外伝特別編 孤独な輸入雑貨雑貨代理店主の長い日々 1

  アースティア暦1000年・西暦2030年・5月23日・午後14時35分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸東側地方・西太平洋地域・地球海洋諸国連合同盟勢力圏・日本列島・日本国・日本国首都・東京都・江東区・個人輸入雑貨代理店・重松輸入雑貨商会事務所にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 日本国が転移災害に見舞われ、アースティア世界へと異世界転移をしてから、凡そ1月半が過ぎようとして居た頃こと。


 東京都・江東区内の某所に個人事務所を構えながら、様々な顧客を相手取って商売に励む事で有名な個人輸入雑貨代理店を営んで居る中高年の男が居た。


その男は、溜息混じりにボヤく。


「はぁ、転移災害が起きてからと言う物、景気が点で良くないなぁ~」




 中高年の男の名は重松五郎と言い、年齢は52歳で、東京都江東区で、個人輸入雑貨代理店・重松輸入雑貨商会の経営者だ。




 身長が180センチと背の高く、チョッと怖い感じのする人物だか、根は至って真面目で、穏やかな人物である。




 しかしながら、そんな彼にも仕事の時とは別の顔を持って居り、それは仕事の合間にする趣味の食べ歩きの時だけ、メニューに迷う優柔不断な性格な所も有る人物だった。




 そんな彼は若い頃は、フランスのパリで、西洋雑貨の修行をして居た経験を持って居るベテランバイヤーでもあり、同時に個人経営を活かしたフットワーク力で、仕入先に赴く事が多い。



 その仕入先は、日本全国から近隣諸国を立ち回る事も屡々有る事で、その手腕の良さは、知人達の間では、とても有名な腕の立つ男として知られて居た。



 しかし、彼の一番の悩みは何かと言うと、顧客に頼まれた物なら何でも取り扱う輸入雑貨代理店として、好評で有る事から、その人脈網は多岐にわたって居るが、一年を通して自分の経営して居る事務所に、無茶な注文ばかりが来る事が、彼の一番に頭を悩ませて居る事で有った。


 特に年末にやって来る無茶振りな仕事の依頼だけは恒例行事と成って居り、取引先・知人・友人・依頼者達からは『勿論、年末は開いて居るよね?』とか言われるのは当たり前で、年末の3日間は仕事納めにしようと奮闘するが、何故か必ずしも仕事の依頼がやって来てしまい、地方出張と成ってしまうのも当たり前と成って居た。


 しかも、人の良さが祟って居るのか、出張先でであった人たちの頼み事すら引き受けさせられてしまうわらしべ依頼までこなす事でもチョッとした話題をさらって居るのも笑えないと言えるだろう。


 昨年末なんかは、豊洲の仲卸業者店のカニの置物看板を小樽市の旅館へと届ける依頼を受けた挙句に、その途中で車がエンストして居た若者の二人に頼まれて、地元祭りに使うと言う熊手飾りを送り届けるわらしべ依頼までしてしまうと言う珍事に巻き込まれた事も有った。


 そんな珍事に巻き込まれる彼でさえも、今回の転移災害に遭った事は、大きな痛手と成って居た。


「海外の仕入先の知り合いも、半分に減ってしまったしな。」


 五郎は今や異世界と成ってしまった地球世界の知人達が、今頃は如何して居るかなぁ~と思いを馳せていた。




「はぁ~・・・・・・」と思わず溜息を付いてしまう。




転移災害が発生して以来、地球系国家の景気は斜め右肩下がりを続けて居る。




 株価指数は緩やかに下がり続けて居るが、極端に下がらないのは、政府の下支えと異世界諸国との貿易が今年中にも見込まれて居る事が、マスコミ各社から報道されて居たからだった。




 投資家達は、それを信じて投資をやや抑えながら損をしない程度に商いを続けて、今は先を見据えつつ、大人しく待って居る状態に過ぎない。




 しかし、五郎の様な個人商店は、そうは行かない。




 日本政府と地方自治体からの資金援助は雀の涙程度、五郎の店は、今は何とか成って居るが、この状態が数年ほど続くのなら店を畳なまければ成らなく成るかも知れないだろう。




「煩わしい人付き合いを嫌って、好きで始めた独立経営をした個人業会社だったが、こんなにもあっさりとした、不景気程度で屋台骨が傾くとはな。」




「10年前のコロナパンデミック騒ぎじゃ、此処までの事には成らなかったんだがな。」




 2020年の年は、それはそれで大変な年だった。




 しかし、今の2030年代も、それ以上に大変な年に成りそうだと更に溜息を付いた時だった。




 プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!




 プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!




 プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!




 プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!




 五郎のスマホから呼び出しの着信音が鳴り響く。




 プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!




 プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!




 五郎はスマホを慌てて探すが見当たらず、アッと言う顔した直後に、スーツのポケットに仕舞い込んだままである事を思い出して、近くのハンガーに手を伸ばしてスマホをポケットから取り出した。




「はい。重松です。」




「よう、俺だ。」




「何だ、鳴滝かっ!」




「何だとは何だ。折角、良い話を持って来てやったのに・・・・・」




 電話の主は鳴滝浩治と言う同業者の男だった。




 五郎の若き頃より続く、古くから付き合いの有る腐れ縁であり、同業者でもある中高年の男で、個人輸入雑貨代理店・鳴滝カンパニーの社長でも在る。




 偶に五郎に仕事を振ってくれるのだが、それが何時も何時も無茶苦茶な事ばかりで、困って居るらしいが、同時に、この業界は持ちつ持たれつの関係だった為に、やれやれと思いながらも取り引きを続けて居る。




 万が一、個人業で誰かが倒れれば、そのやり掛けの仕事での未処理や直ぐにやって欲しい依頼内容が別の誰かへと転がり込んで来る事に成るで、ネットワークを持った者達同士は、互いに協力し合う事が多い。




「そう怒るなよ。それで、今日は何の用だ?」




「そうそう、その話だ。」




「また無茶苦茶言うんじゃ無いだろうな?」




「ふっ、その答えに付いては、半分は当たりだな。」




(ほーら、そう来た。)と五郎は心の中で呟く。




「実はな。日本政府からの依頼で、この異世界の西の大国の国家、オローシャ帝国のフローレイティア輸送商船商会と言う商会の魔導力船が、新潟県の新潟港に来て居るらしい。」




「今日の依頼話に付いても、日本政府の経産省から経由で来た、フローレイティア輸送商船商会と言う商会からの商取引の話なんだがな。」




「へぇー、相変わらず手広くやって居るな鳴滝。」




「褒めても、仕事以外は何もやらんぞっ!!」




「それよりも、今回の話は、俺の所の仕事を手伝って欲しい依頼だ。」




「おいおい、毎度の事だが、お前の依頼って奴は、何時も話が行き成りだな。」




「お前の腕と会社手腕なら、鳴滝カンパニ一でも、下請け会社の手伝いを数社程度を入れても十分だろうに。」




「何でまた、家みたいな個人商店にまで、大口の仕事を振るんだよっ!」




 鳴滝浩治が経営する鳴滝カンパニーは、中堅クラスの会社で、五郎とは資本も社員数も違う会社だ。




 五郎は、仕事で自由気ままでやりたい事と客以外での煩わしい人付き合いを避けたいと言う理由から、好き好んで自分の腕だけで個人業を好んで営んで居た。




 それが可能なのも、若い時に築いた人脈網のお陰であった。




「実はな。そう簡単な事でも無いんだよ。」




「それまた、如何してなんだ?」




「お前も知って居るだろう。結構な数の経営者が倒産に追い込まれ掛けて居る。」




「俺の人脈網でも不味いくらいにな。」




「確かにな。」と呟く。


 

 下手をすれば自分すら危ない事も。




「其処でお前にも声を掛けたんだが、今回の取り引き相手であるオローシャ帝国のフローレイティア輸送商船商会と言う商会は、我が国で言えば大企業クラスに当たるらしいそうだ。」




「膨大な数の日本で生産されて居る産品を買い付けたいとの依頼が舞い込んでな。」




「俺の会社や知り合いの下請けに、同業者でも手に負えないくらいの量の注文が来て居る。」




「おいおい、それなら大企業に直接的に注文すれば良いんじゃないのか?」




「俺もそう言いたいが、今回依頼主であるフローレイティア輸送商船商会が買い付けたいのは、日本の生産品で製造されて居る。」


「日用・生活雑貨・加工食品・玩具・手動式の移動車両(自転車や荷車)。ホームセンターで売られて居る様な金属道具類(大工道具・農用器具類でエンジンが無い物とプラスチック類で無い事)。」




「菓子類(紙製品の袋を使用もの)文具類・伝統工芸品・書籍(簡単な学術書と小説類のみ・旅行雑誌類も含む)。」




「酒類・医療品(生理用品・マスク綿棒・爪切り・石鹸・国内の薬局で販売が許可されて居る医薬品類で風邪薬・胃腸薬・傷薬・湿布類等々)飲料水(ジュース・コーヒー・お茶類等々全て瓶製品として販売。)と言った具合の物と成って居る。」




「それに取り引きをする物の中には、個人商店で作られた物も含まれて居るからな。」




「そう言った物は、お前の様な小規模商会に頼んだ方が早いと言う訳さ。」




「今の大企業は日本政府からの依頼とこの世界に転移して来た地球系国家からの依頼に謀殺されて居るしな。」




「身動きが取れない状態に陥って居るから、とても小回りな商売を受けるには、とても手が足りないのさ。」




「今国内で、手が空いて居る買い付け系の商社は、中小企業が大半だ。」




「だが、その中小企業は転移災害で体力を削られて居る始末。」




「其処でなんだが、それらを取り仕切る為に、日本政府や官僚機構と繋がりが在る俺に、この仕事の依頼が舞い込んだって言うのが事の顛末なんだよ。」




「そうなのかは?それで俺は何をすれば良いんだ?」




「ああ、重松輸入雑貨商会にやって貰いたいのは、大手会社や地方生産され売られて居る日本産の菓子類(紙製品の袋を使用もの)」




「文具類・伝統工芸品・書籍(簡単な学術書と小説類・旅行雑誌類も含む)の取り引きを纏めて貰いたいんだよ。」




「分かった。具体的な内容を知りたいから資料を送ってくれ。」




「分かった。資料や商談を纏めてたら、新潟港に向かってくれ。」




 鳴滝が言いたい事を良い終えたら、プツンとスマホの通話が終わる。




 彼の商会は輸入雑談を中心に商売をして居るが、頼まれれば何でも扱う事が多く、様々な取り引き相手に重宝されて居る商会である。




 其れなので、色々厄介な話が舞い込んで来るが、それをこなす事で、彼個人でも、何とか商売をやって来れて居た。




 インターネットを駆使した、リモート商売をもして居るので、下手な大手よりも動きやすく、その仲介手数料で稼ぐ事すら請け負っているので、結構手広くやって居るが、年間の休暇が少ないのが悩みの種とも言えた。




「ふぅー、取り敢えずは首の皮一枚で繋がったって感じだな。」






 経営難に陥って居た所に、ふと沸いた大口の商売の話を請け負った事で、彼は物凄く安心した。






「よーし、早速仕事だ。頑張るぞおおぉぉーーーっ!!」




 五郎は久々に舞い込んだ大口の仕事に張り切り、大いに意気込む。




「ああ、大口の仕事が入った事に安心したら、何だか急に腹が減ったなぁ~」




 彼は大口の仕事が舞い込んだ事で、気持ちが安心したのか、ぐうううっと腹の虫が騒ぎ出した。




 ふと彼は事務所の時計を見上げた。




「12時か?飯にしよう。」




 身支度を整えて、仕事をそっちのけで事務所を後にする五郎は、今日も趣味を兼ねた美味しい物を求めて何処かへと出掛けて行ったのだった。

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