―閑話―

190話 精霊術代理講師 エルフリーデ①

レドルブに同行し数日、さくら達は学園へ帰ってきていた。



あの家畜泥棒騒動以降もレドルブ近郊を飛び回ったさくら達だが、同じように謎の人物達から依頼された盗賊達がちらほらと。事はかなり大きく、広がっているようである。


ちなみにその途中、オズヴァルドの生家にも立ち寄った。出迎えてくれたオズヴァルドの両親は息災そうで、他の村の人々と同じように竜崎の顔を見るなり手を合わせ拝んでいた。


「うちの息子が皆さんにも迷惑をかけているでしょう。騒がしい奴でごめんなさいね」


彼らはさくら達に申し訳なさそうに謝ったが、その言葉の節には心のどこかで世界を救った勇者一行をはじめ、名だたる伝説に天才と認められた自慢の息子を誇っているようにも見えた。



諸々の打ち合わせや引継ぎを済ませ、竜崎運転の竜でアリシャバージルに戻ってきたのだが、竜崎自身は他の場所の応援に行くらしく、すぐさま発っていった。ニアロンはこの任務について「ここ何年かで竜崎の手間が減った」と言っていたが、それでも彼はまだまだ頼られているらしい。





流石にこれ以上我が儘を言うわけにいかず、さくらはお留守番。いつもの如く学園に通っているのだが…。


「そういえば竜崎さんがいない間は代理の先生がいるって聞いたけど…」


以前ナディから聞いた話では、竜崎が任務等で授業ができない間は代理の教師が教鞭をとっているらしい。良い機会だし、ぜひ会って見たい。そう思いナディに聞いてみると…。


「丁度良かった!さくらさんにご紹介したかったんですよ!」


彼女に手を引かれ、ついた場所は精霊術講師控室。ナディに続き部屋に入ると、竜崎が普段座っている席に1人の女性が座っていた。尖った耳、若く美しい顔。エルフである。そして伝統衣装の1つであろうか、以前エルフの国へ赴いた際に時折見かけた変わった服を身につけていた。


そんな彼女は立ち上がるとさくらと握手をし、微笑んだ。


「初めまして、私はエルフリーデ・リリアント。リュウザキ先生が学園を離れている間、授業の代理をしている者だ」


なかなかに気の強そうな人である。だがどこか竜崎と似たような雰囲気も感じ取れる。誘われるまま近場の椅子に腰掛けたさくらに、彼女はナディと揃ってずいっと顔を寄せた。


「ところで、聞かせてくれないか?レドルブでオズヴァルドのやつがリュウザキ先生にどんなことをしたか」


その妙に強い圧に、さくらは思わず頷いてしまう。そしてレドルブでの出来事を彼女達に話していくことになった。



しかし、思わぬことが。起きた事件や特異な点だけを教えてくれと言われたと解釈し話していったさくらだったのだが、彼女達が聞きたかったのは本当に『オズヴァルドが竜崎に何をしたか』であった様子。


皆での情報収集、アイナの暴走、家畜泥棒の話も興味深そうに聞いてくれたエルフリーデ達だが、途中からオズヴァルドの行動言動ばかりを根掘り葉掘り聞かれた。


「オズヴァルドのやつ…!また先生に…!」


「もう…これだからあの人は…!」


エルフリーデとナディの口調は徐々に怒り交じりに。とうとう2人揃ってオズヴァルド批判を始めた。その苛烈な様子にさくらは若干身をのけぞらせる。ナディ自身は「竜崎に対して敬意が感じられない」といった理由でオズヴァルドのことを嫌っていたが、どうやらエルフリーデのほうも同じのようだ。


もちろんさくらとしても、オズヴァルドが竜崎を慕っていることをしっかり話したのだが、焼け石に水。もう彼女達は聞いていない。仕方なしにさくらは質問がてら別方向から沈静化を試みる。


「そういえばエルフリーデさんは普段学園にいないんですか?」


その問いかけでようやく落ち着いたエルフリーデはさくらのほうに向きなおった。


「私は普段学院や騎士団にいる。とはいっても正式所属ではなく、それこそ傭兵のような立ち位置なんだが…。個人的には『リュウザキ先生の代理講師』という職が一番良い。本当はリュウザキ先生より多い給料なんて辞退したいんだが…いや寧ろリュウザキ先生に授業をさせるなんて申し訳ない。全部私が変わってあげたいぐらいだ。先生はもっと自由になってもらっていいんだ」


どうやらこの人、竜崎過激派のようだ。苦笑するさくらに、ナディが補足を入れる。


「エルフリーデ先生は私の前任者、元々はリュウザキ先生の助手だったんです。リュウザキ先生の代理なんて皆恐れをなしてやりたがらず、長らく専任の方がいなかったらしいんですけど、エルフリーデ先生が立候補して決まったんですよ。そして、弓の名手でもあるんです。その腕はそんじょそこいらのエルフ兵の人達よりも強いんです!」


そう聞いたさくらが改めてエルフリーデの横をみると、弓と矢筒が置いてあった。精霊術に加え弓術まで。かなり優秀そうである。



と、さくらは一つ気になったことをエルフリーデに聞いた。


「竜は使わないんですか?」


エルフの弓術といえば、竜使役弓術。それを自在に扱えるのはエルフでも研鑽を積んだ者だけなのはさくらも知っているが、先程ナディから『弓の腕前はエルフ兵よりある』と聞かされたばかり。ならば、と考えてした質問だったのだが…。


「「―!」」

エルフリーデ達の表情は引きつり、空気が固まる。何か変なことを言ってしまったのか。焦るさくらに、エルフリーデは少し悲し気な表情を浮かべた。


「実はな…」

彼女がそう口を開いた時だった。


キーンコーンカーンコーン


「ん、予鈴か。この話は後にしよう。さくらさんも私の授業にでるかい?」


「是非!」


なんやかんや、竜崎以外から精霊術を教わる機会は今まで無かった。強いて言えばメルティ―ソンが少し教えてくれたぐらいである。彼女はどんな授業をするのか少し気になるさくらであった。

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