119話 イツクシマ作戦の行方 2

日シベ合同作戦軍とグリクス地方軍団との睨み合いは、その後も続いた。


グリクス地方軍団は、セイジョン・ローグリア城方面の敵情偵察を行って居たが、何故か一定の境界線から先に前進が出きなかった。


 それは日シベ合同作戦軍が、必死の妨害と迎撃体勢を取って居たからだった。



 その攻防は筆舌に尽くし難く苛烈を極めたもので、両者の威力偵察戦と言うのは、激しく凄まじい物が有ったと言う。


 日シベ合同作戦軍に参加する者達らの士気は旺盛であり。絶対に守り切ると言う意思に満ちて戦って居る。


 しかしながら、それに対してグリクス地方軍団に措いては、全ての部隊の士気と継戦能力が無く、十数分間の間だけ戦い合うと撤退する事が多かった。



 グリクス地方軍団の将兵らは、ある意味、疲弊して居た。



 環境が悪い上に、日シベ合同作戦軍よりも劣った生活基盤の設備に加えて、良くない食生活に、寝起きが辛いテントでの長い生活。


 それと日シベ合同軍が仕掛けて居る補給物資への妨害工作の効果が、じりじりと効果が出て居るのも原因の一つであった。


 一方の日シベ合同作戦軍は、整った環境下での福利厚生設備が整って居るお陰で、体調も良く、士気高く、気合・気力に満ち満ちて居り、何時でも戦える状態にあった。


 酒は禁止されて居るが、その分の代わりと成る別の娯楽を提供する事で、ストレス発散を発散させ、やる気を潤わせて居るのであった。





 アースティア暦 1000年・西暦2030年・6月8日・午前8時35分・アースティア世界・ユーラシナ大陸東側地方・西太平洋地域・日本列島・日本国・九州島地方・福岡市東側郊外地域・神部町・異世界国家交流総合支援省・交援省大臣執務室にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 



 この日、日本国内の世間からは、なんちゃって大臣と揶揄され、すっかりお茶の間の人々にもお馴染みの特務担当大臣として認知されて居る高見竜史は、交援省大臣執務室で、交援省の各課の課長を集めての報告会議を行って居た。


 交援省の主な仕事は、今や地球転移国家群では新世界アースティア又は異世界アースティアとも呼ばれて居るアースティア世界に措いて、各大陸や地方地域等の調査。


 外交・軍事・国家支援に国内省庁のバックアップや新たな提案等々と多岐に渡る支援が、交援省としての主な仕事なのである。


 何せ、この世界は混沌していて、日本を始めとする地球系転移国家達に取っては、全くの未知のフロンティアだと言えた。



 地球で例えるならば、未発見の大陸や群島、交易航路を求めて居たと言う大航海時代が始まったばかりと言った所だろう。


 何をするにも何所へ行くのにも初めてな事だらけ、これに対処する為には、各省庁がバラバラに動いて居ては動き辛いし、新世界を歩き回るのにも危険が多いのである。


 それらの問題を解決したり、提案したり、応対と仲介を担ったり、支援したりする事を目的としたフィルターと成る役目を果たす中間処理組織として、交援省が作られたとされて居るが、ある意味、これは異世界と言う未知の世界に混乱を極めてしまって居た霞ヶ関の省庁から、面倒な初期初動の仕事での厄介事を丸投げされた部署でもある。


 其処へ各省庁から出向と言う形で派遣されて居る職員が、今日もこの福岡市内の交援省庁舎で懸命に働いて居た。



 先ず最初に報告をして居たのは、防衛関係の情報や大陸での自衛隊関連の事案を担当して居る防衛課の課長である伊丹順一1等陸尉からだった。


 ブラキュリオス湖のレジェンダリア諸島で、現在、自衛戦闘中であるダバ派遣隊に付いての定時報告を受けていた。


 防衛課は国外で動く自衛隊管理監督に防衛省の補助業務や、アースティア世界の地球転移国家勢力圏外の国外で活動する職員の護衛活動に従事する隊員との橋渡しや支援を主な業務として居る部署だ。


 安全保障関係も担当して居るので、アースティア世界各地の外国軍とも連絡のやり取りも密に取って居る所でも有るのだ。


「戦況は?」


「地の利を活かして居る日シベ合同作戦軍側に有利と言えます。」


「我が方の軍勢は、数こそは敵側に比べて劣っては居ますが、自衛隊の火力と機動力に着いて行ける軍勢は、この世界には、今の所は先ず居ないでしょう。」


「伊丹さん。例のフローレイティア家のフローレイティア輸送商船商会に運んで貰う予定の追加の燃料や弾薬に、食料を含めた日用品や各種機体・機材に使用する修理交換用の部品類は?」


「確か4日前、防衛省と経産省共に中心と成って民間企業の輸送船で、コヨミ皇国へと出発。」


「その2日後の6月6日。フローレイティア輸送商船商会の輸送船艦隊が、朝一番の便で、コヨミ皇国・賀谷野藩・賀谷野市の賀谷野港から出発しました。」


「合流到着予定は、ブラキュリオス湖・レジェンダリア諸島での戦いが終わってからですね。」



 防衛装備の調達は、勿論、防衛省が行って居るが防衛装備の生産をやって貰っている会社へのやり取りの関係で、経産省も手伝って居る。


 今は異例の事態と言う事で、防衛装備の調達請負会社も、転移での特需景気に沸いて居て、太平洋戦争を除けば、創業以来の経験の無いくらいの大忙しらしい。


 各種ミサイルもランクダウンしたタイプの物を大量生産体制に移行準備に入って居るが、とてもフル稼働には程遠い。


 その理由として、予算が足りないからだった。


 それに比べて部品類や銃砲弾類の生産は、フル稼働に近い形で生産が始まって居る。


 消耗品の中でも決して安いとは言えないが、生産して置かないと米軍を始め買い注文が殺到すると見られて居る。


 一番に生産設備が良いのが日本くらいしか無いからだ。


 東南アジア地域を含め、多少の設備が整って居るが、日本と比べると成ると、それは日本の方が良い訳であり、比べるまでも無いだろう。



「これでダバ派遣隊は、後顧の憂い無く戦える筈。」



 ダバ派遣艦隊、ブラキュリオス湖・レジェンダリア諸島にて、グリクス地方軍団と激突の報を受けた日本国と各省庁は、連携して全面的なバックアップ体勢へと移行する。


 当初はグリクス地方軍団の侵攻軍の総兵力が12万人から18万人程度と見込んで居たが、後方支援として送り込んだ第二艦隊たるダバ派遣支援艦隊とグリクス地方軍団に所属するバラン・ビルダーク少佐率いる第9艦隊と激突する。


 その事が、それまで北進を渋って居た筈のグリクス地方軍団司令官であるガミトフを窮地に追い込み、彼を北侵する事を決意をさせる。



「日本の異世界転移、第二次龍雲海沖海戦。」



「何れの事象がブラキュリオス湖・レジェンダリア諸島を狙うと言われて居るグリクス地方軍団が動くに至ったのは、日本であるのは明白であると言えます。」



「そして、これに関しては、全て日本が悪いと言えない事が国内の反戦団体に取って苦々しい限りと聞きます。」


「反対したくても出きないですからね。」


 其れに対して、日本は国内に不安要素を多く抱えて居る。


 反戦と反与党掲げる野党陣営と反戦団体。


 地球から共に転移災害に遭った友好国と其処から得て居る資源物資の補給路。


 それらは日本の最低限の生命線である。


 此処に来て政争に走しってしまうのは、野党らしいと言えるが、時と場合を考えて欲しいものだろう。


 足りないのは食料品で有るが、地球とは違って海洋資源に恵まれて居るこの世界では、海洋資源の生態系が荒されて居らず、物凄く魚介類が豊富である。



 それに転移災害による地球系の転移地域での生態系の変化も在るが、地球世界とアースティア世界の海洋生物達等は、取り敢えずは互いに絶滅と成る様な混乱は無く。


 地球系転移諸国は、新しく獲れた海洋生物は、コヨミ皇国経由で得られた情報を元に、日本国が食べられる生き物の情報を公開して居る事で、混乱する事無く漁が行われて居ると言う。


 何れは本格的な海洋調査が行われる必要が在るらしいが、今は各国の領海にどんな危険性が在るのかすら判らないので、海上保安庁が監視と調査を行いながら、漁師達の漁業での操業をサポートをして居る。


 この様な状況下ではあるが、当面の食料問題の解決に、新世界の海洋食料資源と言うは、多くの地球転移国家群に取って貴重な栄養源と成る事だろう。


「悪い事ばかりでもないですよ。」


「アルガス公国・ドラグリア白龍大帝国・アセリナ王国・オローシャ帝国・ラクロアナ王国と、安元さん達が動くと決めた時点で、接触が出きた国が、此処に来て一気に増えた。」


「ダバード・ロード王国の女王とコヨミ皇国の皇女が投げた小石が波紋と成って、様々な事象を巻きお越し始めて居る。」


「敵と成った筈のドラグナー皇国さえも巻き込んで・・・・・・・・・」



 思わぬ誤算と言えば、ドラグナー皇国のヴァロニカ・サークラ・レアモンとの接触だ。


 第二次龍雲海沖海戦で剣を交えたとは言え、ローラーナ帝国との戦いで敗戦を期した元シベリナ連合加盟国である。



 これを機会に何らかの繋がりを持ち、今後に活かす。


 そう言う事を含めた様々な事柄を活かした外交路線なんかを前提として、日本政府や交援省は動いて居た。



「大間さん、ラクロアナ王国との臨時食料品を輸入貿易協定等は、その後の動きは如何なって居ますか?」


 背丈の大きな巨人と言った感じの恐持ての顔つきをして居る農水課の大間課長が、書類を片手に経過報告を始める。


 農水課は、本省である農林水産省と連携して、食糧品の調達に付いてや入って来る食料品の検疫。


 そして、アースティア世界各地の農林業から水産加工業に至る食料生産関係の調整や支援業を行って居る部署である。


「はい。ラクロアナ王国は、王都アデニューム市と王都から比較的近い港湾都市であるニュウヤーク市の開発を希望して居ります。」


「この二つの都市は、内陸の穀倉地帯と川と海を利用した漁村や農村が、数多く隣接し、交通の利便性から優れた貿易中継都市に成り得ると考えられます。」


「今現在は、国内最大の大手海運会社である大日本通運と港湾建設の経験豊富な大垣建設、竹下クレーン船等の会社と経産省等の合同で話し合いが纏まり、ニュウヤーク市の港の一部が仮設ですが、機能を始めて居ます。」


「既に食料品の輸入は5月半ばから始まって居ます。」


「ですが、日本が年間で賄う凡そ6千トンの食糧に加えて、地球転移国家群に回す相当量の食糧と成りますと、やはり、アルガス公国・ダバード・ロード王国・オローシャ帝国の穀倉地帯からも輸入にしなけれぱ成りません。」


「それに加えて、ミンフィル王国東南諸国同盟やアセニア亜人連合同盟との接触し、それらからも輸入しませんと、とても間に合いそうにはありません。」


「農水課及び農水省での試算計算では、今年は何とか配給や魚介類で何とか飢えずに済みそうですが、来年までに食糧貿易体制を75パーセント以上を目標としなければ成りません。」



 ラクロアナ王国からの食料貿易の陸上運送には荷馬車を使い、又は日本国内から転移災害のお陰で、暇を持て余し、倒産を仕掛け居り、かなりの数が余って居るトラックを保有して居た運送会社が、経産省と交援省・経産課が音頭を取る形で、緊急召集が為され、直ぐに食料輸入が決まった。



 ラクロアナ王国は、日本との貿易を行う為に、急遽王都アデニューム市とニュウヤーク市内に、日本国貿易特区地域と言う空き地を提供して、ピストン輸送を始めて居る。


 その運送トラックの燃料に関しては、ロシア共和国のサハリン島から輸送して使って居る。


 ロシア共和国としても、日本とラクロアナ王国との資源貿易や食料貿易を手伝う事は、自国の理に適うからである。



「経産課からです。」


「先ほどの食糧問題と絡んで居ますが、新世界アースティアでの最初の主要な海外貿易港となる拠点は、万代港・加古島港・賀谷野港・ニュウヤーク港・アデニューム港・ゼングリラ港。」


「ロウデニィオン港・グラダマ港・ファン・ブランク港・ザーキオス港・ベルクラネル港を予定しています。」


「なお、オローシャ帝国にの港の選定に付いてですが、遠方と言う事もあり、正確な位置と場所の制定に苦慮して居ますので、サミット後にでも視察団の派遣を検討して居ます。」


「また、緊急食料輸入対策として進出して居る進出先の港の開発進行状況ですが、万代港・加古島港が60%。」


「ニュウヤーク港では40%の進行状況です。」


「全ての地域の湾港設備の稼働率が、100%に成るのには、早くても来年7月を目処として居ます。」


「鉄道網に関しては、コヨミ皇国からラクロアナ王国に掛けての開通を目指しますが、どうせなら各国ごとに複数の会社で、同じ基準で運行方法を行う形の鉄道網と鉄道開発をした方が早く開通すると思われます。」


「その方向で、経産省本省と国内鉄道関係会社及び関連工業会社とで協議中です。」


「建設は加古島市から万代市、皇都・星都市へと線路を伸ばして居る所です。」


「国境外へと到達は早くても今年の9月から11月上旬を予定して居ます。」


「空路に関してはガイダル島以外では、今だ未定です。」


「やはり現地調査と土地の選定を行ってからでないと、これに付いては無理と思われます。」


 何でこんなにも鉄道や港の開発が早いかと言うと、土地買収に手間取って居ないからである。


 大抵の場合は、土地買収とそれに伴う地権者の建物の移転が原因で、建物や道普請に時間が如何しても掛かってしまう。


 それと当事者同士の話し合いだな。それらが殆んど無いので建設ラッシュの障害が無く、買収費用も低くて済むのだ。


 それと土地開発で面倒なのが埋蔵文化財と成って居る遺跡や遺物、それに化石なんかが見つかったり、再調査の為に、その場所を発掘調査をしなければ為らない時だろう。



 今回の場合は、開発したい場所と成って居る相手の国の土地の地権者の殆んどが、国か地方貴族、それに大商人と言った面々である。


 幾人かの個人で嫌がる者達が一部居たが、軽く大枚を見せて日本式の家を建ててやると言ったら、二つ返事でオーケーしてくれた。


 港も個人で持ってる所も有ったが、国や地方の有力者が間に入り、寄付と言う形で名前がプレートに刻まれる形で残りますと言うと、それならばと言う商人が続出して行く事が多かった。


 この時に「お殿様、利息で御座いまする」と言う映画が例題として港湾再開発説明会で上映されたとか。


 この映画は、とある東北地方の藩の宿場や集落がモデルの話で、藩の御用仕事やキツイ税収で喘ぐ、黒山宿の商人や名主などの人々が、儲けが無いのに、お殿様に金を貸し出し、その利息で公共事業を運営して宿場を立て直そうと奮闘するコメディー時代劇である。


 これを見せられた各国の商人達は、大笑いして、そのオチに驚いたと言う。


 寄付は少しなら見過ごせるが、大きく出すと損だと考えて居た彼らは、大枚を叩いて世の中を良くして、最後に自分達の懐にも入って来ると言うやり方が有るのだと学んだ様だった。


「次は?」


「はい。法務課からです。」


「異世界に措ける人間以外の人権問題や家族観等に関する問題ですが、今現在の所、厚生課と共に検討して居る様々な問題が出て来ると予想され居ります。」


「今はアニメやラノベ作家を中心に、他種族に付いての参考意見の交換や意見提案等を話し合って居る最中です。」


 後に他種族異文化交流基本法案、他種族人権保護法、他種族帰化基本法、他種族資産分配基本法、他種族福利厚生基本法等々の様々な法律が此処で提案されたのである。


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