第48話 不自然な優等生


 超法学研究部では圭人たちがおしゃべりを興じていた。

先日に起きたアイナの一件を他の部員たちに話す。


「……てなことがあったわけよ」

「それは大変だったな……」


 放課後にいつものように超法学研究部に来た圭人はこちらでの友達と昨日の一件を話した。

 目の前にいるのは同じ科学科だが、ツリマ人の高等部5年生ハーマである。

 白くシャープな外観で全体的に女性らしいフォルムの赤髪の女の子である。

 何となくだが、キュベ〇イに似ているが、全く関係ない。


「アイナさんは強かったですねぇ……」


 のんびりと答えるイシュタ。


「アイナさんと言えばケイオンの十傑にも数えられるほどの格闘技の腕前ですからね~」


 隣でのんびりと答えるのはツリマ人の少年でレイジア。愛称はレイ。

 こちらは魔法科の4年生で超法学の唯一の男だった。

 とはいえツリマ人が部長のハーマだけなので肩身が苦しかった男でもある。

 黒髪で白い肌に赤色のラインが入っている。


「レイは知ってんだ? 」

「僕というよりはみんな知ってますよ」


 さらりと答えるレイ。


「ふ~ん。ちなみに十傑って?」

「喧嘩自慢と言えばいいですかね? まあ、早い話が荒くれですよ」

「なるほど。六花よりもそっちの方がすごいな」


 冷や汗を垂らす圭人。


「美人で最強クラスの強さを誇るなんてすごいな。頭はいいの?」

「順位表ではいつも10位以内に入ってますね。ニューガン国統一模試では一万位以内には入っていたはずですよ」

「完璧じゃねぇか! 」


 圭人は素直に驚いた。

 一万位以内は高いようには見えないが、ニューガン国の高等部(中高校生)の人数は日本の百倍以上なのでそのレベルは桁違いなのである。

 ものすごく大雑把だが、一万位以内と言えば日本の5大学以上に行く人物を指す。

 ちなみに百位以内は逆に「紙一重」と呼ばれている。

 ちなみに統一模試はこちらでも行われており、得点は取れるだけ取る方式である。

 一科目の満点は千点だが、最高得点記録は戦史の536点なので完全満点を取れる人はゼロである。


「文武才色すべてにおいて完璧か……」

「ちなみに家格も大企業のお偉いさんのエニルにいるみたいですよ。なんでもニューガン国では古くからの家格とか……」

「恵まれすぎだろ……」


 完璧にもほどがある。だが、そこでふと気になることがあった。


「そんな人がなんでこの学園に? 」


 圭人が不思議そうに尋ねる。

 それもそのはずでシムラー学園のような公立学園は、問題のある学生が通う所である。

 ティカやイナミのような成績不良者や圭人のような移民難民の子供や、タマノやアルヴィスは暴力事件、トカキは私立学園の受験失敗が原因である。

 イナミは困り顔で答える。


「確かトカキ兄さん同様に受験失敗だったと思う。他の公立にも行けたけどタマノ姉ぇがこっちに来ることが決まってたからこっちに来たはず」

「ああ、なるほど」


 言われて納得する。友達の関係でこっちに来る人間も少なからずいる。

 ぶっちゃけ他の公立も問題が少ないだけで私立に比べると若干めんどくさいところもあるのだ。

 そしてイナミは不思議そうに首を傾げる。


「でも変なんだよね~」

「何が? 」

「アイナさんはちょっとぐらい成績が悪くても十分受かるレベルなのに何故か受験で落ちたの」

「それはまた変な話だな……」


 圭人も訝し気に首をひねる。


「本人は何て言ってたんだ? 」

「調子が悪かったって……けど、それ以降は編入試験も受けないから変なんだ」

「それもまた変な話だな……」


 高等学園の場合、入学で落ちても再度編入試験に合格すれば入ることが出来る。

 これは優秀な人材は常に受け入れるべしと考えているのが私立だから。

 逆に私立から追い出された連中も効率に編入することもある。


「シムラー学園に来てからも統一模試で一万位以下は取ったことすらないから普通に合格できるのに……」

「まあ、なんか事情があるんじゃないか? それよりもこっちの学園に来たことの方が気になるんだが? 」

「なんで? 」

「だってもう一つのビート学園の方が成績は良いんだろ? 」


 圭人の言うことももっともで、シムラーはこの学区にある二つの公立学園の中で揉学力が低い方の学園である。

 普通に考えればビート学園の方へ行くはずである。

 だが、イナミは渋い顔になった。


「もう一つのビート学園にはねぇ……」

「……なんかあるの? 」

「あるの……」


 心底疲れた顔になるイナミ。


「その……非常に苦手な人が居たの……」

「……そうなの? 」


 こくりと頷くイナミ。


「あの人が居るからタマノ姉ぇもアイナさんもトカキ兄ぃも私もこっちに来たの」

「へぇ~……誰? 」

「私のお姉ちゃん」

「……え? 」


 きょとんとする圭人。

 初めて聞いたからだ。


「今は卒業して戦場に行ってるけど、お姉ちゃんが居た時はとても行くわけにはいかなかったから」

「そうなんだ……ってか戦場! うちの家族で戦争に行ってる人いたの! 」

「???そうだよ? なんで? ……」


 ぎょっとする圭人にイナミはきょとんとした。


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