211話 若かりし『魔王』③

「なんだ…これは…」


連れてきた兵は幾名かが削られてしまい、アルサー本人も満身創痍の中、彼らはレドルブに到着した。だがそこで見たのは変わり果てた王都の姿だった。


都市全体を厚く包んでいた壁は穴が空けられ、壊され、無惨に瓦礫となって転がっている。残っている箇所には残らず魔王軍の旗が立てられており、陥落したということが一目でわかる異様となっていた。


更に都市内部からあがるは武具量産を示す大量の煙。レドルブの施設を使い増産をかけているようである。


そして極めつけは、都市周囲にこれでもかと転がる死体である。そのほとんどは魔王軍が作り出した人獣魔獣の類。まるで使い捨ての道具を放り捨てたかのように、腐臭を吹き出し地を汚していた。


ほとんど、ということは残りの一部は…レドルブ兵である。主達を守れなかった悔恨を動かぬ体に残し、誰にも弔われることなくただ倒れこんでいた。


「アルサー様…!」


「あぁ、分かっている…。急ぎ『予言の一行』と合流しよう」


配下の兵に諭され、アルサーは拳を強く握りしめたまま踵を返した。





「止まれ!何者だ!」


人界側軍、その先鋒部隊。突如現れた十名程度の謎の人物達に、何十、いや何百もの各国兵が揃って槍や剣を向ける。そんな中、アルサーは怯むことなく武器を投げ捨て名を名乗った。


「私はアルサー・エクス・リターナイア・ブルトアウス。『魔王』の息子だ。魔王に反旗を翻す者として協力を具申しにきた!」


普通ならば、狂人の戯言や敵の姦計と判断され取次すらされなかったであろう。事実、アルサーは華美な服など纏っておらず、魔王との血縁関係を証明する物は何一つ持っていなかった。


だが、彼の声と威厳はその場の兵を信じ込ませるほどに迫真的だった。


「おい、確か魔王の息子って…」


「あぁ…。魔王への反抗勢力を立ち上げたって噂があったな…本当だったのか?」


兵が次々と信じてくれ始めた、そんな時だった。


「ガルルウ!」


迫る人獣達。急ぎ武器を構え直す兵達だったが、それより先にアルサーは動いた。


「はっ!」


彼が正面の空気を引っ掻くと、空気の刃続々とが作り出される。それらは獣達へと突き進み、そのほとんどを切り刻んだ。が、そこでアルサーは膝をついてしまった。ここに来るまでに魔力を使い果たしてしまったのだ。


「アルサー様!」


配下の声間に合わず、あわや魔獣の凶刃に…!


―やれ、清人―


「はぁっ!」


突如、背後から精霊による魔術弾が飛んでくる。残っていた魔獣は体を穿たれ、倒れこんだ。


「大丈夫ですか!?」


呆けるアルサーの元に駆け寄ってくるのは彼よりも少し若そうな、謎の霊体を従える青年。竜崎であった。






「それがリュウザキとの初の出会いだった。このスープを初めて食べたのも、その時だ。兵達に警戒される中、リュウザキは疲労困憊の我らを見兼ねてわざわざ持ってきてくれた。 …思えば、我もリュウザキに命を救われていた1人であったな」


パチパチと音を立てる焚火を見ながら、魔王はそう呟く。竜崎達は一笑に付した。


「いやぁ、多分俺達が駆け付けなくても自力でなんとかしてたでしょ。地面を蹴って躱したりとか」


―だろうなぁ―


よほど魔王を信頼しているのか、彼らはまともに取り合わない。魔王の方も、どうだかなと笑い返す。『魔王と英雄』、そんな構図よりも『旧知の友』というほうがしっくりくる。


と、そんな中行儀悪くスプーンを咥え遊びながら耳を傾けていたソフィアが思い出すような口調で口を開いた。


「レドルブ奪還戦かー。ほんと、あれからそんな経ったとは思えないわね。機動鎧を初めて作ったのもあそこだったし、良いこと悪いこと合わせて思い出深いわー…」


「そうなんですか?」


「正確に言うと、一号機を作ったのはレドルブ奪還の後だけどね。そうだ、ついでにレドルブの戦いについても話しときなさいよ」


さくらの問いに軽く説明したソフィアは返す刀で魔王へと話をする。魔王はさくらへと許可を請う目配せをし、了承を得てから話始めた。


「そうだな…ミルスパールによって我がアルサー本人だと確認された後から話そうか」

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