第57話 依頼人


「……これで全部かな?多少信憑性が疑わしいものもあったが、これが『迷宮』の概要だ。お分かりいただけただろうか?」

「ええ。大体は」


 ハーマ部長の言葉に圭人が答える。

 あれから一週間経つのだが圭人は毎日ここへ通っている。


「中々面白いねぇ……」


 エルメスも面白そうに端末の資料を見ている。


「ふ、エルメス君も興味があったとは意外だな。もっと早く来ればよかったのにな」

「あ、いえ。興味はあったんですけど、別の問題があったので……」


 歯切れ悪く答えるエルメスに怪訝そうなハーマ。


「お前は女から逃げたいだけだろ? モテるのが嫌だなんて贅沢な」

「モテ方にもよるよ。変な女ばかりに言い寄られたらいやになるし」


 嫌そうに応えるエルメス。


「あいつら僕のことなんて見てないよ。『学園八王子』を彼氏にしたいだけで、なんていうか……装飾品を欲しがる感じ?」

「……そう言えばそんな感じだな」


 エルメスの周りに近寄る女のタイプを思い出して納得する圭人。

 其れを聞いてふっと笑うハーマ。


「学園八王子も大変だな。逃げ場を求めてここに来たと」

「あ、いえ。普通に面白いから来てるんですよ」


 慌てて言いつくろうエルメス。

 だがハーマはちらりとイナミの方を見て笑う。


「面白いからねぇ……まあ、私は部員同士の恋愛は禁じていないから安心したまえ」

「あ……う……」


 真っ赤になって困り果てるエルメス。

 当のイナミは飽きたのか端末のゲームで遊んでいる。


「……逃げ場を求めたらここに来たのは一緒みたいですけどねぇ……」


 レイがそう言って横目で二人を見る。


(なかなか感が鋭いな)


 イナミは虐められたくないから、圭人のそばから離れようとしないのだ。

 そしてそのいじめの原因はエルメスにあり、そのエルメスはイナミのそばに居たがる。


(ままならんな……)


 二人とも決して悪い人間ではない。

 だが、周りがほっといてくれないのだ。


(普通に「よかったね」じゃダメなのかよ……)


 嫉妬は人を簡単に狂わせる。明らかに問題のある行為でも正当化させるのだ。


「まあ、存分に研究したまえ。私は歓迎するよ」


 そう言って言葉を結ぶハーマは自分の研究テーマをやろうと端末を操作始めた時だった……


コンコン


 す突然ノックの音が響いた。


「どうぞ」

「失礼するわね」


 そう言って長身の青人美女が入ってくる。


「あれ? アイナさん」

「け、ケート君こんにちは……」


 ちょっとだけどもって答えるアイナ。



「あれ? アイナさんどうしたの?」


 イナミが不思議そうに尋ねる。


「イナミちゃんもこんにちは。ちょっと聞きたいことがあって……」


 そう言ってアイナが端末を取り出す。


「実は……これのことなんだけど……」


 そう言って端末である写真を取り出すアイナ。

 見るからに廃墟になった山の中のホテルで看板はボロボロ、窓は全部割れている。


「幽霊ホテルだな」

「知ってるんですか? 部長」

「町の郊外にある有名な心霊スポットだ」

「心霊って……こっちでもあるんですか?」

「あるぞ。そちらには科学しかないと聞くがもう霊魂は説明できるようになったのかい? 」

「まだですよ」

「じゃあ、話は簡単だ。科学でも魔法でも霊魂や死後の世界は説明できていないよ」

「……なるほど。じゃあ、これも超法学の内?」

「そうなるな」


 そう言って写真に目を通す部長。


「な、なにかわかるかな?」


 アイナがどもりながら尋ねる。だが、部長はかぶりを振る。


「ツリマ人だからな。これはカタン人の建物だろう? ツリマ人にはカタン人の幽霊は見えない」

「え? そうなんですか?」


 あっさりと答える部長に圭人はポカンとした。


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