58話 お礼の品


次の日のことである。授業合間の休憩時間、職員に呼ばれたさくらは学園長室横応接間へと赴いていた。すると、その道中でメストと合流した。



「メスト先輩も呼び出されたんですか?」


「うん。さくらさんもということは…」


「昨日の件、ですね」




昨晩の闘いを思い出すさくら。あっという間に人質を助け盗賊達を鎮圧したメストと、機転を利かして武器を奪い返し逃走した盗賊を捕えた自分。何度思い返しても胸のすく大活劇だった。


学園長に褒められこそすれども怒られることはないだろう、胸を張って扉をノックした。




「面白いことになってるわよ、入って入って」



すると、中から聞こえてきたのは楽し気な学園長の声。さくらとメストは揃って顔を見合わせる。



一体なにが?訝しみながら中に入ると、確かに面白いことになっていた。






部屋にぎっちりと集まっていたのは貴族の召使達。さして広くもない部屋に詰めかけたせいで、満員電車並の混みようだった。



「ごめんなさいね。本当は今日の授業終了後に呼ぶべきだったんでしょうけど、もうこんなに集まっちゃったから」



そう謝る学園長に促され、彼女のの横に腰かけさせてもらうさくら達。すると代表して、先日公爵宮殿で戦っていた召使の人が口を切った。



「昨晩は盗賊を退治してくださりありがとうございました。こちらはディレクトリウス閣下からの褒賞品と、僅かばかりで恐縮ですが我ら召使からのお礼の品でございます」




そして机の上に置かれたのは、丁重に包まれた宝石やら装飾品、お洒落な彫刻が掘られた短剣やお金など。目を丸くするさくら達だったが、それだけでは終わらなかった。





「私は男爵家の使いでございます、先日盗まれかけた物の中には我が主の持ち物もありまして、取り返してくださったお礼を持ってまいりました」



「伯爵家の使いでございます、我が主がお二方の闘いっぷりにいたく感激いたしまして。こちらは心づけとなります」



一人が渡し終えればもう一人が、そして続いてもう一人が…と。 その場にいた召使全員が代わる代わるお礼品を置いていくのだ。



あっという間に2人の目の前には贅を凝らした小物や高級そうな菓子、賞金などが山盛り。さくらもメストも、言葉を失っていた。






そしてようやく全員が贈呈し終えた後。召使の一人が、さくら達へとこっそりと囁いた。



「そして、我が主からの言伝です。『警備兵長として雇いたい』とのことです」




なんと、まさかの青田買い。 だがそれは、他の召使達にもばっちり聞こえていたようだ。全員が我先にと口を開く。




「抜け駆けを! 我が主からも伝言があります。『是非息子の妻として迎えたい』とのことです!」



「我が主からも言伝が!『是非養子に迎えたい』と!」






わちゃわちゃとし始める室内。どう伝えるべきかと慌てるさくらだったが、結局メストにお願いすることにした。



「申し訳ございません。お気持ちはとても嬉しいのですが、今の僕達は修練を積む身。もう暫くはそちらに集中したいのです。ご辞退させていただきます」



深々と頭を下げるメスト。互いを睨みつけ合っていた召使達はその答えを聞いて、揃って残念そうな声を出した。



「「「そうですか…。もしお気が変わりましたらご連絡を、我が主が喜びます」」」









召使達が帰っていった後。さくら達は先程貰った高級菓子をお茶請けに、学園長とティータイムをすることにした。




「なるほどねぇ、人質救出に盗賊退治なんて。それで皆さんお礼を持ってきたわけね」


「はい、まさかこんなに頂けるとは思っておりませんでしたが…」



持ち帰るのが一苦労なほどに盛られた机の上の品々を見返して思わずメストは苦笑いする。すると学園長はフフッと笑った。



「可愛い女の子達が正義を貫き、弱きを助け、しかも強くて勝っちゃうんですもの。そんな演劇のようなことを目にしたら誰だって褒めるわよ。 流石ね2人共、今度の『代表生徒』にでも選ぼうかしら」



そしてパチパチパチと拍手を。最後の一言が少々気になるさくらだが…照れくささが勝ってしまい質問するタイミングを逃してしまった。






「でも、本当凄いわね。メストちゃん、また腕をあげたんじゃない? さくらちゃんは来たばかりだというのに色々と大活躍ね。は皆そんなにお強いの?」



さくらが異世界から来た事を濁しながら、学園長は問うてくる。


良い機会なため、さくらはメスト含む数人と親友となり、異世界から来たという事情を明かしたということを伝えた。 そして、その全員が秘密をしっかり守ってくれているということも。




「あらまあ、それは良かったわ。 良い友達は人生を彩るもの。元の世界に帰るまでだとしても、この世界に永住しなきゃいけないとしても、胸中を明かせる人がいて損はないわ。リュウザキ先生とニアロンさんのようにね、大切にしてね」



「はい!」



学園長の言葉に、さくらは元気よく返事をしたのであった。












場所は変わり、一方の竜崎。彼は、先日の盗賊逮捕のお礼をしにきた騎士と合っていた。




「昨日はありがとうございました。手当てをしてくださったおかげで死人を出さずに済みました。つきましては王様から褒賞が」



そう感謝を述べる騎士。すると、竜崎はその言葉を中途で遮った。



「つかぬことをお聞きしますが…その褒賞はお金でしょうか?」






「えっ、あっはい。武器や鎧は扱いに困るとお聞きしておりますから…」



変な質問に惑いながらも答えた騎士。 すると竜崎は、思わぬ提案をした。




「ではその褒賞は、怪我をした兵士達に回してください。私の分は要りません」









「えっ。いやでも、受け取って頂かないと…」



更に困惑する騎士。 すると竜崎は紙を取り出し、一筆書き出した。



「では、これを王様にお渡しください。褒賞辞退と兵への分配についての進言書です。王様のことですから、これを見たら納得してくださいますよ」




茫然としつつ、その手紙を受け取った騎士。彼は信じられないといったように声を漏らした。



「は、はぁ…。 あ、あの…本当によろしいのですか…? せめて少しだけでも…」




そのおずおずと食い下がるような言葉を聞き、竜崎はうーんと首を捻る。すると、何かを思いついたように手を打った。



「あ、そうだ。辞退した手前恐縮なのですが、美味しいお酒を一本貰えませんでしょうか? ニアロンの奴が今へそを曲げてて…」


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