第14話 ただ一人の英雄、使い捨ての英雄

 しゅうは困惑していた。

 確かに、必殺技を制限なく使える隊員が来たと知れば、普通なら積極的に使わせようとするものではないか? なぜ、小隊長のさかきはそれを言わなかったのか――分からない。榊は、悪い人には見えなかった。だったら、大切なことを教えてくれない理由とは?

 うつむいてしまった柊を眺め、長谷部はせべは紫煙をくゆらせる。


「年齢制限も、必殺技の使用制限もない君さえいれば、天照大神アマテラスオオミカミのダブルギアなど、女こどもの悪戯あそびに過ぎん」

「だとしたって……俺一人で戦うなんてムチャクチャです」


 身体を折り曲げるようにして、頭を両手で支える。ここが応接室で、上官の長谷部と一緒でなければ、このまま前のめりに机へ突っ伏してしまいたかった。

 しかし、長谷部からの叱責の言葉や、宥める笑いはない。その生ぬるい対応に、言いようのない不気味さを感じた。


 そっと、視線を上げる。

 長谷部はいつの間にか、柊の顔を覗き込むように前のめりになっていた。至近距離から、柊の瞳の奥底まで覗き込むような視線を、遠慮なしにぶつけてくる。


「……!!」

「独りではない、私がいる」


 息を呑む柊の顔面へ、長谷部は、ふーっと煙を吹きかける。柊の視界は、真っ白に霞んでしまった。


佐東さとう三尉、私の配下に入りたまえ。私に従うと誓うならば、君の命と名誉、国民からの称賛を保証しよう。君こそ、ただ一人・・・・の英雄なのだ。出来損・・・ないの・・・英雄・・もどき・・・など、使い捨てにすればいいのだよ」


 その言葉に、柊は視線をさまよわせた。

 長谷部がどこの所属か柊は分からなかったが、“中将相当権限”を与えられているということは、ダブルギアにおいて絶対的権力を持っていることになる。長谷部の配下に入れば、自警団でされてきたような扱いなど、無縁のものになるだろう。


 それでも、“使い捨て”という言葉は、柊の心を深くえぐった。承諾した方が利口だと理解していても、どうしても頷くことはできなかった。

 ここへ来る直前、仲間だと思っていた自警団のリーダーたちに、文字通り、使い捨ての肉の盾にされかけたから――。


「確かに、俺は安心できる居場所がほしいです。そういうのがほしくて自警団の仕事も頑張ってきたようなものだし。だけど俺は、その……だからって他人を使い捨てになんて」

「はははは。若いねえ」


 それと似た声を、柊は聞いたことがあった。

 山犬型【D】と遭遇したとき、通信機越しに聞いたリーダーの声と似ている。そう考えると、長谷部は長谷部で、胡散臭いところがあるような気がした。

 黙っている柊へ、長谷部の低い嘲笑が投げかけられる。


「そう思うのは、君自身、使い捨てられた経験があるからかね?」

「――――っ!」


 喉元までこみ上げた反論を飲み込み、柊は顔を背けた。


「お話が以上なら、失礼します」


 頬を紅潮させて退出する柊に、榊の秘書は言葉をかけることができなかった。

 勢いよく閉じた扉から目を逸らし、長谷部は鼻に皺を寄せる。


「まったく。戦闘しか知らない山猿どものお守りは堪らんな」


 灰皿へ吸殻を押しつけると、長谷部も応接室を後にした。

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