154話 予言の一行結成②
王宮に到着し、やはり心を躍らせている竜崎青年を連れて王の居る間に向かうミルスパール。と、そこに元気な声が飛んできた。
「ミルスの爺様〜!」
学院最高顧問であり、アリシャバージルの御意見番であるミルスパールをあだ名で呼んだのは一人の少女。王宮に相応しくないよれたノースリーブ姿である。しかも鼻に炭汚れをつけていた。
「おぉ。ソフィアか。どうしたんじゃ?」
ソフィアと呼ばれたその快活な少女は、ふっふ~んと笑い答えた。
「予言の人を探しに出かけた爺様が帰ってきたんだもん!成果を聞きに来たの! もしかしてその子!?」
一切の遠慮は無い様子で青年に顔をぐいっと近づけたソフィアはふんふんと口ずさみながら全身の様子を見る。女子にそんなことをされた経験なんてない青年は思わず硬直してしまいされるがまま。
そんなことを全く気にせず確認し終えた彼女は清々しい顔で言い放った。
「うん!わかんないわ!どこ出身の人?やっぱ魔界?」
どうやら予言の条件である「異界より来たりし」というのを確認しようとしていたらしい。ミルスパールは平然と答えた。
「この子は『異世界』、別の世界から来たんじゃと」
「へえー。 は…?」
鳩が豆鉄砲を食ったように呆ける彼女に、青年は事の顛末をかいつまんで伝える。気がついたらこの世界にいたこと。自分は魔法がない世界から来た事。そして自らの身にニアロンと言う霊体が憑りついているということを。
それを聞いたソフィアはわなわなと肩を震わす。妙な変化に慌てる青年だったが、次の瞬間。
「すっっっっっっごぉい!!!!!!!」
と、ソフィアは弾けるような声をあげたのだ。その凄まじさ、近場を通る兵をビクつかせ、部屋の中に居た人々がなんだなんだと扉を開けるほど。だが当の本人はお構いなし。
「なに!?その変わった世界!?魔術無しで勝手に動く乗り物!?どこにいても会話が出来る道具!?見たものをほぼそのまま写せるほどの高性能な写真機!?夢みたい!!!!」
先程街を始めて見た時の青年と同じ、いやそれ以上に目を輝かせる彼女。ミルスパールにたしなめられ、急いで口に手を当てる。だがそれでも好奇心丸出しのワクワク声は漏れまくる。
「じゃあじゃあ、その鞄?の中身の物もその世界の技術!?」
「いや…。そこまで凄いものは入っていませんけど…」
「いいのいいの!そんな凄い世界の物なんてどんなものでも絶対インスピレーションが湯水の如く湧くわ!ちょっとそれ私に触らせてくれない?ね?」
手をワキワキとさせながら触れようとする彼女を、再度ミルスパールが止めた。
「まあ待てソフィア。先に王に御目通りをしなければならん。その時にこの道具類が証明となるやもしれんからの。それが終わったらじゃ」
「それに…その…まだその私が予言の人って決まったわけじゃありませんし…」
青年もまた不安気な声でそう注釈する。そんな彼を励ます者が。
―そう不安がるな、清人。絶対選ばれるさ―
突然聞こえた声の主を見て、ソフィアは悲鳴を挙げた。
「へ…?きゃあお化け!」
―誰がお化けだ誰が。騒がしいやつだな全く…―
「そうか!貴方がニアロンね。あ、自己紹介してなかったわ。私はソフィア・ダルバ・テーナイエー。『才気煥発』な『巧の者』よ!ソフィアって呼んで!」
ブイ、と元気に指を立てる彼女。青年も自己紹介をする。
「竜崎清人、と言います。よろしくお願いします」
「ん?」
するとソフィアは首を傾げた。
「さっき、ニアロンがキヨトって言ってたけど、なんで苗字呼びなの?」
―逆だ逆。清人が元いた世界、というか国か、では苗字が先で名前が後なんだ―
ニアロンの説明を受け、彼女は納得した。
「そうなんだ。じゃ、私もキヨトって呼ぶわ!よろしくね!あ、ミルスの爺様。私も王様のところについていっていい?」
ソフィアにギュッと手を握られ、ほんのり顔が赤くなる竜崎青年だった。
「ミルスパール。よくぞ戻った」
玉座に座る王へ型通りの挨拶を済ませると、話はすぐさま本題に入った。
「して、その子が予言に示された者か?」
作法も何も知らないため、極度の緊張状態ながらも必死に頭を下げていた青年を王は指さす。ミルスパールは一応否定をした。
「正確には、まだ決まっておらん。なにせ予言の言葉以外にヒントが無いんじゃからの。じゃが、ワシはこの子を選んだ。出かける前に言った通り、ワシが『伯楽』だとするならば、じゃがな」
「ほうほう。しかし…『異界』から来たという条件は満たしておるのかの…?確かにみたところ変わった服装ではあるが…」
その言葉を待ってましたと言わんばかりにミルスパールは微笑んだ。
「彼が持ってきた道具類を見ればわかるぞい。リュウザキ、その鞄の中身を王に説明せい」
おっかなびっくり、青年は王の手招きに応じ、用意された台の上に鞄から次々と異世界の道具を並べていく。今までに見たことのないその品々を見て、そして青年の口から語られる道具の使い方や別世界の話を聞き、王は終始目を丸くしていた。それは数時間に渡って繰り広げられ、しまいには王の真横に特別な席を設けられた青年はそこに座って王の質問に受け答えしていた。
「この記号は何という意味だ?」
「これは漢字、私のいた世界の文字の一つで…『有難う』と書いてあります。お礼を示す言葉です」
「この絵はなんだ?」
「これは実験の様子なんですけど、植物を薄く切って着色して…その細胞組織の様子を見るっていう…。この世界の植物と一緒かはわかりませんけど…」
「この竜のような絵はなんだ?」
「えっと。私のいた世界にはこの世界のような竜は存在しないんですけど、代わりにこんな竜がよく妄想されているんです」
「古くに滅びたということはないか?」
「いやー…そんな化石は出てないので…あ、でも『恐竜』という生物はいたみたいです。えっと…これです」
「うーむ、鱗がない。竜ではないな。顔が似ているのはいるが」
「ん?これは今までのとは違うな。なんだ?」
「あー…えっと…。これは英語っていう私が使っているのとは別の言語で…ごめんなさいそれは勉強不足なんで喋れないです…。この単語の読み方は確か…」
「言語が違うのか…大変だのう」
傍からみた絵面はお祖父ちゃんと孫である。周囲を囲むソフィアや兵士達もその会話に耳をそばだてている。少なくとも、王を含む彼らには青年が異世界から来たということを納得させられたようだ。
「ふむ…『有難う』だったか?ふふっ。遠路はるばる来てもらって、しかもここまで色々と話を聞かせて貰うとなると疑いようもあるまい。嘘をついている様子は無いし、話も真に迫っておった。認めよう、リュウザキよ。お主が『異界』から来たということを」
だがそこに異を唱える者がいた。臣下の1人である。
「お待ちを、王よ。話だけではただ嘘の上手いものであるかもしれません。何か証明となるものを見せてもらいたいものです」
「ここに沢山並べてもらったであろう」
何を言っていると言いたげに王は台を指さす。しかし臣下は首を振る。
「えぇ。確かにそれは見たことのない代物ばかり。ですが、材質の云々は偽装できる可能性が高いはずです」
と、それを聞いたソフィアは王に一礼をし、スタスタと青年が持ってきた道具の元へ。一つ一つ手に取り、小さく歓声を漏らしていたが、コホンと咳払い。王と異議を唱えた臣下に向け堂々と発言した。
「これは全く見たことのない材質ばかりです。偽装をするならば既存の物質を加工するでしょうが、その様子は一切ありません。確かに一部にはこの世界にもあるような素材が使われていますが、こんな加工、見たことも聞いたこともないです」
「と、『巧の者』は言っておるが?」
ぐっ…と押し黙る臣下。だがプライドが許さなかったのか、再度口を開いた。
「もし、その子がソフィア殿のお知り合いで、共謀しているならばどうするのです…!?」
「はあ!? 私とキヨトはさっき会ったばかりよ!失礼な人ね!」
王の目の前で口喧嘩。溜息をついたミルスパールが止めようとした時だった。
「携帯は充電が切れちゃったけど…あれならまだ大丈夫かな…?」
青年はそう呟き、台の上に載っていた小さな物体を掴む。次に鞄内部の端についているチャック付きのポケットを漁り始めた。
「? 何をしておるのだ?」
王の質問に答えるより先に、カチャンと何かをセットした青年は物体のボタンを祈るように押した。すると―。
「~~~♪ ~~~♪」
どこからともなく聞こえる謎の音楽、しかし歌声はよくわからない。それもそのはず、この世界の言語ではないのだ。音の発生源は青年が持つ物体からであった。音楽プレーヤーである。
「良かった…まだ電池使えた…」
ホッと息をつく青年と対照的に、小さな箱から歌が聞こえてきていることに気づいた臣下は言葉を失くし、ソフィアはらんらんと目を光らせた。
「さて、お主が『異界』より来た事はこの場に居る全員が認めた。だが、これより旅立ってもらうのは戦争の只中だ。相応の実力がない者を送り出すわけにもいかない。どうか力を見せてくれないか?」
王のその言葉を聞き、青年の背中からはふわりと何かが出て来て伸びをした。
―ようやく私の出番か―
「何者だ!?」
突然の謎の存在の登場に王は驚き兵は武器を構える。事情を知るミルスパールとソフィアは半笑い。当の霊体は臆することなく名乗った。
―私はニアロン。面倒な説明は後でミルスパールのやつに聞いてくれ。今はこいつのお目付け役ってところだ―
それと同時に、青年も宣言をした。
「私はニアロンさんと2人で1人です!」
それで予言は通るのかと悩む王から距離を取り、部屋の入口付近まで下がる青年達。当然、王と青年の間には広い空間が出来た。
そこで、青年は今から行うことを発表した。
「えっと…サラマンド?を呼びます」
「なんと!?火の上位精霊をか!?」
驚く王達を余所に、詠唱を始める青年と霊体。その様子に圧倒され、兵は少し後ろに下がる。だが、実は青年が口にしている呪文は火の精霊の基礎のみ。後は出まかせである。つまり、全ては霊体が詠唱しているのだ。最も、ミルスパール以外その事実を知らないのであるが。
―いけるぞ―
霊体の合図に合わせ、青年は力強く声を張った。
「この場に来てください、『サラマンド』!」
瞬間、目の前に出来た大きな魔法陣が赤く染まり、火がつく。続いてメラメラと音を立て、空間を熱で歪ませながら巨大な火蜥蜴が姿を現した。
「グルルウル…」
その上位精霊は唸るだけで動かない。しかしその纏う炎だけでも凄まじい。周囲の兵は熱に鎧を焦がされ、少し遠くにある布もボッと音を立て着火した。
「見事!充分に堪能した!」
慌てた王は急いで精霊を帰すよう指示。それに従い、精霊はふっと消えた。燃えた物は既にミルスパールによって消し止められていた。
「これは素晴らしい。リュウザキ、そしてニアロンよ。お主たちこそ『異界より来たりし伯楽一顧たる術の者』だ!」
満場一致。万雷の拍手の元、見事竜崎達は予言の者に選ばれた。
その後に行われた、青年と霊体のひそひそ会話である。
「上手くいって良かったですね」
―あぁ。ミルスパールの提案通りだな。「火の上位精霊を呼べば王は驚いてすぐに帰すよう頼んでくる」って。おかげで清人がボロを出さずにすんだ―
それを聞いて少しムッとする青年だったが、事実である。代わりに別なことを聞いた。
「実際のところ、どうなんですか?上位精霊を操れるんですか?」
彼女も上位精霊を召喚するのは洞窟から出て来て始めてと聞いていた。だが、霊体はふふんと自慢げな声を出した。
―それは問題なさそうだ。一回やったらすぐに思い出した。これからは私に任せるがいい。しっかり守って見せるぞ―
頼もしいその一言に、青年も笑顔になった。
「よろしくお願いしますねニアロンさん」
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