一直線。竜巻のど真ん中に―。
ボッ!
「…あれ?」
―うん?―
直撃はした。だが勢いが強すぎたのか、収束魔導術弾は竜巻を貫通。大穴を残して何処かに消えていった。
「あっちゃぁ…」
頭を抱える竜崎。その間にも渦巻く竜巻は自らの穴を修復、何事もなかったかのように侵攻を続けている。
―すまん…―
「いやニアロンは悪くないよ、俺も大きくしすぎたかもだし。それより…」
とりあえずさくら達のいる会議室のテラスに降りる竜崎。そこへ賢者が歩き寄った。
「リュウザキ、気づいたかの?」
「えぇ。あれ、自然発生のものではありませんね。穴の開いた際、微かですが魔力が弾けた光が見えました。恐らく魔術で作られたものでしょう」
「じゃろうな。調べたいのは山々じゃが、放っておくと城下町に被害が及ぶ。仕方がないが、やはり消すとしよう」
「はい。では今度は風の高位精霊を…」
竜崎は再度空中に出向こうとするとするが、賢者はそれを引き止めた。
「まあ待て。お前さんは魔力の使い過ぎじゃ。別の奴に頼もう」
―あの規模の竜巻をなんとかできるのはお前と清人、あとは勇者、魔王程度のもんだろ。あぁ、魔術ならば
「その誰でもないわい」
怪訝な顔をするニアロンにニンマリと笑い返し、賢者は後ろを指さす。そこにいたのは―。
「さくらちゃんじゃ」
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