異世界転移……?

第140話

 気がつけば、見知らぬ部屋で寝ていた。

 いつ眠っていたのかもハッキリしないが、体がやけに重い。倦怠感と疲労感。魔力も足りていない気がする。


 喉が、渇いた。


 本能を刺激する吸血衝動を理性で無理矢理押さえ付け、黒霧葵は視界に映る情報を精査した。

 ここは棗市立高校の保健室らしい。前後の記憶を思い出してみれば、有澄に救助されてここまで運ばれたのだったか。


「おう、起きたか」

「……っ! びっくりした……カゲロウいたんだ……」


 隣のベッドであぐらをかいていたのは、葵と共にここまで運ばれたカゲロウだ。完全に気づいていなかったので、葵は猫のように肩を震わせて驚いた。

 葵と同じく重傷だったのだから、ここにいて当たり前なのだけど。


「体の調子はどうだ」

「ちょっと怠いかな。多分、血が足りてないだけだと思うけど」

「吸血鬼にとっちゃ、十分な危険信号だ」


 幸いにも、異能は普通に使える。この夜空の影響でいくらかの出力不足は否めないが、足りない血や魔力を誤魔化す程度なら。


 そもそも葵は、これまで10年にも渡り吸血行為を必要としなかった。半分以上は人間なのだ。力はかなり落ちてしまうだろうけど、血を吸わなくてもなんとかなる。


 そう思いベッドから降りる。けれどその瞬間に膝から崩れ落ちた。体に力が入らない。

 どうして? まるで信じられないとばかりに自分の両手を見つめる。ただ、血が足りないだけ。たしかに全身には倦怠感がまとわりついてたけど、立てないほどじゃなかったはずなのに。


「ちゃんと話を聞け」


 呆れたようなため息が頭上から聞こえる。

 葵よりも吸血鬼として長く生きているもう一人の兄は、自分と同じく重傷で血も足りていないはずなのに、難なくその足でベッドから降り立った。

 気遣うような目で、手が差し出される。


 記憶の戻った二人にとっては、何気ないそんな行動に大きな意味がある。


 カゲロウの手を取る。引っ張り上げられ、支えられる形で立ち上がった。


「体内の少ない魔力を上手く練ってコントロールしろ。吸血鬼なんて言っても、結局は魔物だ。魔物は魔力で体を構成してるんだろ。だったら魔力コントロールだけで立って歩くくらいならできる」

「うん、ありがと」


 言われた通り、体に残った少ない魔力を全身に巡らせる。少しずつ、指の一本一本からゆっくりと動かし始めた。大丈夫だと確認してから、カゲロウから離れる。


「こんな有様じゃ、蓮くんを取り戻すなんて夢のまた夢だね」

「全くだ。一発くらいぶん殴ってやらねえと気が済まねえってのによ」


 それでも、他の誰かに彼のことを任せるつもりなんて毛頭なかった。それは葵のみならず、きっとカゲロウも。


 今のままの二人では、蓮を取り戻すどころか簡単に返り討ちに遭ってしまう。なんならそこら辺の魔物にすら遅れを取るだろう。

 だけど私が、私たちが蓮くんを助けたい。

 理屈や理論なんて全部無視した感情論。今の葵たちよりも相応しい力を持っている人は、たくさんいるけど。


 大好きな恋人を、親友を、他の誰でもないこの手で取り戻す。


「できますよ、姉さんたちなら」


 部屋の扉から、無機質な声が届いた。しかしそう聞こえるだけで、本当はたしかな感情が乗せられていることを知っている。

 灰色の髪に黒のゴスロリドレスを着た二人の妹、出灰翠だ。


「翠ちゃん、こっちに来てよかったの?」

「はい、朱音も目を覚ましましたから」

「そうか……あいつ、ちゃんと起きたんだな」


 ホッと安堵の息を吐く二人。心配ごとが一つ減った。朱音のこともだけど、彼女が目を覚さないことによる織と愛美への影響も、葵は懸念していたのだ。


 けれど翠が大切な友人のもとを離れたということは、朱音に関しては完全に大丈夫なのだろう。だったらあの先輩二人も。


「とりあえず、状況を教えてもらえる?」

「もちろんです。さきほどまで学院本部で小鳥遊蒼を始めとした何人かと、打ち合わせをしてきましたから」


 それから翠は、学院本部で聞いてきた話の一部始終を説明してくれた。

 まずソロモンの悪魔。葵が遭遇したバルバトスとダンタリオン以外にも、二体いたらしい。

 序列七位と序列一位。

 そのうちの七位、アモンは有澄が圧倒したとのことだが、一位であるバアルは人類最強と互角以上だったという。


 葵が遭遇したのは序列八位と七十一位だ。その二体を相手にしても、葵では全く歯が立たなかった。やつらの前に立っただけで、実力の差は如実に感じられた。

 有澄や転生者を始めとした実力者であれば倒せるのだろうが、少なくとも今の葵たちでは無理。人類最強と互角以上だという一位なんて以ての外。


 次に、蓮について。

 どうやら彼については、一旦保留ということになったらしい。

 蓮は現在、魂を反転させられた状態にあるという。どうすれば元に戻せるのかは分からず、ならば術者であるダンタリオンを殺して終わりではない可能性だって。

 けれど、もしかしたら。葵の異能なら、蓮を元に戻せるかもしれない。


 グレイと同じ情報操作を持ち、位相の力にもたどり着いた葵なら、蓮の魂を正常な状態に戻せる可能性がある。


「私だったら、蓮くんを……」

「そのために、わたしは協力を惜しまないつもりです。わたしが受け継いだキリの力なら、姉さんの力になれるかもしれません」

「翠ちゃんが受け継いだ力?」


 魔女、桃瀬桃が持っていたキリの力。『創造』の力を、翠と朱音は使えるらしい。

 朱音がこれまで使っていた略奪の力は、元々魔女が作ったもの。それを流用していたにすぎず、亡裏垓の言っていた通り真価は別にあった。


 これで糸口が見えてきた。蓮を助けて、悪魔も倒す。大好きな人をこの手に取り戻す糸口が。


 だが問題は、その葵自身の現状にある。


「でも、今の私じゃ……」

「血が足りないという話でしたら、これを」


 翠が差し出したのは、赤い液体の入った注射器だ。見覚えのある、それどころかカゲロウは今もずっとその恩恵に預かっていたし、葵も使ったことがある。

 桐生朱音の血液が入った注射器。


「朱音から預かってきました。姉さんたちの状況を伝えれば、迷いなく渡してきましたよ」

「あの子は……」


 相変わらず躊躇いがなさすぎる。蓮にしてもそうだったけど、吸血鬼に血を吸われるということに対して、もう少し思うところはないのだろうか。

 まあ、朱音に関しては血を吸うとは少し違うけど。


 でもきっと、それだって朱音が葵のことを心配してくれたから。そして、蓮を取り戻してくれという無言のエール。

 可愛い妹分の想いを受け取り、懐にしまった。今すぐ使うわけにはいかない。以前もそうだったが、葵が朱音の血を摂取した場合の効力は数時間程度だ。

 なにも今すぐ戦いに行くわけではないのだから、まずは体を休めて出来る限り魔力を回復させる。


「朱音は、言っていました。家族みんなで立ち向かえば、不可能なことなんてないと」

「朱音ちゃんが?」

「あいつらしいな」


 そう言っている彼女がありありと想像できるからか、カゲロウはふっと柔らかい笑みをこぼす。

 たしかに、朱音の言いそうなことだ。あの子だけじゃなくて、あの家族は三人とも。


 織と、愛美と、朱音と。

 三人が力を合わせれば、たしかに不可能なんてないかもしれない。


 そんな彼らの在り方が、少し羨ましく思う時があるのだ。

 朱音が未来から来ているとは言っても、それでもあの三人は真っ当な家族。葵たちプロジェクトで生まれた三人とは違い、親の温もりを知っている。

 自分たちだってちゃんと家族だと言い切れる。カゲロウと翠は同じプロジェクトで生まれた、血の繋がった兄妹だ。緋桜は葵を今日ここまで育ててくれて、妹として愛情を向けてくれていた。

 だけどたまに、普通の家族である朱音たちが、眩しくて羨ましい。


 だからなんだと言う話でもない。ほんのちょっぴり感傷に浸ることがあるだけで、それ以上でもそれ以下でもないから。


「わたしたちも、そうすれば。わたしたち兄妹も、力を合わせれば。きっと不可能なことなんてないと、そう思うのです」


 そんな仄暗い気持ちは、翠の言葉に吹き飛ばされた。

 この三人の中で最も家族というものから遠かった翠の口から、そんな言葉が出てきたのだ。それはネザーにいた頃からは考えられなくて、葵もカゲロウも呆気に取られて何も言えない。


 それを不安に思ったのか、翠は頬をわずかに染めて俯いてしまった。


「す、すみません。出過ぎた発言でした」

「いや、そんなことねえよ」


 翠の頭を雑に撫でるカゲロウ。手つきは乱暴だが、そこにはたしかに妹への情が乗っている。それが分かるからか、翠もなされるがままだ。


「翠の言う通りだ。オレたちだって、ちゃんと家族なんだからよ」

「そうだよね……カゲロウと私と翠ちゃんと、ついでにお兄ちゃんも」


 普通じゃない。歪な形をしている。

 それでも、葵たちは兄妹で、家族だ。


「あの人たちにも負けてないってこと、見せつけてあげなくちゃ」




 ◆


「盗み聞きとは、趣味が悪いな。葵に嫌われるぞ?」

「そんなんじゃないよ、サーニャさん」


 保健室の外から中の話を聞いていた緋桜は、通りがかった銀髪の吸血鬼から嫌味な言葉を向けられた。

 たしかに盗み聞きのような形になってしまったが、意図してそうしていたわけじゃない。葵とカゲロウの様子を見に来てみれば翠が先にこの場へ来ていて、なにやら真剣な話をし出したのだ。


 だから葵に嫌われるなんてあり得ない。だって俺はお兄ちゃんだから。


「入ればよかっただろう。貴様とて、葵にとっては家族の一人だ」

「別に、そこは疑ってないさ。俺は葵のお兄ちゃんだからな。だったらカゲロウも翠も、全員俺の家族だよ」


 今日ここに至るまで、記憶を取り戻してからだって、片時も疑ったことはなかった。

 葵のことを、色んな人から託されたのだ。両親から、グレイから。あるいは、消えてしまった二人の妹から。


 なにがあっても葵の兄であると、家族であると誓った。そこに嘘はない。


 緋桜が思いを馳せるのは、もっと別のもの。少し前に学院本部から戻ってきた翠から聞いた、キリの力について。


「ならば、魔女のことでも考えていたか?」


 図星を突かれ、育ての親である吸血鬼を睨む。そんな視線も涼い顔で受け流すサーニャに、緋桜もため息を吐き出した。

 幼い頃から世話になってきたのだ。今更この人に隠し事なんてできないか。


「色んなところに爪痕を残しすぎなんだよ、あいつは」


 初めて翠がレコードレスを使ったあの日。

 心臓が止まるかと思うほどに驚愕した。二度と見ることはできないと思っていた彼女のドレス。

 その姿がもう一度目の前に現れた時、あろうことか翠に重ねてしまった。


 あそこにいたのは、自分の意思で自分の未来を掴み取った半吸血鬼の少女だ。復讐に生き、その先の未来を望んだ魔女ではなかったのに。

 そんな自分に対する自己嫌悪で心中はいっぱいになって。けれど再び浮かび上がってきた感情は、無視するにはあまりにも重くて複雑なものだったから。


「なあサーニャさん。死んだ女をいつまでも追いかけるのは、馬鹿なことだと思うか?」

「さてな、自分で考えろ。少なくとも、貴様のそれはその程度の言葉で片付けていいものではなかろう」

「そりゃそうだ」


 もしもあいつが知ったら、腹抱えて笑うに決まってるけど。

 そんな未来は来ない。桃瀬桃は死んだ。死者が蘇ることなんてありはしない。


「本当に、遺しすぎなんだよ、色々と」


 返す言葉はどこにもなく、廊下の中で響いて消えた。



 ◆



 イブが修行をつけてくれる。

 事前のやり取りを見てほんの少し不安というか嫌な予感がしていた織だったのだが、その予感は早々に的中してしまうこととなってしまった。


「デカイ……」

「大きいわね……」

「大きいね……」


 目の前に聳え立つ巨大な壁を見上げて、親子三人は呟いた。

 全長約300メートル。東京タワーと同じぐらい高い壁は、左右を見渡す限り続いている。どうやら円形に広がっているようだが、一体直径何キロになることやら。

 背後には地平線の向こうまで草原が広がっていた。街道もあるにはあるが、それにしたって見事な緑だ。


 織たちが立っているのは、巨大な壁に比べるとかなり小さく見える、しかしそれでも三十メートルは下らない門。の横にある五メートルほどの小さな扉の前だ。

 検問所のようになっているのか、身軽な鎧と見たこともない形状の銃というアンバランスな装備に身を包んだ兵士が十人以上詰めている。

 周りには織たちの他にも人がいて、入国審査待ちなのか、検問所へ向けてそれなりの待機列ができていた。


「来ちゃったわね、異世界……」


 隣に立つ振袖姿の愛美が、しみじみと呟いた。言葉を出さずに頷いた朱音は、未だに放心した様子。


 そう、異世界だ。来ちゃったのだ。

 最近流行りの異世界転移とやらを、ついに体験してしまったのだ。


 龍と人間が暮らす世界。彼方有澄の生まれ育った国、ドラグニア神聖王国。

 その城壁前である。


「まさかこんな簡単に来ちまうなんてなぁ……」

「織くんたちキリの人間には、その資格がありますから。扉さえ開けてレコードレスを維持していたら、案外簡単に来れるものですよ。実際、凪さんは何度か連れてきたことがありますから」


 この国に生まれた有澄の言う通り、三人はレコードレスを発動したままだ。

 転生者でもない限り、この世界の魔力に体が馴染まず死んでしまうとか。あとは魂に掛かる負荷がどうやらこうやらで、結局死ぬとか。それを防ぐためにレコードレスが必要らしい。


 つまり、凪は幻想魔眼だけでなくレコードレスまで使えたということになるのだが。

 まあその辺は今はどうでもいい。


 そもそもの疑問として真っ先に抱いたものを、イブにぶつけてみた。


「てか、なんでわざわざ異世界に? イブさんに修行つけてもらうってんなら、別に俺たちの世界でも良かったはずっすよね」

「知識は力ですよ、織。あなた方が使う力。位相のその向こう側がどうなっているのかは、ちゃんと知っておくべきだ」


 たしかに、異世界なんてのはその存在を話で聞いていただけで、実際にどのような場所なのかなんて想像したこともなかった。


「異世界転移って、もっとこう、トラックに轢かれかけたりするものじゃないの? それからチート能力貰ったり、魔王を倒しに行ったり、パーティから追放されたり」

「……」

「待って、違うわよ私じゃないわ。そもそも家にそっち系のラノベは置いてなかったでしょ」


 娘の偏った知識の元凶にシラッとした目を向けてみるものの、本人は必死に否定している。言われてみればたしかに、家に置いてあるのは少女漫画ばかりで、ラノベがあっても恋愛ものだ。

 ならばどこからそんな知識を仕入れてきたのか不思議に思うも、あまりその辺を干渉しすぎると嫌われてしまうかもと思い留まる。

 織は娘に嫌われると死んでしまうので。


 ていうか、朱音は十分チート能力持ってるから、安心して異世界を楽しんでいいと思うよ。


「とりあえず、中に入りましょうか。ついてきて下さい」


 言われるがまま有澄について行くが、彼女は列に並ぶこともなくその横を素通りして行く。

 そういえばこの世界での有澄の素性についてなにも聞いていないが、それなりの地位についているのだろうか。


 そんな疑問に対する答えは、検問所の前までたどり着くとすぐに出た。


「ア、アリス様⁉︎」

「アリス様だ!」

「どうしてこのような場所に! いつもは直接城へ転移するではありませんか!」


 どよめき立つ兵士たち。行列を作っていた人々も、有澄の存在に気づいたのか歓声を上げ始める。


「まさか生きている間に、アリス様をこの目でお目にかかれるとは……」

「ああ、噂以上にお美しい……!」

「城下に住む人たちはよく見かけるって言ってるし、羨ましいなぁ」

「この国に来てよかったっ!」


 なんだ、なにごとだ。たしかに有澄は絶世の美人と言っても過言ではないし、出身地である国で有名でもおかしくはないが。

 この騒ぎ方は尋常じゃない。


「今日はお客さんを連れて来たんです。ドラグニアを案内したいので、こちらからお邪魔しますね。おやダンテ、いいところに。今日は検問所にいたんですね。お父様に連絡しておいて下さい、異世界からのお客人です」

「かしこまりました!」


 ダンテと呼ばれた青年兵士がその場から姿を消した。転移、だろうか。魔力の動きのようなものも感じられたから、そうとしか思えないが。


 呆気に取られながらも、先へ進む有澄について行く。扉を潜れば壁の厚さの分だけトンネルになっていて、意外にも横幅は広い。すれ違う兵士の全員が頭を下げているが、有澄の格好は普通に現代のもの。単なるマキシ丈のワンピースだ。あまりにも状況にそぐわない。

 そもそもの話、織が知っている有澄は優しい図書室のお姉さん。時々とんでもないことをやらかしたりする面白お姉さんだ。

 こんな、周りの人間から頭を下げられるような人だったろうか。


 やがてトンネルを抜けた先。

 真っ先に視界に飛び込んできたのは、大きな城だ。織たちは城壁の真下に直接出て来たけど、少し離れた位置から見ると壁の外からでもその巨大さが確認できるだろう。こちらの世界でいえば、中世西洋の城が近いか。

 真っ白な城はその威容を示すように、街の中心に聳え立っている。


 城を囲むように広がるのは、活気に溢れた城下町だ。建物はあまり高いものがなく、ほとんどがレンガ造りの二階建て。いかにもファンタジー世界に出てきそうな建物が並んでいるが、道には街灯が置かれており、電気が通っている。おまけに車やバイクまで走っているのだから、色々とチグハグだ。


 極め付けは、街の人々の何人かが肩に乗せている生き物。人間の顔より少し小さいくらいのそいつは様々な姿をしているが、共通して翼が生えている。

 似た存在を、織は知っていた。

 16年前、こちらの世界に入り込み、織たち自身もその力の残滓と戦ったことがある。


 ドラゴン。


 エルドラドほどの力は感じられないが、その質は同種のものだ。


「驚きましたか?」

「そりゃまあ……」

「あれ、ドラゴンよね? あんなペット感覚で肩に乗せてもいいの?」

「これが異世界……思ってたのと違う……」


 娘はなぜかカルチャーショックを受けているようだが、その気持ちがなんとなく分かってしまう織であった。

 異世界の城下町っていうと、もっとこう、めちゃくちゃにファンタジーなやつをイメージしてたから。

 まさか兵士は銃を持ってて車が走って電気も普通に通ってるなんて思わないじゃないか。異世界への夢と理想が崩れ去った。


愛玩動物ペットではなく、家族パートナーですよ。愛美ちゃんたちにとってのアーサーと同じ。この国のおよそ七割の家庭で、ドラゴンがパートナーとして存在しています。この街で、共に暮らしてるんです」


 空を見上げれば、三つの大きな影が城から飛び立ち翼を広げていた。

 日々の生活の中で、当たり前のようにドラゴンの存在がある。それがこの世界。織たちの世界とは位相で繋がった、常識も文化もなにもかもが根底から違う異世界。


「改めまして。ようこそ、ドラグニア神聖王国へ。第一王女、アリス・ニライカナイがあなた方を歓迎します」


 にこりと微笑んだ有澄の自己紹介に、織たち三人は驚きの声を上げた。

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