第30話 シムラーの吸血鬼

 アルヴィスの声がアルドラ公園に響き渡る。


「ブロムじゃねーか! 」


 色こそ赤黒いものの、それは間違いなくブロムだった。

 それをさっと革袋につめて口を閉じる圭人。


「最初は何の気なしに調べた蚊の生態から始まったんだ……」


 語り始める圭人。


「雌の蚊が血を吸うなら雄は何食ってんだろってね。そう思って調べてみたら


 事実である。

 そしてブロムにも同じ生態があった。


「それからいろんなピースが当てはまっていたんだ。なんで最初の事件はジェムズガンに似てたのか? 答えは簡単。ブロムの面倒を見てたからだ」


 そう言ってアルヴィスに近づく。


「黒髪美形が多いのも単純。人間の顔の見分けがつかないので単純に平均値を出していたんだ。全ての色を合わせたら黒になるし、平均値は美人顔だ。こいつがアイザック寮の制服を見せたのもこのブロムの面倒見てたのがアイザックの生物部だからだ」


 そう言ってちらりとアルヴィスの方を見る。

 唖然としている。


「ブロムが生息するラダトーム湿原には色んな動物を合わせた化け物が出るらしい。多分、そうやって動物の関心を寄せて血を吸うのが目的なんだろうと思う。原理は良くわからないがハロ装置と同じ物らしい。多分、身体の大半が水で出来てるから霧を発生させてるんだと思う」


 そこで圭人はちらりとオイドの方を見る。

 そして革袋から注意してブロムの触手を取り出す


「蚊もそうだが、血を安全に吸うために毒を注入しているらしい。それが麻酔と同じ効果を持ってるみたいなんだ。だから血を吸われてる人はしばらく動けなくなるらしい。見ての通りブロムの触手は二本。だから吸った跡は二つの穴なんだ」

「兄さんはしばらく動けない方がいいんです! 」


 そう言って膨れる青髪犬耳の少女ダンカ。

 それを見て苦笑する圭人。

 危ないのですぐに触手はしまい、革袋の口を固く締める。


「じゃあ……俺のお親父とお袋は……」


 アルヴィスが悲しそうに尋ねる。


「多分……答えをある程度突き止めていたけど、容疑者でもあるから街中を捜査するのは難しかったんじゃないかな? それで湿地に行って雌のブロムを捕まえようとしたところで二人同時に襲われたんだと思う。湿原にはブロムが大量に繁殖している。一度に襲われたらひとたまりもない。襲った後は湿原が死体を処理してくれるんだ。こいつら自体は湿原のすぐそばに居るからね。血を吸った抜けがらを処理するのは容易だろうね」


 思わず顔を覆ってしまうアルヴィス。


「だから武器を納めてくれないか? もう戦う理由は無い」


 そう言ってすたすたと人質の方に向かう。


「返してもらうよ」


 圭人がそう言っても舎弟達は無言なので構わずにジョナサンを担ぐ。

 大分重たかったが苦労して担ぎ上げた。

 エリナはティカが縄を解いてくれた。

 歩けるようなのでそのまま任せる。


「じゃ、かえろうタマノさん」


 そう言って圭人はジョナサンを他の人に任せてそのまま帰ろうとする。


「待ちやがれ……」


 オイドがよたよたと立ち上がる。


「吸血鬼を……置いて……」

「おにいちゃんまだそんなこと言ってるの! 仇打ちはもういいの! 」


 青髪犬耳の少女が引き下がらせようと後ろに押す。


「だまれ……あいつが居れば……」

「やめておにいちゃん! 」

「懸賞金が……手に入る……」


 少女が寒い顔になる。


「懸賞金で……クートが買える……」


 そして少女はゆっくりと腕を振りかぶって……


ドゴッ!


 強烈なアッパーを兄に見舞った。そのままぐったりとするオイド。


「私のためじゃなくて金かよ! 」


 一声叫んで兄を担ぐ妹。

 何も言わずに立ち去って行った。


「一件落着かな? 」


 タマノ姉さんがポリポリと頭をかいた。


 こうして……ケイオンを騒がせた吸血鬼事件は終わった。



登場人物紹介

 

 ブロム


 ケイオン市を震撼させた吸血鬼。

 クラゲ型の生命体で繁殖期のメスは地上に出てケート器官と呼ばれる一種のハロ装置を用いて生物を誘い込み血を吸う。

 同時に二つの触手を伸ばすのだが触手の先に二酸化炭素を探知する器官があり、二酸化炭素を追って触手を伸ばすので首筋に刺す。

 二つの触手の内、一つは吸血用、もう一つはマヒ毒の注入用。

 人間であれば刺されると三日は動けなくなる。

 ケート=クヨウ=セイシュによる雌の発見により、繁殖方法が確立。

 マヒ毒は麻酔として非常に優秀なのでマヒ毒は抽出して医療現場で使われている。

 尚、のちにハロ装置の役割をする器官のことをケート器官と呼ぶようになったのは発見者の名前から取られた。

 (アーカム連邦 生物研究機関紙『フィルハーム』より抜粋)


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