欲張り勇者の……いや、勇亡者の物語。
- ★★★ Excellent!!!
突然ですが今あなたがここで死んだとしましょう。天国への階段が目の前にあります。そこで天使に訊かれます。「何かやり残したことは?」
本作の主人公、勇者エッドはそんな「未練」に想い人を据えます。聖者メリエール。それが彼の愛した人です。
エッドはそんな彼女に想いを伝えないと成仏できません。でも恋。恋です。皆さんも覚えがあるでしょう。好きな人に好きと伝える。これほど難儀な任務もありません。
でもそうこうしているうちに、メリエールが……この先は実際に読んでもらいましょうか。
考えてみれば分かると思いますが色恋は生の喜びです。生きる営みとしての感情なので、それはそうでしょう。
でも本作ではその営みを死者が行っています。理から外れていますね。でもそこにヒントがあります。
壮大な話になりますが、人類がここまで発展できたのって「遊び」という概念があるからだと思うんですよね。理性だけで済ませない、感情の赴くままに「プレイング」することで生まれた余裕が人類をここまで繁栄させた。
本作は、そんな「遊び」の最たる例です。理性や論理……「理」から外れた様々な概念や行動、名言があります。
本作中の「理性」であるログレスというキャラがいるのですが、彼は作中度々「イレギュラー」を行います。まさにこのことが「遊び」を象徴している。
そして、そんな「遊び」の先にあるものは、多分、「楽しい」って感覚なんじゃないかな。
死者が生き返って生者の営みたる恋愛を行う。
本作には他にもそんな矛盾というか、背反するものが美しく共存しています。
そんな二律背反が生み出すメロディは、やっぱり「楽しい」ものなんですよね。すごく心躍る物語、魂の潤う物語でした。
すごく極端な話、本作は「死者が人生を謳歌している話」って言えると思うんですよ。
死んで、一度失ったはずの人生。それを見つめ直す過程で、「どうやったら人生を楽しめるか」、読者はそんなことを考えさせられます。
エッドやメリエール含め、登場人物たちには多様な生き様があります。そんな彼らの人生の中に、「人生を楽しむ」ヒントがたくさん落ちています。
もしあなたが、今暗い池の底にいて、「もう死んでいるような」人生を送っているのなら。
本作のエッドのように、「一度死んだ」ということにしてみてはいかがでしょうか?
その先の人生(死んだ後にこの言葉を使うのもおかしいですが)の過ごし方は、本作が楽しく教えてくれます。
死んだような人生を送っているのなら、本作を読んで蘇ってください。
まだ楽しく生きているのなら、本作の「生者の営み」で心を潤し、生きる楽しさを実感してください。
どう生きるべきか?
そんなことを教えてくれる、エンターテイメントです。