133話 激闘!セイジョン・ローグリア攻城戦 10

 アースティア暦 1000年・西暦2030年・6月17日・午後17時00分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸中央地域・シベリナ中央地方・パイプ・ライン大河・パイプ・ライン大河中央流域地方・ブラキュリオス湖・アルガス公国・レジェンダリア州・レジェンダリア諸島・レジェンダリア諸島西部・セイジョン・ローグリア島・セイジョン・ローグリア城・セイジョン・ローグリア城郊外・グリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍・野戦司令部にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



早朝での戦いが終わり、グリクス地方軍団の全艦隊と全軍団であるレジェンダリア諸島遠征軍は、先の戦いでの被った多大なる大損害の整理と再編制に追われて居た。



 戦の事後処理の作業に追われ、気が付けば、何時しか時刻は夕刻を迎えていた。


 グリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍の全3軍を統括する司令長官でもあるガミトフ・バイマン中将は、野戦司令部に、グリクス地方軍団の幹部将校を集めて居た。



 ガミトフに集められた幹部達は、反省会と戦闘で得られた情報交換を兼ねた夕食会議の開催され、深刻な顔立ちで居並んで居た。



徐々に日が傾くつつ、夕日の沈む中をランプの明かりと篝火の光が煌々と灯る。


 そんな中で、一際大きいテントがグリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍・野戦司令部である。


 作戦中は、作戦に必要な地図や作戦地を模している箱庭模型が置かれ、机やテーブルが並べられて居るが、今はこの時は違って居た。


 今は50名ほどの軍団の上級幹部が集められ、5列の列を作ってテーブルが運び込まれての会議が始められた。


 テーブルの上には、士気を高める意味で振る舞われた、やや豪勢な料理と帝国本土産の赤いワインが、銀のグラスに注がれて居た。



 それぞれ重苦しい表情をしながら、この会議に望んだ幹部達。


 それもそうだ、現状では彼らは確かに勝って居るのだ。


 しかし、これが日シベ合同作戦軍から見れば、合同作戦軍の作戦に、まんまと嵌められ、敗戦して居るのが真実なのだ。


 たがらこの会議に出席して居るグリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍の首脳幹部の者達は、勝った気が全然して居ないのである。


 何故だろうと思いつつも。辛くも勝利したか、敵の抵抗と小賢しい作戦のせいで、苦戦を強いられたのだと各々の心に言い聞かせて居たのであった。



「それでは始める。」


 北側居並ぶグリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍首脳幹部の真ん中に座るガミトフ中将の一言で、会議が始まった。



「それでは、今日の戦闘結果の報告から始める。」


「最初は、先陣として戦端を開いたカバディ・キゼン少佐、報告書を読み上げよ。」


 司会進行役は、オバム大佐である。


「はっ!!」


 名を呼び出されたカバディ少佐は立ち上がり、手元に有る書類を手にして、今日起こって居た主な戦闘結果の報告を始めた。


「先ず、私が受け持ったセイジョン・ローグリア城南正門戦線ですが、皆様もご承知の通り、我がグリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍は、ニホン軍の飛翔する鉄槍を警戒して、我が軍自慢でもある強力無比な戦艦艦隊を前面に出せずに居りました。」


「これはニホン軍の兵器の正確な射程距離とその性能情報が、今だ不確定故の処置で有ります。」


「其処で我が軍は、歩兵や重機動師団を中心にして、城攻めを敢行する事と、事前の作戦会議での内合わせで決められて居ました。」


「後は作戦通りに攻め時を見定めるだけで有ります。」


「ですが、先に動いたのは、敵軍で有りました。」

 

 神妙な顔立ちの面々が書類とカバディ少佐の報告演説に聞き入って居た。


「驚くべき事に、敵軍はアルガスの第二騎士団、凡そ500騎の騎兵隊とそれを率いるアルガス騎兵団の団長である疾風のゼータ・ビダインが現れ、我らに対して囮作戦を展開したのです。」


「その結果、1万人もの戦死者出す事と相成りました。」


「なお、詳細に付いてはお手元の5ページ目をご覧ください。」


 言われたとおりに読み進めるグリクス地方軍団の幹部達。


 其処には、辛くも生き残り、敵の罠を掻い潜って脱出した者達の生きた生々しい証言が書かれて居た。


「・・・・・・砦内に迷路だと?」


「ふうむ・・・・・この証言報告を読む限り、現れたゼータ・ビダインと騎兵は、只の囮では無いな。」


 この世界でも色々な仕掛けが城には施されて居るが、通路を業と迷路にする様な考えを持った意地の悪い設計士は居ないらしい。


 グリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍の幹部らは、有り得ないと言わんばかりの顔付きで報告書を読んでいた


「その様ですな。」


「明らかに我々に対して、如何にも簡単に首級を挙げられると考え奮闘させるべく、業と戦場の目立つ地点へと出て来た。」


「そう、見るべきです。」


「そして、まんまと敵の策謀に乗せられ、少数部隊による遊撃戦で各個撃破か・・・・」


「敵はこの戦で、数の不利を覆そうと、知恵を絞ったのだな。」


 ガミトフが最後を纏め締める形で、日シベ合同軍の策略の意図を看破するが、日シベ合同作戦軍側は、そう多くの知恵を絞って居ない。


 偉大な先人が、考えた知恵に由る事柄をアレンジして立てた作戦であるからだ。


 従って、かなり楽をして居る事を彼らは知る由も無いのだ。


 もし、事実を知れば、グリクス地方軍団の将校達らは、声を張り上げて卑怯だと罵るかも知れない。



「最後にですが、生き残りの将兵らの証言では、緑の斑の服を着た奇妙でその造りが、極端に丸く平坦過ぎる兜を被り、妙な形をしている摩訶不思議な、鉄製の杖を構えた兵士とアルガス公国軍兵士や騎士が、見受けられたとの事。」


「なお、鉄製の杖から放たれた光弾は、連射力、命中力、貫通性に優れた恐るべき魔弾が発射されたとの事です。」


「その仕組みは、我がローラーナ帝国の如何なる技術者や魔導技師者ですら、どう言う仕組みで、撃ち放って居るのか等は、全くの不明との回答です。」


「引き続き情報収集や調査・解析に努めて行きたいと、関係各機関と連携して参ります。」


「恐らく敵の主力兵力は、この地を領有しているアルガス公国軍であり、その次に援軍として急遽参戦したと思われるニホン軍。」


「その次に、シベリナ連合としての同盟関係から援軍の派遣を行った隣国のアセリナ軍。」


「最後に成りますが、ドラグリアの大帝であるエリノア・ドラグリアの思い付きと気まぐれに参加した可能性が高いと思われるドラグリア軍が参加して居るのではないかと推察されます。」


「敵は少なくとも4カ国から成る連合軍か?」


「どれ位の兵が、後方や各地に潜み控えて居るのかは分からぬとは言え、彼の連中に、この地を守り切ると言う考えは無いだろう。」



「何せ、双方の軍の頭数が違い過ぎる。」


「由って、この戦は、彼の連合軍の者等には、不利過ぎる故に、採算が合わないのが明白だろう。」


 ガミトフは様々な面から従来通り彼が読み当てたとして居る日シベ合同作戦軍の作戦。



 日シベ合同作戦軍の主目的は、撤退を主な主目的とした遅滞戦作戦を取りつつ、撤退によるグリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍に痛烈な大打撃を与えてのレジェンダリア諸島からの全面撤退で有ると考えて居た。



 その目的が、グリクス地方軍団のこれ以上の北侵を妨げ、防ぐのが狙いからだと考えて居るからだった。


 その読み違いが後に、彼らの大きな敗因と成ってしまう事を、彼らは、まだ気が付いて居ないのだった。



 それは彼らが、これまでの戦争で結果的に、勝利ばかりを手にして来た大国故のジレンマと言えたからだった。


 敵がどんなに、どう足掻こうとも、最終的な結果は、自分達の勝利以外に有り得ないと言う思想が、ローラーナ帝国のあらゆる分野での組織機構の隅々に至る所で、蔓延して居るからこその読み間違いである。


「カバディ少佐、ご苦労だった。」


「貴官は敗戦こそはしたが、この戦で敵情の貴重な情報を得られたのだ。」


「はっ!!」


 ガミトフは、全軍の士気を保つ為にも、敗戦の二文字とそれ近い言葉を避け、カバディ少佐や他の幹部ら失態を敢えて避けて、労う言葉を掛けるのに留めた。


 そうでないと、軍団全体が不味く、深刻な事態に成り兼ねないからだ。


 報告を終えたカバディ少佐が、席に着く。



「では次は、セイジョン・ローグリア城北門を攻めた私、ジャーマン・ダニーガン中佐から、先の戦いに措ける戦況報告をご報告致します。」



 入れ替わりに立ち上がるのはグリクス地方軍団北方方面軍・第三艦隊の司令官を任されたジャーマン・ダニーガン中佐である。


「我がグリクス地方軍団北方方面軍・第三艦隊は、セイジョン・ローグリア城北門を攻めようと、偵察を繰り返し、慎重に事を進めて居りました。」


「セイジョン・ローグリア城北門は、旧城下町を改装利用して作った城郭らしく。」


「全長600メートルの敷地内に小さな町並みが残って居るだけの小城の様な所で在ります。」


「その城門は、何故か開け放たれており、罠が明らかでは無いかと疑うほどに一兵たりとも居ない無人であり、誰も居ない様子でした。」


「くどい様ですが、それでも慎重な偵察を繰り返し、罠の有無を確認してから兵進めるべきか判断に、私は迷いました。」


「そして、その城門内は、何やら不気味な雰囲気が漂う場所だと思いました。」



「如何すべきなのかの判断に迷い。」


「攻め入るのにニ足を踏んで居る所に、各門と対峙して居る御味方が、敵城塞へと攻め入るとの伝令が、私の軍の下に報せが入って参りました。」


「この一報を聞いた事により、私を補佐する参謀らも、北城門内の敵は居ないのでは?と言う意見が出始め、北門の敵守備部隊は、守って居ると見せ掛けただけで、少ない兵を南部の守りの応援に向ったのだと最終結論に至りました。」


「私は焦りました。」


「このまま我が軍が各門で勝利を飾れば、私の軍だけ間抜けな醜態を晒す事に成りかねないと、其処で私は、威力偵察も兼ねて、1万の軍勢を城門内へと進軍をさせました。」


「先発させて1万の兵はアサッリと城門城郭を占拠するの成功し、体勢を整え、南部の味方軍勢を助け様と敵の背後から攻めるべく、更なる後続軍の進軍させ、敵が描く迎撃構想すらも崩せると考えました。」


「ですが・・・・・・・・」



「ですが、その結果は、残念ながら心理戦を使った敵の罠に嵌められ、手痛い結果と成りました。」



「詳細は15ページをご覧ください。」


 幹部らは指定された報告書のページを開くと、何故セイジョン・ローグリア城北門での戦いが敗戦したのかが書かれて居た。


「・・・・・うーむ。」


「こっ、これは・・・・・・・・・」


 彼らが絶句するほどに、鮮やかな姦計である。


 見事にグリクス地方軍団北方方面軍・第三艦隊だけでなく。


 グリクス地方軍団・レジェンダリア諸島遠征軍の全体を手玉に取る、見事過ぎる姦計で有るのだった。


「ガミトフ閣下。これは全軍がシベリナ連合の姦計に、見事にしてやられた事に成りますな。」


「ああ、オバム。これは敵ながら見事にして、鮮やか過ぎると言わざる負えない。」


「どの様な将で有ろうとも、この策の内容を前にしては、実にあっぱれな策だと、敵を褒め称えてしまう事だろう。」


 ガミトフもオバム大佐共々、三国志マニアの自衛官らが考案した作戦内容に舌を巻く様である。


 真に誉めるべきはマニア自衛官らでは無く、諸葛亮・孔明であると此処に付け加えたい。



 この作戦の真の作り手の正体を知る機会が、果たして、この場の彼らに有るだろうか?


「それにしても、無人と見せかけた城郭に敵を引き入れ、ストーンウオールの壁で、完全に周囲を遮断させ、外と内部を孤立させる。」


「仕上げに城郭を敵諸とも、丸々焼き払うとは・・・・・・」


「実に思い切った策ですな。」


 幹部らは各々関心の言葉を口にしながら言う。


 その作戦は自暴自棄に成った者の侠気の沙汰から来る物では無いと思われたりする幹部や、全ては計算された予定調和の策であると推察されると幹部も居た。


「恐らく城郭を焼き払うのに使われた魔法は、作戦の概要と威力からしてファイヤーストームだと思われる。」


「それもたった1人による物では無い。推測する規模からして、軍団規模の術者によるもの・・・・・・」


「察するに、このセイジョン・ローグリア城北門の守備には、アルガス公国でも名高い魔導師専門軍団でもあるアルガス魔導師団が関わって居ると思われます。」


「わしも、その可能性は高いと推測する。」


「率いる将は誰かは分からぬが、相当な使い手が派遣されて居ると見て、間違い無いだろう。」



「報告ご苦労であった。」


「はっ!」


 ガミトフも油断成らない相手が守備に付いて居ると知る事が出来たと満足し、ダニーガン中佐の報告は終わる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る