第17話 加害者であり、被害者

「なにしにきやがったてめぇ」


 反省室のガラス窓からアルヴィスが凄んだ。


 学校警察ではいくつかの段階に分かれて不良生徒を更生させる。

 それには本人の態度が重要になってくる。

 反省の色が良く見えている場合はすぐに帰宅させるし、反省の色なしであれば、そのまま少年警察に送られる事もある。

 これは事件の程度に関係無くだ。


 万引きや虐めであったとしても、精神的になにかしらの欠陥が考えられる場合は断固たる態度を取るのが通例になっている。

 なぜなら盗癖は簡単に治らないし、虐めは虐待やパワハラに繋がるのでけじめを常につけねばならない。


 アルヴィスの場合は最初っから目をつけられていて、その上での昨日の事件のため、少年警察に送られる危険があった。

 そのため、大した事をやってないのに、お休みであっても反省室での待機になる。


 反省室とは留置場のようなもので一応、トイレ、情報端末が使えるようになっている。

 だが、学校警察の職場からは丸見えで端末には教室での授業内容をタイムリーに知ることも出来るので授業中はこれを見る事が義務になっている。

 早い話、学校備え付けの留置場に放り込まれているのだ。


 まあ、留置場と言っても下校時間になれば帰宅させられるので本当の意味での留置場とは違う。

 だが、懲罰中は学校が休みでも登校をさせられるので、学生にとってはキツイ場所でもある。


 だから圭人は休みなのに制服を着て、わざわざこんなところに来てるのだ。


「落ち着いてくださいよ。喧嘩売りに来たわけじゃないですから」

「てめぇのくそ度胸だけは認めてやる。だが、あまり俺を怒らせるなよ? てめぇの全身の骨を砕いてやるからな! 」


 苛立ったように叫ぶアルヴィス。


「実はちょっと聞きたい事があるんです」

「しゃべらねぇからな」

「ジェムズガン・ハリーさんについてです」

「……」


 急に静かになるアルヴィス。


「ティカは吸血鬼じゃない。だから俺も吸血鬼事件について調べてみたんだ。そしたら、一人だけ似ている人がいたって記述があったんだ。それがジェムズガン・ハリーアルヴィス先輩の父親です」

「……」


 無言で明後日の方を見るアルヴィス。


「公判中に吸血鬼事件が起きたので無罪は確定したものの、別々の吸血鬼じゃないかと世間から言われて結局夜逃げしたという話しですよね? 」

「……」

「俺はジェムズガンさんが犯人ではないと思ってます。けど、犯人と何らかのかかわりがあったんじゃないかなと思ってるんです。そう思ったら、昨日のアルヴィス先輩の行動は納得がい行きました。要は同じ事考えたんだなって」

「……」

「だからティカを無理やりにでも拉致して人間関係を確認したかった。そうですよね? 」

「……ちっ! 」


 忌々しそうに舌打ちするアルヴィス。


「実は俺も吸血鬼事件について調べてるんです。ティカは無罪と証明されたとはいえ、先輩の父親の二の舞になりかねない。そのためにも話を聞きたいんです」

「……何が聞きたい? 」


 観念したようにため息をつくアルヴィス。


「まずは交友関係を?お父さんの友人に変な人はいませんでした? 」

「俺が知る限りはいなかったな。だが、俺もガキだったころだから細かい事はわからねぇ」

「それもそうですね……何の仕事してたんですか? 」

「探検家だ。それも生物系のな」

「生物系?……ああなるほど。生物学者だったんですね」

「そうだ。ブロムを発見したのも親父だったんだ」

「そうなんだ! 」


 意外な繋がりに驚く圭人。


「そこから親父はブロムの飼育方法まで確立してな。生物学上は結構デカイ発見をしたみたいだな」

「へぇ~」


 素直に感心する圭人。


「一時はリガルティア全星から取材が来るほどの時の人だったんだが、そのせいか顔が知られていてな。吸血鬼にそっくりで、しかも知名度も高いことから一転して吸血鬼として罵倒される羽目になった」

「あ~……」


 いたたまれない顔になる圭人。


「それから夜逃げしたという話は間違いだ。親父とお袋は多分死んでる」

「……え? 」


 意外な発言にポカンとする圭人。


「親父とお袋はラダトーム湿原で行方不明になってんだ。あそこは今ぐらいの時期だと霧で見通しが悪くなる底なし沼だ。きっと落ちて死んだんだと思ってる」

「……うわぁ……」


 顔を顰める圭人。考えるだけで嫌な光景である。


「ただ、親父が行く前に変なこと言ってたんだ」

「 ? 」

「俺に『アルヴィスの為にも名誉挽回する』と言って親父は母親を連れて出て行った……」

「……どういう意味ですかね? 」


 不思議そうに尋ねる圭人。

 だが、アルヴィスも首を横に振る。


「わからん。成果を上げて払拭するつもりだったのか……今となってはわからずじまいだ」


 少しだけ懐かしむように上を見上げるアルヴィス。


「他にはなにかないか? 」

「いきなり言われても分かるわけねぇだろ。今、思い出したのはそれだけだ! 」


 これで終わりだ! っと叫んで後ろを向くアルヴィス。

 不貞腐れたアルヴィスに少しだけ好感をもった圭人はその背中に向かって怒鳴る。


「乱暴しないってことと、タマノ姉さんが同行していいのならティカと話す時間作りますよー! 」


 がばっと起きあがってガラス窓に近づくアルヴィス。


「本当か! 」

「事件は気になりますから!アルヴィス先輩が一人で来るんならいいですよ! 」

「ありがてぇ! 」


 そう言って手を合わせてお礼を言うアルヴィス。


「明日には出れるから宜しく頼む! 」

「一応、端末番号教えときますね! 」


 圭人は番号だけ交換してその場は別れた。



登場人物紹介


 アルヴィス=ハリー=ポッター

 どっかで聞いたことあるような名前の筋骨隆々としたスキンヘッド。

 ぶっちゃけて言うとこの物語は元々ハリポタみたいなのを書きたいなぁと思って書いていたらいつの間にかこんな感じになった。


 

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